生活・その他

移住前に覚えておきたい!ふくしま12市町村での自然災害への備え

2024年3月11日
  • 移住

災害はいつ、どこで起きるかわからないもの。今まさに移住を検討しているみなさんにとっても、移住先の災害リスクは頭に入れておきたいものです。今回は、NPO法人福島県防災士協会理事の藁谷俊史さんに、福島12市町村での暮らしを始める前に知っておきたい、自然災害への備えについて聞いてきました。

キーワードは「孤立」

どこに住んでいても、何かしらの自然災害で被災するリスクはあります。

福島12市町村は大きく「中山間地域」と「沿岸部」に分けられます。中山間地域とは、都市部でも平野部でもない地域のこと。田村市、川内村、川俣町、飯舘村、そして沿岸部以外の地域のほとんどと表現しても良さそうです。中山間地域では地震や大雨による土砂災害の危険性が、沿岸部では津波や高潮といった特有の災害リスクがあります。ただし、福島県ではこれまで高潮による被害はほとんど例がありません。

自然災害への備えというと、市町村で公表している「ハザードマップ」で生活拠点の災害リスクを理解し、災害時の行動を確認しておくこと、そしてライフラインの停止や避難所での生活に対応できるようにしておくことが挙げられます。

福島12市町村で暮らすうえで意識しておきたい備えについて藁谷さんにお話を伺っていくと、「孤立」というキーワードが浮かび上がってきました。

「福島12市町村の中山間地域は大きな道路が少なく、地震や大雨による土砂崩れで道路が寸断されると孤立してしまう危険性があります。中山間地域は特に、食料が買える店の数も少ないため、流通が滞るとすぐに物資が不足してしまうこともあります。

一方、沿岸部では、津波に関する情報が出たらより高い場所に避難することが重要です。しかし、その時に逃げ込んだ先が市町村が開設している避難所ではなかったり、自宅が被災して戻れず避難先に留まらざるを得ない状況になったりすることもあります。その場合は、中山間地域と同様、道路が寸断されて物資が入って来づらくなることも起こり得ます。

こうした時にどうするか。移住して来られる方々にこそ、自分の身は自分で守れるようにしっかりとした備えをしていただきたいです」

非常持ち出し品と備蓄品は区別を

災害対策には、自分自身や家族で備える「自助」、地域で助け合う「共助」、行政が行う「公助」の3つがあります。一人ひとりが普段から準備できるのは「自助」と「共助」です。

日ごろから地域住民間で交流を図り、コミュニティをつくっておくことは、災害時の共助につながります。近所同士の顔がわかる関係性をつくっておけば、非常時に声をかけ合い、助け合うことができるでしょう。自宅のライフラインが止まってしまったとしても、近所同士で協力すれば乗り切れる可能性は高まります。

自助としては、物資の備えです。藁谷さんは、物資の備えとして「非常持ち出し品」と「備蓄品」は明確に区別すべきと強調。非常持ち出し品は「命からがら逃げ出す時に持っていく物」、備蓄品は「生きていくためのライフライン」と表現します。

「非常持ち出し品は100人いれば100通りあるもの」と藁谷さん。衛生用品などの生活必需品や500ミリリットルのペットボトル、ラップなど、普段から使い慣れており自分に必要なものを、生活の延長線上と考えて用意すべきと話します。市販されている防災セットもありますが、使いこなせなかったり、本当に必要とする物が入っていなかったりすることもあります。

「急いで避難所に向かおうとする時、身軽であることに越したことはありません。道路状況が悪く車が使えない場合もあるでしょうし、道が壊れているかもしれません。非常持ち出し品は両手をふさがないリュックに詰めるのがおすすめで、重量は最大でも10キロぐらいが良いでしょう。軽量化を図りながら、本当に必要な最低限のものを自分で見極めて、準備しておくべきです」

一方「生きていくためのライフライン」となる備蓄品。ライフラインといえば電気、ガス、水といったものが挙げられますが、情報を得たり発信したりするためスマートフォン用のモバイルバッテリーは必ず備えておいた方が良いと藁谷さんは言います。また、食べ物や飲み物はたくさんあると安心ですが、最低でも自治体からの支援が届くまでの3日間はしのげるような備えを勧めます。

「生活用水は常にお風呂の水をためておくようにしましょう。ガスについては、充分な管理は必要ですが、最悪でも焚火をすれば事足りる。災害時はとにかく工夫して。物がなくても生活できる術はたくさんあります。飲み水・食べ物は、普段から少し多めに買っておき、使ったら使った分だけ新しく買い足していく『ローリングストック』を心がけてください」

また、福島12市町村は車社会で、移住を検討されている人の多くが自家用車を所有することになるでしょう。災害時に車で避難することも考えられるため、車内に非常持ち出し品を置いておくのもおすすめです。藁谷さんも、食べ慣れた非常食やペットボトルの飲み物、毛布、雨合羽やカイロなど、夏季や冬季など季節で入れ替えながら車内に置いているのだそう。

藁谷さんの自家用車内にある非常持ち出し品。雨合羽やカイロ、マスクなどを常備している

福島12市町村ではガソリンスタンドが少ないため、流通が滞るとガソリンが手に入りづらくなる可能性もあります。いわき市在住の藁谷さんは、メーターが半分を切ったら満タンにするように心がけているそうです。

避難所での情報発信は人任せにしない

また、避難所が孤立状態に陥ることもあります。それを防ぐためには、どこに・何人の人が避難しているのか、具体的かつ積極的な情報発信が重要だと藁谷さんは話します。

「災害時には被害の大きい場所ほど情報が発信できず、支援の手が届かないということはよくある話です。特に行政が設置している避難所でない場所(行政職員がいない避難所)では、そこにどのぐらいの人が避難しているか知られることはありません。ですので、誰かが市町村に情報を伝えなければなりません。

その際には、どんな支援物資が必要なのか的確に伝えることも大事です。例えばオムツがないと発信しても、子供用なのか、大人用なのか、大きさはどうなのか、どのぐらいの量なのかをちゃんと伝えないと、せっかく物資が届いても役に立たないこともあります。ここに何人避難していて、どんなものが足りないのか、きちっとニーズを伝えなければ必要な支援は届きません」

2019年の東日本台風で被災したいわき市内でも、情報発信ができなかった避難者の集まりが孤立に陥ったケースがあったといいます。水没したある地区で、避難所ではない集会所に避難していた人たちが「いつになったら支援物資がくるのか」と数日間待っていたのだそう。しかし、その集会所に避難者がいることを行政はキャッチしていませんでした。藁谷さんたちが情報を聞きつけ、とりあえず食べ物を持って行くと、食料はあり、本当に必要とされていたのは水だったのだそうです。

「避難したら、待っているだけではダメ。情報発信は人任せにせず、通常の避難所に行ったとしても一人ひとりが必要なものを行政に伝えていくことが大事です」

まとめ

自然災害のリスクはどこにいてもあるもの。それにどう備えていくかも、住んでいる場所に合わせて変えていかなければなりません。防災について考えることも移住準備の一つです。この記事を参考に、福島12市町村での防災対策を確認しておきましょう。

藁谷さんが理事を務める福島県防災士会の活動はこちらの記事でご紹介しています。
https://mirai-work.life/magazine/4642/

※所属は取材当時のものです。
文・写真:五十嵐秋音