福島国際研究教育機構(F-REI)の「教育」って何をするの?

2023年に浪江町に設立された福島国際研究教育機構(以下、F-REI(エフレイ)=Fukushima Institute for Research, Education and Innovation)。日本の科学技術力・産業競争力を強化し、次世代へ、また世界へ向けて情報を発信する拠点として大きな期待を集めています。
F-REIがこれまでの研究機関と大きく異なるのは、その取り組みを地域に広める教育的役割も担っていること。では、F-REIではどんな「教育」を実践しようとしているのでしょうか? F-REIのエデュケーション・アドミニストレーター、有銘(ありめ)兼之介さんに話を聞きました。
地域と歩む、他に類のない研究機関
F-REIは、「ロボット」「農林水産業」「エネルギー」「放射線科学・創薬医療、放射線の産業利用」「原子力災害に関するデータや知見の集積・発信」の5つを研究分野に掲げ、それぞれの分野で先端技術の研究開発を進めています。
国内で先端技術の研究開発を担う機関は他にもありますが、他の機関にはないF-REIの大きな特色は「地域との結びつき」だと有銘さんは言います。
「F-REIは、地域の復興をゴールに据え、地域と深く関わることを一つのミッションとしています。研究と聞くと、難しそう、とっつきにくそう、自分には関係ない、などと思う方が多いかもしれません。しかしF-REIの場合、5つの研究分野のすべてが地域の復興に直接関わるテーマであるため、地域の方たちが自分事としてF-REIの存在を感じやすいと思います。そうした研究機関は他にはありません」
F-REIでは、2023年度から2029年度までの7年間で50程度の研究グループを作る計画を立てており、1グループあたり10名前後の研究者で構成されます。これまでにできた研究グループは8つ(2025年1月末現在)。研究施設の建設はこれからのため、各研究者はまだ国内外のそれぞれの拠点で研究開発に取り組んでいますが、施設が完成したあかつきには約500名の研究者が浪江町に集結することになっています。つまり、F-REIの組織作りは、地域コミュニティの創出にそのまま直結するものであるともいえます。

F-REIの概要や取り組みについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。
>「世界に冠たる創造的復興の中核拠点」F-REI(エフレイ)ってなんだ!?
F-REIの「教育」に関わるため沖縄から家族で移住

F-REIでエデュケーション・アドミニストレーター(以下、EA)を務める有銘さんは、沖縄県糸満市の出身。沖縄県内の大学を卒業し、地元の高校で英語教師として5年間教鞭を執ったあと、「外の世界を見てみたい」とJICA(独立行政法人国際協力機構)に転職しました。JICAでは、ウズベキスタン、福島県二本松市、エチオピアと、国内外を股にかけ従事。その後沖縄に帰郷し、沖縄科学技術大学院大学(以下、OIST)での勤務を経て、2024年12月にEAとしてF-REIに入職します。奥様と2人のお子さんを連れての移住でした。
「OISTでは、地域の子どもや高校生、大学生に科学に興味を持ってもらうためのイベントの企画や運営をしていました。あるとき、F-REIの役員がOISTに視察に来たことがあり、“おもしろそうな施設が福島にできるんだな”と思って調べてみたら、OISTでやっていることと似たポジションの求人があることを知り、思い切って応募しました」
有銘さんはF-REI初のEA職。「既存の仕事より、自ら仕事を構築できる0→1(ゼロイチ)の仕事にやりがいを感じる」という有銘さんにぴったりの活躍の場がF-REIにはありました。
とはいえ、家族を連れた移住はハードルが高いもの。そこで有銘さんは、家族全員が前向きに移住できるかどうかを考え、移住支援制度について事前に調べたうえで決断したそうです。
「子育てに関する支援制度が充実していることは、移住の大きな後押しとなりました。今は南相馬市に住んでいますが、福島12市町村内の他の市町村にも似たような支援制度はあると思います。南相馬市のNIKOパークや、ラッキー公園がある浪江町の道の駅なみえなど、子どもを遊ばせる場所がいっぱいあるのもありがたいですね。沖縄では、わざわざ有料の施設に行って子どもを遊ばせることが普通でした。しかも、どこの施設も混んでいて思うように遊べず、かわいそうだと思っていたんです。南相馬市や浪江町には、“これで無料でいいの?”と思うようなきれいな施設が多く、満足しています」
気持ちや言語のハードルがない環境を作りたい
地域との結びつきに加えて、F-REIが他の研究機関と大きく違うところ。それは、単に研究開発を行うだけでなく、それを教え広める「教育」まで担う機関であることです。しかし、F-REIはいわゆる学校ではありません。では、F-REIが手がける「教育」とは何を意味するのか。有銘さんはこう紐解きます。
「ひとつは、大学生や大学院生向けの若手研究者を育てるサポートプログラムです。もうひとつは、県内の子どもたちにF-REIで行われている研究や開発の楽しさや価値を伝え、科学への興味を広げていくことです。こうした活動を通じて、未来の研究者や地域に貢献できる人材を育んでいます。
ほとんどの研究者は、自分の研究や自分が関わる分野の楽しさを多くの人に知ってほしいと考えています。しかし、難しい用語をどう噛み砕けばよいかわからない研究者は少なくありません。私の役割は、子どもたちと研究者の間に入り、研究者の取り組みをわかりやすく噛み砕いて、子どもたちに“F-REIの研究ってこんなにおもしろいんだよ”と伝える場を作ることです。同時に、研究者に“あなたの研究ってこんなにおもしろいんだよ”と伝える役割もあると考えています」

未来の科学人材を育む挑戦
F-REIでは、次世代の科学技術人材を育成するため、さまざまなプログラムを企画・実施しています。現在、小中高校生向けの科学教室や出前授業、大学生・大学院生向けの連携大学院プログラムやF-REIトップ陣によるトップセミナーなどを展開し、科学の魅力を伝える機会を提供しています。
今後も福島県内外の研究機関や教育機関との連携を強化し、若い世代が科学の世界へ踏み出すきっかけを増やすとともに、将来の研究者や技術者となる人材の発掘・育成に取り組むそうです。また、国際的な視点を取り入れ、英語を活用したプログラムの充実を図ることで、グローバルに活躍できる科学人材の育成をさらに加速させていく予定です。
地域の未来を担う人材とのコミュニケーションを積極的に図っている有銘さん。F-REIには今後、海外からも多くの研究者がやってくる予定で、海外経験が豊富な有銘さんが活躍するシーンは数多くありそうです。
「子どもたちが研究者と直接触れ合える機会は、なかなかないと思います。外国人の研究者となればなおさらです。そのことで子どもたちが心理的なハードルや言語のハードルを感じることがないような環境を、ここ福島で構築していきたいです」

将来「F-REIで働きたい」「F-REIで研究開発に携わってみたい」と思う子どもを一人でも多く育てたいと有銘さんは夢を語ります。今後、研究体制が整い、研究者が増えていけば、私たちがF-REIの活動に接する機会はどんどん増えるはず。地域の復興に向けたF-REIの活動は、まだまだ始まったばかりです。
■福島国際研究教育機構(F-REI)
本部所在地:〒979-1521 福島県双葉郡浪江町権現堂矢沢町6-1 ふれあいセンターなみえ内
HP:https://www.f-rei.go.jp/
※所属や内容は取材当時のものです。
取材・文:髙橋晃浩