移住者インタビュー

ブドウとワインが縁を繋ぎ父子で移住

2022年3月14日
川内村
  • チャレンジする人
  • 地域おこし協力隊
  • 子育て
  • 農林漁業
  • 里山暮らし
  • 移住を決めたきっかけは?
    見晴らしの良い景色を眺めながらブドウとワインに関する仕事に打ち込める環境があったことと、ひとり親の子育てがしやすい環境だと思ったこと
  • これからの目標は?
    かわうちワイナリーの未来設計
  • 移住を希望する方へのメッセージ
    覚悟は必要だけど、川内村は新しいチャレンジができる魅力ある場所

東京都出身の安達貴さんは、東日本大震災後に川内村が新産業として推し進めるワイン事業に携わるため、川内村への移住を決めました。2020年12月に川内村地域おこし協力隊に着任後、「かわうちワイン株式会社」がワイン醸造のためのブドウを栽培する「高田島ヴィンヤード」でブドウと向き合う日々を送っています。

当時4歳の娘さんと2人で川内村への移住を決めた安達さん。川内村での生活の現状とお仕事への思いについてお聞きしました。

決め手は景色の美しさと子育て環境

――移住の経緯を教えてください。

川内村に移住する前は青森県八戸市の地域おこし協力隊としてワイン事業に従事していました。任期後は東京に戻ってフリーで活動を続けていましたが、ある時ブドウ栽培に携わるいわき市の知人を訪ねる機会があったんです。その知人から、川内村と富岡町、南相馬市小高区のワイン事業アドバイザーの仕事を紹介されたことで川内村とのご縁ができました。何度か村を訪ねた後に、かわうちワイン株式会社の立ち上げに挑戦しないかと声を掛けてもらって、今に至ります。

――川内村への移住を決めた決め手は何でしたか。

一番の魅力と感じたのは、高田島ヴィンヤードの開けた景色を見ながら仕事ができる環境でした。高田島ヴィンヤードに行くためには木々が生い茂る暗い登り道を抜けなければなりませんが、そこを抜けると圃場の景色がパッと広がります。これまでさまざまなブドウ畑を見てきましたが、このようなロケーションの畑はなかなかありません。夕方になると空がいろんな色に変わってきれいですよ。

もう一つは子育てをする環境です。ひとり親として娘を育てるには東京よりも自然豊かな川内村が良いと思いました。当時4歳だった娘は私と一緒に仕事でいろいろな場所へ行っていたこともあり、自分がどこに住んでいるのか分かっていなかったと思います。「パパ、今日はどこにいくの?」「川内村だよ」そんな会話で、川内村に移住しました。

――移住を決める上で、不安はありませんでしたか。

「村で暮らす」ということに一種の覚悟は必要でしたが、慣れ親しんだブドウ栽培の仕事があったので不安はありませんでした。ブドウ栽培は地域や気候は違っても、やることは同じです。だから不安には思いませんでした。

子どもを歓迎してくれるムードが心強い

――地元の方との関わりはいかがですか。

職場のブドウ畑では、パートタイムで働いている作業員さんとの休憩を楽しみに作業をしているところもあります。福島訛りには耳が慣れている方だと思っていたのですが、川内村の人と話していると地域独自の単語が出てきたりするんです。それを「今、なんて言ったの?」と聞いてみるのを楽しんでいます。

新型コロナウイルス感染症の影響もあり、正直あまり地域との関わりは少ないです。そもそも歩いていて人と会うことが少ない静かな町ですが、家の近くにあるタイ発の人気カフェ「Cafe Amazon」へ同世代のスタッフと話をしに行ったりします。

――村での生活で困ることはありませんか。

村内の買い物施設が少ないため不便なことは不便ですが、慣れれば問題ありません。車で片道30分ぐらいの場所に買い物施設があり、その移動は「近い」とすら感じてしまいます。そもそもインターネットを使えば買い物に出掛けなくても困りません。

寒さも心配でしたが、雪は思っていたより降りませんね。寒いというよりは冷たい。以前暮らしていた八戸市は雪が多いので湿度がありましたが、川内村は風が強くカラっとしています。

――娘さんは川内村での暮らしをどう思っていらっしゃるのでしょうか。

仕事のために2人で色々な場所で暮らしましたが、「川内村が一番楽しい」と言っています。通っている「かわうち保育園」は2021年にできたばかりのきれいな施設で、僕も通いたいくらいです(笑)。住んでいる村営住宅も新築で広々としているため、都会とは違ってのびのびと暮らせているのが良いのかもしれません。

また、地域全体で子どもを歓迎してくれるムードが強いです。保育園に子どもを預けられない時には職場に子どもを連れてくることも許していただいているので、大変助かっています。

――川内村は義務教育期間中に利用できる村営塾など教育の機会に関する支援が充実している一方で、高校は村内にありません。お子さんの今後の進学についてはどのようにお考えでしょうか。 

義務教育終了後の進学は割り切って考えています。親元から通える高校に通わせるか、村外の寮がある高校に通わせるかを選択しなければなりません。目的もなく村から通える高校に進学させるくらいなら、いっそ都心や海外の学校へ行かせてしまっても良いと思っています。

「川内村らしいワイン」を探っていきたい

――ワイン造りを通してどのような活動をしていきたいとお考えでしょうか。

村で実際に暮らす方々は、今までの生活の延長線上にあるもの以上のことを本当に望んでいるのだろうかと考えることがあります。村外の人は「復興」という言葉を使いたがりますが、地元の方からこの言葉が出てくることはありません。村外の人が復興支援として村で活動しようとするのであれば、「形だけの復興」を押し付けてしまわないように見極める必要があると感じています。

その上で、新しく立ち上げたワイナリーの村での立ち位置を考えていきたいです。川内村らしいブドウとワインとはどんなもので、これからどのようなワイナリーにしていきたいのか、村外に向けたアピールだけではなく、地域内へいかに発信していくかも鍵になると思っています。そのために栽培しているブドウを川内村の環境に合うように改良していくことや、ワイナリーの製品コンセプトを作ることなども考えています。ワインだけではなく、村全体を一つの方向性でブランド化できたら良いですね。

――どんなところに川内村の魅力を感じますか。

人口が少ない村だからこそ、やりたいと手を挙げてから実現するまでが早いフットワークの軽さが魅力です。ものづくりなどの業種では起業などのチャレンジがしやすい地域だと思います。人口が多い場所では業界の反発や行政との軋轢が発生してしまうかもしれません。

あとはなんといっても「場所」ですね。不便なこともありますが、言いようによっては「何もないがある」ところです。時間と場所だけを楽しみに来ることができる環境だと思います。

――川内村への移住を考えている方に伝えたいことはありますか?

まずは、しっかりと決意を固めてからきた方がいいとお伝えしたいです。川内村は物が豊かなわけでもありませんし、不便といえば不便です。移住という言葉は響きが良いですが、田舎暮らしはハードワークですので憧れを強く持ちすぎると失敗しやすいと聞きます。

それと、できれば移住を決める前に一緒に暮らす人を連れてその地域を訪れた方が良いと思います。家に帰って一人だと、心が折れてしまうかもしれません。特に家族と一緒ですと簡単には転出できなくなりますので腰を据える覚悟を持って移住することもできます。せっかく決心をして来るなら、挫折はしないでほしいですね。

安達 貴(あだち たかし) さん

1987年生まれ。東京都出身。青森県八戸市、東京都などでブドウ栽培やワイン関連事業に携わり、2020年12月に川内村地域おこし協力隊として着任。「かわうちワイン株式会社」が手掛けるブドウ・ワイン生産の栽培・醸造責任者として生産管理や技術指導を担う。

かわうちワイン株式会社

https://www.kawauchi-wine.com/

※内容は取材当時のものです。
文:橋本華加 写真:中村幸稚