【移住体験ツアーレポートin南相馬市&浪江町】ふくしまの笑顔とあなたの未来を重ねる旅
2022年7月30日(土)から31日(日)に、南相馬市と浪江町を巡る移住体験ツアー「ふくしまの笑顔とあなたの未来を重ねる旅 in南相馬市&浪江町」が開催されました。
この記事では、2日間のツアーの様子をご紹介しながら、南相馬市、浪江町で暮らし、働く魅力をお伝えします。
南相馬市・浪江町ってどんな地域?
南相馬市と浪江町は、「浜通り」と呼ばれる太平洋沿岸エリアに属する地域。東北地方の中では比較的温暖で降雪量が少なく、暮らしやすい気候が特徴です。東京から南相馬市の玄関駅であるJR常磐線「原ノ町駅」までは、「特急ひたち」で約3時間半(※仙台行き直通運転の場合)、仙台駅からは1時間ほどでアクセスできる距離にあります。
両市町とも、東日本大震災で甚大な被害を受けましたが、近年では先端産業の集積と最先端テクノロジーの導入が進み、活気ある魅力的な地域へと変貌を遂げようとしています。
■南相馬市
https://mirai-work.life/city/minamisoma/
■浪江町
https://mirai-work.life/city/namie/
1日目
12:00 食彩庵
最初に向かったのは、南相馬市の「野馬追通り銘醸館」の中にあるお食事処「食彩庵」。
大正8年に建てられた日本家屋で、「網代編み」の天井や繊細な模様が施された欄間も立派で見応えがあります。
この日いただいたのは、地産米と新鮮な野菜、南相馬市産の小麦を使った「多珂うどん」が味わえる御膳セット。落ち着いた雰囲気の中、ほっとするやさしい味わいの料理で気持ちが和らぎ、おなかも満たされました。食事の後は簡単に自己紹介を行い、参加者のみなさんも少し緊張が解けたようです。
■野馬追通り銘醸館
https://meijokan.wixsite.com/website
13:10 一般社団法人 Horse Value(ホースバリュー)
和やかな雰囲気の中で向かった次の目的地は、市営の馬事公苑をフィールドに活動する「一般社団法人 Horse Value(ホースバリュー)」。
「一般社団法人 Horse Value」は、2020年に「馬の社会価値を高める」というミッションのもと設立された会社です。自然の中を馬に乗って散歩する「ホーストレッキング」のほか、馬と触れ合うことで得られるヒーリング効果「ホースセラピー」を、企業の自己啓発プログラムと連動させて行うなど、馬の活躍の場を広げるユニークな活動を行っています。
理事を務める高田崚史さんは、馬に乗って障害物を飛び越える馬術競技のプロ選手として活躍したのち、「相馬野馬追」で知られる南相馬の馬文化の魅力に惹かれて移住されました。「馬には、たくさんの可能性と人を幸せにする力があります。その魅力を多くの人に伝え、ビジネスとして確立していきたい」と熱い想いを語ってくれました。
■一般社団法人 Horse Value
https://horsevalue.jp/
14:50 南相馬市お試しハウス
次に向かったのは、移住希望者が滞在しながら暮らしを体験できる「お試しハウス」です。
JR小高駅から徒歩7分程の場所にあり、コンビニや公共施設なども徒歩圏内。家具・家電完備で、すぐに生活が始められるのも嬉しいポイントです。利用条件を満たせば、2泊から30泊まで無料で利用することができます(※生活費や交通費は自己負担)。
実際に住居を見学すると、移住についてよりリアルにイメージしやすくなるせいか、参加者からも、バスなどの二次交通やご近所付き合いについてなど、多くの質問が飛び交いました。
■南相馬市お試しハウス
https://mirai-work.life/magazine/1882
15:20 職住環境見学
その後はバスに乗って、車窓から職住環境を見学しました。ホームセンターやドラッグストア、飲食店も多く、車があれば特に不便さは感じない印象でした。
16:30 南相馬市移住相談窓口「よりみち」
1日目の最後に訪問したのは、南相馬市の移住相談窓口「よりみち」。「原ノ町駅」から徒歩5分程の駅通り沿いにあり、扉を開けると手づくりの親しみやすいスペースが広がっています。
6名の移住コンシェルジュは全員女性で(男性スタッフも募集中!)、UIターンされた先輩移住者なのだそうです。移住希望者からの仕事や住まいの相談を受けているほか、地元の人との交流イベントも開催しています。
「よりみち」のリーダー・ヒラム美紗季さんもUターン者で、外資系の航空会社で客室乗務員として働き、ドバイに住んでいた経験も持つ方。
「日本全国、世界中を旅して来ましたが、南相馬ほど魅力的なまちは、そうそうないと思っているんですよ。若い人が気軽に将来の相談ができ、南相馬に帰って来た時にふらっと寄り道するように立ち寄れる場所にしていきたい」と熱意ある言葉で語ってくれました。
■南相馬市移住相談窓口「よりみち」
https://minamisoma-yorimichi.jp/
17:30 移住セミナー/交流会
その後は宿泊先のホテルで、セミナーと交流会が開催されました。
まずは、南相馬市移住定住課の佐藤遼平さんに、地域の概要を説明をしていただきました。南相馬市は、東日本大震災と原発事故の影響で小高区全域と原町区の一部が警戒区域や避難指示区域となり、小高区では一時は住民がゼロになりました。2016年7月12日には避難指示が解除され、南相馬市全体の人口は2022年6月時点で5万7690人。国の報告資料によると、現在の放射線量は国内の他地域と大差ない状況なのだそうです。
手厚い移住・就職・住宅支援を行っており、子育てや就農支援にも力を入れていて、それら支援制度情報は、すべて南相馬市の移住定住サイト「みなみそうまからはじめよう」にまとめられているので、ぜひ活用してほしいとのことでした。
浪江町企画財政課定住推進係の玉根吉正さんからは、自然の豊かさを活かした最先端の農林水産業が推進されていること、「福島水素エネルギー研究フィールド」が2020年に開所し、持続可能な社会に向けての先進的な取り組みがなされていることなどの説明がありました。
移住希望者は、最大1ヶ月お試しで滞在できる宿泊施設、レンタカーの貸し出し、短期滞在支援、また住宅補助金制度など、さまざまなサポートが受けられるのだそうです。
そして最後は、先輩移住者による体験談として、南相馬市からは先ほど訪問した「よりみち」の代表である後藤彩さん、浪江町からは「一般社団法人まちづくりなみえ」の石山佳那さんから、それぞれお話がありました。
後藤さんは、熊本県出身で、サーフィンがきっかけで南相馬と出会い、顔の見える人のつながりの心地よさ、やりたい仕事を一から創れる環境にひかれ、南相馬へ移住したそうです。
地域住民とも程よい距離感でフラットにつながることができ、お互いに助け合える環境があること、畑を耕して収穫した野菜を食べたり、気軽に海に行くこともできる、南相馬の魅力についても話されていました。
石山さんは福島県須賀川市出身で、葛尾村での復興支援活動を経て、2020年より浪江町に移住し、「東日本大震災・原子力災害伝承館」で行われるフィールドワークのガイドを担当しています。
「一度きりの人生を充実させたい」と思ったことが、移住の大きなきっかけだったそうで、浪江町の魅力として、多様な人々との出会いがあり、新しい価値観を見つけられること、自然が豊かで魚介も野菜も新鮮でおいしいこと、スマートモビリティなどの最先端の技術をいち早く体験できること、などを挙げていました。
2日目
9:30 いこいの村なみえ
2日目は浪江町を中心に回ります。
最初に向かったのは、リゾート施設「いこいの村なみえ」。常磐線の浪江駅から車で5分の場所にあるこの施設では、コテージ棟でお試し暮らしをすることができます。部屋数は全20部屋で、シングル、3人用、5人用の3タイプ。バス、キッチン、ベッドなどが備えられていて、家具・家電、アメニティーなどが用意されています。
移住検討者が宿泊する場合は、①年間5泊まで2500円割引で利用できる「移住検討者町内滞在支援補助金」 、もしくは、②1年に2回、定額2万円で30連泊までできる「移住検討者お試し宿泊補助金」の、いずれかの補助制度を利用できます。大浴場やレストラン、バーベキューコンロなどもあり、木の質感が心地よい雰囲気のコテージでした。
■いこいの村なみえ
https://www.ikoi-namie.com/
10:25 企業訪問①NPO法人Jin(花卉栽培)
次に訪ねたのは、花卉栽培を行なっている「NPO法人Jin」です。
震災前は福祉事業をしていましたが、震災後に「トルコギキョウ」の栽培をスタートさせ、現在では20棟のハウスで、1本450〜500円の値が付く高品質な花々を栽培しています。「東京オリンピック・パラリンピック」にも、浪江町の「トルコギキョウ」がビクトリーブーケに使われました。
「NPO法人Jin」では、若い農業志望者向けの研修制度を設け、花の栽培から経営のノウハウまでを指導しており、浪江町では新しく8軒の花き農家が誕生したそうです。
代表の清水裕香里さんからは、「『自分や家族が食べていければいい』という農家が増えても、地域経済はまわりません。自給自足だけではなく、しっかり利益を出せる農業で、きちんと税金を納める働き手が増えて、はじめて復興と言えるのだと思います」と揺るぎない言葉をいただきました。
11:30 道の駅なみえ
ランチタイムには、2020年8月1日にオープンした「道の駅なみえ」に向かいました。
レストランや地元の産品を扱う直売所があるほか、無印良品のストア、伝統工芸品「大堀相馬焼」の販売や陶芸教室、そして津波ですべて流され、避難先の山形で酒造りをしていた浪江町「鈴木酒造店」が、新しい酒蔵を設置しています。
「道の駅なみえ」内のフードコート「レストランかなで」では、「請戸漁港」から直送された新鮮な魚介を使ったメニューが楽しめます。特に目玉は、「海鮮チラシ丼」や「釜揚げしらす丼」、そして、浪江町のB級グルメ「なみえ焼きそば」です。
木の質感が心地よく、その土地らしい料理を存分に楽しめるこの場所は、観光客も地元住民も訪れる人気スポットとして知られており、地域の情報発信や交流の拠点にもなっています。
■道の駅なみえ
https://michinoeki-namie.jp/
13:05 企業訪問②株式会社ウッドコア
昼食のあとに向かったのは「株式会社ウッドコア」の「福島高度集成材製造センター」です。
「株式会社 ウッドコア」は木材加工会社で、丸太1本を製材して乾燥させ、それを接着して集積材にするという、本来は分業することの多い建材製造を一貫して行っていることが特徴です。
学校や体育館、道の駅など大規模公共施設に使われる大断面集積材を製造しており、近年は都心部のビルの構造体としての需要も高まっているそうです。大断面集積材は強度や寸法が安定しているので、構造計算がしやすく、設計士にとっては使いやすい建材なのだそう。需要過多のため、人手がとにかく足りておらず、絶賛求人募集中とのことでした。
13:05 企業訪問③ケイティーホールディングス株式会社
次に向かった求人企業は「ケイティーホールディングス株式会社」が運営する「ホテルプレジール なみえ」。2020年8月にオープンした新しいホテルで、浪江町が行っている移住検討者の宿泊支援の対象にもなっています。常磐線の浪江駅から車で5分の国道6号沿いにあり、ビジネスホテルとして利用する客が多いそうです。
部屋はシングルルーム60室。Wi-Fiやコインランドリーも完備されており、建物の隣にコンビニもあります。現在は少人数のスタッフで、フロント業務から総務、経理、営業など、多岐にわたる仕事を行っており、ホテル業務の基本を覚えたい人、ホテル全体の業務の流れを把握したい人にとってはやりがいのある仕事です。
正社員と清掃アルバイトの両方を募集しているとのことでした。
■ホテルプレジール なみえ
https://www.plaisir-n.com/
15:10 職住環境案内
浪江町の職住環境をバスの車窓から眺めながら、同乗する「まちづくりなみえ」の石山さんの案内で見て回りました。コンビニは24時間営業ではなく、朝5時から夜8時頃までの営業であること、飲食店は30店以上あること、眼科や皮膚科の病院は町内にないので注意、など実生活における細やかな説明がありました。
請戸漁港にも立ち寄り、車窓から港の風景を眺めました。現在は28隻の漁船が稼働しており、津波で建物が流され、原発の避難指示で休業となっていた「柴栄水産」が2020年4月より地元に戻って再開しています。浪江町の”今”の姿は、地域おこし協力隊が発信するInstagramを通して知ることもできます。
16:05 地域交流スペースなみいえ
最後に訪問したのは、浪江駅のすぐ近くにある地域交流スペース「なみいえ」です。毎週水・木・金曜日の10時~17時の間オープンし、コワーキングスペースにはフリーWi-Fiが完備されており、地元の人、移住者、旅行者が訪れ、出会い、つながる交流の場になっているそうです。
浪江駅前は都市整備計画が進んでおり、「隈研吾建築都市設計事務所」が参画したグランドデザインが公表されています。「なみいえ」にはそのイメージを描いた図面が展示されており、特徴的なカーブを描く大屋根を中心に、商業施設や芝生広場、住宅などが設置され、他にはない個性的な雰囲気で、新しい街の賑わいを感じさせるデザインでした。参加者の中にはデザイン画を見て一気に移住への気持ちが高まった人もいて、熱心に質問されていました。
■なみいえ(Twitter)
https://twitter.com/namiie_1117
ツアーを終えて
ツアーに参加する前までは、南相馬市と浪江町に対して”被災地”という印象が強かったのですが、「何もなくなったからこそ、ゼロからスタートし、ほかのどこにもない最先端の最上質なものを作っていこう」という、明るい意志と熱意ある声をあちらこちらで聞き、こちらも励まされるような強さを感じました。
「今回のご縁をきっかけに、今後も注目し、自分なりの方法で関わっていきたい」そう思わずにはいられない魅力がありました。
■今年度開催された移住体験ツアーのレポートはこちら
2022年7月30-31日 南相馬市&浪江町
https://mirai-work.life/magazine/2433/
2022年8月27-28日 川内村&富岡町
https://mirai-work.life/magazine/2577/
2022年9月17-18日 飯舘村&川俣町
https://mirai-work.life/magazine/2913/
2022年10月8-9日 田村市&大熊町
https://mirai-work.life/magazine/3279/
2022年11月19-20日 葛尾村&浪江町
https://mirai-work.life/magazine/4157/
2022年12月3-4日 広野町&楢葉町
https://mirai-work.life/magazine/4285/
※所属や内容、支援制度は取材当時のものです。最新の支援制度については各自治体のホームページをご確認いただくか移住相談窓口にお問い合わせください。
取材・文:江澤 香織 撮影:渡部 聡