双葉郡から世界へ。最先端教育で変革者を育てる「ふたば未来学園中学校・高等学校」

2023年1月5日
広野町
  • 移住

 JR常磐線・広野駅から坂道を上ること徒歩約15分。太平洋を望む小高い丘の上に広々としたキャンパスが現れます。ここは、2015年4月に創設された福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校(以下、「ふたば未来学園」)。建学の精神である「変革者たれ」という言葉のとおり、地域、日本、そして世界を変革に導くリーダーの育成を目指して、最先端の教育が展開されています。 

ふたば未来学園独自のカリキュラムは全国から注目され、これまで多くの教育関係者が視察に訪れています。一体どんな授業が行われ、生徒たちは何をどう学んでいるのでしょうか。創設の中心人物であり、副校長の南郷市兵(なんごう いっぺい)さんにお話を伺いました。 

 これまでの教育を問い直し、どこにもない新しい学びをつくりたい 

学校というよりも、ひとつの集落を形づくるように並ぶ校舎群。すれ違う生徒たちの「こんにちは!」という元気なあいさつが響きわたり、ここから始まる双葉郡の明るい未来を予感させます。 

ふたば未来学園は、双葉郡の学校教育の復興を目指して創設された中高一貫の県立校です。令和2年度より文部科学省「地域との協働による高等学校教育改革推進事業(グローカル型)」の指定を受け、地域企業との連携や国際交流を取り入れた教育・学習を実践してきました。 

高校では総合学科として、以下の三つの系列が設けられています。 

・アカデミック系列 
難関大学、国公立大学、私立大学進学等入試に対応する高い学力を習得します 

・トップアスリート系列 
スポーツ演習・講義を通して、優れた競技力とリーダーシップを体得します 

・スペシャリスト系列 
農業・工業・商業・福祉分野で活躍するための幅広い知識や技術を学びます 

バドミントン専用アリーナ。トップアスリート系列では、設備だけでなくコーチ陣も含めて充実したトレーニング環境を用意している 

ここで最先端の学びに触れようと、県内だけでなく、北海道から九州まで全国から生徒たちが集まってきています。教育関係者のほか、多くの子どもたちや保護者からも関心を得ているふたば未来学園ですが、どのような経緯で創設するに至ったのでしょうか。 

そのきっかけは、2011年3月11日にさかのぼります。東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故により、双葉郡8町村に避難指示が出され、郡内の公立学校はすべて休校に。子どもたちは避難先への転校や新たに設置されたサテライト校への通学など、学習環境の変化を余儀なくされました。 

そうしたなか、双葉郡の教育長と福島県教育委員会、文部科学省などが連携し、「地域の復興の鍵は教育にある」という信念から、2013年に中高一貫校の設置を柱とした「双葉郡教育復興ビジョン」を策定しました。その先頭に立ってきたのが南郷さんです。 

ふたば未来学園の副校長であると同時に、文部科学省の現役官僚でもある南郷さん

「震災後、双葉郡の教育関係者、国、県が集まり、地域の教育の復興に向けた政策や、未来を担う子どもたちに必要なスキルは何かについて議論しました。原子力災害により双葉郡で生じた問題は深刻で絶対的な正解のないものですが、海外に目を向けると困難な状況に直面している地域はたくさんあります。そこで、従来の学校教育を踏襲するのではなく、世界が抱えている課題に挑戦することで困難を乗り越える力を育む、新しい教育をつくるという方針を立てました」 

自分の生き方を見つけるために、実社会の課題と格闘する経験を 

双葉郡から新しい教育を世界に発信していく。そんな気概から、ふたば未来学園の「変革者たれ」という建学の精神が生まれました。 

「私たちがもっとも大事にしているのは、子どもたちを教室に閉じ込めるのではなく、実社会に解き放つこと。グローバルな視点で主体的に考え、行動できる力を養い、世界を変革できるグローバルリーダーの育成を目指しています」と南郷さん。 

カリキュラムの中心となるのが、「未来創造探究」と呼ばれる地域課題解決型のプロジェクト学習です。生徒たちは、「原子力防災」「再生可能エネルギー」「メディア・コミュニケーション」など六つの班に分かれ、地域が直面している課題やその背景を探り、持続可能な地域社会の実現に向けたさまざまな活動を行っています。プロジェクトのテーマは教員から与えられたものではなく、生徒たちが設定したもの。自分自身で課題を見つけ、地域の大人たちと連携しながら実践学習を進めています。 

「大人たちと一緒に実社会の課題と格闘するなかで、社会との関わり方や自分の生き方を見つけてほしいと思っています」 

生徒たちが取り組むプロジェクトは多岐にわたっています。例えば、交流人口を増やすためのツアーの企画、地域の一次産品を生かした新商品の開発、福島第一原子力発電所の廃炉を議論する座談会の開催、さらには、県内に生息する昆虫や魚の探究といった自然科学系の課題に挑戦する生徒もいるそうです。大学受験に向けた勉学だけにとどまらず、個々が好奇心の羽を広げ、やりたいことに全力で打ち込んでいます。 

「生徒一人ひとりのとがった才能や興味関心をとことん伸ばすことを大事にしています。というのも、大学進学はひとつの通過点に過ぎず、『その先の自分は何をしたいのか?』の答えやヒントは、学校に閉じこもっていては見つからないからです。『未来創造探求』は、生徒たちがどう生きたいかを考える重要な時間になっていると思います」 

生徒たちは50個の「問い」を書き起こして、自分の探求テーマの解像度をあげていく

開校初年度のプロジェクト数は各学年20を数えるほどでしたが、今では全校合わせて200以上ものプロジェクトが進行しているそうです。 

「当初はグループでのプロジェクトがほとんどでしたが、徐々に『自分はこのテーマをやりたい!』という生徒が増えてきました。個人が自ら考え行動する学習文化が根付いてきたと感じています」 

生徒が地域社会の一員としてできること 

「未来創造探求」で生徒たちと活動をともにする地域の人々の意識にも変化が現れているようです。 

「大人がなかなか踏み込めないタブーに正面から切り込んだからこそ関心を集めた出来事がありました。それは、廃炉作業が進む福島第一原子力発電所をめぐり、原子力災害の教訓を世界や後世に伝えるため、更地にするのではなく『遺構』として残すべきでは? という議論が起こったことです。未来を生きる当事者の彼らが真剣にディベートを行うことで、大人たちの間でもそのことを口にする機会が増えたんです。子どもたちが地域の人々に与える影響の大きさを実感しています」 

さらに南郷さんは、新しい感性とパワーを併せ持つ中高生たちを、学校にとどまらせて社会から切り離すことは地域にとって大きな損失だと指摘します。「『未来創造探求』は全国の学校が取り組むべきです」と強調しました。 

地域とつながり、社会に開かれた教育を展開していくために、校舎内にもさまざまな工夫が凝らされています。その最たるものが、地域協働スペース「双葉みらいラボ」。生徒はもちろん、多様な人たちが集まり交流できる場です。また、「双葉みらいラボ」には全国で教育課題の解決に取り組む、認定NPO法人カタリバの若手スタッフが常駐し、生徒たちの学習相談に対応したり、生徒と地域の人たちをつなぐ役割を担っています。 

「双葉みらいラボ」の一角には「Caféふぅ」があり、社会起業部の生徒たちが運営の一端を担っています。生徒たちが昼休みや放課後にくつろぐだけでなく、コロナ禍以前は地域の人たちがコーヒーを飲みながら談笑したり、保育園帰りの親子がケーキを食べたりする光景も見られたそうです。そんなのびやかな環境も、生徒たちの豊かな学校生活を支えています。 

主体性を引き出す教育への挑戦 

変革者の育成を目指すふたば未来学園では、世界に飛び出し、活躍するための教育にも注力しています。そのひとつが海外研修。中学生はニュージーランド、高校生はドイツとニューヨーク(国連本部等)が研修の舞台となります。 

「一般的な研修ではなく、“プロジェクト”と捉えています」と南郷さんが話すとおり、海外の同世代等に出会い、地域と世界の課題について意見を交わし合うことを主眼としています。 

さらに、表現力やコミュニケーション力、創造力を養うため、必修科目に「演劇」を取り入れているほか、道徳の時間に正解のない問いを本質まで追求する「哲学対話」を行っているのも特徴です。こうして培われた考える力、自らの思いを表現する力が、「未来創造探求」を加速させるエネルギー源となっています。 

多目的ホール「みらいシアター」は演劇などのさまざまな表現活動にも使われる。写真は探求学習のマインドマップ講座の様子

こうしたカリキュラムも、大人たちが机上で考えたものではありません。ふたば未来学園の創設にあたり、双葉郡の学校のあり方について当事者である子どもたちと大人が意見を交わす「双葉郡子供未来会議」が開催されました。そのなかで、重要なキーワードがいくつか生まれたそうです。 

「大人は常に頭で考えがちですが、子どもたちはハートでものを語ります。情熱を持って意見をくれる子たちがいて、彼らが見いだしたキーワードが、『動く授業』『世界とつながる』『夢を見つける小さな窓』の三つでした。これらは、そのままカリキュラムに反映されています」 

「動く授業」は未来創造探究、「世界とつながる」は海外研修、そして「夢を見つける小さな窓」は、各界の著名人が集まって組織された「ふたばの教育復興応援団」が中心となって行う特別授業、というかたちで実現されています。 

「例えば、演出家の平田オリザさんには開校当初から演劇の授業を受け持っていただいていますし、毎年夏休みには作曲家の秋元康さんプロデュースによるサマースクールを開催しています。こうした各界の第一人者による特別授業をはじめ、夢への窓となる授業をたくさん用意することで、生徒たちの挑戦を後押ししています」 


制服はAKB48の衣装デザイナー・茅野しのぶさんがデザイン。また、校歌「ふたば未来学園の歌」は秋元康さんによるプロデュースで、作詞を谷川俊太郎さん、作曲を箭内道彦さんが担当した 

他の学校にはないふたば未来学園独自の学びを、生徒たちはどのように感じているのでしょうか。 

「卒業式の前日に、学校生活の振り返りとして生徒たちにアンケートをとっているんです。この学園での学びを通して『社会とどう関わっていくかを見いだした』という項目に、毎年9割前後の生徒が肯定的に回答しています。これは全国的に見ても非常に高い数字です。さらに特筆すべきは、地域課題に取り組みたいと志高く入学してきた生徒だけでなく、制服がかわいいという理由で何となく入学してきた生徒が、『未来創造探究』で優秀賞に選ばれたこともありました。子どもたちの人生を変えるカリキュラムが実現できているなと日々感じています」 

「今後も生徒たちには地域を揺り動かすような面白いプロジェクトを生み出してもらいたい」と期待を語る南郷さん。その先には、未来の変革者として既存の枠にとらわれず、より高い次元の進路を実現してほしいという願いがありました。 

そして、最後に南郷さんは、これからふたば未来学園への進学や、それに伴う移住を検討している全国の人たちに向けて、メッセージを送ってくれました。 

「この学校で実現していることは紛れもなく最先端の学びであり、それを裏付けるように、毎年全国から何百人もの方々が視察に訪れています。また、多くの子どもたちが課題解決の能力を身に付け、自分の生き方を見つけて巣立っています。十分な教育環境が整っていますので、子どもたちはもちろん、保護者の方々にも、楽しいところだから安心しておいでください、と自信を持って言いたいですね」 

■福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校 
住所:〒979-0408 福島県双葉郡広野町中央台1-6-3
TEL:0240-23-6825 
E-mail(中学校):futabamiraigakuen-j@fcs.ed.jp 
E-mail(高校):futabamiraigakuen-h@fcs.ed.jp  
HP:https://futabamiraigakuen-h.fcs.ed.jp 

■福島12市町村の移住支援制度 
未来ワークふくしまでは、移住支援金制度や交通費等補助金をご紹介しています。
https://mirai-work.life/support/ 

取材・文:中里篤美 撮影:鈴木宇宙