生活・その他

「私らしさ」をあきらめないで。
富岡町・女性のためのコミュニティスペース「will」から広がる未来

2025年10月31日

2025年春、富岡町に女性のためのコミュニティスペース「will(ウィル)」がオープンしました。

willは「意思・決意」という意味。この場所には「女性が自分らしさを諦めず、生き生きと過ごしてほしい」という想いが込められています。

will常駐スタッフの鈴木香織さんは、富岡町に移住し、この町で子育てをする一人。自身の歩みを通して、この場所がもつ役割の大切さを強く感じていると言います。

willでは、他愛のないおしゃべりをしたり、自分ができることをシェアして誰かの役に立ったり、新しい学びを得たり。そうした関わり合いのなかから次の一歩を踏み出すきっかけが生まれています。そんな日常が広がる「will」とは、どんな場所なのでしょう。鈴木さんにお話を伺いました。

女性が安心して心を開ける“セーフスペース”

富岡町のショッピングセンター「さくらモールとみおか」の一角にある「will」。扉を開けると明るい空間が広がり、常駐スタッフの鈴木さんが笑顔で迎えてくれました。

室内には、広々としたコミュニティスペースのほか、コワーキングスペース、オンライン会議や授乳に使える個室、キッズスペース、リラックスできるマッサージ機まで。現在、これらをすべて無料で利用でき、交流の場として気軽に訪れることができます。女性であれば富岡町外の方でも利用可能です。

また、月1回の女子交流会をはじめ、SNS講習会などさまざまな企画も開催。人とのつながりや、新しいことに挑戦できるきっかけも広がっています。

「子育て中の方や、単身で移住してきた女性など、本当にさまざまな方が足を運んでくれています。先日の交流会では『夫と子ども以外と話すのは久しぶり』と話してくれた方もいました。普段は母や妻としての役割に追われているけれど、ここに来ると自分らしさを取り戻せる。そんな声を聞くとうれしくなりますね」

willは、ワークスペースや交流の場所という枠を超えて、女性が安心して心を開ける“セーフスペース”となっているようです。

性が安心して集える居場所をつくりたかった

willを運営するのは、富岡町で介護や看護のサービスを提供する「株式会社はま福」です。富岡町出身で代表の福島芳子(ふくしま よしこ)さんは、2011年の震災当時から看護師として被災地支援に関わってきました。その活動のなかで「女性たちが安心して集える場所がない」ことに気付いたそうです。

原子力災害により全町民が避難を経験し、ゼロからのまちづくりに取り組んでいる富岡町。少しずつ町はにぎわいを取り戻してはいるものの、女性が気軽に集えるカフェや、一人でも居心地よく過ごせるスペースはまだまだ足りていません。

夫の赴任にあわせて移住した女性が地縁も知人もなく孤独を感じたり、心身の不調を抱えてしまうケースも少なくありませんでした。

そうした状況のなかで、福島さんが長年抱いてきたのが、「孤独を抱えがちな女性が、ゆるやかにつながれる場所をつくりたい」という想いでした。その想いが形となり、誕生したのが「will」です。

ママじゃない時間をもち、やりたいことを諦めないでほしい

will常駐スタッフの鈴木さんは埼玉県出身。東京でNPO団体の事務局長を務めるなかで、福島とのつながりをもつようになりました。一方、神奈川県出身の夫は震災直後から被災地支援に携わり、富岡町の人々と深い信頼関係を築いてきました。

2019年、出産のため仕事を辞めたことをきっかけに自分のこれからの生き方を見つめ直すなかで、「どこで暮らすか」も考えるようになったそうです。

「ちょうどその頃の富岡町は、避難指示が解除されてまもなくで、『新しいまちをつくろう』という熱気に包まれていました。その空気に触れるうちに、『ここで子育てをしてみたい』と思うようになったんです」

鈴木さんは富岡町で子育てをしながら、お菓子屋さんの経理を手伝ったり、災害関連展示の事務局を担ったりと、地域に関わり続けてきました。そうした活動を通して人とのつながりが広がり、will の立ち上げにも関わるようになったと言います。

鈴木さんご家族の移住者インタビューはこちらの記事でも紹介しています。
地元愛に溢れた町の人々に囲まれ、子育てをしながら地域の「助っ人」として活動中

will常駐スタッフの鈴木香織さん

「will は、自分らしい生き方につながる場所です。自分がママになって子育てをするなかで、働きたい、人や社会とつながりたいという気持ちはむしろ強くなりました。だから、ママじゃない自分の時間をもつことの大切さを感じています。ここでは、子どもや夫のことではなく、自分自身のことを話してほしい。そして、自分のやりたいことを諦めずにいてほしいと思っています」

個室は、仕事に集中したいときや、ちょっと休憩したいときに利用される方も多いそう

オープンから5カ月、will は女性たちがつながりをつくり、新しい学びや視点を得られる拠点として動き始めています。おしゃべりを交わすだけでも気持ちがほぐれ、前向きになれる空間です。ハンドメイドが得意な女性がワークショップを開いたり、仕事の場として使われたり、ときには企画を持ち込んでイベントが開かれることもあるなど、活用の幅は多彩に広がっています。

現在は休眠預金等活動制度を利用して運営されていますが、来年度からは試験事業を終え、会員制への移行を予定しています。will もまた、新しい挑戦の転換点を迎えているのです。

「この場所を自立させるために、もっと多くの方に利用していただける場にしていきたいです。地域企業さんとも連携し、リモートワークや時短勤務ができる場所として使ってもらったり、子育て中の社員がキャリアアップできる学習の場として活用してもらえたらうれしいですね。will をこの地域でで暮らす女性を支える場として育てていきたいです」

福島12市町村での「起業・開業」に関する各種支援制度はこちらをご覧ください。
ふくしま12での「起業・開業」の手厚いサポート

小さな悩みも、未来の夢も、安心して語り合える場所がある。女性にとって心強い居場所が地域にあることは、まちの活力にもつながっているように感じました。富岡町を訪れたらぜひ気軽に立ち寄ってみてください。きっと、あなたの背中を押してくれるはずです。


■女性のためのコミュニティスペース will(ウィル)
所在地:〒979-1112 福島県双葉郡富岡町中央3丁目53番地 さくらモールとみおか内事務所
受付:平日10:00~16:00 (不定休)
HP:https://www.tomioka-will.com/
Instagram:https://www.instagram.com/will_tomioka

※所属や内容は取材当時のものです。
取材・文:奥村サヤ