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【移住体験ツアーレポートin田村市&葛尾村】新しい産業の息吹と地域の人の温かさを知る葛尾村での1日をレポート!

2025年12月16日

去る2025年11月15日(土)から翌16日(日)にかけ、福島12市町村への移住に興味をもつ19名の方々が参加し、移住体験ツアー「ふくしまの笑顔とあなたの未来を重ねる旅 in 田村市&葛尾村」が開催されました。ツアーでは、都市部の魅力と自然の豊かさを兼ね備えた田村市を1日目に、新しい産業が根付き始めるなど変化を続ける葛尾村を2日目に訪問。このうち、葛尾村を訪ねた2日目の様子をレポートします。

年間30日まで宿泊可能なお試し住宅からスタート

葛尾村は標高450mほどの山あいにある静かな村です。近年、従来から盛んだった農業や畜産業に加えて新たな産業が根付き始め、移住者も増えるなど、新たな活気が生まれ始めています。

田村市内の宿泊施設に泊まった参加者は、まず葛尾村の移住生活体験住宅(お試し住宅)を訪問しました。村の中心部から車で5分ほど離れた静かな環境のなかにあるコテージ風の建物です。

お試し住宅では、葛尾村移住・定住支援センター「こんにちは かつらお」の移住支援員、坂本光史さんが出迎えました。坂本さんから、年間最大30日まで宿泊できること、エアコンやテレビ、冷蔵庫などの家電製品や寝具が常備されていることなどの説明を受けたあと、内部を見学しました。

「こんにちは かつらお」の坂本さん。ご自身も東京からの移住者

お試し住宅は3LDKの間取り。1階はリビング&ダイニングと和室が2部屋、キッチンやバスルーム、トイレなどの水回りが整っており、2階には8畳ほどの部屋が一つあります。この日の葛尾村の最低気温はほぼ0℃。真冬にはさらに冷え込みます。参加者からは冬場の寒さ対策について質問が出ました。お試し住宅にはエアコンに加えファンヒーターがあること、ファンヒーターに使う灯油は村内のガソリンスタンドで簡単に調達できることなどが紹介されました。

(撮影:和田学)

葛尾村移住生活体験住宅(お試し住宅)については、以下の記事でより詳しくご紹介しています。
葛尾村の田舎暮らしを体験できるコテージ風「お試し住宅」

山村から世界を目指すエビ養殖場を見学

続いて参加者は、村を見下ろす高台に造成された葛尾村産業団地へ。ここには、エビの陸上養殖に取り組む株式会社HANERU葛尾が拠点を構えています。純白の大きなハウスのなかに水槽を設置した国内最大級の陸上エビ養殖場で、身が柔らかく強い甘みが特徴のバナメイエビを養殖しています。

出迎えてくれたのは、代表取締役社長の松延紀至(まつのぶ のりゆき)さんと、養殖の現場を担当する大藪智樹(おおやぶ ともき)さんです。一行は2班に分かれ、1班は松延社長からHANERU葛尾の事業の説明を、もう1班は大藪さんから養殖の現場について話を聞きました。

松延紀至社長(右)と大藪智樹さん

HANERU葛尾の「HANERU」とは、葛尾村など福島県相双地方の方言で走ることを意味しています。松延社長は社名に込めた意味について、「葛尾村を拠点に世界を駆け回るような事業にしたいと考えた」と説明。また、葛尾村に新しい産業を定着させて雇用を創出し、村への移住を検討する人が仕事の面でも安心できる環境を整えたいとも語りました。

一方、大藪さんの案内で施設のなかへ入った参加者たちは、バナメイエビの成長の過程を見学しました。大きな水槽のなかでエビが元気に泳ぐ姿を見たあと、金魚すくいならぬエビすくいにチャレンジ。それぞれ童心に返り楽しいひとときを過ごしました。大藪さんからは、社員のほとんどが県外からの移住者であることや、車で30分ほど足を伸ばせば隣の田村市中心部に商業施設がまとまっており、生活に必要な買い物がそろうこと、仕事のやりがいなどの話を聞きました。

HANERU葛尾をあとにした一行は、村の中心部にある葛尾村復興交流館あぜりあへ。東日本大震災からの復興を目指す村のシンボルとして2018年にオープンしたこの施設で昼食をいただきます。

用意されていたのは、先ほど目にしたばかりのバナメイエビを使ったエビカツバーガー「うとちゃんバーガー」と、バナメイエビのエビマヨソースで味付けされた豚カツバーガー「しみちゃんバーガー」のセット。「うとちゃん」は福島県会津地方・柳津町(やないづまち)のキャラクター、「しみちゃん」は葛尾村の公式イメージキャラクターで、それぞれのキャラクターがパッケージにデザインされてます。この2つを組み合わせたバーガーが、両地域名の頭文字『柳(やな)』と『葛(かつ)』から名付けられた「柳葛(やなかつ)バーガー」です。東日本大震災後の避難指示によって、葛尾村の人々は柳津町などに避難をしました。そのご縁をきっかけに誕生した、ボリューム満点のバーガーセットです。

するとそこに、HANERU葛尾の松延社長が大きな発泡スチロールの箱を抱えてやってきました。箱のなかにはエビがぎっしり。新鮮なエビをその場で素揚げにして参加者に振る舞ってくれました。村に生まれた新しい特産の味に参加者全員大満足の昼食となりました。

2人の先輩移住者から村での生活を学ぶ

昼食後は、先輩移住者を迎えた移住者交流会が開催されました。ふくしま12市町村移住支援センターの職員が移住支援の取り組みを紹介したあと、「こんにちは かつらお」の坂本さんが葛尾村の概要や移住支援制度について解説。続いて、2人の先輩移住者が登壇し、自らの移住経験を語ってくれました。

最初に登壇したのは、菊池未央さん。2024年、東京都世田谷区から、ご主人と当時小学4年生の娘さんの3人で葛尾村に移住しました。現在は、葛尾むらづくり公社の事業コーディネーターを務める一方、保育士だった前職の経験を活かして子育てを支援する任意団体「moco」を立ち上げ、田村市を中心に子どもやその保護者をサポートする事業を展開しています。

菊池未央さん

菊池さんご家族の移住のきっかけは、息子さんが15歳で福島県相馬市で漁師になり、相馬で一人暮らしを始めたこと。子どもの自立と成長に干渉をしない範囲で少しでも近くに暮らし、何かあったときにはしっかりサポートしてあげたい。そんな想いで移住先を探し、相馬市から車で1時間半ほどの葛尾村を選びました。

「娘は村の皆さんに大切にしていただいていて、子育て世帯にやさしい村だと感じます。山のなかの田舎なので不便なこともありますし、冬の寒さもあります。でもその分、村の皆さんがいろんなことを助けてくれます。おかげで、東京にいたときのようなストレスはなくなりました」(菊池さん)

続いて登壇したのは、阪本健吾さん。兵庫県西宮市出身で、広島県の大学を卒業後に旅行会社に就職。島根県内で勤務したのち、2022年に葛尾村に移住しました。福島との最初のつながりは、大学時代に震災・原発事故の被災地域をフィールドとしたスタディツアー「ホープツーリズム」に参加したこと。コロナ禍で旅行の需要が減った時期に福島での経験を思い出し、葛尾村への移住を決意しました。

阪本健吾さん

阪本さんは現在、葛尾村の地域資源を活用した多様なプロジェクトを展開する一般社団法人葛力創造舎で、アーティストの葛尾村への移住・定住を促進する事業「Katsurao Collective」のPRに携わりながら、村の将来を担う一人の若者として交流の輪を広げています。

「地域に貢献したいと思って移住してはみたものの、自分の存在が村のためになっているのか、最初は不安を感じることもありました。しかしあるとき、村の方が、僕の何気ない日々の行動を見てくれていて、“ありがとう”と言ってくれたんです。人口が少ない分、自分の頑張りが見えやすく、頑張りがいがある村なのだと思います。村内に小売店や飲食店はあまりありませんが、ネットショッピングを使えば欲しいものは手に入りますし、たまには買い物で遠くまでドライブに出かけるのもいい気分転換になっています」(阪本さん)

以下の記事では、阪本さんについてより詳しくご紹介しています。
人とアートに囲まれて。葛尾村で「今」起きていることを伝えたい

参加者は、配布された資料に目を通しながら先輩移住者のリアルな体験に耳を傾け、自身の移住のイメージをそれぞれに膨らませているようでした。

ワークショップで移住への想いを言語化

それぞれのお話を聞き終わったあとは、参加者が4つのテーブルに分かれ、菊池さん、「こんにちは かつらお」の移住相談員、ふくしま12市町村移住支援センターの職員が各テーブルをまわって、葛尾村での暮らしや移住の心得などについてディスカッションする時間が設けられ、和やかで活発なやりとりがおこなわれました。

その後、交わされたやりとりをもとに簡単なワークショップを実施しました。2日間のツアーを通して感じた移住への期待や疑問、不安などを思い思いに書き出し、テーブルごとに発表。それぞれが心に秘めていた移住への想いを言語化することで移住への考え方を一人ひとりが整理する時間を過ごし、すべての行程が終了しました。

最後に挨拶に立ったのは、「こんにちは かつらお」の移住相談員、原伸一朗さん。先ほど先輩移住者として登壇した菊池未央さんのご主人です。原さんは参加者の皆さんにこう呼びかけました。

「私たち家族が葛尾村を移住先に選んだ大きな理由の一つは、移住相談員の方が親身に、ていねいに、温かく接してくれたからです。今は私が相談を受ける立場となり、自分がしてもらったことを、今度は次に移住する方にお返しする番だと思っています。今回のツアーでもし葛尾村に興味をもっていただけたなら、ぜひ私たちにご相談ください」

参加者と話す原伸一朗さん

原さんの想いはこちらの記事でもご紹介しています。
「あなたのことを想っているよ」を伝えたい。葛尾村の移住相談窓口「こんにちは かつらお」

それぞれの気付きを得て帰路へ

ツアー終了後、参加者からは以下のような感想が聞かれました。

「1日目に訪ねた田村市には暮らしの便利さがあり、2日目の葛尾村には田舎でしか感じられない魅力がたくさんありました。それぞれに違う面が見られてよかったです」(東京都からご友人と2名で参加)

「葛尾村は以前も訪ねたことがあり、リアルな暮らしに興味がありました。実際に移住された方の話から、自分たちが移住した場合の生活をイメージできました」(埼玉県からご夫婦で参加)

一人ひとりがそれぞれに、移住への新たな気付きを得て帰路についたようです。

2025年度の「未来ワークふくしま移住体験ツアー」は全7回開催され、残るは2026年1月24日(土)~25日(日)、浪江町と南相馬市でのツアーを予定しています。詳しい情報は「未来ワークふくしま」のウェブサイトでご確認いただけます。
ふくしま12市町村移住体験ツアー | 未来ワークふくしま

このレポートをご覧になり福島12市町村への移住にご興味をおもちになられたら、ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか。

※内容や所属は取材当時のものです
写真・文:髙橋晃浩