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【レポート】福島イノベーション創出プラットフォーム事業「Fukushima Tech Create2024」成果発表会

2024年3月22日

福島イノベーション・コースト構想推進機構が実施する起業・創業支援「Fukushima Tech Create(以下、FTC)」の2023年度採択者による成果発表会が、2024年1月31日と2月1日の2日間、いわき市のいわき産業創造館で開かれました。

イノベ地域※とされる浜通り地域15市町村は、東日本大震災と原子力災害によって多くの住民が避難を余儀なくされた地域です。一方で震災から13年が経った現在は、個人やスタートアップ企業を応援するプログラムや支援制度が豊富にあり、新たなチャレンジを始める場として注目されています。

FTCはその支援事業の一つで、イノベ地域で新規事業の立ち上げを目指す34のFTC採択者が事業内容やプログラムの成果を発表しました。この記事では1日目の様子をレポートします。

※イノベ地域:福島12市町村(田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村)にいわき市、相馬市、新地町を加えた地域

Fukushima Tech Createとは

FTCは、イノベ地域から新たな技術・サービスを生みだすプレーヤーを増やすために、廃炉、ロボット・ドローン、エネルギー・環境・リサイクル、農林水産業、医療関連、航空宇宙の6つの分野で起業・創業を目指す企業や個人を支援するプログラムです。東日本大震災と原子力災害により地域から失われた産業を回復させ、新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想推進機構」の取り組みの一つで、2021年度から継続して行われています。

2023年度は、事業化を志す企業を対象にした「アクセラレーション※プログラム」に7件、公的研究機関などでの研究成果で社会実装を目指す研究者・企業を対象にした「先導技術事業化アクセラレーションプログラム」に7件、創業支援として専門事業者から伴走してもらえる「ビジネスアイデア事業化プログラム」に15件が採択されています。北海道から愛知県と、幅広い地域の事業者が参加しました。
※アクセラレーション:スタートアップや起業家をサポートし、事業成長を助けること

採択者はビジネスプランの策定やマーケティング、販路開拓などの専門家による伴走支援や、ビジネス化をより現実的かつ早期に達成するための行政機関や金融機関などの「FTCサポーター」からの支援、最大1,000万円の「イノベーション創出支援補助金」の支給を受けることができ、事業化を加速させることができます。

Fukushima Tech Createの詳細はこちら
https://www.fipo.or.jp/ftc

新たな事業の創造に挑む14事業者が登壇

成果発表会1日目は、「アクセラレーションプログラム」と「先導技術事業化アクセラレーションプログラム」に採択された14事業者が成果を発表しました。会場には起業家や投資家、金融機関の関係者など150人以上が集まり、その熱気から関心の高さがうかがえました。

成果発表の前に、スタートアップ成長請負人であり、株式会社54代表取締役社長の山口豪志(やまぐちごうしさんと、若手起業家支援のスペシャリストで株式会社tsam代表取締役の池森裕毅(いけもりゆうきさんの基調講演が行われました。池森さんは事業化にチャレンジするときに必要な3つの要素を「伴奏してくれるメンター」「実証実験や実装できる場」「出資をしてくれる人」と説明。まさしくこの3つを受けられるのが、FTCなのです。

成果発表会は、FTCの支援によりブラッシュアップされた事業計画を披露することで、新たなパートナーや支援者との出会いにつなげることを目的に実施されました。今回のレポートでは、登壇者の中から4人の発表者をご紹介します。

電気刺激デバイスで健康的でおいしい食革命を

愛知県名古屋市で医療機器関係の事業を手掛ける株式会社UBeing代表取締役の福島大喜さんは、おいしさと健康の両立を通して病気の人もそうでない人も「自分らしく生きる」ことが叶う世界を実現し、医療や食体験の向上を図る、電気味覚を活用した電気刺激デバイスの開発に関する事業案を発表しました。

電気味覚とは、微弱な電流を舌に流すことで味覚を生じさせる技術のこと。この技術を活用して味覚をコントロールすれば、減塩食品や減糖食品でもおいしさを感じることができ、医療や介護機関で提供される健康食の満足度を上げることができます。現在、南相馬市の松永牛乳株式会社の協力で減糖アイスを開発し、県内企業や医療機関と連携して実証実験を行うなど事業の実現に向けて開発を進めています。

電気刺激デバイスは、医師でもある福島さんが生活習慣病である脳卒中の患者さんを助けられなかった経験から発案しました。福島さんは、福島県が全国的に見て糖尿病患者が多いことや、急性心筋梗塞の死亡率がワースト1位であることに着目。「イノベ地域から食に関する世界の医療や介護の課題解決を行いたい」と力強く語りました。

水素燃料電池ドローン飛行のための型式認証を目指す

神奈川県横浜市に本拠地を置き、次世代型ハイブリッドドローンを開発する株式会社ロボデックス経営企画チームの伴隼人さんは、長時間飛行できる水素燃料電池を搭載したドローンの飛行実現のための型式認証ガイドライン制定および取得を目指した取り組みを発表しました。

ドローンの動力はリチウムイオン電池が主流で、長くても30分ほどしか飛行できず、物流などで活用するには連続飛行できる動力が足りないことが課題でした。そこで、同社では2019年から水素を活用した燃料電池ドローンを開発し、長時間の飛行を可能にしました。2022年には浪江町で「水素ドローン産業化推進協議会」を発足させ、イノベ地域で実証実験と安全性評価を行い、現在は型式認証取得を目指しています。認証されれば、物流やインフラ点検、農業に活用でき、新しいビジネス機会の開拓にもつながります。伴さんは、「イノベ地域から日本初の水素ドローンを広げていきたい」と意気込みました。

どこでも自家発電できる自立型風力発電機を開発

新潟県長岡市に本拠地を置く「株式会社パンタレイ」は、どこでも自家発電ができる自立型の新型風力発電機を開発、販売を目指しています。

地球温暖化対策として発電方法の見直しが進む中、太陽光発電や風力発電、地熱発電などの再生可能エネルギーや分散型電源の利用拡大に注目が集まっています。なかでも風力発電は、太陽光発電を上回る最も大きな市場規模になると予想されています。同社が開発した自立型の風力発電機は、10万円程度の販売価格で最大15Wを出力し、工具なしで組み立て可能。自宅やキャンプ、公園などで気軽に風力発電が可能です。

登壇した代表取締役の佐藤靖徳さんは「これからの未来のため、人のために必要な地産地消の風力発電事業を展開していきたい」と展望を語りました。

「光×農業×林業」でソーラーシェアリングの実証実験

イノベ地域でも目立つ営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)の取り組み。しかし、パネルは農地に対して屋根状に設置されているため、太陽光が届きづらい農地が出て、作物の栽培において不利になっていました。そうした課題の解決につなげようと、福島県を拠点に木造加工の技術開発を行う合同会社良品店では、太陽光パネルと光拡散板を設置した木製の架台の下で農作物を栽培し、農地に日光を取り入れやすくするための実証実験を行っています。

富岡町では、Ichido株式会社と協働し、春菊やサニーレタスの栽培を通して営農性を検証中。また、県内の福島大学、日大工学部と連携。工学・農学・経営のそれぞれの知見を活用し、ソーラーシェアリングの発展を目指しています。さらに、架台に福島県産の木材を使用することで林業の活性化を促しています。

代表社員の渡辺良一さんは「食べ物とエネルギーを自給する仕組みをつくり、サステナブルで近未来的な風景をイノベ地域から作り出していきたい」と話しました。

発表後も各ブースに人だかりが

ピッチ発表後は、発表者ごとのブースで交流会が行われました。各登壇者がブースへの訪問者からの質問に答えるなど、ピッチでは伝えきれなかった説明を一人ひとりに伝えていました。

成果発表会を聞きに来た金融関係者の方に成果発表会の感想を伺うと、「イノベ地域において最も重要なのは、チャレンジする意欲のあるプレーヤーの方々。こうした取り組みを支援する体制があることで、より事業を加速化していけると感じています。素晴らしい事業ばかりでしたので、今後イノベ地域を拠点に社会実装につなげられることを期待しています」と話しました。

東日本大震災から13年目を迎えるイノベ地域において、新規参入事業は「地域の課題解決のため」というフェーズから、「可能性のある地域で本当にやりたいことを実現するため」という流れに変化しつつあります。これからチャレンジしていきたい人や企業にとって、ますます目が離せないエリアになっていきそうです。

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※内容は取材当時のものです。
文・写真:奥村サヤ