移住サポーター

楢葉町に溶け込むお手伝いを。シェアハウスで生まれる“顔”の見える関係づくり

2022年11月7日
楢葉町
  • まちづくり
  • 移住

2022年5月にオープンした「シェアハウスと食堂 kashiwaya」(以下、kashiwaya)。元々は旅館「柏屋」として営業していました。
kashiwayaのある楢葉町下小塙(しもこばな)地区は、かつては宿場町として栄え、多くの宿が軒を連ねていたといいます。旅館として長らく営業していた場所が、シェアハウスに生まれ変わって数ヶ月。どのような人が集まり、どんなコミュニティが営まれているのでしょうか。管理人の古谷かおりさんに伺いました。

地域に関わりを持ちたいと思う人に住んでもらいたい

2022年10月現在、kashiwayaに入居しているのは4名。町外から移住してきた人だけでなく、Uターンしたけれど実家ではなくシェアハウスでの暮らしを選んだ人、多拠点居住をしている人などさまざまな背景を持つ人たちで、年齢も20代から70代と幅広いそうです。「でもみんな、なんだかすごく仲がいいんです」と古谷さんはうれしそうに話します。

kashiwayaの入居条件は「地域に関わりを持ちたいと思っている人」「kashiwayaというシェアハウスでの共同生活と、その人のライフスタイルとが合っているかどうか」など、いくつかあるそうです。kashiwayaでは、地域や入居者同士のつながりを深めるため、ときにはイベントやワークショップを開催したりします。内見時にしっかりと面接をして、そういった運営体制であることを伝えています。

古谷さんは、kashiwayaの管理人になる前に、3つのシェアハウスを運営していました(ひとつは現在も運営継続)。kashiwayaの入居条件を決めるにあたっては、古谷さんのこれまでの経験が生きているといいます。

「移住して、ただ暮らしているだけでは地域とのつながりは生まれないんだなと感じたんです。積極的に地域と関わりを持てる人はいいですけれど、そうでない人もいます。せっかく楢葉町を選んで移住してきてくれたのに、それはもったいないなって。だからこのkashiwayaは、暮らしながら楢葉町を知るための『準備期間』として使ってもらえたらと思っているんです」

kashiwayaの入居期間は、最低1カ月から最長2年まで。必ずしも楢葉町に住民票を移す必要はなく、また移住元の住所についても県内外問わず制約はありません。そのことは、kashiwayaの所有者である楢葉町と、事業母体であるまちづくり会社の一般社団法人ならはみらい、管理運営を受託している古谷さんとで、何度も話し合いながら決めていったとのこと。

「もちろん『楢葉町に移住してほしい(住民票を移してほしい)』という気持ちはあります。でも、いきなり『移住』というのはやはりハードルが高い。移住促進事業の一環ではありますけれど、移住の前段階で、楢葉町のことを知ってもらう場所とした方が来てくれる人にとっていいのではないか、と考えが一致したんです」

そのため入居者は、楢葉町や双葉郡に来て間もない人や、これから地域とつながりをつくろうとしている人を対象としているといいます。

介入しすぎない管理人でいるために

古谷さんの管理人としての役割は、施設の維持管理や緊急時の対応、まかないの食事の準備を行うほか、町内外への情報発信、入居者と地域とのつながりづくりなど。kashiwayaのSNSアカウントでは、オープン前からリノベーションの進捗やワークショップの開催告知などを発信したほか、入居者の募集もSNSで行いました。

現在の入居メンバーとはLINEグループをつくり情報共有をしているそうですが、そこで古谷さんが伝える情報は「地域の掃除や草刈りの日程」や「近所で開催されるお祭りなどのイベント」などにとどめています。

「地域とつながって欲しいけれど、押し付けにならないように、と思っています」と古谷さん。そのために、外部の人たちに協力していただいていることもあるそうです。地元の県立校である、ふたば未来学園中学・高等学校に常駐しているNPO法人カタリバには、入居者や移住に関心のある人を集めたワークショップの運営を依頼。入居者全員が参加した自己紹介ワークショップで「畑をやりたい」という声があり、実際に「kashiwaya菜園部」という部活動が生まれました。

kashiwayaを地域にお披露目した時の、kashiwaya菜園部の展示。菜園部の日記的な記録や、菜園部からの質問に地元の人が書き込んで答えているものも

また、古谷さんがkashiwaya運営以前から営んでいる飲食店「結のはじまり」の元アルバイトの女性スタッフが、折に触れkashiwayaの入居者たちの活動に混ざり、それとなく関わっていることも大きいといいます。

「私たちは彼女の役割を『ゆげ』と表現しているのですが、本当に湯気のように、ただそこにいる、いるだけでホカホカするような存在でありながら、押し付けず、意志を持ち過ぎずに、みんなのやりたいことをすくいあげてくれるというか。そうして私と彼女とでそっとサポートするような形で、入居者と地域とをつなげていければと思っています」

古谷さんが入居者と発行している「kashiwaya通信8月号」に掲載されているコラム (シェアハウスと食堂kashiwaya  SNSより)

まかない付きシェアハウスの効能

kashiwayaが、ほかのシェアハウスと違うのは「まかない付き」というところでしょう。kashiwayaでは、朝食(平日毎食分)と夕食(平日10食分/月)のまかないが提供されます。約4年間飲食店を経営しながら、地域のつながりを生み出してきた古谷さんが運営しているからこそ、地域に根差したメニューとなっているようです。

「2拠点居住をしているメンバーが、朝ごはんに見たことのない野菜が使われていることで地域の食を感じたり、食事の場をともにすることで入居者同士の密なコミュニケーションが生まれたりしているようです」と古谷さん。

同じ場所に暮らすことで生まれるつながりは、kashiwayaの外にも波及しています。

「ささいなことなのですが『今日、畑に行くけど一緒にどう?』というようなコミュニケーションは一緒に暮らしているからこそ生まれるのだと思います。そして、その先でまた地域の人とのつながりが生まれるのを、日々目の当たりにしています」

ある日のまかない(シェアハウスと食堂kashiwaya  SNSより引用)

移住者と地元住民との距離がどんどん縮まっている

kashiwayaオープンから数カ月。入居者たちと地域の人たちとの関係は「驚くほど良好」だと話す古谷さん。「正直言って『こんなにうまくいくんだ!』と驚いています。地元の人たちが、元からのご近所さんに接するのと同じように、kashiwayaの住人たちに野菜を分けてくれたり、畑を手伝ってくれたり、いわゆる普通の近所づきあいが自然と生まれているんです」それはここ数年で、地域の人が「移住者」を特別視しなくなった町の環境に由来するのではと古谷さんは考えます。

古谷さんが楢葉町に移住し、飲食店「結のはじまり」をオープンした2017年頃は、楢葉町に帰還した町民もまだ多くはなく(約2,000人)、町に住む人のほとんどは復興作業で働きに来ていた人たちでした。そんな中、復興作業ではなく自分の意志で移住してきた古谷さんのような人は非常に珍しい存在だったのです。「地域の人に理解してもらうために自分が何者なのか、何をしたいのか常に伝え続けなくてはならなかったように思います」と振り返る古谷さん。おそらく町の人も「移住者」との距離感を測りかねていた時期だったのではないでしょうか。

その後、楢葉町はインフラ整備、地元の事業者やコミュニティの再建などが進み、2022年9月30日現在では移住者を含む新規転入者を含めた町内居住人口が4,200人超に。子育て世帯の帰還や移住も少しずつ増え、2022年4月には小学校が新たに開校する(それまでは児童・生徒の少なさから、中学校の校舎に小・中学生が通っていた)など、震災前に近い日常が戻ってきています。

そういった中で、地域の人が「移住者」を特別扱いすることなく、引っ越してきたご近所さんとして接してくれていることは、古谷さんにとって驚きとともに大きな喜びでもあるようです。

移住者自身が地域に溶け込むきっかけをつくれる場所

kashiwaya菜園部以外の活動として、kashiwayaを「1日限定カフェ」としてオープンする試みも行われています。コーヒー焙煎を専門に学びながら双葉郡内で開業を目指す入居者と、スイーツづくりが得意なkashiwayaサポートスタッフとの自主企画で、これまでに2回開催されています。このカフェの運営には古谷さんはタッチしていないそうですが、毎回20席ほどのテーブルは満席になり、縁側まで人があふれるほど。お客さんとして来た古谷さんがそそくさと退席するほどの大盛況でした。

「食堂部分をどのように活用していくかはまだこれからだと思っていますが、kashiwayaのみんなが自由にやってくれることで、人が集まってつながりが生まれるのはうれしいです」と古谷さん。また、kashiwayaメンバーも「古谷さんが理解してくれているから、自由にやれているんです」と話します。

実際に1日カフェを見学して、kashiwayaを訪れる多くの人たちと触れ合う機会がありましたが、そこで自然発生的に生まれるつながりの速さに目を見張りました。kashiwayaという場の持つ「つながりをつくる」空気を、来た人たちそれぞれがすぐに共有できたようなのです。

kashiwayaに入居した人たちが地域とつながり、kashiwayaのメンバーたちが人を呼び、集まった人たちも地域とつながり、集まった人同士のつながりも生まれる。そんな未来の片りんが見えたような気がしました。

取材・文:山根 麻衣子 撮影:橘 輝

■シェアハウスと食堂 kashiwaya
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▼お問い合わせはこちら
事業母体 一般社団法人ならはみらい(楢葉町移住相談窓口「CODOU/コドウ」)
TEL:0240-23-6271 (受付時間:月~土 9:00~17:00 ※祝日、第2・4火曜日を除く)
運営管理 株式会社結のはじまり
TEL:080-3325-2131(受付時間:月~土 10:00~17:00 ※祝日を除く)

※「シェアハウスと食堂 kashiwaya」は、入居者のプライベートな住居であるため、常にオープンな状態ではありません。訪問の際には、事前に結のはじまりへお問い合わせください。

■古谷さんの移住ストーリーは過去のMAGAZINE記事でも紹介しています
https://mirai-work.life/magazine/653/