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【移住セミナーレポート】「ふくしま12のいまを知り、みらいを考える。〜就職・起業・パラレルワークとともに考える『移住定住者のミライ』~」

2023年3月20日

東日本大震災から間もなく12年の節目を迎える2023年3月9日(木)に、未来ワークふくしま移住セミナー「ふくしま12のいまを知り、みらいを考える。〜就職・起業・パラレルワークとともに考える『移住定住者のミライ』〜」が開催されました。

イベントは第一部(14:00~15:00)と第二部(19:00~20:30)の二部構成で、プレス発表として行われた第一部では、東北と所縁(ゆかり)がある俳優・創作あーちすとの“のん”さんをゲストに迎え、のんさんが福島12市町村で移住者と交流する様子を収めたコラボ動画の上映会と、「ふくしま12市町村移住支援センター」の藤沢烈センター長とのトークセッションを開催。一般参加者向けに行われた第二部では、福島12市町村で活躍している移住者や、地方での起業者、パラレルワークの実践者をゲストに招き、コラボ動画の上映会とディスカッションセミナーを開催しました。

■ふくしま12市町村移住支援センターと「のんやろが!ちゃんねる」のコラボ動画(YouTube)
 【福島ぶらり旅】のん、焚き火しながら今年1番だった福島のご馳走!

ディスカッションセミナー

セミナーでは、岩手県に移住して地方創生に関わるさまざまな事業を展開する「合同会社koe」代表・小川翔大さんによる司会進行の下、「自分らしく生きる『みらい』を考える」をテーマに、移住者視点から見た12市町村の“今”や、起業、パラレルキャリアを含むこれからの働き方についてパネルディスカッションを行いました。

福島12市町村に移住したきっかけ

左から、小川翔大さん、藤沢センター長、古谷かおりさん、守屋真一さん
 リモート出演:吉川晃さん、吉川未来さん

まずは、のんさんとのコラボ動画に登場した「シェアハウスと食堂 kashiwaya」の古谷かおりさんと、「Restaurant MADY(マディ)」の吉川未来さん、吉川晃さんが、移住のきっかけについて語りました。

古谷 かおりさん|シェアハウスと食堂 kashiwaya
1984年生まれ、千葉県出身。2017年に楢葉町へ移住。原発作業員と地元住民とのコミュニティを結ぶ交流の場を目指して、小料理屋「結のはじまり」を開業。現在は「シェアハウスと食堂 kashiwaya」の運営等、移住者のための住環境整備に取り組む。

古谷さん「もともとは建築士を目指していましたが、東京では夢をつかむことができませんでした。『福島の復興のために何か役に立てることがあるのではないか』と思って楢葉町を訪れたのが始まりです。

実際に現地に赴くと、『新しいことを始めよう!』という熱いエネルギーに満ちた人ばかりですっかり感化され、その人たちの輪に入るようにして楢葉町に移住を決めました。私には建築よりも人と人をつなぐコミュニティづくりの方が向いていたようで、今は地域の方も移住者も集まるシェアハウスを運営しています」

■古谷かおりさんのインタビュー記事
https://mirai-work.life/magazine/3180/

吉川(ひかる)さん・未来(みき)さん|Restaurant MADY
吉川晃さん:1995年生まれ。埼玉県毛呂山町出身。大学卒業後、IT企業に就職し、システムエンジニアを経験する。のちに夫婦で飲食店開業を決意し退職。その後は株式会社グローバルダイニング系列店を主軸に、数店舗で調理の経験を積む。2022年に埼玉県から南相馬市へ移住し、同年3月にRestaurant MADY」を開業。
吉川未来さん:1995年生まれ。福島県浪江町出身。15歳の時に震災と原発事故を経験する。大学在学中にアルバイトとして飲食店に勤め、開業を目標に調理と接客を学ぶ。修行先で社員として勤めている最中に、新型コロナの影響を受ける。状況を鑑みて開業を1年遅らせ、2022年に「Restaurant MADY」を開業。

未来さん「大学生の時に『飲食店を開きたい!』という夢を持つようになり、それを実現するために福島12市町村へのUターンを決めました。移住する際は、福島12市町村の移住・起業支援制度が助けになりました」

晃さん「私は福島に住んだことがなかったので、地元の方々に受け入れていただけるのだろうかという不安もありました。でも、本当に温かく迎えてくださってありがたかったです。福島12市町村には移住者が多いので、他地域から来た人を受け入れる風土があるのだと思います。SNSを活用した移住者同士のつながりもあるので心強いです」

■吉川未来さんが登壇したイベントのレポート記事
「地域資源をいかして生業をつくる。福島ローカル起業物語 part 1~自分のお店を持つ~」
https://mirai-work.life/magazine/5046/

地方での起業・パラレルワークについて

守屋真一さん|一般社団法人超帰省協会 代表理事
神奈川県秦野市出身。「“誇れる地元”をすべてのひとに。」をヴィジョンに建築・まちづくりにおける企画・設計・運営に携わるマイクロデベロッパー。空間プロデュースを通じて、都市とローカルを横断した社会課題解決を目指す。芝浦工業大学建築学科、同大学院修了後、日本設計、VUILDを経て、現在はmicro development inc./CEO。ADDReC株式会社、一般社団法人超帰省協会、NPO法人ローカルデザインネットワーク、株式会社オープン・エーの業務を兼務するマルチワーカー。

守屋さん「私は本社を静岡県東伊豆町、支社を渋谷に置いていて、東京と静岡を行き来しています。起業する上で、都市部よりも地方の方がメリットがあるケースも多いです。例えばオフィス賃料などの初期コストは地方の方がずっと安く抑えられるので、私自身、起業直後はとても助けられました。東京で仕事をする時に『伊豆ってどんなところなの?』と話題が広がるのも面白いところです。

地方と関わるようになって、とにかく地域住民同士のネットワークが強いということを感じています。何かを宣伝しようとすると『○○さんに聞いたよ』と、人づてに情報が伝わっていることも多く、そのたびに人と人とのつながりの強さを実感します。また、その地域内で少し話題になると、地元の新聞社やテレビ局が取材に来てくれることも多いです」

古谷さん「もしやりたいことがあるのなら、それが地域にマッチするのかどうか、少し時間をかけて調べてみてもいいかもしれません。私は2年くらいかけて地域の皆さんとの関係性を築いていきました。今はほとんどの地域に地元の人と移住者をつなぐ交流スポットがあるので、地域と関わりたいという気持ちがあるなら、これまでよりもずっと早くつながりを深めていけると思います」

藤沢さん「アイドリングタイムをつくるという意味では、起業型地域おこし協力隊の制度を使って、地域との関係を築きながら準備していくことも一つの手です」

未来さん「私はレストランをオープンする前から、開業準備の様子をブログに書いていました。ブログを通じて『南相馬でレストランをやりたい人がいるらしい』と興味を持ってくださった方もいらっしゃいました。今はSNSもありますし、いろいろなツールを活用して自分がやりたいことを発信していくのもおすすめです。世界ではなく、あえて地元向けにニッチな情報を発信してみるのもおもしろいかもしれません」

守屋さん「地元向けへの情報発信は、回覧板なども良いですよね。おじいちゃん、おばあちゃんはSNSは見ていないので。伊豆の拠点環境を整える際に、回覧板で『いらない家具をください』と載せたところ、問い合わせが殺到しました(笑)。

一から起業するのもハードルが高いので、まずは地元企業で働いてみて人脈を作り、自分でもやれそうだという実感が持てたら起業するというのもあると思います。またリモートワークの場合は、ずっとパソコンに向かっているだけだと『あの人は何しているんだ?』となるので、地域の集まりに顔を出すよう心がけることも大事です」

福島12市町村で働くことの意義

未来さん「皆さんとてもおおらかなので、毎日気を張らずに過ごすことができています。店名の『MADY(マディ)』は、福島弁で『丁寧』『手間ひま』などという意味の『までい』から付けました。私がお客さまに『までい』に接すると、お客さまもその気持ちを返してくださるんです。自然とお返しをして助け合う、温かな気持ちのやり取りがとても好きです。

また意義という点では、最初は、夫婦だけで店をやってスタッフを雇わないと地域貢献にならないのでは……という引け目もありました。ですが、今は地域でのつながりも広がり、雇用以外でも貢献できることはあると感じています。移住関心者向けのツアーでお店を使ってもらうなども、その一つです」

藤沢さん「震災直後は、いつ戻れるのだろうか、本当に復興できるのだろうか、と言われてきたのが福島12市町村です。吉川さんのような人がいること自体が大事で、幸せそうにお店を経営している姿を見て、こういうを生き方したいなと思う人が現れる、それこそが復興だと思います」

古谷さん「移住して、自分自身の価値観が大きく変わりました。最初に開業した小料理店は『(ゆい)のはじまり』という名前だったのですが、移住して初めて『結』という言葉の意味を知りました。『結』とは農作業などの際に隣近所で助け合うことです。地域の中で『結』が機能している様子を目にして、とても魅力を感じました。

人と人との距離が都市部よりずっと近くて、コミュニケーションの取り方も異なることに驚いたこともありました。時には叱咤激励を受けることもありますが、それも私を思ってのこと。地域の皆さんの温かさには衝撃を受けました。こうした価値観の中で生きていられるのが本当に幸せです。地元の人と、これから町にいらっしゃる新しい人との間に『結』を生んでいきたいと思っています」

藤沢さん「失敗して怒られたことはありますか?」

古谷さん「たくさんあります!地方では電話連絡や実際に会って話すのが基本なので、メールで済ませたことで怒られたり。朝夕も早く17時頃には寝てしまう人もいるなかで、18時過ぎに訪問して叱られたこともあります(笑)」

守屋さん「私は二拠点生活をしているのですが、皆さんのお話を聞いていて移住にも興味が湧きました。伊豆に行くと東京で張り詰めていた気持ちがほどけるような気分になります。移住したらそれが毎日続くということですよね。福島は東京からも近いですし、これからますます注目されそうな地域だと感じました」

多種多様な働き方

晃さん「お店を開くまでに、工事などでたくさんの人にお世話になりました。開店すると、そういう皆さんがよく足を運んでくださって、知人・友人を連れてきてくれるんです。今でも感謝の気持ちを込めて接しています。こうして地域の皆さんとwin-winの関係を築けたことがうれしいですね。私も他県からの移住者なので、今後はこれから移住を考えている方とのつながりをもっと深めていきたいです」

古谷さん「シェアハウスkashiwayaには、東京の仕事をフルリモートでしている女性や、起業を考えている若者から、復興関連の仕事でこちらに来て地元で再就職した70代の男性まで、さまざまな人が住んでいます。畑仕事に精を出したり、地元の人と遊んだりとプライベートも充実していて、見ていてうらやましいくらいです。きっと、これからもっと新しい働き方が増えていくのではないでしょうか。働き方を模索しながら、お試しでシェアハウスに住んでみるのもおすすめです」

守屋さん「皆さんのお話を聞いていて、本当に多様な生き方ができる時代になったんだと感じました。これからどういう働き方や生き方をしていくかについて、悩むこともあると思います。でもこればかりは実際に試してみないとわかりません。福島12市町村は移住者支援が手厚い地域なので、一歩踏み出しやすいと思います。今回のイベントが皆さんの移住への後押しになればうれしいです」

移住支援制度の紹介

藤沢センター長からは、セミナーの感想と移住支援制度についての説明がありました。

藤沢さん「福島12市町村に移住されたゲストの皆さんが、自己実現のために移住しているというのが印象的でした。地方だからこそ、自分が本当にやりたいことや理想の暮らしを実現できるチャンスがあるのではないでしょうか。

福島12市町村では、移住者に最大200万円を支給する『福島県12市町村移住支援金制度』のほか、旅費を補助する移住体験ツアーや、移住の下見などで現地に赴く際の往復交通費・宿泊費を補助する『ふくしま12市町村移住支援交通費等補助金』などのサポートを行っています。まずはぜひ、福島12市町村に足を運んでみてください」
※2022年度の「福島県12市町村移住支援金」「ふくしま12市町村移住支援交通費等補助金」の申請受付は終了しました。2023年度も実施予定ですが、制度の詳細は4月上旬に発表予定です。

移住相談・交流会

セミナー後には、登壇ゲストと直接話せるアフタートーク交流会が行われ、あわせて移住相談と就職相談のブースを設けて個別相談会も実施しました。

相談ブースでは、「まずは農業系の企業に勤めて、ゆくゆくは独立して新規就農したい」「先端技術に注力しているので興味を持った。自分のビジネスで、ドローン開発のベンチャーとコラボしたい」「福島県出身なので地元のためになることをしたい。地域おこし協力隊に応募して、将来的には起業したい」などの相談が参加者から寄せられ、農業系企業や地域おこし協力隊の求人募集情報を紹介したり、求職活動での企業訪問にも交通費補助金が使えることを伝えたりしました。

また、古谷さんと参加者とのアフタートークでは、南相馬市への移住を控えるサーフィンが趣味の女性に楢葉町のサーフスポットを紹介したり、飲食店で起業したいと考えている男性には、どのように地域の声を拾って小料理屋をやることに決めたのか経験談を話したりと、より具体的なアドバイスをしていました。

ふくしま12市町村移住支援センターでは、2023年度もさまざまなテーマのセミナーを開催する予定です。まずは福島12市町村を知るところから始めたいという方、ぜひご参加ください!

■福島12市町村の移住支援制度
https://mirai-work.life/support/

■ふくしま12市町村移住支援センターと「のんやろが!ちゃんねる」のコラボ動画(YouTube)
 【福島ぶらり旅】のん、焚き火しながら今年1番だった福島のご馳走!

■ふくしま12市町村移住PRイベント第一部の模様を公開しています(YouTube)
 のん、ふくしま12市町村の移住の魅力を取材し動画制作【トークノーカット】

■ふくしま12市町村移住PRイベント 第一部のレポート記事
https://mirai-work.life/magazine/5427

取材・文:藪内 久美子 撮影:内田麻美