INTERVIEW先輩就農者の声
南相馬市栽培農作物 ブロッコリー など
小高の田園風景を
取り戻したい
南相馬市小高区でブロッコリーを生産する農業生産法人「I Love ファームおだか」。小高区が避難指示区域に指定されたため、一時は営業休止を余儀なくされました。2016年には同区の避難指示が解除となり、2019年には営農を再開。代表・吉田博さん(66)の息子であり、会社の未来を担う吉田一貴さん(34)に、復活の軌跡や地域とのつながりについてお話を伺いました。
地域の中で、地域のために
再開にあたって新しく始められたことはありますか?
機械化を進めていることですかね。震災前から肥料散布、農薬散布は機械化していましたが、新しく種まき、苗の植え付けの機械を導入しました。設備投資には福島12市町村の農業者向けの支援事業を活用しました。震災前、うちが管理していた畑の面積は120haでしたが、現在は51ha程度です。今後は100haを目指して農地を増やしていきたいので、そのためにも機械化は必須ですね。将来的には機械で一斉に収穫できるように、ドローンで上空から畑の写真を撮り、AIでデータを処理して収穫時期を見極めるという技術も研究中です。
これはまだ僕の頭の中の構想なんですが、機械化を進めながら、一方で雇用も大事にしていきたいなと思ってるんです。営利だけを追求するなら全部機械でやればいいんですが、機械化したからといって極端に従業員さんを減らすことはしたくない。例えばうちの70代のパートさんで、収穫の忙しいときに「筋トレだ!」って働きに来てくれる方がいたりするんですよ。その人の方が僕より動けます。次の日も僕は筋肉痛なのにケロッとしてますし(笑)。やっぱり地域の中で会社って成り立っているので、そういう方たちとのつながりを大事にしていきたいです。
新しく農地を借りるときにも、地域とのつながりを感じますね。震災前は小高には空いている農地はほとんどなかったんです。でも震災があって、ここを離れなければいけない期間があった。戻ってこない方もいるし、体力的にもう農業はできないという方も増えて、今は耕作放棄地が目立ちます。地権者さんから「うちんとこ、やんないか」とお話をいただくことが多いですね。おっしゃっていることは「畑を管理してほしい」ということなんですけど、その奥には「荒れた土地を見るのが寂しい」っていう気持ちがあるのかなと思うんです。農地を貸してくださった方からは、「うちの畑を使ってくれてありがとう。頑張ってね」って言われるんです。「あぁこれが地域貢献になってるんだな」と思うと嬉しいですね。今後もうちの会社としては農地を増やしていく予定ですが、他の農業生産法人とも協力して、11年前の小高の田園風景を取り戻したいなと思っています。
現在社員募集中とのことですが、どんな人に来てもらいたいですか?
そうですね、主体的な人に来てもらいたいですね。うちはまだまだこれからの会社なので、言われたことをやるようなただの歯車になるのではなく、お互いにアイディアを出し合って進めていきたいんです。「この畑悪かったね、なんで悪いんだろう?」「これが原因じゃないですか?」「そっかーじゃあ試験をやってみよう、どんな試験をやったらいいか考えてみてよ。俺も考えるから」というように。そういう意味ではやりがいがあると思います。一人ひとりの主体性を大事にしたいので、例えばうちで2〜3年修行して独立就農をしたいという人も大歓迎です。
取材日:10月4日
取材・文・写真:成影沙紀