小中学生の質問がまちづくりに反映されることも。浪江町子ども議会の本気度

福島県浪江町では、地元の小中学生がまちづくりについて町に直接意見を発信する「浪江町子ども議会」が2023年から毎年秋に開催されています。浪江町役場内にある本物の議場を使い、本番の議会さながらの雰囲気のなか、数名ずつのグループに分かれて町の幹部に質問します。議長は中学生の代表が務めます。
この浪江町子ども議会のねらいや、町が子どもたちに寄せる期待、町の教育への取り組みについて、浪江町教育委員会の横山浩志教育長と坂本貴光主幹兼指導主事に話を聞きました。
子どもたちが主体的に考えた質問に町長も答弁
「議長!」
浪江町議会の議場に、手を挙げて発言の意思を示す子どもの声が響きます。2025年10月30日に開催された第3回浪江町子ども議会(以下、子ども議会)では、浪江町立なみえ創成小学校・中学校の子どもたちが小学生の部と中学生の部に分かれ、約1時間半にわたって14の質問が出されました。観光振興やまちおこしにつながるものから、地域のインフラに関わる鋭い指摘まで、内容はさまざまです。なかには、町の回答に対して再質問する子どももいました。

答弁するのは、吉田栄光(えいこう)町長を筆頭に、副町長や教育長、質問内容に関連する各課の課長など、町政の運営に日々奔走する人たち。質問に答える際は、本物の議会と同じように大人も挙手し、議長に発言の意思を示します。

横山教育長はなみえ創成小学校の前校長で、自身も浪江町の出身です。中学生のなかにはかつて校長として交流をもった子どもたちもおり、その成長ぶりに目を細めます。
「最初は先生や町の職員に言われるままに聞くだけ、質問するだけだった子どもたちの意識が、3年目になって、自分たちで調べよう、考えようという前向きな気持ちに変わってきました。質問の内容は年々深く、鋭くなっており、彼らの探求力の高まりを実感しています。私は、常に問いをもつこと、なぜだろうと疑問をもつ習慣をつけることを自身の教育目標に掲げてきました。疑問をもち、関心を高めていけば、学びは自然に深まります。そうした子どもを育てる機会として、子ども議会の存在価値は非常に高いと感じています」

手抜きなし。大人も本気で向き合う「第5の議会」
「子ども議会は単なるイベントではありません。浪江町の第5の議会ととらえ、町長も職員も真剣に質問と向き合っています」
横山教育長と、子ども議会に企画段階から関わってきた坂本主幹は、そう口を揃えます。通常の浪江町議会が開催されるのは年4回。子ども議会はその4回と並び、質問がまちづくりに直接反映される可能性がある、町にとって貴重な課題発見の場となっています。実際、1年目の子ども議会で出された「町の復興に携わる作業員のために24時間営業の飲食店があるべきではないか」という質問を受け、2025年1月にはドライブスルーを備えた24時間営業の牛丼チェーン店が町内にオープンしました。
「一般的な子ども議会では、大人がレールを敷き、予定調和のなかで子どもたちをゴールに向かわせるケースもあると思います。しかし、浪江町子ども議会は本気の議会です。大人も決して手抜きをせずに向き合い、各課の課長は本物の議会と同じ手続きを経て答弁書を作成します。町の発展に役立つ意見であれば実現に向けて職員が実際に動きますし、逆に通らない意見もあります。意見が通ることの成功体験も大切ですが、意見が通らないことから学ぶこともきっとあるはずです」(坂本主幹)
たとえば、この日に出た質問のなかには「夏場の暑さ対策として学校の体育館に冷房を付けられないか」との問いかけがありました。坂本主幹は、「子どもの命は最優先で考えられるべきもの。今回の質問を受け、設置に向けて前向きに動きたい」と語ります。一方、すぐに実現するのが難しい質問に関して、その理由について担当課長がていねいな答弁で子どもたちに伝える場面もありました。

質問はいずれも、子どもたちが主体的に町の将来を見据え、みずから編み出したもの。これら一つひとつの意見を子どもの意見として片付けるのではなく、対等に耳を傾ける姿勢が町にあるからこそ、子どもたちがまちづくりを自分ごととしてとらえ、自信をもって質問を投げかけることができるのです。
浪江町への帰属意識をもち、いずれは町の中心的存在に
子どもたちの探求力の基盤となっているのは、小学校と中学校でそれぞれに取り入れている、ふるさと創造学と呼ばれる時間です。地域の伝統・文化を知ると同時に、復興に取り組む多くの方々と授業を通じて交流し、自分たちにもできることはないかを考えます。そこでの出会いや発見が子どもたちの質問の質の向上につながっているのではないかと横山教育長は言います。
「浪江町がふるさとだ、自分は浪江町の子どもなんだと感じることが、ふるさと創造学で目指すゴールの一つです。町への帰属意識が心に宿れば、10年後や20年後に彼らがまちづくりの中心的存在として活躍してくれるかもしれない。そんな期待も込めています。さらに、ふるさと創造学や子ども議会で経験したことを家庭で話せば、子どもに芽生えた帰属意識が大人にも伝わるでしょう。震災後の新しいまちづくりが進行し、移住者の皆さんが着実に増えている今だからこそ、そうした循環が必要だと感じています」(横山教育長)
この日出された質問のなかには、2023年に浪江町内に開設された、ロボットやエネルギーなど5つの分野で最先端の研究開発を推進するF-REI(エフレイ=福島国際研究教育機構)に関する質問もありました。F-REIでは、2023年からの7年間で国内外から優れた研究者を500名目安で集める計画を立てています。計画が予定通りに進めば、浪江町は世界屈指の研究都市として知られることになるはずです。質問への答弁では、町とF-REIが連携し、2026年度からF-REIに関連したカリキュラムを授業に組み込んでいく予定であることが伝えられました。
「F-REIに集うのは、我々にとっては雲の上の存在といってもいいような、世界最高峰の研究に取り組む方々ばかり。そうした研究者に教育に関わってもらえれば、かつては都会に出なければ得られなかったような学びが浪江町にいながらにして得られることになります。大きな刺激を受けることで子ども議会の質問も今後さらに深まっていくでしょうし、いずれは世界を変えるような人材が浪江町から生まれて欲しいと思っています」(坂本主幹)
F-REIについてはこちらの記事でも紹介しています。
>「世界に冠たる創造的復興の中核拠点」F-REI(エフレイ)ってなんだ!?
>福島国際研究教育機構(F-REI)の「教育」って何をするの?

子ども議会には、なみえ創成小学校・中学校に通う小学5年生以上のの児童・生徒が参加します。子どもたちが当事者としてまちづくりに参加できることは、都会の大きな学校では難しい、少人数校ならではの魅力の一つ。幅広く多様な経験を積める教育環境が、浪江町には整っています。
■浪江町教育委員会
所在地:〒979-1592 福島県双葉郡浪江町大字幾世橋字六反田7-2(浪江町役場内)
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TEL:0240-34-2111 (浪江町役場代表)
※所属や内容は取材当時のものです。
文・写真:髙橋晃浩