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【移住体験ツアーレポートin川内村&富岡町】誇り再生への歩みと挑戦

2022年10月10日
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2022年8月27日(土)から28日(日)にかけて、川内村と富岡町を巡る移住体験ツアー「誇り再生への歩みと挑戦」が開催されました。この記事では、2日間のツアーの様子をご紹介しながら、地域再生へと向かう川内村・富岡町の魅力をお伝えします。

川内村・富岡町ってどんな地域?

福島県浜通り(太平洋沿岸地域)の双葉郡に属する、川内村と富岡町。川内村は阿武隈高地の中部に位置する緑と清流が美しい村で、富岡町は太平洋と阿武隈高地の間に広がる温暖で暮らしやすい町です。

両地域とも、エネルギー産業とともに歩んできた歴史を持ちますが、東日本大震災および福島第一原子力発電所の事故で、一時は全村・全町避難を余儀なくされました。そうした状況の中、川内村は避難自治体の中で最初に「帰村宣言」を出し、2012年から2016年にかけて避難指示が段階的に解除され、現在は8割以上の村民が帰村。富岡町は2017年に町の9割の地域で避難指示が解除され、現在は元の町民の2割弱が町内で暮らしています。

富岡町も川内村も、地域コミュニティの再生に向けた挑戦の最中です。その実現には、地元住民だけでなく、外からやってくる人の力も必要とされています。

1日目

14:00 川内村・町分地区

移住定住・国際交流拠点「かわうち@WORK」

はじめに向かったのは、川内村の中心地にある「町分(まちわけ)地区」です。川内村のまちづくりを行う「一般社団法人かわうちラボ」の職員で、移住・定住相談員の新田美千夫さんの案内で地区内を巡りました。

町分地区は、景観づくりに力を入れている川内村のモデル地区。「川内小中学園建設」、「国県道バイパス整備」、「住環境整備」の3つのまちづくり事業を柱に、さまざまなプロジェクトに取り組んでいるそうです。

移住者が始めたイベントスペース&ゲストハウス「町分オルタナギャラリー」
音楽ライブや作品展示、ワークショップなどのイベントが行われ、まちににぎわいを生み出しています

実際に歩いてみると、緑と水が豊かで清らかな雰囲気のまちという印象を受けました。個人商店や文化施設などもあるので、のんびりと、でも退屈することなく暮らせそうです。

つい先日、入居者が決まったという空き家
40歳未満を対象とした「川内村若者定住促進住宅」。2LDKで家賃は35,000円。取材当時入居者募集中でした!

14:30 fuku farming flowers

次に訪問したのは、大阪出身の福塚裕美子さんが開いた「fuku farming flowers」。切り花やブーケの販売、イベント装花の制作、寄せ植えやフラワーアレンジメント教室を行う花屋さんです。震災当時、福塚さんは東京の園芸店に勤めていましたが、川内村出身の同僚が実家の状態を確認するのに同行し、2011年8月に川内村を訪れました。

「人の手が入らなくなった田んぼに雑草が生え、それが背丈まで伸びている様子を見て、同僚はとても悲しんでいました。その姿を見て、『田園風景を取り戻すお手伝いがしたい』と思いました」

2012年に川内村に移住し農業支援活動を行ったのち、「ドイツの花屋で働く」という夢をかなえるため渡独。しかし、川内村のことが忘れられず2018年に再移住したといいます。最初は花の移動販売からスタートし、2021年に実店舗をオープンしました。

洗練された花材とディスプレイがステキ

「双葉郡で唯一の花屋ということもあって、地域の大きなイベントにも携わらせていただいています。競合他社が少ないので、何か手に職を持っていて独立を考えている人には強くおすすめしたい地域です」と話す福塚さん。

参加者からの「生活の中で足りないものは?」との質問には、「えーなんだろう、結構満たされているかも……」となかなか思い浮かばない様子で、悩んだ末に「自然が豊かで空気も星もきれいで、季節ごとに海の幸山の幸が楽しめて。私にはそういう自然の恵みの方が、都会の便利さよりも必要なのだと思います」とご自身の考えを伝えてくれました。

4000㎡ほどある土地の賃料は年間30,000円。現在、敷地内にフラワーガーデンを整備中で、ゆくゆくは飲食店もオープンしたいそう

■fuku farming flowers
HP:https://fuku-farming-flowers.shopinfo.jp/

15:00 一般社団法人かわうちラボ

かわうちラボの拠点では、移住・定住相談員の新田さんが、川内村の移住支援制度を案内してくださいました。

川内村は、特に若者世代の移住に力を入れていて、40歳未満の村外からの移住者を対象とした「若者定住応援交付金」や住宅取得支援のほか、結婚・子育てに関する手厚い支援が魅力です。

ここでは10分ほどの個別相談も実施。「村内に仕事はありますか?」「農業を始めるにあたっての支援はありますか?」といった具体的な質問が寄せられ、新田さんをはじめとする相談員の方が「介護事業所やキャタピラ製造企業(※)で求人が出ています」、「新規就農者向けに、単身者なら10万円、夫婦なら15万円の支援金が出ますよ」と丁寧に説明していました。

※キャタピラ:車両用走行装置の一種。

ワイナリーで地域おこし協力隊として活動する森島さん(写真右)

会場では地域おこし協力隊の方からお話を聞く機会も。「かわうちワイン株式会社」で栽培と醸造を担当する森島伸浩さんからは、「地元住民も移住者も優しい人が多く、野菜や猪肉、卵にキノコといろいろな作物をお裾分けしてくださる」と、ご自身の移住体験談を話してくださいました 。

■一般社団法人かわうちラボ
HP:https://www.k-labo.or.jp/

18:00 さくらモール とみおか

かわうちラボから30分ほどバスに揺られ、隣町の富岡町に到着。立ち寄った「さくらモール とみおか」は、2017年にオープンした大型複合施設で、スーパーマーケット、ドラッグストア、ホームセンターと飲食店が入っています。

スーパー「ヨークベニマル」では、食料品から雑貨類に至るまで、生活用品がまとめてそろいます。桃や梨、シャインマスカットなど、福島県産の旬の果物もずらりと並んでいて、福島銘菓のコーナーもあり、参加者のみなさんは早くもお土産探しを楽しんでいました。

18:30 ふたばいんふぉ&cafe135

1日目の最後を締めくくるのは、「cafe135(カフェひさご)」での食事懇談会。

いわき産じゃがいものフライ、富岡産玉ねぎを使ったオニオングラタン風ピザ、「麓山高原豚」の肩肉ローストなど、福島県産の食材を使った料理がたっぷり。地元のみなさんに人気だという「海老海苔クリームのパスタ」は、やみつきになる味わいでした。

「cafe135」では、通常のランチタイムには、カレーやパスタ、定食などを750円〜1000円ほどで提供。夜は創作フレンチ・イタリアンのメニューと30種以上のワインをそろえているのだそうです。季節ごとに変わるパティシエの本格スイーツにもファンが多いのだとか。近くに住んでいる人がうらやましくなるような、すてきなお店でした。

■cafe135
HP:https://futabainfo.com/cafe135/

2日目

10:00 富岡町内バスツアー

2日目は、ツアーコーディネーターの秋元菜々美さんによる、富岡町のバスツアーからスタート。秋元さんは富岡町出身で、東日本大震災時は中学1年生でした。地震が起こったのは、3年生を送る卒業式が終わり、友達と遊んでいたときだったといいます。

「家族が学校に迎えに来てくれて、友達と『また明日』と言って別れたんです。その翌日には避難指示が出て、いつもの明日は来ませんでした。でも、そうして一度バラバラになった分、震災後はコミュニティがとても大事にされるようになったなと感じています。『富岡町にはもう帰れないだろう』と思っていた時期もありましたが、移住して来てこの地域のために頑張っている人たちを見て、『私も故郷の復興に力を尽くしたい』と、富岡町に戻ることを決意しました」

釣りが好きだという秋元さん。遊漁船で沖に出ると、カツオや、ヒラメ、カレイ、メバル、ソイなどさまざまな魚が釣れるそう

来年春に避難指示解除予定のエリアと、解除のめどが立っていないエリアがあること、江戸時代の宿場町から発展してできた中央商店街には個人商店が戻らず更地が目立っていること、一方で診療所や眼科、歯科、県立病院など、医療機関は整っていることなど、いいところも悪いところも含めて「富岡町の今」の実情を話してくださいました。

11:00 とみおかアーカイブ・ミュージアム

  「とみおかアーカイブ・ミュージアム」は、富岡町の成り立ちと、複合災害がもたらした地域への影響を伝える博物館。「小浜古墳群」の出土品や開拓の記録、大正〜昭和期の資料をもとに作成した商店街のイメージ模型、命がけで町民の避難を誘導し津波にのみ込まれたパトカーのほか、生徒が戻ることのなかった教室を再現した期間限定の企画展など、豊富な資料が展示されていました。

その内容から「震災前・震災後の富岡町の歩みと町民の経験をきちんとのこし、後世に伝えていこう」という強い意志を感じました。

館内では震災や避難の経験を伝えるインタビュー映像やアニメーションが上映されていて、参加者のみなさんは真剣な表情で見入っていました。

■とみおかアーカイブ・ミュージアム
HP:https://www.facebook.com/TheHistoricalArchiveMuseumOfTomioka/

12:30 中国料理 富景

衣がカリカリでタレが香ばしい油淋鶏

お昼は、7月にオープンしたばかりの中華料理「富景(ふうけい)」へ。

横浜中華街で修行を積んだ料理人による本格中華料理店ということもあり、町民から大人気なのだそうで、この日もほぼ満席でした。ランチ定食は酢豚に青椒肉絲、八宝菜など15種類あり、ごはんにスープ、デザートもついて780円とお手頃価格。店内で食事をしていた方におすすめのメニューを聞くと、「何を食べてもおいしい」とのこと。全メニュー制覇したくなってしまいます。

14:00 トータルサポートセンターとみおか

おなかが満たされた後は、メディカルフィットネスとカフェ、ワークショップルームが併設された「トータルサポートセンターとみおか」へ移動。ここで迎えてくださったのは、いわき・双葉の子育て応援コミュニティー「cotohana(コトハナ)」を主宰する小林奈保子さんです。医療施設や子育て支援制度などの情報収集と発信、保護者が交流できる場づくりなど、多岐にわたる活動をされています。

現在、双葉郡では子どもの数が急速に増えているそうで、「屋内遊び場はかなり充実していますが、習い事のニーズには応えられていない状態です。また、障がいのあるお子さんが療育を受けられる場所がなく、近隣だといわき市や南相馬市に通うしかありません」と教えてくださいました。

コトハナではそうした地域課題も包み隠さず発信し、行政とも連携しながらよりよい子育て環境を実現しようと活動しています。子育て世帯にとって、かなり頼もしい存在です。

■cotohana
HP:https://cotohana.net/

続いて「一般社団法人とみおかプラス」のスタッフで移住相談担当の辺見珠美さんからもお話がありました。とみおかプラスは、移住定住促進事業や防災事業を行うまちづくり団体。富岡町の地産米を使った日本酒「萌の躑躅(きざしのつつじ)」のプロデュースと販売も行っています。

富岡産のお米を使ったスパークリング日本酒「萌の躑躅」と純米吟醸「富岡魂」
前夜の懇談会でもおいしいと評判で、参加者の多くがお土産として購入していました

東京で大学生活を送っていたときに震災が発生し、富岡町から東京に避難してきた子どもたちの学習支援を行ったことがきっかけとなり、富岡町へ移住したという辺見さん。富岡町での暮らしを「余白だらけのまちだからこそおもしろい」と語ります。

「東京にいた時はまちづくりへの関心も薄く、パチスロばかりやっていました(笑)。それが富岡に来たら『楽しく暮らしたいなら、自分で動かなくちゃ』と意識が変わったんです。
富岡は決して便利なまちではないので、誰にでもおすすめとはいえません。でも、その不便さに対して『自分たちの力で何かできるかも』とワクワクを感じられる人なら合っているはず。一緒にまちを耕しませんか?」

辺見さんからの力強い呼びかけに、参加者から「僕は中学校の数学教師です。このまちの役に立つことはできますか?」と直球の質問が飛び出しました。辺見さんの答えは、「学習塾がまだないので、教えてくれる人がいたら喜ぶ人は多いと思います!」というもの。まちの余白が「関わりしろ」になった瞬間でした。

■一般社団法人とみおかプラス
HP:https://tomioka-plus.or.jp/

15:40 富岡小中学校 PinShool 

再びバスに乗り、富岡町立富岡小・中学校へ。東京と富岡町の2拠点で暮らし、さまざまなアートプロジェクトを展開する「NPO法人インビジブル」代表の林曉甫さんから、「PinSchool」プロジェクトの紹介がありました。「PinSchool」は、アーティストやクリエイターが「プロフェッショナル転校生」として、子どもたちと学校生活をともにするというもの。2020年には、音楽家の大友良英さんが3代目転校生となり、生徒と一緒に新しい校歌をつくったそうです。

その模様はこちらから→https://www.youtube.com/watch?v=Nd1IJpAHWxs

こうしたプロジェクトを通して、子どもたちはプロの仕事に対する姿勢や新しい価値観を自ら学び取ります。2018年の活動開始から、10年の節目には、プロジェクトを通して生まれた作品を集め、「富岡町小中学校芸術祭」を開催したいとのこと。ほかの市町村にはない、豊かな教育体験を得られそうです。

■PinSchool
HP:https://pinsproject.net/school

16:00 とみおかくらし情報館/富岡町お試し住宅

ツアーの最後は、富岡町への移住を検討している方が滞在できる「富岡町お試し住宅」へ。元写真館の店舗兼住宅をリノベーションした建物で、とみおかプラスの事務所と移住定住相談窓口「とみおかくらし情報館」も併設されています。

1階にはダイニングキッチンとお風呂、2階には和室とリビング、ベッドルームがあり、最大6名まで宿泊可能。白と木目を基調とした明るい雰囲気で、快適に暮らせそうです。なんとここ、4泊5日までなら無料で利用できるというから驚きました。

滞在には「移住体験プログラム」への参加が必須ですが、農作業体験や小中学校の見学、先輩移住者との交流など、参加希望者一人一人に合わせたオーダーメイド型のプランを作ってくださるそうです。

川内村と同様に富岡町でも、住宅助成金や町営住宅の貸与、農業支援など移住希望者に向けたさまざまな支援制度を用意しています。詳しくは、とみおかくらし情報館にお問い合わせください。

■とみおかくらし情報館/富岡町お試し住宅
HP:https://tomioka-plus.or.jp/tomiokakurashi/

■富岡町お試し住宅に関する記事はこちら
https://mirai-work.life/magazine/1740/

16:30 クロージング

 さて、盛りだくさんのツアーも、もう終わりの時間です。ツアーコーディネーターの「一般社団法人双葉郡地域観光研究協会(F-ATRAs)」代表の山根辰洋さんが司会となり、バスの中で2日間の振り返りを行いました。

家族で移住を考えているという参加者は、「川内村・富岡町はまだまだ大変なことも多いですが、新しいチャレンジができる環境があってワクワクしました。この土地にしかないものを活用して、またはこの土地に足りないものに着目して、新しい仕事をつくりたいです」と感想を発表。ツアーを通して、この地域で暮らしていくビジョンが描けたようです。

山根さんは感想を受けて「双葉郡はよくも悪くも特殊な場所で、一人に対する期待値が高いんです。今回のツアーを案内したメンバーもいろいろな団体の仕事を掛け持ちし、多方面で活躍しています。自分のライフステージに合わせて必要だと思うことを始めると、それが次の人の役に立つという実感もあり、やりがいは十分。すぐに移住は考えられないという方も、今回のツアーをきっかけに川内村・富岡町と継続的に関わりを持っていただけるとうれしいです」と締めくくりました。

ツアーを終えて

今回の移住体験ツアーでは、川内村・富岡町で暮らす魅力を体感しながら、震災と原発事故で地域がどのような影響を受けたのか、そして、現在はどのような課題を抱えているのかを丁寧に説明してくださったのが印象的でした。現状から目をそらさず、地域が抱えるさまざまな問題を、「これから解決していく課題」として前向きに捉えられる人が求められているのだと感じました。

居住人口が2,000人ほどの川内村や富岡町では、一人一人の活動が地域全体に影響を与えます。それは言い換えれば、一人ひとりに椅子がある、活躍の機会や役割があるということです。

もし、そうした暮らしに惹かれるものを感じたら、ぜひ一度、川内村・富岡町を訪れてみてください。あなたのための椅子が見つかるかもしれません。

今年度開催された移住体験ツアーのレポートはこちら
2022年7月30-31日 南相馬市&浪江町
https://mirai-work.life/magazine/2433/
2022年8月27-28日 川内村&富岡町
https://mirai-work.life/magazine/2577/
2022年9月17-18日 飯舘村&川俣町
https://mirai-work.life/magazine/2913/
2022年10月8-9日 田村市&大熊町
https://mirai-work.life/magazine/3279/
2022年11月19-20日 葛尾村&浪江町
https://mirai-work.life/magazine/4157/
2022年12月3-4日 広野町&楢葉町
https://mirai-work.life/magazine/4285/

※所属や内容、支援制度は取材当時のものです。最新の支援制度については各自治体のホームページをご確認いただくか移住相談窓口にお問い合わせください。
取材・文・撮影:飛田恵美子