ふくしま12市町村では車のない生活ができる?浪江町の暮らしを紹介
地方暮らしは車が一家に一台は必要といわれています。しかし、福島12市町村に移住を考えている人の中には「運転免許を持っていない」「車を持つつもりはない」という人もいるのでは?今回は、現在車を持たずに浪江町での生活を楽しんでいる千頭数也さんのお話をもとに、車のない生活のメリット・デメリットや、車がなくても生活できる地域について探ります。
千頭さんの移住ストーリーはこちら
>https://mirai-work.life/magazine/4542/
主な足は、徒歩・常磐線・電動キックボード
千頭さんは東京都出身。2020年に浪江町を初めて訪れたきっかけは、推しである「ももいろクローバーZ」のメンバーの一人が浪江町のご当地アイドル「浪江女子発組合」をプロデュースしたこと。通ううちに浪江町で生活したいと思うようになり、2022年に移住しました。
「運転免許は持っていなくて、移住するから取得するということも考えませんでした。もともと歩くことは気分転換になって好きだし、苦じゃないんです。リモートワークをしているので通勤はないし、契約したアパートは(スーパーマーケットの)イオン浪江店まで徒歩30分なので、十分生活できる。いい散歩じゃんと思っていました」
福島12市町村では、生活が1つの市町村で完結しないことが多く、基本的には車を持っていたほうが生活するうえでの安心感にもつながります。ただし、住むエリアや家族構成によっては車がなくても生活は可能。千頭さんはJR常磐線の浪江駅から徒歩30分程度の場所にお住まいです。診療所も徒歩約30分のところにあり、車を持たなくても十分に生活できるそうです。
浪江町も車社会なので、車を持っていないことを話すと驚かれるという千頭さん。「車移動が多く歩いている人が少ないため、“いつも歩いているあの人”と認知してもらえたり、車を持っていないこと自体がキャラになっていたり。それがいろんな人と仲良くなれるきっかけになり、自然とコミュニティが広がっています。移住を検討されている方には、移住して最初のうちは、なるべく歩いて町の方に顔を覚えてもらうことをおすすめしているんです」
車がないと行動範囲が制限されるのでは?とも思いますが、千頭さんの生活圏は浪江町内にとどまりません。週に1度、楢葉町に合気道を習いに行ったり、大熊町に遊びに行ったり、休日は各地のイベントに顔を出したりと、町内だけではなく町外にも気軽に足を運びます。基本的な移動手段は徒歩とJR常磐線。急ぐ時や時間にとらわれたくない時は、電動キックボードで移動しているのだそう。
「常磐線は楢葉町に行く時や、(南相馬市)原町に服を買いに行く時に使います。(福島県)浜通りの良さって、常磐線が通っていて本数も結構あることだと思います。首都圏の本社に出社する日も一本で行けるし、うまく活用できれば行きたいところにすっと行けるので便利ですよ」
千頭さんは、電車以外の公共交通機関もうまく利用しながら生活しています。急いでいる時や、複数人で行動する時には浪江町の日産スマートモビリティ(通称スマモビ)というオンデマンド型の交通機関を利用しているのだそう。町内3ヵ所のデジタル停留所のほか、アプリ上に示される約200ヵ所の「バーチャル停留所」で乗降でき、運転免許を返納して普段の足に使っている高齢者も多いのだとか。
スマモビの紹介記事はこちら
>https://mirai-work.life/magazine/2630/
また、千頭さんがよく遊びに行くという大熊町では無料の地域循環バスが運行しており、大野駅(大熊町)や富岡駅(富岡町)から大熊町内の主要なスポットを巡るのに便利だといいます。「本数もいいかんじで、特急が到着したタイミングでバスが到着している時もあり、使い勝手が良いです。もっと多くの人に使ってほしいですね」
車なしで生活できる場所は限られている
福島12市町村で車を持たずに生活するには、駅が近く公共交通機関がそれなりにあること、医療機関や生活に必要な買い物施設が徒歩圏にあること、そして車がなくても通勤に影響しないことなどがポイントになります。
例えば富岡町であれば、商業施設のさくらモールとみおかから富岡駅まで徒歩約15分、ふたば医療センター附属病院までは徒歩約20分で、車がなくても生活は成り立ちそう。楢葉町では、スーパーマーケットや飲食店が入るここなら笑店街や診療所のあるコンパクトシティ付近であれば竜田駅まで徒歩約20分です。広野駅や、南相馬市の原ノ町駅、田村市の磐越東線船引駅などの周辺も、利便性が高いといえます。
逆に、公共交通機関がバスのみで、一定規模の医療機関やスーパーマーケットがない川内村、葛尾村、飯館村で暮らす場合は車を持っておいたほうが良いでしょう。
また、車を持たない生活で心配なのは、通院が必要になった時です。千頭さんが暮らす浪江町には診療所がありますが、診療科は限られています。「自宅の近くで受けられる医療サービスが限定的なことは、若くて体力のあるうちなら気合と根性でなんとかなるかもしれません。でも高齢の方や持病を抱えている方にとってはリスクを抱えてしまうことになります。車を持たずに移住するのであれば、こうしたまちの状況や移動手段の選択肢を理解したうえで来た方がいいと思いますし、非常時は車を出してもらえるように、知人に頼んでおくなどの備えもしておく必要があると思います。
僕の周りには、車がないことを心配して、『何かあったら声をかけて』と言ってくれる友人が多くいます。本当にありがたいことで、移住者を歓迎してくれるあたたかい人が多い地域だからこそ、車がなくてもやっていけていると感じます」
福島12市町村の医療や買い物先についての事情はこちらの記事でご紹介しています。
【医療事情】
田村市、富岡町、大熊町、楢葉町、広野町、川内村
https://mirai-work.life/magazine/6528/
南相馬市、川俣町、浪江町、双葉町、飯舘村、葛尾村
医療事情:https://mirai-work.life/magazine/6937/
【買い物事情】
南相馬市、浪江町、川俣町、飯舘村、川内村
https://mirai-work.life/magazine/8308/
田村市、葛尾村、富岡町、大熊町、双葉町、楢葉町、広野町
https://mirai-work.life/magazine/8461/
浪江町の暮らしは車がなくても楽しめる!
車がなくても浪江町を中心とした暮らしを楽しんでいる千頭さん。「歩いていると、車とは全然違った目線でまちを楽しむことができるんです。車移動でなければ、気軽にお酒も飲めますしね」と笑います。
「よく12市町村って、ほかの地方より何もないんじゃないかと言われることが多いのですが、スーパーはあるし、美味しいお刺身が買える魚屋さんもある。確かに雨の日は車があったほうが良いなと思うこともありますが、僕にとって車のない生活の不便さは許容範囲内。地域によっては車がないと生きていけないわけではないし、車がなくても支障なく楽しむことができると思います」
車がないことで日常の小さな幸せを見つけやすくなり、人との接点が増え、地域をじっくり楽しむことができる。そのことは、都会の生活とは違った地方での生活の醍醐味になるでしょう。移住後に車を持たない暮らしをしたいと考えている人は、まずは移住を希望する市町村の移住相談窓口で話を聞くことをおすすめします。地域のことを熟知した移住相談員に相談すれば、車を持たずに生活することが可能なのかアドバイスをもらうことができますよ。
各市町村の移住相談窓口はこちらのページでご紹介しています。
>https://mirai-work.life/concierge/
福島12市町村では、今回ご紹介した公共交通機関のほかにも、路線バスやタクシーも利用できます。小高区を除く南相馬市では、定額タクシー「みなタク」も運行中。また、レンタカーやカーシェアの利用も可能です。南相馬市小高区や、楢葉町、大熊町、双葉町、浪江町、にはカーシェアリングの用意があり、南相馬市、田村市、富岡町、楢葉町、浪江町にはレンタカー店もあります。運転免許を持っている人は、うまく活用することで生活の幅が広がりそうです。
■記事に出てきた交通手段一覧
・JR常磐線(南相馬市、浪江町、双葉町、大熊町、富岡町、楢葉町、広野町)
・JR磐越東線(田村市)
・日産スマートモビリティ(浪江町)
・地域循環バス(大熊町)
・定額タクシー「みなタク」(南相馬市※小高区を除く)
・レンタカー(南相馬市、田村市、富岡町、楢葉町、浪江町)
・カーシェアリング(南相馬市小高区、浪江町、楢葉町、大熊町、双葉町、浪江町)
※内容は取材当時のものです
取材・文:五十嵐秋音 写真:中村幸稚、及川裕喜