【ローカル起業編レポート】レジリエンス、フロンティア意識、地域間の連携。その全てが揃っているからおもしろい。ふくしま12市町村スタディツアー

2024年1月26日

    ふくしま12市町村移住支援センターが主催してスタートした、ゼロからはじめる「ローカル開業&起業カレッジ」。10月に開催した「ローカル開業編」に続き、2023年11月25〜26日の1泊2日で「ローカル起業編」スタディツアーが行われました。

    ツアーでは、実際に福島12市町村で活躍するさまざまなローカルプレイヤーを訪問し、起業の具体的なステップや事業内容について学びつつ、地域の暮らしを知り、現地の方とのつながりもつくっていきます。

    ここでの「ローカル起業」とは、地域課題を解決する事業を立ち上げたり、地域資源をいかしたプロダクトを開発しながら、法人として雇用も生み出し、地域での成長を目指すビジネスのことを指します。今回のツアーではローカル起業をした6人のもとへ訪問し、それぞれ事業の内容や起業についての具体的なお話やビジョンを伺いました。

    2023年10月に開催した「ローカル開業編レポート」記事はこちら>>
    ふくしま12市町村で、情熱を燃やす人に刺激を受ける。出会い、学び、つながる2日間「ローカル開業&起業カレッジ」スタディツアー【ローカル開業編レポート】

    「東の食の会」/「NoMAラボ」高橋大就さん(浪江町)
    地域コミュニティをワクワクと楽しさの力で再生する

    最初に向かったのは、浪江町にある「なみえ星降る農園」。一般社団法人「東の食の会」専務理事の高橋大就(たかはし・だいじゅ)さんに出迎えられ、ハーブや野菜が植えられている区画を案内していただきました。

    高橋大就さん

    「友人の漁師さんから着想を得て、乾燥ヒトデを着色して農地に撒くと、星がバラまかれたみたいできれいなんですよ」と話す高橋さん。ヒトデにはサポニンという忌避効果の高い成分が多く含まれており、害獣を寄せ付けない実験の意味合いのほか、見学体験者に撒いてもらうことで、農業をエンタメ化し、自分ごとにしてもらいたいという想いが込められています。

    さっそくヒトデを着色して農地に投入。「はじめまして」のみなさん同士ですが確かに盛り上がりました!

    その後、なみえふれあいセンターに場所を変え、高橋さんが現在関わる多様な事業について詳しくお話を聞きました。

    高橋さんは、東日本大震災の支援NPOへの参画を皮切りに、一般社団法人「東の食の会」を立ち上げ、「サヴァ缶」などのヒット商品の開発や販路開拓、多くの人が憧れるヒーローのような農家や漁師を育ててファンをつくる活動など、東北の食のブランドづくりを精力的に手掛けてきました。

    高橋さんの話すこれまでの経歴や実績を熱く語る姿に、参加者のみなさんはグッと引き込まれていました

    高橋さんは、安売り競争をしていたサバ缶にラベルデザインや洋風の味付けなど付加価値をつけ、流通平均価格の3倍で販売し大ヒットとなった例などを詳しく紹介。

    2017年3月に、「これまでの10年間、何もできなかった」という思いが強く残っている福島第一原発周辺地域のまちづくりと社会課題解決ビジネスづくりに取り組むことを決めて、「NoMAラボ」を立ち上げ、自身も2021年4月に福島県浪江町に移住しました。

    高橋さん 「ずっとあえて東京ベースで活動していたのですが、地域のコミュニティ再生はブランドづくりやビジネスよりもはるかに難しい。もう住民になるしかないと決意しました。コミュニティは、ビジネススキルや技術で何とかなる問題ではなく、本当に地道な人との関わり合いから育まれていくもの。これからも全人格をかけた長い長い取り組みになるのかなと思っています」

    浪江町を選んだのは、避難解除が遅かった一番大変な地域から食のブランドをつくっていこうという理由からでした。

    また、高橋さんは、「福島の食はなぜ美味しいのか?」という話題から、残留放射能の問題は「安全は科学、安心は人」であり消費者の信頼を取り戻したのは生産者の皆さんだったこと、そして、福島に戻って農業や漁業に携わる人は世界で一番情熱をもって、世界で一番勉強して、世界で一番手間暇をかけて作物をつくっているから「一番美味しくなるのは当たり前」と力強く話してくれました。

    NoMAラボが手掛ける、なみえアートプロジェクト『なみえの記憶・なみえの未来』では、住民が残したい記憶と創りたいまちの姿を屋外アートとして町中に掲出している

    「一度ゼロになったまちから、この国一番のワクワクをつくっていきたい」と意気込みを語る高橋さん。どんな課題もエンタメ化し、イメージをどうやって変化させられるかが鍵だと言います。

    そして、レジリエンス(回復力、しなやかさ)、新しいことを受け入れるフロンティア意識、地域間の連帯、が揃った福島浜通り地域は、既にこの国で一番ワクワクする地域になっていると強調してお話を終えました。

    「haccoba -Craft Sake Brewery-」佐藤太亮さん(南相馬市/ 浪江町)
    「クラフトサケ」を世界中に広める

    ヒト・モノ・コトが集まる復興のシンボルとして2020年8月に誕生した「道の駅 なみえ」を見学したのち、日が暮れる前にたどり着いたのは、南相馬市小高区の「haccoba(ハッコウバ)-Craft Sake Brewery」です。

    haccoba -Craft Sake Brewery-の外観。空き家となった一軒家を譲り受けてリノベーションした

    一軒家をリノベーションしてつくられた小さな蔵と、週末に飲食提供を行うスペースでは、佐藤大亮(さとう・たいすけ)さんを中心にしたメンバーが「酒づくりをもっと自由に」という思いで、東北で過去につくられていた自家醸造酒をヒントに、ホップやハーブを入れた醸造酒など、ジャンルの垣根を超えた自由な発想で酒づくりを行っています。

    「酒蔵としてはかなり小さい」というガラス張りの酒蔵。酒造りの現場を見ながら食事とお酒を楽しめる

    日本酒の世界は免許制で規制が厳しく、新たな酒蔵をつくることが困難な中、佐藤さんは、既存の酒蔵が年々廃業していくことに危機感を覚えていました。

    佐藤さん 「クラフトサケは制限があったからこそ生まれたお酒でもありました。商業的にお酒をつくるより、かつて東北の家でつくられていた「どぶろく」のようなお酒の文化の自由さを、未知の美味しさという新しい価値観で提供したいと思っています。

    お米と一緒に何を発酵させたら美味しくなって、この土地らしさを表現できるだろうかと考えながら、自由な発想でクラフトサケづくりをしています」

    佐藤太亮さん「クラフトサケ」という言葉で、お酒の新たなジャンルを開拓。現在全国に9ヶ所のクラフトサケのブルワリーがあり、協会では副会長を務めるなど、連携を深めている

    福島出身ではない佐藤さんが、なぜこの場所で起業したのかという参加者からの質問には、誕生日が3月11日で勝手な使命感を抱いていたことを前提に、起業を考える中で縁がつながり、知り合った酒蔵近くの「小高パイオニアビレッジ」代表・和田智行さんが語った「人口がゼロになったからこそ、自分たちでつくりたいまちができる」というセリフにワクワクしたことがきっかけだったと教えてくれました。

    佐藤さんは、海外では今新たな日本酒の酒蔵が増えていて、アメリカやヨーロッパ中心に世界でおそらく100軒ほどあり、いずれ海外と日本の酒蔵の数が逆転するかもしれないと言います。日本が文化的にリードする存在でありたいと話し、「酒蔵が途絶えなければ、そのまちの営みは途絶えない。まちの営みを絶やさない象徴として、この酒蔵があるといい」と、南相馬にマイクロサケブルワリーがあることの意義深さを訴えました。

    1980年代に発行されたさまざまなドブロクのつくり方を取材した本が「バイブル的存在」と佐藤さん

    参加者からは、経営についての具体的な手法や効果的なPR手段についての質問も出ました。佐藤さんは、SNSでの発信やプレスリリースの発行など、やるべきことを当たり前にやった上で、地元への認知を上げるために新聞やテレビなどの媒体にアプローチすることは重要だと話し、具体的な借入や助成金の利用状況などのリアルな経営状況についても真摯に答えてくれたのが印象的でした。

    ベルギーで酒蔵づくりの計画もあるそう。無人駅となった小高駅の駅舎に醸造所とマーケットをつくる計画も進んでいる

    green drinks ふくしま 現地交流会「ローカル起業 MEETUP!」

    ツアー1日目の夜は、泊まれるコワーキングスペース「小高パイオニアヴィレッジ」で現地交流会 green drinksふくしま「ローカル起業 MEETUP!」も開催されました。

    まずこのツアーの現地コーディネートを担当する野口福太郎さんから、福島沿岸部におけるハブとしての機能を持つ施設の成り立ちについて説明を受けたのち、東京で食のクリエイティブプロダクションを営む「TETOTETO Inc.(テトテト)」が提供する12市町村の食材を使用した料理を味わいました。

    テトテトの井上さんは元レストランシェフですが、最近は地域の食材の6次産業化をプロデュースする仕事などが増え、実際に調理するのは珍しいそう。この日は東京から前日入りして準備してくださいました
    食事はhaccobaのクラフトサケとのペアリングも考え、少し濃い味付けに。福島名物のイカニンジンをアレンジしてキャロットラペにするなど、地元の食材をアートのように美しく調理し魅せるテトテトの料理に感動と感謝の声が多く聞かれました

    美味しい食事やお酒を手に取った後、ふくしま12市町村で起業した4名のみなさんにゲストピッチとしてお話をしていただきました。

    浪江町の「BeyondLab」代表・野地雄太さんは、小中高校生向けに飛行機に乗らない留学プログラムを考案。現地に外国人を迎えて多文化、多世代のコミュニケーションを生み出している

    大熊町の「大熊キウイ再生クラブ」をきっかけに、キウイ栽培農家になったばかりという原口拓也さんは和歌山大学の4年生。全国各地で農業を手伝うなかで大熊町でとびきり美味しいキウイを栽培していた90歳の関本さんに出会い、志を継ぐべく起業(インタビュー記事はこちら)

    地元出身Uターン3年目の根本李安奈さん。「wind&soil」という屋号で南相馬市で移動式の劇場をつくり演劇を上映するなど、地域の若者が本当に楽しめる企画を考案、実施している

    大熊町にサテライトオフィスを持つ「株式会社チームAIBOD」松尾久人さん。「地域の事業者をつなぐプラットフォームをつくりたい」と話す

    その後、自由な交流タイムに。ツアー参加者のみなさんは、興味を持ったゲストの方などに積極的に話しかけて、活発な交流が生まれていました。

    「Horse Value」神瑛一郎さん(南相馬市)
    「野馬追」があるまちで馬の社会的価値を高める

    2日目の朝、やってきたのは南相馬市小高区にある一般社団法人Horse Value(ホース バリュー) です。代表の神瑛一郎(じん・よういちろう)さんは東京出身で、学生時代から競技馬術の選手として活躍。大学卒業後ドイツで馬の調教を学んだ後、2019年に伝統行事「相馬野馬追(のまおい)」など、馬が地域に根づく文化を持つ南相馬市に移住。地域おこし協力隊に着任し、2020年には「馬の社会的価値を高める」をビジョンに起業しました。

    現在は、小高区での乗馬体験や乗馬レッスンの他、コーチング技術を用いて、馬を通して自分自身を見つめ直す個人向けセッションや企業組織に向けた研修プログラムを提供。最近では南相馬市役所の管理職研修にも利用されました。

    ホースバリューでは5頭の馬を飼育し、スタッフ4名で事業を展開
    5頭のうち一番おとなしくて賢いというグラちゃん(グランドバロウズという名の10歳:人間だと40歳相当のサラブレッド)に声をかける神さん

    神さんは、「馬の感情は耳で見る」と教えてくれました。耳が横に向いているときはリラックス、耳が少し前にある時は何かに集中しているときなのだそう。神さんの馬への優しい視線と声かけに愛情の深さを実感します。

    神さんは小学生の頃にコスチュームに惹かれて乗馬を体験、その後本格的に馬術選手を志すようになったそう

    神さん 「馬は3歳から5歳ぐらいの知能があると言われていて、かつては農業や交通インフラとして、現在はスポーツはもちろん、こうして一緒に仕事もできるように、知能の高さや共感性がすごくある動物です。馬は、人と同じ生活圏にいるところが他の動物と一番異なる点です。

    相馬野馬追(そうまのまおい)という、本物の甲冑を着てまちを練り歩くお祭りが約1,000年も間続くこの土地で、そのお祭りに出ている馬をただ購入するだけでなく、使われていなかった厩舎や土地も有効活用して、馬という存在の価値そのものを向上させていきたいと思っています」

    南相馬は野馬追の文化が根付いているため、馬と人間の距離が近いと感じると話す神さん

    ホースバリューでは、引退した競走馬を引き取り飼育しています。年間8,000頭ほどの馬が引退し、その多くが殺処分され馬肉として流通する現状に、神さんは「もっと引退した馬のセカンドキャリアの選択肢を増やしたい」と話します。

    また、今後の展開として、エサもフンも利用していた昔のように、馬糞を近隣の土壌改良に使えないかなど、馬が解決できる課題に新たに取り組む予定です。神さんは、「周囲の荒れた山林が馬によって蘇り、そこで馬がいきいきと活かされる社会になれば」と、意気込みを語りました。

    牧場の周囲に小さな畑をつくり、馬ふん(写真右手)を鋤き込んで土壌改良中。来年には厩舎の移転も予定しているそう

    カフェ&コワーキングスペース「アオスバシ」森山貴士さん(南相馬市)
    「新しい一歩を踏み出せる」仕事と場づくり

    次に訪れたのは、南相馬市小高区にあるカフェ&コワーキングスペース「アオスバシ」です。運営を行う一般社団法人オムスビ代表理事の森山貴士(もりやま・たかし)さんに出迎えられ、まずは施設を見学しました。

    アオスバシの外観。空き店舗だった元寿司店をリノベーションして2023年7月にグランドオープン

    1階で展開するのは、スペシャルティコーヒーと全国から取り寄せたさまざまな冷凍パンや食材の販売。2階には、リモートワークに最適化したワークスペースがあります。

    2階のコワーキングスペースには、本格的に仕事ができる設備を用意。快適なオフィスチェアなど、ITエンジニアでもある森山さんのこだわりが詰まっている
    3階建ての建物は、JR常磐線と国道6号線にかかる跨線橋から見える立地で、地元でもよく知られていたため、「青葉寿司」の看板を残し、店名をもじって「アオスバシ」に

    施設見学後にいただいたのは、パンと手づくりスープのランチ。アオスバシのパンは日本各地で人気の店舗から冷凍の状態で取り寄せたもの。地元住民に美味しいものを味わって欲しいという思いと、賞味期限の短いパンの廃棄ロスを防ぎたいという理由から冷凍での仕入れを採用しました。

    ここ数年でパンの冷凍・配送技術が一段と向上したため、全国から美味しい状態のパンを仕入れることが可能になったそう

    森山さんは、外食の選択肢が少なかった南相馬市で、帰還した住民の方が毎日コンビニでお弁当を買って一人で食べているという話を聞き、「栄養のあるものをみんなでわいわい楽しみながら食べてもらいたい」という思いから、昨年埼玉県から移住し、スパイスカレー店を開業予定の宗像由美子さんの協力を得て、毎週土曜日に“食べるスープランチ”を提供しています。

    「Heart Beat Base」宗像さんは元小学校教師。定年後に夫婦で移住し、飲食店起業を志した

    ランチ後、森山さんがサーブした美味しいコーヒーをいただきながら、自身の経験を踏まえた起業にむけてのお話やアドバイスをいただきました。

    森山さんは、東京都内でITエンジニアとして先端技術研究に携わったのち、2014年に福島県南相馬市に移住。コーヒー屋台からスタートし、マルシェやまちなかバルなどのイベントを次々と実現して、現在は「アオスバシ」を軸に、人材育成と地域課題解決に焦点を当てたビジネスを展開しています。

    森山さんは、前職での厳しい競争環境に落ち込み、次々に会社を辞めていく同僚をみて、もったいないと感じていました。南相馬市も「一度ゼロになったまち」。自分だけではどうにもできないシビアな環境という点では似ているけれど、ここは、だからこそ「やってみたい」を自由につくれる場所だと話します。

    「やりたいことは小さくても早く始めたほうが得意になる」と森山さん

    森山さん 「この南相馬というまちで、地域行政に注文をつけるだけではなく、ちゃんとこの状況を乗り越えて、絶望に打ち勝っていく力をつける。そのために「自分で漕ぎ出す力をつくる場所」をつくろうと思いました。僕らがやっているのは、最初は小さくても、みんなで大きく動き出していけるボートをつくっていくことなんです」

    「アオスバシ」でさまざまな試みを行ううちに、少しずつお菓子の製造やネイルサロン、友達で集まって作業するのに使いたいといった住民からの声が増えてきているのだとか。コワーキングや店舗というイメージにとらわれず、この場をみんなでつくっていく公民館のようにしたいと話してくれました。

    起業するにあたっては、「やりたいことだけをやって生きていくのは難しいけれど、小さく早くスタートし、自分の得意分野とあわせていくつもの生業で補填しながら複業をまわしていくのがいい」とアドバイスもいただきました。

    森山さんのインタビュー記事はこちら>>
    こんなに面白い場所は他にない。福島県南相馬市小高区に移住し、カフェ兼コワーキングスペースを開業した森山貴士さんのローカルでの戦い方

    また、ふくしま12市町村移住支援センターの小地沢俊介さんから起業支援金について補足説明も。起業を決意した際は、「福島県12市町村起業支援金」という、補助対象経費の4分の3以内、最大400万円という補助金制度があり、スープをつくってくれた宗像さんはその補助金を採択された先輩でもあると紹介いただきました。

    「HAMADOORI 13」佐藤亜紀さん(大熊町)
    伝統文化を生きたかたちで残すため大熊町の「つなぎやさん」に

    その後、一行を乗せたバスは大熊町へ。2022年7月オープンの「大熊インキュベーションセンター(OIC)」へと向かいました。出迎えてくれたのは、チーフインキュベーションオフィサーの直井勇人さんです。まずは旧大野小学校をリノベーションしてつくられたという施設の説明を受けたのち、実際に館内を巡りました。

    大熊インキュベーションセンターの外観。大熊町から生まれる企業や研究・ 開発を対象に事業の創出や創業を支援。県内外から88団体が入居中
    館内にはコワーキングスペースやシェアオフィスのほか、元職員室を利用した中会議室や休憩・シャワー室、館内や近隣で使える電動シェアバイクなどもありました 
    無人レジシステム「AIBOT」の実験店舗も。無人ストアだが、商品納入者へ直接「こんなものを入れてほしい」とリクエストできるなど、フェイス・トゥ・フェイスな運用になっている

    その後、大熊町周辺の地域コーディネーターとして活躍する「一般社団法人HAMADOORI 13」の佐藤亜紀さんにお話を伺いました。

    佐藤さんは、双葉町生まれで千葉育ち。東京で音楽関係の仕事に従事していた2014年、「この地域にもともとあった文化を生きた形で残したい」と、当時全町避難中だった大熊町の復興支援員となり、町民のコミュニティ支援を担当しました。

    2019年4月、一部避難指示解除とともに大熊町へ移住し、「大熊町のつなぎやさん」として、若者の起業支援や文化保存・支援活動を軸に、地域のコーディネーターとして活躍しています。

    自己紹介を兼ねて、地域の方に今習っているという笛を吹く佐藤さん。「この地域にもともとあったことを生きた形で残したい」という思いで活動を広げています

    佐藤さんは幼い頃、祖母の家があったこの地によく遊びにきており、自然が豊かで過ごしやすい印象があったと言います。佐藤さんが移住したのは、「もうとにかく行くしかない」という切迫感からでした。

    「地域が復活する=地域で育ったものを食べること」との思いから、除染が終わった田畑で酒米やキウイを育てている

    佐藤さん 「原発事故が起こったことで、一生お墓参りすることすらできないかもしれない絶望と、無形の文化財だけでなく、まちそのものも無くなるのではないかという危機感があって。大熊町に定住したきっかけは、もう単純に、本当に大熊町の大先輩たちをすごく好きになっちゃったから。全町避難を経験したみなさんは、本当に強くて優しく、明るくもあって、とても尊敬しています」

    教室の雰囲気をあえて残したというインキュベーションセンターの中会議室でお話を伺った

    現在、大熊町には1,000人ほどが住んでいますが、東京電力の関係者が多数を占めており、実際にまちの住民として生活しているのは300人程度とまだ゙少ないのが実際のところ。「もっともっといろんな人が住んで、それぞれが自由に動いている状態が本来のまちの姿だと思うから、ぜひみなさんにも移住を検討してほしい」と佐藤さんは話してくれました。

    センター最寄りのJR大野駅西口では、大規模な商業施設の開発も進んでいる

    佐藤さんのお話のあと、このツアーの振り返りとしてグループで感想をシェアする時間を設けました。

    参加者のみなさんから「ゼロベースの自治ができるのはすごい」「この地の話を聞いて、自分の祖父母の家の活用について考えはじめた」「アイデアを思いついたらすぐやるスタンスがすごくおもしろいと感じた」「もう年だと思っていたけれど、自分でももっとこんなことができるのでは?と可能性を感じてワクワクしている」といった声が聞かれました。

    2班に分かれてツアーの振り返り。それぞれが感じたことを共有した

    また、「登壇者のみなさんが本当に楽しそうにお話をしている姿が素晴らしかった」という声も多数聞かれました。2日目は16時にプログラムが終了。JRいわき駅までバスで帰路につきました。

    移住起業者の熱い想いに触れ、参加者の情熱も溢れ出した2日間

    「応援し合える関係性を、移住する前にいかにつくりだすか」をテーマにしたこのスタディツアー。2日間で6ヶ所の施設を訪れ、実際に地域で活躍するたくさんのローカル起業家に出会い、「どんな事業を育て、どのような社会をつくりたいのか」という熱い想いやビジョンを聞くことができました。

    参加者のみなさんは、地域や参加者同士のつながりをつくれたことに加え、自分自身の内面を見つめ直し、アイデアをブラッシュアップする時間にもなったようです。帰りのバスでは参加者同士の会話がはずみ、「ビジネスプランができた!」という声も挙がっていました。

    ツアー参加者だけでなく、現地でお話してくださった方も、現役大学生から還暦過ぎまで年齢を超えた交流がありました。バイタリティ溢れる人との出会いがたくさんあったスタディーツアー「ローカル起業編」。こうした一つひとつの出会いが、起業に向けた大きな行動や決断への近道になるのかもしれません。

    取材・文: 西村祐子  撮影: 長田涼・西村祐子 編集: 増村江利子

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