葛尾村の和やかな人の輪のなかで、少しずつ自分らしさを取り戻す

・出身地と現在のお住まい
大阪府堺市→葛尾村
・現在の仕事
葛尾村みどりの里せせらぎ荘で、入浴と宿泊にかかわる業務を担当
・移住後の変化
考えすぎず、自然体でいられる時間が増えた
葛尾村唯一の入浴・宿泊施設である葛尾村みどりの里せせらぎ荘。豊かな自然に包まれた静かな館内では、葛尾村と田村市都路町にまたがる五十人山(ごじゅうにんやま)の地下水を利用した超軟水のお風呂を楽しみながら、ゆったりと過ごすことができます。
スタッフの赤松直樹さんは、2025年2月に大阪府堺市から葛尾村に移住しました。仕事も生活環境も大きく変化したなか、「自然体でいられるようになった」とやわらかくほほえむ赤松さんに、葛尾村での暮らしについて聞きました。
友人に誘われ、3カ月後には真冬の葛尾村へ移住

――移住の経緯を教えてください。
2024年の11月に、葛尾村に10年以上住んでいる友人から「こっちに来ないか」と誘われたことがきっかけです。体が弱く入退院を繰り返していた僕を心配し、声をかけてくれました。その友人のところへは遊びに来たことがあり、葛尾村のことは知っていましたが、それでも正直迷いました。仕事を変えなくてはならないし、僕はずっと大阪で暮らしていたので、環境もガラッと変わります。でも、いろいろなところに出かけることや自然が好きだし、いい機会だと思い、2025年2月に移住しました。
車の運転には慣れていましたし、2月でも雪はそれほど大変ではありませんでしたが、めちゃくちゃ寒かったです。寒さが苦手なのですが、来たからにはもう、気合ですよね。今は友人と一緒に、せせらぎ荘から徒歩15分〜20分ぐらいの場所に住んでいます。
――現在のお仕事はどのように見つけたのでしょうか?
既に友人がせせらぎ荘に勤めており、紹介してもらって、移住した月から働き始めました。日勤で10時から19時までの勤務がメインです。
せせらぎ荘では日帰り入浴と宿泊を提供しており、それに関わる業務全般を担当しています。お風呂の掃除や湯温の調整といった入浴の前準備、お部屋の清掃やベッドメイキング、フロントでの接客とお部屋への案内などです。施設が小規模でスタッフの人数も10名ほどと少ないため、必要なことはすべてやっています。僕はパソコン操作ができるので、書類やチラシの作成もやっています。休みは休館日の月曜と、ほかのスタッフと調整しながら不定期で取っています。

――移住前も接客のお仕事をしていたのですか?
接客は学生時代に居酒屋でアルバイトをして以来です。大阪にいた時は機械関連の企業で現場の調整管理を担当しており、現場と事務所を行き来し、いつまでに商品をどれだけ組むか調整したり、数値は問題ないかなどをパソコンで確認したりしていました。
接客は新鮮みがあって面白いです。職場にはいろいろな方がいて、「みんな違ってみんないい」という言葉の意味がよく分かります。ただ、移住者が多いので、同じ地域に住む方々でも方言や訛りが違っていて、はじめのうちは言葉がまったく分からなかったです(笑)。
葛尾村の人は楽しそうに生きている気がする
――移住前後で、生活のギャップはありましたか?
大阪の堺市では雪は年に1~2回降るくらいでしたから、ここでは雪が降ったら雪かきをしなくてはならず、はじめは慣れなくて大変でした。せせらぎ荘の駐車場は広いので、「今からでも狭めてくれやんかな(くれないかな)」と思いながら雪かきをしていました(笑)。
コンビニが近くにないことにも驚きました。買い物は隣の田村市中心部まで片道40分、1週間に1回ほど行って買いだめしています。買い物できる場所がもう少し近くにあればと思うこともありますが、不便という感覚は徐々に薄れてきています。食事は基本自炊で、毎日ご飯を炊いています。お米は友人のお母さんの知り合いの農家さんからいただいており、村でのつながりに助けてもらっています。買い出しついでにたまに外食もしています。

――葛尾村での暮らしの魅力はなんでしょう?
やっぱり自然です。勤務が終わり外に出ると、すごくきれいな星空が見られます。普段の生活でこの星空に出会えるのは、都会にはないよさですね。
あと、これは直感なのですが、葛尾村の人はなんだかみんな楽しそうに生きているなと思います。お客さんを見ていても、知らない方同士なのに、お風呂上がりにロビーに自然と集まってお話ししているんです。お客さんに気さくに話しかけてもらうことも多く、常連さんがフロントで「今日は何人?」と聞いてくれて、スタッフの人数分のお菓子をもらうこともあります。関西弁も珍しがってもらっています。
――村内でおすすめの場所はどこですか?
宣伝になってしまいそうですが、やっぱりせせらぎ荘です。お風呂のお湯が肌にやわらかく、湯船の底まで透き通っています。紅葉や雪景色など、建物から見える景色がとてもきれいです。

職場の人間関係がよく、自分の体調も落ち着いた
――葛尾村に来てから、何かご自身に変化はありましたか?
メンタル面ですごくよくなりました。変に考え込まなくなりましたし、自然体でいられます。ご飯も1日に3食、ちゃんと食べられるようになりました。前職もいい会社でしたが、朝8時に出勤してから22時〜23時まで働くことが多く、仕事の重圧もあり、思い悩むことが多かったんです。自分だけだったのかもしれないですが、毎日すごくピリピリしていて、自分の責任で大きな損失を出す可能性もあったためプレッシャーも感じていました。職場の人と時には言い合うこともありましたが、仕事以外で関わりをもつことはありませんでした。
今の職場ではスタッフ同士、仲よく冗談を言い合うなど、人間関係がとてもいいです。スタッフ全員が集まって日頃のお疲れ様会をしたり、葛尾村のほかの職場で働く同世代の人たちとカラオケやご飯を食べに行ったりもします。

若い人に葛尾村へ来てほしい
――葛尾村での生活にも慣れ、これからやってみたいことはありますか?
これまで東日本に出かける機会が少なかったので、各地の名所に遊びに出かけたいですね。ラーメンが好きなので、本場の味噌ラーメンを食べに北海道にも行ってみたいです。
また、経験はありませんが、プログラミングに興味があります。子どもの頃からパソコンをいじるのが好きで、今では自分で解体して部品をより性能がいいものに付け替えたり、容量を大きくするためにメモリを足したりしています。どこかの企業に勤めてプログラムを組む仕事につくのも面白そうです。プログラミングは、仕事としてこの先もなくならないでしょうし、どんな場所でもできるのもいいです。
――葛尾村へ移住を考えている方へメッセージをお願いします。
実際に来ていろいろな場所に立ち寄ったり、住んでいる方と直接話したりして、ここで暮らすイメージをもってもらうといいと思います。僕の場合、元々友人から葛尾村での暮らしについて聞いていたことが、移住後の生活をイメージする際にとても役立ちました。葛尾村の移住相談窓口である「こんにちは かつらお」が開催している移住体験プログラムは、せせらぎ荘に宿泊しながら葛尾村の各所で見学や体験を行い、夜は食事をとりながら実際に移住してきた方と交流できるので、おすすめです。周りの市や町のことも、買い物などで必ず行くことになるので、調べておくと安心です。
葛尾村では、みんながそれぞれの場所で村おこしをしています。ただ、村内を見ても、若い人はまだまだ少ないように思います。若い人が葛尾村に来てくれたら嬉しいです。

赤松 直樹(あかまつ なおき) さん
1996年、大阪府堺市生まれ。大阪で大手機械関連企業に勤務。旅行が好きで、全国各地に住む友人のところに遊びに行くなかで葛尾村にも立ち寄る。2025年2月に友人の誘いで堺市から葛尾村へ移住、同月から葛尾村みどりの里せせらぎ荘に勤務。
※所属や内容は取材当時のものです。
文:はしもとあや
撮影:古関マナミ