移ヶ茸(うつしがたけ)

移ヶ茸(うつしがたけ)

安田悟さん

田村市栽培農作物 キクラゲ、椎茸 など

19年間培った
工業のノウハウを
農業へ

田村市でキクラゲ、椎茸を栽培する「移ヶ茸(うつしがたけ)」の安田悟さん(43)。安田さんは、19年間勤めた自動車部品メーカーを退職し、2020年に故郷である田村市で新規就農しました。自動車産業の現場で培った徹底した合理化の考え方を、余すところなく農業に転換していくスタイルは唯一無二。そんな安田さんの目から見た農業の可能性や今後の展開について伺いました。

  1. トヨタ方式農業
  2. ひとりじゃ何もできない
  3. 必ず一つやりたいことに挑戦する

トヨタ方式農業

かなり思い切った決断をして農業を始められたとか。

福島県内の自動車部品メーカーで19年間サラリーマンをしてたんだけど、2019年に辞めて農家になったんだよね。半年間西会津町のキクラゲ農家さんのところに研修に行って、2020年6月に独立、自分の力を試したいと思って就農しました。

実家がここ、田村市で昔から兼業農家でした。親はもう農業はやめてしまったけど、土地があるから土地代がかからない。湧き水を直接引いてるから水道代もかからない。こんなに投資が少なく始められる仕事はないなと思って農業を始めることにした。キクラゲに目をつけたのは、日本で流通するキクラゲのうち国産はたった7%しかないってことを知ったから。当時、ある大手外食チェーンが野菜を全部国産に切り替えたら売り上げが回復したっていうニュースがあった。今後ますます国産品への回帰が進むだろうから、国産品が少ないキクラゲは勝機があるんじゃないかと思って。

夏場のキクラゲ栽培の様子(本人提供)
夏場のキクラゲ栽培の様子(本人提供)

ただ、キノコ栽培って実はすごい投資がかかるんだよね。ビニールハウス、乾燥機、暖房機、保冷庫って。うちもある程度揃えたけど、電気代がかかるからキクラゲでは保冷庫は使わない。なんでかって、キクラゲを保冷庫に入れる目的は二つあって、一つは乾燥キクラゲにするための一時保管、もう一つはお客さんに届けるまでの保管。どうせ乾燥キクラゲにするなら冷やさずにそのまま天日干しすればいいし、お客さんに届けるときに収穫すれば保冷庫に入れる必要もない。製造業で言う「ジャスト イン タイム方式」だな。

農業にはこういう合理的な考え方がまだまだ必要だと思う。例えば乾燥椎茸について。うちは作ってない。なぜかって、コストが合わないから。でも一般的には、生鮮品として出せないような小さかったり形がいびつだったりする椎茸をスライスして作られていることが多い。それ自体は悪くないんだけど、B級品を使ってるから「捨てるぐらいならとにかくお金になればいいか」って安い値段で出してしまう。これが農業の悪いところだと思う。それなら捨てちゃった方がいい。だって、収穫まで生鮮品と同じ作業をして、更に電気代かけてスライサーでスライスして……って、商品の値段以上のコストがかかってるんだよ。もちろん自分の人件費もかかってる。一番問題なのは、農家は自分の人件費を計算に入れてないところだよね。常に自分の人件費を意識してるから、僕じゃなくてもできる仕事はできるだけ外にお願いして、その時間を自分しかできないことに使うようにしてる。

移ヶ茸のきくらげ

例えば乾燥キクラゲの袋詰め作業は福祉作業所に委託してる。見て、あの子たちきっちり仕事してくれるんだ。福祉作業所は僕の家とキノコハウスの間にあって、通勤ついでに寄れるから無駄がない。合理化を突き詰めていったら、農業ってまだまだ改善できるところがあるんだよ。特に自動車部品メーカーで働いてる人たちは、トヨタ方式で徹底的に無駄を省く考え方を叩き込まれてるから、農業にはもってこいかもしれないね。

取材日:11月16日
取材・文・写真:成影沙紀

移ヶ茸(うつしがたけ)

移ヶ茸(うつしがたけ)
安田悟さん

田村市船引町の移(うつし)地区でキノコの栽培を行う。「移ヶ茸」という屋号でキクラゲ・椎茸を生産し、一部乾燥加工し、県内の直売所や道の駅・スーパーに販売している。2019年に19年間勤めた自動車部品製造会社を辞め、1年間の研修期間を経て2020年より独立就農。

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