下枝宏通(したえだ ひろみち)さん

葛尾村営農 畜産業 など

じいちゃんの遺志を
継いで牛飼いの道へ

葛尾村で黒毛和牛の繁殖を行う下枝宏通(したえだ ひろみち)さん(29)。繁殖とは、母牛に子牛を生ませて生後10ヶ月まで育て上げて子牛を出荷することで、その後、子牛を購入した肥育農家がさらに20ヶ月間育ててお肉になります。2017年4月、下枝さんは誰よりも原発事故による避難からの帰村、営農再開を待ち望んでいた祖父の遺志を引き継いで畜産業を始めました。

  1. 牛がいた暮らし
  2. 牛を連れて帰る
  3. 改めて気づいた村の魅力

改めて気づいた村の魅力

就農されて今年で6年目、やりがいや大変さはどんなところにありますか?

そうですね、やっぱり生きもの相手なので体調管理が一番大変です。栄養失調にならないかとか、逆に太りすぎてもダメですし。困ったことがあれば獣医の先生はもちろん、まわりの畜産農家に聞いて勉強しています。皆さん知識量がすごいし、技術を隠し合うようなこともせず聞いたらみんな教えてくれます。一番やりがいを感じるのは競り市場に出した時ですかね。福島県内から子牛が集まってくる市場で、毎月700〜800頭が競りに出されるんです。値段は牛の評価なので、平均よりも高い値段がつくと嬉しいです。

子牛の値段は体重と血統でだいたい決まります。サシが入りやすいとか大きくなりやすいという性質を持った血統は人気になるので、何が今の流行りの血統なのか情報を集めることが大事ですね。まぁ農家の間で評判が立つのですぐにわかりますが(笑)。体重を増やすには餌の種類と量が重要になってきます。餌と言っても何百種類もあるので、どれを選ぶか、どれを掛け合わせて使うかということがそれぞれの農家の工夫のしどころになってますね。当然食が細い牛は肥育農家の手に渡ってからもあまり食べず、大きくならないので、僕らの仕事は小さいうちからたくさん食べられるような胃袋を育てることです。

他にも出来る限りストレスを減らしてやることも心がけています。夏は熱中症にならないよう扇風機を回して、冬は風邪を引かないよう牛舎の周りを囲います。人間と同じで汚いところで寝るのは嫌なので、敷き藁の掃除も頻繁にやります。ブラッシングも毛質を良くするためというよりはストレスを下げるためにやりますね。喜ぶんですよ。

今後、葛尾村の農業がどうなったらいいなと思いますか?

村の気候風土に合ったものをやるのがいいのかなと思います。葛尾村は標高が400m以上あるので、夏は涼しくて冬は寒い。加えて山に囲まれていて水が豊富なので、畜産はぴったりだと思います。牛の糞尿が溜まった敷き藁は堆肥にして、欲しい人たちにあげています。みんなその堆肥を田んぼや畑に入れるので、村の中で循環が生まれている。それも村の強みだと思います。

帰村までの6年間、下枝さんは村を離れて生活していましたが、改めて葛尾村で暮らす良さってどんなところにあるでしょうか。

僕ら畜産農家は雨が降れば外仕事がなくなるので、どこか近所の畜産農家の家に話に行くことが多いんです。訪ねて行ったらその人も雨で作業がないから、家の中に入ってお茶飲みが始まります。同年代の人の家に行くこともあれば、70歳、もっと上は80代後半の人のところに行くこともあります。でもあまり年齢は関係なく、上下もなく話ができます。この辺は喫茶店なんかがない代わりに、みんなの家にお茶飲みに行くっていう面白さがあるんですよ。パフェとかそういうものはないけど、どっかのお土産だとか誰かが送ってきたおしゃれなパンがあったりして、下手したら喫茶店よりも食べ物は豊富だったりします(笑)。

取材日:10月15日
取材・文・写真:成影沙紀

下枝宏通(したえだ ひろみち)さん

下枝宏通(したえだ ひろみち) さん

葛尾村で代々農業を営む家に生まれ育つ。現在は母と二人で黒毛和種の繁殖を行なっている。高校卒業直後に東日本大震災を経験。その後は田村市に避難し、仮設住宅で暮らしながら社会人生活が始まる。2016年6月に葛尾村の一部で避難指示が解除、2017年3月に母が4頭の牛を連れて帰村、営農再開。続くようにして就農を決め、現在は母牛20頭まで規模を拡大。今後は30頭まで増やすことを目標としている。

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