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【イベントレポート】地域資源をいかして生業をつくる。福島ローカル起業物語 part 1~自分のお店を持つ~

2023年3月3日

「福島12市町村移住支援センター」では、さまざまなテーマで移住セミナーを開催し、移住希望者に向けた情報発信を行っています。

「福島ローカル起業物語」は、起業に興味がある人に向けて2023年2月15日(水)と2月22日(水)の2回にわたり開催された、オンラインイベントです。この記事では、「自分のお店を持つ」をテーマに、レストラン、洋菓子店、居酒屋を営むゲストをお招きして、起業・開業の経緯ややりがい、福島12市町村の事業環境などについて伺った、第1回の開催の模様をお伝えします。

ゲストによるプレゼンテーション

まずは、ゲストのみなさんに、起業に至るまでの経緯や事業内容についてお話しいただきました。

夫婦2人で歩む、地域に根付いた飲食店
吉川未来さん|Restaurant MADY(マディ)
福島県浪江町出身。15歳の時に東日本大震災・原発事故を経験する。教師を目指していたが大学生の時に方向転換。飲食店でのアルバイトを始め、卒業後は飲食業界へ。2018年に結婚し、夫婦経営の飲食店開業を決意する。大学進学以降暮らしていた埼玉県川越市から福島県南相馬市へ移住し、2022年3月に創作洋食レストラン「Restaurant MADY」を開業。

吉川さん「学生時代に飲食店でアルバイトをしている時に、私が今でも“師匠”と慕っている方と出会って、飲食業に興味を持ちました。仕事を続けていくうちに『自分のお店を持ちたい!』と思うようになり、料理と接客のノウハウを学びながら開業資金を貯め始めました。

結婚を機に、夫と二人三脚でレストラン開業を目指し始めたのですが、ちょうどコロナ禍と重なってしまって、予定が後ろ倒しに。2021年の夏、私が先に南相馬市に移住して移住・起業支援金などの申請手続きを始めました。同年12月から店舗改修を始め、翌年には夫も移住して、2022年3月に店をオープンしました。

私は移住先の南相馬市が実施する移住関連支援制度をフル活用させていただきました。おかげで予定よりも支出が少なく済んで、心に余裕が持てたのがありがたかったです。ただ、開店準備と並行して申請手続きをしていたので、かなり時間と労力がかかり、その当時は大変でした。

特に、支援金の申請時に事業計画書を求められるのですが、私は数字が苦手なので本当に悩まされました。ただ、数字を算出することで、より具体的にお店の経営や将来をイメージできるようになったので、これから開業予定の方は、支援金を申請するか否かに関わらず、しっかり事業計画を作り込んでおくことが大切だと思います。

『マディ』という店名は、福島の方言『までい』から来ています。手間ひまを惜しまず、丁寧に、という意味です。商売をする上でとても大切なことだと感じて名付けました。リーズナブルな価格、地元の新鮮な食材、温かな雰囲気づくりを心がけています。

実際に店を開いてみると、地域の方や移住者の方など、いろいろな人の交流の場になっていてとてもうれしいです。私は地域復興を志して開業したわけではなく、南相馬市が大好きだからここで開業しました。マディがあることで、結果的にまちの活性化や復興の一助になればと願っています。今の目標はマディを南相馬で20年続く飲食店にしていくことです」


私が私らしく生きるための起業
横須賀直生さん|おかしなお菓子屋さんLiebe(リーベ)
福島県楢葉町出身。高校卒業後、東京の製菓専門学校へ。パティシエとして神奈川・東京・千葉・ドイツ・茨城で経験を積む。2019年、夫と2人の子どもとともに楢葉町にUターン。2020年5月に「おかしなお菓子屋さんLiebe」を開業し、同年に第3子を出産。店舗営業のほか、イベント出店や商品開発など幅広い活動を行っている。

横須賀さん「自分の店を持つまで、いろいろなところでパティシエとして働いてきました。ドイツで働いていた時に、家族やプライベートを大切にしながら働く現地の人たちの姿にとても感動して、それが自分の働き方を考え直す大きなきっかけになりました。

これからどんなふうに暮らしたいのか、どこで子育てをしたいのか、夫と話し合った結果、私の出身地である楢葉町で店を開くことに決めました。

開業に向けてすべきことはたくさんありますが、もっとも大切なのは、明確なコンセプトを持つことだと思います。私は『お菓子から始まる笑顔から笑顔へ』というコンセプトを作りました。『事業を通して自分は何がしたいのか?』と自問自答をくり返すことで、コンセプトも起業のイメージも固まりやすくなると思います。

それから、とにかく多くの人に会って積極的に相談することも大切です。地域の商工会に相談に行った時は、その地域で開業する注意点などについてイチからとても優しく教えていただきましたし、移住・起業支援金制度についても詳しく知ることができました。福島12市町村は手厚い移住支援が受けられる地域なので、ぜひ活用してみてください。

私が店をオープンしたのは、新型コロナウイルスがはやり始めた頃でした。当初はお菓子教室と誕生日ケーキの受注販売の業態にしようと思っていたのですが、そんな時世ではなくなってしまい、最初の1年は焼き菓子の販売のみでどうにか生計を立てました。その後も状況が変わらず、思い切って菓子店に方向転換をして、生菓子の販売も始めました。今は店頭販売だけでなく、イベントの出店や、地元の中学校や郡山女子大学など地域の人たちとの共同による新商品開発も行っています。事業計画の通りには進んでいないのですが、今ではハプニングも楽しむくらいのおおらかな心持ちでいます。

今後は、従業員を増やして誰もが『ここで働けて良かった!』というお店にしていきたいです。楢葉町で長くお店を続けて、地域の子どもたちが大人になった頃、『久しぶり!』と遊びに来てくれるような店にできたら理想ですね」


周りの人の幸せが自分の幸せ
川口 雄大さん|川口商店、サウナ発達
福島県南相馬市出身。震災後、家業の米穀店「川口商店」が休業を余儀なくされたことをきっかけに、屋号を継承し飲食店を開業。地域の人たちの声に耳を傾けながら、サウナ施設「サウナ発達」や宿泊施設なども立ち上げる。

川口さん「東日本大震災が起こるまでは、『自分は何だってできる!』という気持ちだったのですが、大自然の圧倒的な力を見せつけられて『とてもかなわない』と心底思いました。年に一つでいいから、自分にできることを着実に増やすような生き方をしたいと考えるようになったんです。

とりあえず地元に戻ってきたものの、何をしていいのかまったく分からなかったので、地域の人に手当たり次第に『今、何を求めているのか?』『どんな場所がほしいのか?』『どんな町にしていきたいのか?』と、尋ねて回りました。

その結果、飲食店の開業を決意しました。当時は原発関連の復興作業員の方がたくさんいらっしゃって、地域の飲食業界は盛り上がっていたのですが、夜遅くまで営業しているところがなかったからです。それなら、この町で一番遅くまで営業する店を作ろうと決めました。その時も、お店の作り方なんて分からないので、出会う人出会う人に『飲食店を開きたいんです』と言っていました。すると、『手伝ってあげるよ』『教えてあげる』という人が集まってきてくれて、自分たちで工事をしてオープンさせることができました。

起業は大変なことが多いですが、一人で考え込み過ぎないようにした方がいいと思います。何もできない自分を認めて、できないことはできる人に任せる。自分の武器は、事業を走らせながらでも見つけられると思います。まさに私がそうでした。今の自分にできることは、飲食店とサウナ施設の経営です。それらを通じて、地域の力になれたらと願っています。

震災後、自分の幸せについて考えるようになりました。自分だけお金持ちになっても、それは私にとっての幸せではありません。大切な人、周りの人が幸せであることが自分の幸せです。そのために、自分にできることをこれからも模索し続けていきたいです」

トークセッション

トークセッションでは、「NPO法人 グリーンズ」の植原正太郎さんが司会者となり、各ゲストの話を深掘りしました。

植原正太郎さん|「NPO法人 グリーンズ」共同代表
1988年4月宮城県仙台市生まれ。2014年10月よりWEBマガジン「greenz.jp」を運営する「NPO法人 グリーンズ」に参画し、2020年4月より共同代表に。「greenz.jp」では、福島12市町村で起業した人にスポットを当てて紹介する連載企画「ふくしま12ローカル起業物語」が進行中。

―お店を開業することはできても、「続けていく」のは簡単なことではないと思います。事業を継続させていくために心がけていることはありますか?

吉川さん「臨時休業はお客さまをがっかりさせてしまうので、体調管理には本当に気をつけています。起きる時間と寝る時間を一定にして、平日も休日もだいたい同じサイクルで過ごすようにしています。最近は健康維持のためにサウナにハマっています。川口さんの『サウナ発達』にも近いうちにお邪魔する予定です」

横須賀さん「3人の子どもたちときちんと向き合う時間を作りたいということも、起業を決意した大きな理由だったので、仕事と家族との時間のバランスを意識しています。仕事にのめり込みすぎているな……と感じたらブレーキをかけて、家族とゆっくり過ごすようにしています」

川口さん「お客さまには心から『この場所に来てよかった』と思ってほしいので、そのための準備を徹底しています。本当にここにしかない料理なのか、似たようなお店はないのか……。いつも考え続けています。その結果、お客さまに喜んでいただけると、本当にうれしいです」

―起業を考えている方へメッセージをお願いします。

吉川さん「福島12市町村で起業して本当に良かったと思っています。何かやりたいことがあるのなら、支援金を含め、万全のサポート体制が整っているこの地域は、とてもおすすめです」

横須賀さん「私でも起業することができたので、起業すること自体はそんなに難しいことではありません(笑)。地域のみなさんも優しい方ばかりなので、まずは遊びに来て、相談してみてください。起業して、人生を謳歌(おうか)してください」

川口さん「何の経験もなかった私でも飲食店を開くことができました。これから移住して来られるみなさんの事業が、世の中を面白くしていくと信じています。南相馬に来ることがあれば、ぜひお話ししましょう!」

移住・起業支援制度

福島12市町村では、移住・起業を希望する方に対し、さまざまな支援制度を設けています。

特に「福島県12市町村起業支援金」では、起業に掛かった補助対象経費の4分の3以内、最大400万円の補助が受けられる、全国的にもトップクラスに手厚いサポートを実施しています。ぜひご活用ください!

■「福島ローカル起業物語」のアーカイブ映像はこちら
part1「自分のお店を持つ」
https://mirai-work.life/startup/event/230215/
part2「スキルをいかして起業する」
https://mirai-work.life/startup/event/230222/

■福島12市町村移住支援制度一覧
https://mirai-work.life/support/

■福島12市町村移住支援金制度
https://mirai-work.life/support/relocation/

■ふくしま12市町村移住支援交通費等補助金
https://mirai-work.life/support/transportation/

■福島12市町村起業支援金
令和5年度の事業概要
https://mirai-work.life/magazine/5709/