生活・その他

大人も子どもも楽しめる場づくりを。広野町「ドリームファクトリー」

2025年10月1日

お盆の終わりに広野町の多世代交流スペースぷらっとあっとで開催されたイベント「どりーむなつまつり」。会場には100名を超える人たちが集まり、子どもと大人の笑い声や笑顔に包まれた、明るいエネルギーに満ちたイベントでした。

主催したのは、広野町のパパ・ママ有志で結成された任意団体「ドリームファクトリー(以下、ドリーム)」です。季節のイベントを企画したり、みんなでごはんを食べる会を開いたり、大人も子どもも一緒になって地域で集まり、楽しむ場づくりをしています。

ドリームファクトリー代表の村上千種(ちぐさ)さんにドリームを始めた想いやこれまでの話を聞くと、この活動が子どもだけでなく大人にとっても必要な場になっていることが伝わってきました。

子どもを通してつながった大人が本気で楽しむ場

「いらっしゃい!」

会場に響きわたる元気な声で迎えてくれた村上さん。広野町で生まれ育ちましたが、東日本大震災のあと県外へ避難。コロナ禍を経て、地元で暮らしたいとUターンしました。

メイン企画の流しそうめんをするため、会場を明るく駆け回る村上さん

住み慣れた土地だったものの、村上さんは帰ってきた広野町に対して「こんな町だったっけ?」と違和感があったと振り返ります。

「私が子どもの頃は、どこの娘とか孫とかすぐわかっちゃうような地域の人との近さがありました。でも戻ってきてみたら地域での行事はなく、関わり合いが希薄になっていることをすごく感じて、楽しくなくて。

誰かがどうにかしてくれるかなって期待もあったけど、そんなこと言ってたらきっといつまでもできない。だったら自分が地域の人たちと集まれる場所をつくろう!と思ったのが、ドリームを始めたきっかけです」

村上さんが想いを最初に共有したのは、子どもが通う空手教室に来ていたパパやママ達でした。すると「ちぐちゃん(村上さんの愛称)のやってみたいこと、やってみようよ!」と、あれよあれよという間にドリームが結成されたのだとか。

空手教室で出会ったパパ・ママが夏祭りでも大活躍

「『地域のみんなで集まりたい』という想いはあったけれど、具体的にやりたいことがあったわけではなかったので、何をしようかと最初は手探り状態でした。季節のことを中心に考えていたのかな。ハロウィンパーティーやクリスマス会をするとか、畑に行って芋ほりをして料理をするとか、家族だけでやるよりみんなでやったほうが楽しそうなことをイベントにしてましたね。

企画をするときに子どもたちに楽しんでもらいたい気持ちはもちろんあるけど、そうした場づくりを大人が全力で楽しむことも大事にしています。それは仲間からの希望でもありました」

実際、夏祭りで活躍する大人たちはみんな笑顔で楽しそう。名前で呼び合う様子からも関係の近さがうかがえます。同じ広野町出身のメンバーが多く、同郷ならではの子どものころからの関係性もありそうだと想像しましたが、つながりあったのは大人になってからだというので驚きました。

「子どもの頃は一緒に過ごしていなかったけれど、地域の大人たちにしてもらった体験は共通。学校の帰り道に商店街で声をかけてもらったり、遊びを教えてもらったり、親以外の地域の人に気にかけてもらいながら育ちました。今度は自分たちがそういう空間をつくっている感じです」

子どもだって「やってみたい」を形にできる

会場全体に流れる楽しげな雰囲気のなか、印象的だったのは、参加者としてだけでなく、お店番など、大人と一緒に運営として関わっている子どもたちの姿が多かったことです。

ドリームでは、活動が始まった当初から子どもたちもスタッフの一員となりイベントづくりをしてきました。最初は大人のお手伝い程度でしたが、最近はより積極的に企画づくりに励んでいるそうです。

「今回のイベントでやりたいことを考えてくれたリーダーの二人です」と村上さんが紹介してくれたのは、あこさん(小5)と、とあさん(小4)。二人は、スーパーボールすくいや輪投げ、間違い探しなど、やってみたいことを挙げ、準備も自分たちで進めました。

「次はピクニックや鬼ごっこなど、みんなで思いきり遊べることがしたい!」と村上さんにリクエスト

「能登半島地震があったとき、子どもたちは自主的に『自分たちには何ができるかな』と考え、子ども発信の募金活動を始めたんです。募金受け入れをしている団体を調べたり、チャリティー食堂を開催したり。親のサポートはありましたが、一つ形になったことで、以来、子どもたちからの『やってみたい』の声が増えました。

大人たちも、子どもたちのやりたいことをサポートするのは初めてで、正直できるかわからないと思いながらのスタートだったけど、できた。それって、子どもにとっても大人にとっても成長の機会になりますよね。家族だけではできないこともドリームがあるからできる。そんなことがこれからますます増えるだろうと感じています」

子どもがより幼い子の面倒をみる姿があちこちに

地域で子どもたちを大事に育てたい

「どりーむなつまつり」に来ていた参加者に、ドリームの活動について感想を聞きました。

「村上さんに誘ってもらい、初めて参加しました。竹を使った流しそうめんを目的に来たんですが、ほかの企画も充実していて、子どもたちはすごく楽しんでいました。帰りたくないって言っていたくらいです」

「子どもが空手教室に通っていて、ドリームが始まった頃からよく参加しています。子ども同士で遊べる場所が町内に少ないので、集まれる機会があるのはありがたいです」

ドリームが始まったころから参加している親子。みんなでスイカを食べてにっこり

会場には町内外からいろいろな人が参加していながらも、運営スタッフと参加者の垣根があまりないように感じられ、親戚の集まりのような雰囲気。スイカ割りの場面では、家族の枠を越えて大人が子どもたちの面倒をみる姿もありました。

「自分の子ではないけど目隠しのタオルを巻いてあげたり、横について歩いてあげたりしてましたよね。普通はどうしても自分の家族だけってなりがちですけど、大事な子どもたちをみんなで育てられたら面白いし、すごいことだと思うんですよ」と村上さんは話します。

いろんな大人と関わりながら育っていく子どもたち

現在中学2年生の長女、小学6年生の長男、4年生の次男、1年生の次女の4人の母である村上さん。子育てをするうえでも、ドリームの活動に救われていることがたくさんあると言います。

「子育てって、誰にも相談できず孤独を感じてしまったり、親としての自信がなくなったりするときがありますよね。子どもたちが知っている”母”が私一人だけだったら、多分すごく窮屈だと思うし、ぶつかりたくなくても我が子とぶつかってしまうこともある。

でも、ドリームの活動ではいろんな家族が混ざっているから、子どもたちが自分の親以外の大人と関わることになるんですよね。自分の親じゃなくてもダメなことはダメって怒ってもらえたり、全力で楽しもう!って背中を押してもらえたり。

そのうち、親にも友達にも話せないことを話せる大人を、子どもたちは自分で見つけます。その大人が、親子が冷静に向き合えるように取り継いでくれたり、よその家の子の悩みについて我が子の悩みのように一緒に考えてくれたりする。そういうことに、私は何度も救われてきました。

地域にいる子どもたち一人ひとりに、大人たちがそれぞれにさりげなく関わっていくことで信頼関係を育み、頼り合える大きな家族のようにいられたら、それが地域で子育てをするってことなんじゃないかと思います」

運営スタッフ全員が保護者だからこそ、自分たちが楽しめる無理のないペースで活動を育んできたドリーム。これからどんなふうに活動が広まっていくことを望んでいるのでしょうか。

「ドリームの活動は子どもたちに喜んでもらえる場になっているけれど、大人が本気で楽しみながら空間をつくる姿を見せ続けることも忘れずにいたいです。活動を大きくしていくことを今は考えられないのですが、イベントにも運営にも愛情をもって参加してもらえたらうれしいです。その結果、子どもたちが『広野町っておもっせぇ(面白い)場所だなあ』って感じながら育ってくれるのが一番です」

仲間とともに笑い、楽しい時間をつくる大人たちの姿を見て、子どもたちはどんなふうに育っていくのでしょう。広野町で過ごした思い出は、未来を歩む力にもなるだろうなあと、会場を走り回る子どもたちを見て温かい気持ちになりました。


■みんなの食堂ドリーム(ドリームファクトリー)
2022年に広野町で子育てをする保護者たちによって設立された任意団体。みんなで集まって食事をするほか、季節に合わせたイベントや学生とのコラボ企画も実施。子どもたちもスタッフの一員となり、企画運営をしている。各回の広報はインスタグラムとチラシ配布で行う。
Instagram:https://www.instagram.com/dreamfactory0613/

※所属や内容は取材当時のものです
文・写真:蒔田志保