「世界に冠たる創造的復興の中核拠点」F-REI(エフレイ)ってなんだ!?
福島はもちろん、東北全体の復興を加速させる研究開発拠点として2023年に浪江町に誕生した福島国際研究教育機構(以下、 F-REI=Fukushima Institute for Research, Education and Innovation)。今後進められるさまざまな研究に期待と注目が集まっていますが、一方では「結局F-REIって何?」という声もまだまだ聞かれます。F-REIの事務所を訪ね、運営管理部門 総務部 経営企画課の寺山猛夫課長と、同研究開発推進部 研究開発企画課の河村雅之課長に、F-REIの取り組みや開設から1年目の活動について話をうかがいました。
15の市町村を巡り課題を聞いた1年目
――F-REIとはどういった組織なのでしょうか?
寺山 F-REIは、福島を拠点に日本の科学技術力・産業競争力の強化を牽引し、次世代へ、そして世界へ向けて情報発信する拠点として誕生しました。福島の、また東北の復興を実現するための夢や希望となるべく、我が国の産業競争力を世界最高水準に引き上げ、経済成長や生活の向上に貢献することをミッションとし、「世界に冠たる創造的復興の中核拠点」となることをこの福島の地から目指しています。
――具体的にはどのようなことを研究開発しているのでしょうか。
寺山 「ロボット」「農林水産業」「エネルギー」「放射線科学・創薬医療、放射線の産業利用」「原子力災害に関するデータや知見の集積・発信」の5つの研究分野を設けています。例えば、ロボット分野では災害現場などの過酷環境での活用が見込まれるロボット技術、農林水産業分野ではスマート農業技術の研究開発を進めていくことにしています。
――2023年度はその取り組みの最初の年でした。この1年間、どんなことに取り組まれましたか?
寺山 F-REIで行う研究開発は、福島の強みを生かしたものでなくてはなりません。そのためにも、まずはこの地を知ることから始めなければならないと考えました。そこで、東日本大震災や東京電力福島第一原子力発電所の事故で大きな被害を受けた浜通り地方などの15市町村*に理事長をはじめとする役職員が直接訪問させていただき、「市町村座談会」を開催しました。実際に現地をこの目で見させていただき、さらに、市町村の首長や職員の方、地元地域の企業経営者、農林水産業に従事されている方、まちづくりに携わっている方など、地域で活躍されている方々から直接お話をお伺いし、F-REIがこの地でどのような研究開発を進めるべきなのか、その課題やニーズを把握することから始めさせていただきました。いただいた貴重なご意見は、今後の研究開発に活かさせていただきたいと考えております。
*いわき市、相馬市、田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、新地町、飯舘村
――実際に地域で働く方々の声を聞き、どんなことを感じましたか?
今みなさんお困りのことの手助けとなる存在として、F-REIに大きな期待をいただいていることを実感しました。しかし、一方では「そもそもF-REIって何をするところなの?」という声も多く聞きました。F-REIを理解していただくには研究の成果をお見せすることが一番だと思いますが、我々が取り組む研究は1年や2年で完成するものではありません。結果をお示しするには時間がかかるということを、ぜひみなさんにはご理解いただきたいと思っています。
7年間で500人規模の研究者集団を浜通りに形成
――F-REIでは、事業のスタートにあたって研究開発のロードマップを公表しています。この内容について教えてください。
寺山 ロードマップでは、2029年度までの7年間を「第1期中期計画」の期間と位置付けています。この7年間においては、段階的に直接雇用の研究者を増やし、最終年度にはPI(Principal Investigator=研究代表者)が率いる50名程度の研究グループによる研究体制を目標としています。例えば、1つのグループが10名程度で構成されるとした場合、500名程度の研究者集団とそれを支援する者を併せて数百名が、この第1期中期計画の期間中において形成されるイメージです。現状は、他の研究機関や大学への委託研究が中心となっておりますが、段階的に直接雇用またはクロスアポイントメント*のPIによる研究開発とすることを目指しています。
*2つ以上の機関に⾝分を置きながら、それぞれの機関における役割に応じて優秀な専⾨⼈材が研究・開発及び教育に従事すること
引用:経済産業省「クロスアポイントメント制度について
https://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/seminar_ouyou3-1.pdf
河村 また、我々は世界レベルでの研究開発を目指していますから、研究者も国内だけでなく世界から招きたいと考えています。そうした未来に向けて、例えば、浪江町ではすでに町民に向けた「楽しくコミュニケーション!英会話教室」が開講されるなど、周辺の市町村も積極的な受け入れを検討していただいております。こうした地域の国際化においても、F-REIが起爆剤的な存在になれればと考えています。
――現在外部に委託している研究の委託先は県内の機関や大学などですか?
河村 福島大学や県内の機関への委託も一部あり、東京大学や産業技術総合研究所など県外の機関にも委託している状況です。ただ、県外の大学や機関に委託する場合の必須要件として、研究は県外で行うとしても、ロボットなら組立や駆動、ドローンなら飛行、農業だったら定植など、その実証は浜通りや県内で行うことをお願いしています。当然、我々が委託する研究開発は福島復興に資するものであるべきですから、福島での普及・定着を念頭に置いた研究開発をお願いしています。
浜通りはこれからますます夢のある場所になる
――中期計画の2年目、3年目に向けた展望をお聞かせください。
寺山 市町村座談会で皆様からいただいたご意見も参考にしつつ、具体的な研究開発として進める段階に入ります。我々の研究開発は社会実装までを考えたものですから、ただ研究開発を進めるのではなく、しっかりとこの地の産業化に繋がるよう、一歩一歩着実に進めていければと考えています。
また、市町村座談会は来年度も継続して開催することを考えています。今年度は地域を知ること、また地域の方々にF-REIを知っていただくことがテーマでしたが、来年度は5つの研究分野のなかからテーマを絞ってみなさんとより具体的な議論ができるような座談会にしたいと考えています。さらには、浜通りだけではなく中通り地方や会津地方でも同様の座談会を開催するなど、県内のみなさんにF-REIのことをより深く知っていただきたいと考えています。
――最後に、福島12市町村に移住を検討される方に関してメッセージをお願いします。
寺山 市町村座談会を通じて感じたのは、もともとこの地にお住まいだった方々とともに新しい浜通りをつくろうという熱意を持った若い移住者の方が多いということです。浜通りはこれからますます、活気あふれる、夢のある場所になるのだろうと思っています。常磐ものの魚もおいしいですですし、移住先として魅力的な場所だと伝えたいです。
■福島国際研究教育機構(F-REI)
本部所在地:〒979-1521 福島県双葉郡浪江町権現堂矢沢町6-1 ふれあいセンターなみえ内
HP:https://www.f-rei.go.jp/
※所属や内容は取材当時のものです。
取材・文:髙橋晃浩