生活・その他

地域と子どもをつなぐ「楢葉町地域学校協働センター」

2024年1月16日
楢葉町
  • 子育て

楢葉小学校にある楢葉町地域学校協働センター(以下、センター)は、楢葉町の地域と子どもたちをつなぐ拠点です。子どもたちが地域でやりたいことを、そして地域住民が子どもたちとやりたいことを叶えていく。それらの活動を通し、地域のコミュニティづくりにもつなげているセンターの活動をご紹介します。

地域の有志が日替わりでプログラムを実施

センターが運営する「ならはっこ 子ども教室(以下、子ども教室)」には、放課後になると元気なあいさつの声とともに、子どもたちが次々と飛び込んできました。出席のサインをもらうと、トランポリンを始めたり、ドリルを広げて勉強したり、卓球を始めたり。瞬く間に各々の好きなことを始めていきます。

そして決まった時間になると、日替わりで絵手紙や墨絵、伝統芸能などの教室がスタートします。この教室は日替わりで平日ほぼ毎日開催されているプログラムで、「子どもたちとこれをやりたい」と参加してくださる地域のみなさんと共に活動します。

子ども教室に登録しているのは、全校児童133人のうち118人。共働き世帯など利用が限られている学童保育とは違い、登録に家庭状況は問いませんし、費用もかかりません。プログラムが終われば、集団下校です。興味のあるプログラムに自由に参加できる場ではありますが、多いときは70人、平均で30~40人の子どもたちが集まってくるそうです。

楢葉町教育委員会指導主事で、2022年4月のセンター立ち上げ時からセンター長を務めているのが猿渡(さるわたり智衛さんです。神奈川県や青森県などで放課後の子ども支援事業の立ち上げに携わった経験などを活かし、センターの運営を担っています。教員としても、楢葉町の小学校に2年務めていた経験があります。子どもたちからは「猿ちゃん」と慕われ、時間になるとスーツから動きやすい格好に着替えて子どもたちを待ちます。

壁には所せましと写真が貼られている

地域から寄せられる声は、全部実現させたい

楢葉町は、東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故により全町避難を余儀なくされ、2015年9月に避難指示が解除されました。そうした背景から、楢葉小学校にはまだ解除後に楢葉町で生まれた児童は1、2年生だけです。

「子どもたちは楢葉町に対してふるさと感というものが薄いと感じます。地域の大人にとっても、震災前まであった子どもたちとの接点がなくなってしまいました」と猿渡さん。楢葉小学校と楢葉中学校は避難指示解除後、基本的にスクールバスでの登下校が続いたため町内では子どもが通学する姿があまり見られず、地域の大人は寂しい思いをしていました。

2022年4月に立ち上げられたセンターの大命題は、地域と子どもたちをつなぎ、まち全体で子どもを育てていくこと。そして地域のコミュニティの再形成につなげること。

それを実現させる第一歩が、地域や保護者の声を教育現場に取り入れることです。町では、一般の方も多く入った委員41人で構成される「学校運営協議会」を立ち上げたほか、3ヵ月に一度は町内のこども園や学校で給食を食べられる「スクールランチプロジェクト」を実施するなど、教育の場を積極的に地域に開いています。これが、楢葉町の地域と教育の場をつなぐ機会になっているのです。

教育現場ではすくいきれない要望を実現するのもセンターの仕事です。猿渡さんは「地域から出た声は全部実現させたい」と話します。子ども教室で行われるプログラムのほか、自然散策や釣り、キャンプなど、休日に学校の外に遊びに行く「ネイチャーサタデー」もその一つで、こども園の園児や中学生も参加できます。「これだけいろいろな要望が来るということは、町の人は子どもたちとやりたいことがたくさんあったのでしょうね」。学校の授業ではカバーしきれない震災や防災の学習も取り入れてきたことから、福島大学からの誘いで「ぼうさいこくたい2023」に出場したりと、町外での活動も広がっています。

また、2022年には町の伝統行事「大瀧神社の浜下り」に参加し、震災後初めて子どもみこしを復活させました。震災前は自治会ごとに子どもみこしが担がれていましたが、子どもが減った今の状況で継続は難しく、何とかできないか、との声が上がったことがきっかけでした。

もちろん、子どもたちの要望にも答えます。センター内に設置されている、楢葉町のマスコットキャラゆず太郎が描かれた「ゆずボックス」には、「けん玉がしたい」「パンを作りたい」などといった子どもたちの要望が寄せられます。

ゆずボックスに子どもたちから寄せられたリクエスト。実現できたものには印がついている

最近では、子ども教室と楢葉町振興公社でゆずジュースを開発したり、楢葉町商工会と一緒にオリジナルエコバックを開発したりする「探究トライアル」の活動も始まりました。どちらも、子どもたちの要望をもとに、センターが地域に声をかけて始まったプロジェクトです。

「子ども教室は、勉強だけではなくいろいろな力をつける場にしたいと考えています。楢葉町内には習い事も塾もあまりありません。でもここに来れば、地域の人から教えてもらっていろんな活動を体験できますし、自分のやりたいことを提案して実現できる。偏らない部活のようなイメージですかね」

親と地域、親同士の交流も活発に

センターの開設から間もなく2年。これまでセンターの活動に関わってくれた一般の方の数は、町内外で延べ700人ほどになりました。常時関わっているのは40人ほど。「子どもと関わることが生きがいになっている」という声も上がっているのだそう。センターの仕事の一つである登下校の見守りに手を上げてくれる人も増えてきたといいます。

子どもと地域だけではなく、親と地域の関わり合いも生まれています。子連れの移住者も多い楢葉町。平日は忙しい親も、子どもとネイチャーサタデーに参加すれば、地域の人や同世代の親とつながりができる。一度は途切れてしまった地域のコミュニティがふたたび結ばれる機会を着実につくっています。

「楢葉町はこども園、小学校、中学校が1つずつしかないので、幼稚園から中学校まで人間関係が固定されます。メリットとしては安定した人間関係が維持されやすく、学級崩壊やいじめは見られないし、小学校入学、中学校入学のプレッシャーも少ないことが挙げられます。

でも、裏を返せば多様性が少ない。だからこそ、そこは、地域の方との関わり合いで補完したいと思います。人とつながりたい、もっと多様な体験をさせたいという人には、非常に良い町です。ぜひ学力だけでない、多様な力を育てたいと考えている多くの親子に移住してほしいと思います」


■楢葉町地域学校協働センター
所在地:楢葉町下小塙麦入31(楢葉小学校1階)
TEL:070 – 7421 – 5156
移住希望者の見学も随時受け入れています。

※所属や内容は取材当時のものです。
文・写真:五十嵐秋音