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ゼロからのどぶろくづくりで移住者と地元住民の垣根を超える。「シン・ヨリアイ」が生み出す新しいつながりづくり

2026年2月16日

ふくしま12市町村移住支援センターでは、福島12市町村への移住者と地元住民の交流の場をつくる取り組みを行っています。移住者が地域とつながり、安心して暮らし続けられるよう支援する「福島12市町村つながりづくり支援事業」です。

事業では、テーマを設定して、福島12市町村内各地で交流会を開催しています。この記事では、起業・連携をテーマにした移住者と地元住民の交流会「シン・ヨリアイ」の様子をレポートします。

イメージは絵本『スイミー』

起業をテーマにした交流会といえば、多くの場合、先輩の起業事例や成功談を聞きながら参加者それぞれが事業の立ち上げや成長のイメージを膨らませるもの。しかし、シン・ヨリアイのスタンスはそれとは大きく異なります。地域に住み地域を盛り上げたいと考える人たちが集まり、地域に根差した事業をゼロから起こそうというもの。その取り組みを通じて移住者と地元の人々との連携を深めようとしています。

シン・ヨリアイを運営する一般社団法人葛力創造舎の代表理事、下枝浩徳(したえだ ひろのり)さんは、その意図をこう説明します。

「交流会から何を得るかを考えたとき、イメージしたのは絵本の『スイミー』でした。小さな魚が集団となり、自分たちを大きく見せることで、大きな魚から自分たちの命を守る話です。大きな企業が進出することも地域の活性化につながりますが、みんなの個性を持ち寄り、ひとつひとつの発想を活かして、新しい何かをつくり上げること。それでも活性化は可能だと思います。そうした発想のもと、交流会の参加者がそれぞれに役割を持ち、なりわいを創造することで、つながりと持続的な収益の両方を地域にもたらしたいと考えました」

下枝さんの移住者インタビューはこちらの記事でも紹介しています。
地域づくり10年目。葛尾村を内と外で結んでいく

下枝浩徳さん

では、集まった人たちで何をつくるのか。選んだのは、通常の日本酒のように酒を漉(こ)す工程を経ないお酒「どぶろく」です。通常の酒類製造には法律上の厳しい規制がありますが、市町村が国に申請し、どぶろく特区として認定を受ければ、酒税法に定められた製造量が緩和され、製造のハードルがさがります。この制度に沿い、地域のオリジナルどぶろくをつくることを目標に、全7回の交流会が企画されました。交流会は、葛尾村→双葉町→川内村→葛尾村→川内村→双葉町→葛尾村と開催地を移動しながら実施。会場を巡回することで、12市町村内の広域から移住者が参加しやすい環境を整え、地域を越えたつながりをはぐくんできました。

デザイナーの言葉から得る「見せ方」のヒント

取材にお邪魔したのは、第6回の交流会。双葉町にある地域活動拠点「FUTAHOME(ふたほめ)」にて、まちづくりや地域振興に関するコンサルティングやコンテンツ開発を手掛ける西直人(にし なおと)氏をナビゲーターに迎え開催されました。会場には、地元出身・在住の方、移住し起業した方、転勤で双葉郡内の企業に務める方など、周辺市町村からさまざまな方が集いました。

西 直人さん

これまでの交流会では、福島県の観光物産館の職員の方に最近のお酒の人気の傾向を教えてもらったり、年間を通して自給米を提供するリゾート施設の方に酒づくりに欠かせない米をどう自給自足していくかのヒントを聞いたりと、自分たちがつくりたいどぶろくの方向性と現実性を固める作業を重ねてきました。第6回の交流会のテーマは、デザイン。講師としてオンラインで登壇したのは、グラフィックデザイナーの西山里佳(にしやま りか)さんです。

西山さんは富岡町出身で、東京で10年以上デザインの仕事に従事後Uターン。南相馬市小高区で日本酒の技術を基盤に、ホップなど多様な副原料を用いた酒「クラフトサケ」をつくるぷくぷく醸造の商品ラベルのデザインを手がけています。

ぷくぷく醸造の取り組みについては以下の記事でもご紹介しています。
酒づくりを通じて、福島の沿岸に田畑を増やす。“日本酒×クラフトビール”を追究する「ぷくぷく醸造」立川哲之さんが目指す、まちの風景がつづく未来

オンラインで登壇した西山里佳さん

西山さんは、ぷくぷく醸造でのデザインの経験を踏まえ、「ラベルはお酒とお酒を飲む人のコミュニケーションの役割を果たすもの」としたうえで、こんなアドバイスを交流会の参加者に伝えました。

「大切なのは、飲む人に寄り添ったデザインであるかどうか。伝えたいことばかりを一方的に伝えてしまい、ユーザーが置いてけぼりになるようなデザインは避けなければいけません。そのためには、お酒の味わいとデザインがかけ離れないよう、どんなシーンで飲んでほしいかを飲む人の立場で想像してみることが必要です。その土地が持つ歴史やその土地ならではの匂いのようなものからイメージするのもいいと思います」

また西山さんは、商品に持たせるイメージや価格帯といったベンチマークを明確にすることも必要だと語りました。

西山さんがラベルをデザインしたぷくぷく醸造のクラフトサケ「すすす」(右)

質疑応答では、参加者から西山さんにいくつかの質問が投げかけられました。「ラベルのイメージを考え始めてから完成するまでにはどれぐらい時間がかかるのか」という質問に、西山さんは「すでにブランディングが決まっている場合は1ヵ月。何もないところから一緒につくり上げていくなら3ヵ月以上かかるのでは」と回答。また、「デザイナーはどうやって選べばいいのか」という質問には、「つくりたいイメージが明確にあるなら、それを形にできる人を探すのがベスト。でも一番大切なのは、親身になって一緒に考え伴走してくれるデザイナーであるかどうか」と回答しました。

西山さんの移住者インタビューはこちらの記事でも紹介しています。
アートやデザインをもっと身近に。南相馬市小高区に変化を起こし続ける

終わりがスタートになる交流会

休憩を挟んだ後半の時間では、2班に分かれてグループセッションが繰り広げられました。ラベルデザインを検討するうえで双葉郡や浜通りにはどんな素材やモチーフがあるか、地域のお店に商品が並んだ際にどんなことを伝えたいか、などといったテーマをもとに、リラックスした雰囲気のなかでデザインの種を探す時間となりました。

第6回までの交流会を踏まえ、運営の下枝さんはその手ごたえをこう語ります。

「移住者を受け入れる体制が整っている地域であっても、移住者は移住者で、地元の人は地元の人でコミュニティが形成されがちです。しかし、この交流会を重ねるなかで、両者が以前よりも交わってきたように感じるという参加者からの声もあり、少しずつ成果が見え始めてきたように感じています。誰かから役割をもらうのではなく、自分ができることに自発的に関われば、そこには自然に協働の形が生まれます。それがなりわいとなり、自信とやりがいが得られれば、さらに深いつながりになっていくのではないかと思います」

シン・ヨリアイは全7回の交流会ですが、7回目がゴールとなる交流会ではありません。すべての交流会が終わったとき、つまり、つくるべき酒が定まったときがスタートとなる交流会です。実際の酒づくりは葛尾村で進められますが、ゆくゆくは葛尾村が属する双葉郡のそれぞれの市町村で「スイミー」のようなつながりが生まれてほしい。そして、そのひとつひとつの「スイミー」がさらに手を結び、この地域にもっともっと大きなつながりを生みだしてほしい。下枝さんのそんな想いのもと、仲間たちとの酒づくりの夢は続いていきます。


■第7回「シン・ヨリアイ」
最終回となる第7回は、福島県で「お酒の神様」と称される鈴木賢二先生をお迎えし、「シン・ヨリアイ」の酒づくり企画について講評をいただく予定です。貴重なお話を直接うかがえる機会ですので、ぜひご参加ください。

2026年2月21日(土)17:00~19:00 開場16:00
会場:⾥⼭の宿みどりの⾥せせらぎ荘(葛尾村)
参加費:無料
対象となる方:ふくしま12市町村在住の方 ※田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、双葉町、川内村、大熊町、浪江町、葛尾村、飯舘村
お申込み:https://forms.gle/hq5VM1oxNeB8WBHb6
詳細はこちら

※所属や内容は取材当時のものです。
文・写真:髙橋晃浩