【移住体験ツアーレポートin飯舘村&川俣町】ふくしまの笑顔とあなたの未来を重ねる旅
2022年9月17日(土)から18日(日)にかけて、飯舘村と川俣町を巡る移住体験ツアー「ふくしまの笑顔とあなたの未来を重ねる旅 in 飯舘村&川俣町」が開催されました。
この記事では、2日間のツアーの様子をご紹介しながら、飯舘村、川俣町で暮らし働く魅力をお伝えします。
飯舘村・川俣町ってどんな地域?
福島県の北東部に位置する飯舘村と川俣町は、阿武隈山系の美しい自然に恵まれた地域です。
標高220~600 mほどの高地にある飯舘村では、冷涼な気候を活かした高原野菜や、凍み餅、凍み大根、どぶろくの生産のほか、トルコギキョウなどの花き栽培が盛ん。国内有数の絹織物産地である川俣町は、300年以上もの歴史を誇る「川俣シルク」と、ブランド鶏「川俣シャモ」の産地としても知られています。
近年では、豊かな自然資源を活かした起業支援にも力を入れており、産業の活性化が進む地域です。
■飯舘村
https://mirai-work.life/city/iitate/
■川俣町
https://mirai-work.life/city/kawamata/
1 日目
12:10 La Kasse(ラ・カッセ)
まず向かったのは、古民家を改装して造られた洋食レストラン「La Kasse」。
オーナーシェフの佐藤雄紀さんは、飯舘村出身。約10年間の飲食業経験を活かし、2022年6月10日に、故郷にレストランをオープンしました。地産の食材を豊富に使用した「La Kasse」のメニューは彩り豊か。佐藤さんは「食を通して飯舘村の魅力を伝え、食の力で飯舘村を盛り上げていきたい!」と熱い思いを語ってくださいました。
飯舘村は、”心をこめて大切に”という意味を持つ東北地方の方言「までい」を基本理念にした「までいな村」づくりを行っています。自然と人の暮らしを丁寧に紡ぐ村の在り方が評価され、2010年には「日本で最も美しい村」連合に加盟しました。
ゆったりとした時の流れと心づくしの食事を楽しむ中で、初対面の参加者同士が少しずつ打ち解けて行く姿が見られました。
■La Kasse
住所:〒960-1634 福島県相馬郡飯舘村二枚橋本町193-3
TEL:0244-42-1228
営業時間:ランチ 11:00〜15:00(L.o.14:00)
ディナー 17:00~20:00 ※ディナーは事前予約制
定休日:月・木曜
13:30 工房マートル
次に向かったのは、飯舘村の地域おこし協力隊で、キャンドル作家としても活動する、大槻美友さんのアトリエです。
福島県出身の大槻さんは大学卒業後、インテリアや衣料品の製造販売を行う大手企業に就職。転勤先の函館でキャンドルづくりと出会い、ものづくりの楽しさを実感し、キャンドル作家へと転身しました。
2018年からは、福島県産の草花を使ったボタニカルキャンドルとドライフラワーの制作と販売を開始。2020年に飯舘村の地域おこし協力隊となり、2021年5月に、古民家を改装したアトリエ「工房マートル」をオープンしました。
作品に福島県産の花々を用いるのは「ものづくりを通して、福島のいいところを発信していきたい」という思いから。生産者のもとに足を運び、花材を直接仕入れることも多いそうで「生産者さんが一本一本の花にかけた愛情を思い、創作活動ができる今の環境は、とても恵まれていると思います」と穏やかな笑顔を見せました。
■工房マートル
https://atlemyrtle.thebase.in/
14:20 飯舘村移住セミナー&交流会(飯舘村交流センターふれ愛館)
そのあとは「飯舘村交流センターふれ愛館」で、移住セミナーと交流会が開かれました。
まずは、飯舘村村づくり推進課企画定住係の室井麻矢さんによる、村の概要の説明から。
飯舘村は、原発事故の影響で、約6年間にわたる全村避難を経験しましたが、2017年3月末に、一部地域をのぞいて避難指示が解除されて住民の帰村が進み、現在では、約1,500名が暮らしています。
復興の次のステージとして「明日が待ち遠しくなるような、わくわくする楽しいふるさと」の実現を掲げており、移住・起業・交流・就農・地域活性化など、それぞれの分野で活躍する新しい担い手の支援に力を入れているそうです。
子育て環境の整備にも注力しており、2020年には小中一貫校である「飯舘村立いいたて希望の里学園」が開校。約100人の子どもたちが学んでいます。いいたて希望の里学園には、幼保連携型の「飯舘村立までいの里のこども園」が隣接していて、周囲には陸上競技場やサッカー場、屋内テニスコートを備えた「いいたてスポーツ公園」「いいたて球場」などがあり、地域内外の子ども同士、親同士の交流も活発化しているとのこと。
室井さんは「震災前とは異なる、村の魅力が生まれ始めている」と説明していました。
続いて、1年ほど前に飯舘村に移住した建築士の大山洋子さんが、建築士の視点から物件の選び方についてのアドバイスをしてくださいました。
築25年以上経過した物件の不動産価値は、そのほとんどが土地の価値になるため、建物の築年数だけでなく、立地や敷地面積、リフォーム費用も含め、真価を見極める必要があるとのこと。さらに、リフォームすれば十分居住できる村内の「0円物件」を紹介し、予算を抑えたリフォームプランの提案や、飯舘村が行う「飯舘村移住定住支援事業補助金」の紹介がありました。
大山さんご自身も補助金を活用して現在の自宅を購入されたそうで「今、村にある家を大切に残していきたい」と話す姿が印象でした。
先ほど訪問した「工房マートル」の大槻さんも、ご自身の移住体験を語ってくださいました。
飯舘村に移住したきっかけの一つは、地域おこし協力隊の先輩隊員の二瓶麻美さんが「飯舘村に来なよ!」と声をかけてくれたことなのだそうです。「協力隊としての活動を通して、いろいろな人とつながり、貴重な体験をすることができますよ」と、大槻さん。
現在は、協力隊としての活動の一環で、地域のPR活動も行っているそうです。
15:40 いいたて村の道の駅 までい館
セミナー後は、飯舘村の地産野菜や四季折々の花々がそろう、道の駅「までい館」へ。
飯舘村では「花」を復興のシンボルにしていることから、施設中央の屋根は「花かご」をイメージして設計されています。
広大な敷地内には、天然芝が広がる「ふかや風の子広場」や、ドッグラン「わんこの庭 のびのび」があり、家族みんなで楽しいひと時を過ごすことができそうです。
■いいたて村の道の駅 までい館
http://madeikan.com/
16:40 飯舘村・南相馬市食住環境見学
「までい館」での買い物を楽しんだ後は、飯舘村と隣接する南相馬市を含む地域の食住環境を見学しました。
村の中心部から車で約30分ほどの、太平洋側を南北に走る国道6号に出ると、スーパーマーケットの「フレスコキクチ」や、「カインズ原町店」「道の駅『南相馬』」「南相馬市総合病院」などがあり、車があれば不自由なく暮らせる印象です。
17:30 夕食交流会
そして一行は、飯舘村のツアーを終えて本日の宿泊先「ホテル丸屋グランデ」へ。
夕食前の意見交換会では、住民票を移す際の手続きや飯舘村の求人情報など、参加者から具体的な質問が出ていました。1日目を振り返り、移住に向けたステップを整理する、よい機会になったようです。
■ホテル丸屋グランデ
http://maruya-grande.jp/
2日目
10:00 観光農園「スマイルファーム」
2日目は川俣町へ。まず向かったのは、いちご狩りとフラワーアレンジメント体験が楽しめる「スマイルファーム」です。
代表の谷口豪樹さんは、埼玉県出身。会社員時代に福島市に赴任したことがきっかけで奥さまと出会い、結婚を機に福島市に移住されました。奥さまの出身地である川俣町で、土の代わりにリサイクルした古着などを用いる「ポリエステル媒地」による、熱帯植物「アンスリウム」の栽培プロジェクトがあることを知り、2018年に川俣町で新規就農。「スマイルファーム」を開園しました。
国産アンスリウムの国内流通量は年々伸びているそうで、谷口さんは「川俣町を日本一のアンスリウム産地にしたい」と、今後の目標を語ってくださいました。
農作業体験をした参加者からは「腰の高さで作業ができるので、思っていたよりも身体に負担がかからなかった」という声が上がり、現在の求人情報や、就農後の暮らし方や働き方についての質問が飛び交っていました。
■観光農園「スマイルファーム」
https://www.instagram.com/smilefarm_kawamata/
■谷口豪樹さんへのインタビュー記事はこちら
https://mirai-work.life/magazine/2241/
11:40 御食事処 だいまる
国内有数の絹織物の産地として知られる川俣町では、財を成した「絹長者」たちが娯楽として闘鶏を楽しむ文化が生まれました。その闘鶏の食用化に成功して誕生したのが、ブランド鶏「川俣シャモ」です。
「御食事処 だいまる」の名物「シャモセット」は、ミニシャモ丼とシャモラーメンが一度に味わえる人気メニュー。川俣シャモの魅力を存分に堪能することができます。
川俣町を訪れた際は、ぜひお試しを!
■御食事処 だいまる
住所:〒960-1406 福島県伊達郡川俣町鶴沢油田3-3
TEL:024-565-2660
営業時間:11:00~14:45、17:00~19:45
定休日: 第2・4日曜日
12:40 川俣町移住セミナー&交流会(川俣町役場)
地元グルメを堪能したあとは、川俣町役場での移住セミナーへ。
まずは、川俣町政策推進課まちづくり推進係の藤原貴範さん・大平誠友さんより、川俣町の紹介がありました。
川俣町は、隣接する福島市から車で30分ほどのところにあり、町の中心部から海へも山へも1時間以内でアクセスできる「ちょうどいい田舎暮らし」ができる住環境が魅力です。町内には8つの診療所と5つの歯科医院、中心部から車で約20分の距離に「福島県立医科大学附属病院」もあり、いざという時に頼れる医療機関も十分。
移住定住・起業支援の補助金制度にも力を入れていて、「福島12市町村移住支援金」のほか、最大100万が支給される「かわまた移住支援給付事業補助金」、起業や空き家活用時に活用できる支援制度が設けられています。詳細は「川俣町移住・定住相談支援センター」に問い合わせをしてほしいと説明がありました。
続いて、3名の移住者から移住体験談のお話がありました。
2014年に神奈川県から川俣町に移住した矢納直彦さんは、町の復興に力を尽くしたいとの思いから、町民の憩いの場でもある「羽山の森美術館」のボランティアスタッフや、地域行事の実行役員などを務めています。川俣町は「町の再生の中に活躍のチャンスがあり、何歳からでも希望を実現できる」と、魅力を語ってくださいました。
移住後は、自家農園で育てたブルーベリーを使ったジャム作りを行うなど、暮らしの中に楽しみが増えたと言い、公私ともに充実した暮らしぶりがうかがえました。
続いて、川俣町にある「山木屋公民館」の主事として活躍する、吉村弘子さんのお話がありました。
広島県出身の吉村さんは、結婚後にご主人と一緒にオートキャンプを楽しむ中で川俣町と出会い、自然を満喫できる住環境に魅了されて1995年に川俣町に移住しました。現在は、公民館勤務の傍らで塾講師としても働き「山木屋ジョイフルオートキャンプ場」の運営にも携わっています。
吉村さんは「やりたいことがあれば何とかなります。どの地域も住めば都」と、参加者に向けて心強いメッセージを伝えていました。
最後に、先ほど訪問した「スマイルファーム」の谷口さんからもお話がありました。
脱サラして本気で農業に取り組もうと思ったのは「直感的に『かっこいい』と感じたから」と、生き生きと話す姿が印象に残ります。
2018年にアンスリウムとヒマワリの栽培を開始し、2021年には法人化を実現。「農業を通して、川俣町を活気ある町にしていきたい!」と、ビジョンを語ってくださいました。
14:20 川俣町食住環境見学
川俣町の中心部には、22時まで営業しているスーパーマーケット「リオン・ドール 川俣店」や「カインズ」「ダイユーエイト」「ミニストップ」「道の駅かわまた」などがあり、食料品から日用品まで生活必需品がそろいます。
途中で立ち寄った「道の駅かわまた」には地産野菜の直売所があり、買い物を楽しむ地域の方の姿も見られました。
15:10 ベルグ福島株式会社
ツアーの最後に訪ねたのは「ベルグ福島株式会社」。
ベルグ福島は、接ぎ木苗生産販売で国内トップシェアを持つ「ベルグアース株式会社」の東日本拠点で(本社は愛媛県)、人工光利用型育苗施設や植物ワクチン苗の量産技術など、最先端技術を取り入れた次世代農業を実践しています。
取締役・農場長の豆塚輝行さんは、ベルグ福島の立ち上げのために2015年に愛媛県から川俣町に移住されました。現在は植物ワクチンの開発研究に取り組んでいるそうで「ウィルスに強い苗を展開できれば、農家さんの収穫量アップつながります。復興に終わりはなく、これからも川俣町とともに歩んでいきたい」と語りました。
ベルグ福島では規模拡大に伴い「栽培管理者」と「接ぎ木作業管理者」の求人を募集しています(取材時)。従業員のほとんどは未経験からのスタートで、異業種からの転職も歓迎しているとのこと。職場見学も行っているため、気軽に問い合わせてほしいと話していました。
■ベルグ福島株式会社
https://bergefukushima.jbplt.jp/
ツアーを終えて
今回のツアーでは、訪問先で出会った移住者の皆さんがそれぞれの活動の先に地域のよりよい未来を見つめていて、一人一人の歩みが地域創生の原動力になることを実感しました。また、訪れる先々で復興の象徴とされる「花」が咲き誇っていたことが印象的でした。
秋が深まるこれからの季節には、山一面に広がる紅葉が迎えてくれるそうです。
またすぐにでも飯舘村と川俣町を訪ね、未来への歩みを続ける人と出会いたいと思いました。
■今年度開催された移住体験ツアーのレポートはこちら
2022年7月30-31日 南相馬市&浪江町
https://mirai-work.life/magazine/2433/
2022年8月27-28日 川内村&富岡町
https://mirai-work.life/magazine/2577/
2022年9月17-18日 飯舘村&川俣町
https://mirai-work.life/magazine/2913/
2022年10月8-9日 田村市&大熊町
https://mirai-work.life/magazine/3279/
2022年11月19-20日 葛尾村&浪江町
https://mirai-work.life/magazine/4157/
2022年12月3-4日 広野町&楢葉町
https://mirai-work.life/magazine/4285/
※所属や内容、支援制度は取材当時のものです。最新の支援制度については各自治体のホームページをご確認いただくか移住相談窓口にお問い合わせください。
取材・文・撮影:熊野優美子