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【移住体験ツアーレポートin田村市&大熊町】持続可能な社会づくりへの歩みと挑戦

2022年11月17日

2022年10月8日(土)から9日(日)にかけて、田村市と大熊町を巡る移住体験ツアー「持続可能な社会づくりへの歩みと挑戦 in 田村市&大熊町」が開催されました。

この記事では、2日間のツアーの様子をご紹介しながら、地域創生への挑戦を続ける田村市と大熊町の魅力をお伝えします。

村市・大熊町ってどんな地域?

福島県中通り(奥羽山脈と阿武隈高地の間に広がるエリア)に位置する田村市は、面積の約6割を山林が占める緑豊かな地域です。寒暖差のある気候と、降雨・降雪量が比較的少ない内陸性の気候が特徴で、米やえごま、トマトやピーマン、さやいんげんなど多様な農産物の生産が盛ん。農林業を基幹産業に発展してきた歴史を持ちます。

浜通り(太平洋沿岸地域)に位置する大熊町は、夏は涼しく冬は比較的温暖で降雪量が少ない、暮らしやすい気候が特徴です。震災前は人口増加傾向にありましたが、町内に立地する「福島第一原子力発電所」の事故により全町避難を余儀なくされ、一時は人口ゼロを経験しました。震災から11年余りがたった2022年6月に特定復興再生拠点区域(※)の避難指示が解除され、地域再生への大きな転換期を迎えています。
※原発事故の影響を受けて立ち入りが制限されている帰還困難区域のうち、先行して居住可能とすることを目指す区域のこと。

田村市も大熊町も震災と原発事故で甚大な被害を受けましたが、地域内外の多くの人の手で復興が進み、近年では再生可能エネルギーや最新のテクノロジーを取り入れた、持続可能なまちづくりへの挑戦が続いています。

■田村市
https://mirai-work.life/city/tamura/

■大熊町
https://mirai-work.life/city/ookuma/

1日目

12:30 福島県環境創造センター交流棟(愛称:コミュタン福島)

田村西部工業団地内に2016年7月にオープンした「コミュタン福島」は、原子力災害からの復興と環境問題への取り組みを正しく理解し、よりよい地球の未来を考えるきっかけをつくる体験型施設です。

施設内には県内の除染活動の状況や空間放射線量の推移が一目で分かる展示物や再生可能エネルギー推進の軌跡など、原子力に頼らない新しい福島実現への取り組みが紹介されています。

今回のツアーではコミュタン福島運営責任者の徳永博昭さんによる説明を受けながら、館内の展示室「ふくしまの環境のいま」「放射線ラボ」「環境創造ラボ」「環境創造シアター」を巡りました。

そのうちのひとつ「放射線ラボ」では、県内約3,000箇所の空間線量をリアルタイムで表示できる「放射線測定マップ」を使い、原発事故直後から現在までの空間線量を比較。除染作業が進み、東京と変わらない値を示す地域が徐々に増えていく様子に、11年以上もの間、多くの人が福島の再生に力を尽くしてきたことが感じられました。

徳永さんは「山間部などでは地形によって、放射能汚染の影響が少ない地域もある」と説明。風評被害に苦しむ県内の農家についても言及し「農家さんは品質管理を徹底し、福島の農業の再興に取り組んでいます。福島県産のお米を厳格な国際基準で検査した結果、基準値を超えたものはありませんでした」と、福島の食の安全性を伝えました。

■福島県環境創造センター交流棟「コミュタン福島」
https://www.com-fukushima.jp/index.html

14:30 きのこのていく

豊かな香味と肉厚な食感が特徴の、「きのこのていく」のしいたけ

続いて向かったのは、菌床しいたけを栽培している「きのこのていく」。

震災直後は、放射線被害を受けた菌床としいたけを全て廃棄せざるを得ず、売り上げがない状況が続いたそうですが、水の酸化・還元のバランスを保つ「FFC技術」(※)などの最新技術を取り入れ、放射線量検査で「不検出(ND)」を継続し、事業再生を遂げました。
※FFC=Ferrous Ferric Chloride(水溶性二量体鉄塩)の略

「きのこのていく」のしいたけは、2016年2月に「全国サンマッシュ生産協議会品評会」で金賞・銀賞・銅賞をそれぞれ受賞し、2018年9月には「福島県農業賞」も受賞。食品安全・労働安全・環境保全・人権福祉など、持続可能な農場経営への取り組み基準を満たした農産品だけに認められる「JGAP認証(Japan Good Agricultural Practice)」も取得しており、宮城県や関東圏へも販路を拡大しています。

「きのこのていく」代表の渡邊広さんは、事業を再開した直後に全国から「福島の復興を支援したい」と注文が殺到したエピソードを紹介し、「100年先も食卓に笑顔を届けたい」と話していました。

しいたけの収穫体験をした参加者からは「普段スーパーで見かけるしいたけと比べて、軸が太くて傘に厚みがあることに驚いた」という声も。それに対して渡邊さんは「栽培数を制限し、収穫のタイミングを調整することで厚みのあるしいたけに育ちます。しっかりとした香味があるので、塩だけで食べてもおいしいですよ」と話しました。

■きのこのていく
http://take-japan.com/

16:00 テレワークセンター「テラス石森」/一般社団法人Switch

コワーキングスペースでは、利用者同士の交流も生まれています

その後一行は、田村市の新しいビジネス拠点として2018年にオープンした「テレワークセンター『テラス石森』」へ。

廃校になった旧・石森小学校を活用して造られた施設内には、木の温もりが感じられる明るい空間が広がっていて、地域おこし協力隊の皆さんが手づくりした田村市の紹介資料などが展示されています。

2階建ての建物の各階にサテライトオフィス、コワーキングスペース、ミーティングルームが設けられており、それぞれ電源・Wi-Fiを完備。共有コワーキングスペースは1時間あたり200円から、個室は500円から利用することができます(※要予約)。「田村富士」の愛称で親しまれている片曽根山を眺められる休憩スペースもあり、思わずくつろぐ参加者も。月5,000円から住所登記のみで利用できる月額プランもあるので、起業を考えている方にもぜひ利用していただきたい施設です。

施設見学を終えた後は、テラス石森の運営を担う「一般社団法人Switch」から、施設の紹介とSwitchの活動紹介がありました。

Switchでは、テラス石森の運営のほか、移住・定住の促進や移住希望者と地域とのマッチングを行う「たむら移住相談室」の運営、農林業の活性化などの地域課題解決に向けた取り組み、地域交流イベントの開催、企業向けの事業サポートなどを通して、地域活性化を行っているそうです。

田村市出身の影山奈美子さん

続いて、田村市の隣町の三春町への移住者でSwitchの職員の影山奈美子さんと、起業型地域おこし協力隊を卒業したのちも田村市に定住してSwitchの協働パートナーとして活動する大類日和さんを囲む座談会が開かれました。

田村市出身の影山奈美子さんは、高校卒業後に上京し、服飾系の専門学校を卒業後、都内のアパレル会社に勤務。結婚を機に三春町に移住し、キャリアチェンジを考えていた時にSwitchの求人と出会い、現職に就きました。

影山さんは「『何か新しいことをしてみたい、故郷のために働きたい』という気持ちと、Switchの仕事内容がうまくマッチングしたので転職を決意しました。自分自身が子育てをするようになってから、田村市の自然環境の良さや人の温かさに改めて気付かされましたね。これからは子育て世代向けの交流イベントを開くなど、地域のコミュニティづくりをしていきたいです」と笑顔で話しました。

写真中央、群馬県出身の大類日和さん

大類さんは、群馬県と東京都の2拠点生活を経て、2018年に起業型地域おこし協力隊として田村市に移住。前職のWEB制作会社でのスキルを活かし、田村市の移住ポータルサイト「たむら暮らし」の制作や、地域産品のロゴ・紹介動画の制作など、マルチデザイナーとして活躍しています。

田村市で働く魅力については「都内とは違って個人に与えられる裁量が大きく、ひとつひとつの仕事が自分自身のスキルアップにつながるところ」と話し、「田村市には『よりよい地域を自分たちの手で創っていこう』という想いで活動している人が多いです。熱意ある人たちとともに、地域のために働けることがうれしい」と語りました。

■テラス石森
https://switch-terrace.com/

■一般社団法人Switch
https://switch-or.jp/

2 日目

9:00 JA福島さくら 農産物直売所 ふぁせるたむら

2日目は「JA福島さくら」が運営する農産物直売所「ふぁせるたむら」からスタート。

「ふぁせるたむら」では、JA(農業協同組合)グループのネットワークを活かした特産品の販売・販路拡大や、店内イベントなどを通じた地産地消の促進、国が定める「食品中の放射性セシウムスクリーニング法」に基づく食品の放射能検査(検出下限値10Bq/kg以下)による食の安全を守る活動などを行っています。

店内にはたくさんの種類の野菜や果物が並んでいて、田村市の食の豊かさを実感。

参加者も買い物カゴを手に、地産品のショッピングを楽しみました。

■JA福島さくら 農産物直売所 ふぁせるたむら
https://life.ja-group.jp/farm/market/detail?id=975

10:20 株式会社ホップジャパン

「陰陽五行」をテーマにした、ホップジャパンのクラフトビール

次に向かったのは、田村市都路町で地産のホップを使用したクラフトビールづくりを行う「株式会社ホップジャパン」のクラフトビール醸造所「ホップガーデンブルワリー」。原発事故の影響でほぼ遊休状態にあった市営の自然公園「グリーンパーク都路」内の建物を一部改修し、2020年に開設されました。

自然に囲まれた敷地内を巡り、循環型産業の取り組みを視察

ホップジャパンは、クラフトビールを軸に「人・もの・ことをつなぎ、人々を笑顔にすること」を掲げ、ビールの原料であるホップの栽培やビール醸造だけでなく、ホップ収穫体験ツアーやクラフトビール祭りの開催なども行い、一次産業から六次産業化につなげていくサイクルを地域内で循環させる、新しい産業モデルの構築を目指しています。

2022年2月には「SDGs体感未来都市」の実現に向けて特に優れた取り組みを行う事業者等を表彰する「第3回こおりやまSDGsアワード」を受賞しました。

ホップジャパンの代表・本間誠さんは「廃棄されるホップや麦の粕を、ホップの肥料や家畜の餌として再利用する『0次産業化事業』にも取り組んでいる。この場所で、ローカルサステナビリティ(地域の持続性)を実現したい」と語りました。

田村市は、東京オリンピック・パラリンピックでネパールのホストタウンとなった”ご縁”を未来につなぐため、ネパール原産の「赤蕎麦」の栽培を続けています。ホップジャパンでは赤蕎麦の花を活用する養蜂事業にも取り組んでいて、新たに、はちみつを主原料とする醸造酒「クラフトミード」の開発と商品化にも成功したそうです。

こうした一連の取り組みを体験型観光ツアーや視察プログラムのコンテンツとして提供し、地域に人を呼ぶ事業も始めているとのこと。本間さんがローカルサステナビリティ実現の先に見つめているのは、誰もが幸せになれる未来なのだと感じました。

■株式会社ホップジャパン
https://hopjapan.com/

13:30 バーベキュー交流会

昼食は、引き続きグリーンパーク都路で地元食材を使ったバーベキューを楽しみながら、ホップガーデンブリュワリーのクラフトビールを堪能しました。阿武隈高原の爽やかな風が吹く中で頂くビールは格別。参加者からは「作り手の地域創生への思いを感じながら、一口一口大切に味わいたい」という声が聞かれました。

14:20 株式会社ネクサスファームおおくま

田村市をあとにした一行は、隣町の大熊町へ。太陽光を利用していちごの周年栽培を行う「株式会社ネクサスファームおおくま」を訪ねました。

ネクサスファームおおくまは、大熊町が農業復興を目指して2018年に設立した企業で、いちご栽培では日本有数の生産規模を誇ります。大規模栽培を効率的に行うため、ハウス内の温度や湿度、光量、二酸化炭素濃度をセンサーで感知する環境制御システムを導入し、品質管理や販売実績、市場の動向も含めてデータ化することで、機械と人の分業による安心安全ないちごの安定生産を実現しています。

取締役兼工場長の徳田辰吾さんは「おいしいいちごをつくることも大切だが、いちご栽培を地域産業として成長させていくためには、どの時期に顧客のニーズが高いのかを見極め、栽培ハウスをコントロールすることも重要」と、次世代の持続可能な農業のあり方について話しました。

地域の企業と連携を図り、加工品の開発・販売にも取り組む

ネクサスファームおおくまでは放射線への安全性を徹底するため、敷地内・ハウス内の空間線量の定期検査と、収穫したいちごの全量検査、さらに、国および県の出荷基準検査、第三者機関による外部検査も行い安全性を確認しているそうです。2020年4月には、日本では取得率1%に満たないとされる、食品安全、労働環境、環境保全に配慮した持続可能な農業を実践する生産者に付与される国際基準「GLOBALG.A.P.認証(Global Good Agricultural Practice)」も獲得しました。

従業員の中には異業種から転職して活躍されている方も多いそうです。今後もパート従業員と正社員の求人募集を行う予定があるそうなので、就農希望の方はぜひチェックを。

■株式会社ネクサスファームおおくま
https://nexus-f.co.jp/

求人情報
https://nexus-f.jbplt.jp/

■転職者の宮澤拓さんへのインタビュー記事
https://mirai-work.life/magazine/901/

15:20 大熊インキュベーションセンター

ツアーの最後に向かったのは、廃校になった旧・大野小学校を活用して造られた「大熊インキュベーションセンター」。

大熊町を拠点に事業を展開する企業や起業家の支援を目的に、2022年7月に開所したばかりの施設ですが、すでに「トヨタ自動車株式会社」などの大企業や工場設立に向けて拠点を構える事業者が入居しています。

施設内の「交流スペース」は入居事業者だけでなく誰でも無料で利用でき、会議室は町内利用者は1時間あたり400円から、町外利用者は600円からで借りられるそうです。

ここでは、2022年2月に千葉県千葉市から移住し、現在は「おおくままちづくり公社」で働く山崎大輔さんによる、大熊町での暮らしと移住体験談の紹介がありました。

大熊町は、再生可能エネルギーを活用した持続可能なまちづくりに取り組んでおり、エネルギー収支ゼロを意味するZEH(Net Zero Energy House)住宅を建設する際に300万円を補助する「おおくまゼロカーボン建築物支援補助金」や、「太陽光パネル導入補助金」(補助額:最大出力(kW)×10万円 ※事業用のみ上限2,000万円)、「次世代モビリティ導入補助金」(EV(電気自動車)購入費1台当たり上限100万円など)の支援を行っています。

さらに、大熊町への移住者は、最大200万円の補助金が支給される「福島県12市町村移住支援金制度」や、住宅取得に掛かる費用を最大500万円補助する「来て『おおくま』住宅取得支援事業補助金」などが利用でき、新生活の準備に掛かる費用を大幅に軽減できます。

大熊町のまちづくりはまだ始まったばかりで、2022年の大熊インキュベーションセンターの開所を皮切りに、2023年には幼保小中一体型の教育施設「大熊町立 学び舎 ゆめの森」の開所、2024年には町の中心部である常磐線大野駅周辺に、さまざまな企業が入居する産業交流施設のオープンが予定されていて、今まさに地域再生に向けた転換期を迎えていることが感じられました。

また山崎さんは大熊町に移住した方から寄せられた声として「町役場や『大熊町移住定住支援センター』の担当者がとても親切で、親身になって相談に乗ってくれました」「町の一員として町の成長に貢献することができるので充実感があります。前向きで人の話をよく聞いてくれる人が多いです」などを紹介。千葉市から移住した山崎さんご自身も「移住してから特に困った思いをしたことがない」と感じているそうです。

山崎さんは参加者に向けたメッセージとして「すぐに移住するのは難しいかもしれないが、今回のような移住体験ツアーや首都圏で開催するイベントなどに参加し、まずは大熊町のことを知っていただきたい」と話していました。

ツアーを終えて

産業発展と環境保全は両立しがたいものと思われがちですが、田村市と大熊町では、再生可能エネルギーや最新テクノロジーを取り入れた、サステナブルな事業モデルが確立し始めていました。未曾有の震災からの復興を遂げた福島が、これからの日本の持続可能な社会づくりを牽引していく。そんな未来は、もうすぐそこまで来ているようです。

「ふくしま12市町村移住支援センター」では、今後も毎月移住体験ツアーを開催する予定なので、ぜひご自身で、未来への歩みと挑戦を続ける福島12市町村の“今”をご体感ください。

今年度開催された移住体験ツアーのレポートはこちら
2022年7月30-31日 南相馬市&浪江町
https://mirai-work.life/magazine/2433/
2022年8月27-28日 川内村&富岡町
https://mirai-work.life/magazine/2577/
2022年9月17-18日 飯舘村&川俣町
https://mirai-work.life/magazine/2913/
2022年10月8-9日 田村市&大熊町
https://mirai-work.life/magazine/3279/
2022年11月19-20日 葛尾村&浪江町
https://mirai-work.life/magazine/4157/
2022年12月3-4日 広野町&楢葉町
https://mirai-work.life/magazine/4285/

※所属や内容、支援制度は取材当時のものです。最新の支援制度については各自治体のホームページをご確認いただくか移住相談窓口にお問い合わせください。
取材・文・撮影:熊野優美子