独自の教育プログラムでグローバル人材の育成に取り組む広野町が描く未来

広野町では、子どもたちが故郷に誇りや興味を持つための教育活動の一環として、独自のグローバル人材育成プログラムを行っています。外国人との交流の機会を継続的に提供することで英語に対する子どもたちのハードルは下がり、「英語が好き」と答える子どもの割合は福島県全体の平均を上回っています。その取り組みの背景と成果をご紹介します。
小学生から段階的・継続的に国際経験の場を提供
グローバル人材を育成する広野町の取り組みはさまざまあります。そのなかでも子どもたちに浸透しているのが、福島県天栄村にある語学研修施設「ブリティッシュヒルズ」での異文化交流体験です。小学5年生から中学2年生までの4年間、1年に一度、1泊2日で英語でのコミュニケーションやマナーを体験します。4年にわたり段階的・継続的に体験を積み重ねることで、より高いレベルでの英語力とコミュニケーションスキルの習得を目指します。

初めての参加となる小学5年生は、最初は講師の話す内容がわからず、戸惑いの表情を見せることもあります。しかし、夕方にもなれば少しずつ緊張が解け、自分で話を始めるようになるのだとか。その子たちが6年生になると、今度は5年生に対して施設での過ごし方を教えてあげるといったサイクルも生まれているそうです。広野町教育委員会学校教育課 課長補佐兼学校教育係長兼指導主事の寺島克彦さんは、「連続した学びがプラスに働いている証拠」と話します。
中学生になると、いわき市にある東日本国際大学の留学生と授業を通して交流します。1年に5~6回程度、留学生に中学校まで来てもらい、4校時から給食、昼休みを挟み5校時までの時間を一緒に過ごします。協力しながら理科の実験をしたり、ゴミ問題などの社会課題について討論したりと、実際に授業に参加してもらいながらコミュニケーションを図ります。さらに、食事や休み時間も一緒に過ごすことで、単なるカリキュラムの枠にはまらない交流を目指します。給食の時間、留学生は配膳にも参加するそうです。
「留学生の授業参加は現在中学校でのみ実施していますが、保護者の方からは“小学校でもぜひやってほしい”というお声をいただいています」(寺島さん)

海外を知れば、故郷をもっと好きになれるはず
広野町のこれらの取り組みは、2020年度から2024年度までの5ヵ年で計画された「第2次広野町教育ビジョン」にある「グローバル人材育成推進事業」の一貫として実施されています。事業の根底には、東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故からの復興に取り組む特殊な地域環境のもとで生活する子どもたちに故郷や地域をしっかり学んでもらいたいとの想いがあります。
「自分たちの故郷を知るためには、比較対象として海外のことを知る必要もあるはず。また、海外を知れば自分たちの故郷を深く理解でき、より好きになれるはず。そんな発想から事業がスタートしました。
同じ福島12市町村内の浪江町にF-REI(福島国際研究教育機構)が開設され、今後はこの地域に海外の方も多くやってきて共同研究が行われることになっています。海外からこの地域に来て働く方も増えていくでしょう。そうなれば当然、海外の方々との交流が増えます。しかし、受け入れる側となる子どもたちが地域の文化を理解していなければ共存は難しいはず。この地域の将来のためにも、子どものうちから世界に目を向けることは欠かせない取り組みだと考えています」(寺島さん)

英語=勉強と捉えるのではなく、英語そのものに興味や関心を持ち意欲的に取り組む子どもが、広野町では確実に増えています。文部科学省では毎年、小学6年生と中学3年生を対象に『全国学力・学習状況調査』を実施しています。その結果、広野町では「英語が好き」「将来英語を使った職業に就きたい」といった回答が福島県の平均よりも多いそうです。
また広野町では、若い世代の意見を町政に反映させるため、広野町議会の議場を使って町と中学生が意見を交わす「広野町子ども議会」を毎年開催しています。その議案の一つとして「町内の観光掲示板などに英語の表記があったほうが良いのではないか」という意見が出されたこともあったとか。これもまた、グローバル人材育成事業の一つの成果といえるでしょう。
異文化と身近に交われる環境が子どもを大きく成長させる
2025年1月現在、広野町では、町立広野小学校に約140名、町立広野中学校に約120名が通っています。小学生は幼少時から町に在住していた子どもがほとんどですが、中学生のうち約半数は、町内にある日本サッカー協会(JFA)運営のJFAアカデミー福島に参加するために広野町へやって来た子どもたちです。彼らはクラブに参加する時点で世界を意識しており、必要なスキルとして英語にも非常に高い興味や関心を持っているといいます。この点からも、広野町がグローバル人材の育成に取り組むことの意義は大きいと寺島さんは言います。
「JFAアカデミー福島の子どもたちの存在は、町の子ども達にとって良い刺激になっているはずです。北海道から沖縄まで、全国各地から未来のプロ選手が集まってくることで、それぞれの地域の文化や歴史、言葉、考え方に触れることができます。自分と異なる文化と交わる機会にあふれた環境は、きっと子どもたちに広い視野を与え、大きな舞台で活躍できる大人へと成長させてくれるはずです」
なお、町内には県立のふたば未来学園中学校もあり、約180名が在籍しています。ふたば未来学園には寮があり、こちらにも県内外から生徒が集まっています。

2025年度以降も「第3次広野町教育ビジョン」として引き続きグローバル人材の育成に取り組む広野町。子どもたちが英語を聞いて理解する力はこれまでの活動で向上していますが、自ら発信する力はまだまだ足りないのではないかと寺島さんは語ります。今後は広野町のホームページなどを活用し、英語を用いて周囲に発信する機会を増やしていく予定です。
「コンパクトな町なので行政のケアが細かいところまで行き届きやすく、町への要望が迅速に伝わりやすいのが広野町の魅力」と寺島さん。教育に関しても同じことがいえます。一人ひとりの顔がわかる、子どもにしっかりと目配りができる教育環境が、広野町には整っています。
■広野町教育委員会
所在地:〒979-0402 福島県双葉郡広野町大字下北迫字苗代替35(広野町役場内)
https://www.town.hirono.fukushima.jp/chousei/kyouikuiinkai/index.html
TEL:0240-27-2111 (広野町役場代表)
※内容は取材当時のものです
文・写真:髙橋晃浩 写真は一部広野町提供