生活・その他

太鼓の力で地域をひとつに。広野昇龍太鼓がつなぐ広野町の人と伝統

2026年4月8日

2026年3月15日、広野町中央体育館で「第2回 双葉郡太鼓祭り」が開催されました。このイベントは、東日本大震災によってバラバラになった地域の人々のつながりを再び強め活気を取り戻そうと2025年に始まったものです。双葉郡の太平洋沿岸に位置する5つの町(浪江町・富岡町・楢葉町・広野町・双葉町)から和太鼓団体が一堂に会し、日頃の練習の成果を披露します。地元開催となった広野町の太鼓団体「広野昇龍太鼓」の練習に伺い、代表の西本久雄(にしもと ひさお)さんに、活動や演奏に込める想いを聞きました。

もっとも熱量の低かったメンバーが太鼓のとりこに

力強く響く太鼓の音は聴く人の心を揺さぶり、その場の空気を一つにします。浪江町・富岡町・楢葉町・広野町・双葉町にはそれぞれに30年前後の歴史をもつ和太鼓団体があり、地域のお祭りやイベントなどで演奏を披露してきました。

広野昇龍太鼓は1994年、地域の新たな文化づくりの一環として立ち上げられました。現在は、毎週金曜日の夜、広野町の二ツ沼体育館で練習を行っています。

代表を務める西本さんは、創設から4年経った1998年に広野昇龍太鼓のメンバーとなりました。しかし、太鼓の経験があったわけではなく、「興味をもったことすらなかった」と振り返ります。

「当時の代表に“お前もやれ”と言われて、半ば強制的に入らされたんです。歴代のメンバーのなかで私がもっとも熱量が低かったと思います」

しかし、活動を続けるなかで少しずつ意識が変わっていきました。

「太鼓というものは、作法を守って、礼儀正しく、正確に演奏しなければならないものだと思っていました。しかし、プロの方に指導していただく機会などを通じて、太鼓は自由に楽しんでいいものだと知りました。そこからは太鼓への向き合い方が大きく変わりました」

西本久雄さん

もともとは人前に立つことが苦手だったという西本さん。しかし、経験を重ねるうちに太鼓のとりこになり、やがて演奏でも運営面でも中心的な役割を担う存在となります。団体としての演奏活動に加え、将来のメンバーを増やすべく、町内の小学校に出向いて子ども達に太鼓の楽しさを伝える活動にも取り組みました。

震災を乗り越え、平均年齢22~23歳の若いチーム構成に

30年を超える広野昇龍太鼓の活動のなかで一番の危機となったのは、2011年、東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故の発生です。広野町は約1年にわたり全町避難指示が発令され、定期的な練習ができなくなりました。西本さんは避難先のいわき市に太鼓を持ち出し、小学校の体育館などを練習場所として借りながら、できる範囲で練習日を設け、団体の存続を模索したと言います。

しかし、一度途切れた習慣を取り戻すのは容易ではありません。避難から町へ戻っても、以前のようにメンバーは集まらなくなりました。それでも西本さんは、毎週必ず練習場所に足を運び続けたそうです。

西本さんの原動力となっていたもの。それは、「広野町の文化を次の世代へつなぎたい」という想いでした。「自分以外に誰も来なくても、決まった時間に決まった場所で音を出し続けること。それが継続のために必要だと思っていた」と振り返ります。

メンバーの演奏を入念にチェックする西本さん

活動を続けていると、いつの頃からか、1人、また1人と、「メンバーに加わりたい」という若い町民が西本さんのもとを訪ねるようになってきました。彼らの多くは、震災前に小学校で西本さんの指導を受けた子ども達。震災や進学、就職などで一度町を離れた教え子達が町へ戻り、再び西本さんの指導を受けたいと集まり始めたのです。なかには新しい家族や仲間とともにメンバーとなった人もいます。

「10年以上かかりましたが、彼らはちゃんと戻ってきてくれた。伝統を受け継いでいくためには、既存のメンバーのやり方にこだわらず、地道に人材を育て、門戸を広げておくことが大事なのだと実感しました」

現在のメンバーは20代が中心で、平均年齢は22歳〜23歳。高校生や中学生、さらには小学生も在籍するなど、ほかの町の太鼓団体に比べてひときわ若いメンバーが揃っています。

上下関係や先輩後輩のしがらみはなく、「みんな私のことを年長者だと思っていない」と西本さんは笑いますが、技術を磨くことだけでなく、メンバーがそれぞれに安心して楽しめるチームであることも、西本さんが目指してきたもの。メンバーの仲のよさが演奏の一体感につながるからです。

移住者にも仲間になってほしい

練習を重ねて迎えた「第2回 双葉郡太鼓祭り」当日。広野昇龍太鼓は5団体の最後に登場し、5曲を披露しました。

若いメンバーが並んだそのステージは明るく華やか。真剣な表情のなかに時折笑顔も浮かべながら演奏します。会場からは自然に手拍子が沸き起こり、曲が終わるごとに大きな拍手が送られました。

西本さんは、広野昇龍太鼓の演奏の特徴を「ストーリー性のある楽曲が演奏できるところ」と言います。ただリズムを刻み続けるのではなく、楽曲の構成や抑揚を大切にし、流れのある演奏を意識しているそうです。それによって、長い演奏でも最後まで楽しんでもらえるようになると語ります。また、演奏の正確さだけにとらわれずダイナミックに叩くことなど、舞台上での見え方も重視しています。

「メンバーはみんな太鼓が大好きです。でも、自分たちが楽しいだけではダメ。演奏がお客様にどう伝わるか。それを第一に考えています」

西本さんは今も、広野小学校や広野中学校で子ども達の指導を続けています。現在50歳。自分が60歳、70歳になっても団体が活動を続け、町の伝統として根付いてほしい。その願いを叶えるためにも、次の世代への種まきを欠かすことはありません。

また、もともとの町民だけでなく、移住者にもぜひ参加してほしいと言います。

「文化は人と人をつなぎ、地域を一つにするもの。だとすれば、町にルーツがある人か移住者かは関係ありません。興味があればぜひ仲間になってほしいです」

小学生や中学生のメンバーも在籍しており、ともにステージに上がる

広野町には古い安寿と厨子王伝説もあり、豊かな文化をはぐくんできた町です。広野昇龍太鼓も、そうした文化のひとつとしていつまでも残るように。そんな想いを一打一打に込めながら、彼らの演奏活動はこれからも続きます。


■広野昇龍太鼓
練習場所:〒979-0402 福島県双葉郡広野町下北迫大谷地原65(二ツ沼体育館/練習は毎週金曜19時~21時)
Instagram:https://www.instagram.com/hirono_shoryu/

※所属や内容は取材当時のものです。
文・写真:髙橋晃浩