生活・その他

地域住民と関わり合いながら学べる場。小中併設型・小中連携校「富岡小学校・中学校」

2024年12月23日

富岡町立富岡小学校・富岡中学校(以下、富岡小・中学校)は、町内にそれぞれ2つあった小学校と中学校を統合し、2022年度4月に開校した小中併設型・小中連携校です。2024年12月現在、小学生22名、中学生68名の計90名の子どもたちが通っています。

「統廃合したことで、学校と地域の距離が近くなりました」。そう話すのは、教員生活のうち半分にあたる約20年を富岡町の小、中学校で過ごす武内雅之校長。学年を越えた子どもたちの交流と、地域の方々からのサポートについてうかがいました。

町全体が応援する「1つ」の学校

武内雅之校長

東日本大震災以前、富岡町内には富岡第一・第二小学校、富岡第一・第二中学校の計4校がありました。富岡町は原発事故により町全体が避難を余儀なくされ、一部の地域で避難指示が解除された2017年度の翌年にこの4校が合同で町内での授業を再開。2021年に武内校長が赴任した時には翌年に学校の統廃合が決まっており、4校中3校に勤めたご経験から強い寂しさがあったと言います。

「ライバル心を持って互いに切磋琢磨していた4つの学校がなくなることを地域の人はどんなふうに感じるのだろうと思いました。でも、新しい形でスタートしてみると1つの学校を町のみんなで応援しようという気持ちが感じられ、安心しましたね。長年富岡町で勤めてきたため行政の教育関係者のほか、町内に知り合いや教え子も多く、彼ら・彼女らを頼れることも責任の重大さからくる不安を和らげてくれました」

統廃合が行われた当初から、地域住民のバックアップもしっかりとあったと武内校長は話します。富岡小・中学校では、有志の地域住民が「地域連携推進委員」として学校運営に協力しています。委員は学校行事の準備や運営を手伝ったり、学校に花を植える「花いっぱい運動」を主体となって進めています。

「例えば運動会だと、震災前は保護者が準備や撮影をしなければならず、親が自分の子どもが活躍する姿を集中して見れないということもありました。今は地域連携推進委員をはじめとした地域のみなさんに撮影していただくので、自分の子どもに集中して運動会を楽しむことができます。地域の方に応援してもらいながら育つことができるのは、この学校の強みではないのでしょうか」

小・中学校の垣根を越えた学校生活

小学3年生から中学生までの教室がワンフロアにある

小中併設型・小中連携校とは、小学校と中学校がそれぞれ独立しながらも、両校の教育内容や指導方法を共有・調整することで小学校から中学校への進学をスムーズにする学校運営のかたちです。教育課程は小中それぞれで編成されますが、学習や生活の場がつながることで子どもたちが安心して成長していけるようにと考えられています。

小学1・2年生は校舎の1階で、小学3年生から中学3年生までは2階で授業を受けており、日ごろから学年に関係なく交流があります。体調を崩した小学生を中学生が保健室に連れて行くなど、子どもたち同士で面倒をみることも多いそうです。

「小中合同で行う学校行事では、中学生と小学生が一緒に企画を作りあげることもあります。文化祭では、子どもたちだけでオープニングセレモニーの内容を考え、実行していました。小学生の力だけでは難しいことも、中学生がリードしてくれるので形にすることができるんです。協働する意識も育まれると思います」と武内校長は嬉しそうに話します。

休憩時間に子どもたちが集まる共有スペースでは学年を超えた交流もある

富岡小・中学校は学年によっては複式学級(※)になる少人数の学校ですが、被災地域の復興促進を目的に公立学校の教員定数に上乗せして教員を配置する教員加配の制度を活用し、開校当初から1学年1学級で授業を行ってきました。「少人数で授業を受けられるからこそ、教員の目が子どもたち一人ひとりに行き渡り、いい関係を築けているように思います」と武内校長。

体育や英語など、専門教科を受け持つ中学校の教員が小学校の授業を担える点も小中連携校の良さです。中学校の専門性と、ていねいに教えてもらえる小学校、両方の授業の良さを子どもたちは受け取れます。小学校から中学校に上がっても知っている教員から教わることができるなど、学習環境が大きく変わらないのもメリットです。
複式学級・・・1学年の人数が文部科学省が定める基準に満たない場合、2つ以上の学年を1つの学級に編制して1人の先生が教える学級のこと

小学生の体育の授業風景

地域住民も集まる「地域交流室」

富岡小・中学校内には、子どもたちや教職員、保護者のほか、地域住民が集まれる「地域交流室」があります。週の半分ほど、地域連携推進委員が教室にいて、クラフト教室や「地域交流カフェ」などを開いています。子どもたちは休み時間になると、活動に参加したり、委員のみなさんとおしゃべりしたりするのを楽しみに地域交流室へ集まるそうです。中学校では文化部の活動に地域の人が混ざることもあります。

「地域交流室のコンセプトは『学校内で地域の人に会える場所』。スクールバスで登下校する子どもが多く、普段の生活で地域の人と知り合う機会は限られています。一方、復興が進み、新しくできた産業団地で働く人が増えたことなどにより富岡町では居住人口が増えていて、学校においても全校生の約4分の1が、この1年以内の転入生という状況(※2024年10月時点)です。町内に知り合いがいない中で暮らしが始まるご家族も少なくない。地域の人に学校に来てもらうことで、家庭によらず、子どもたちが地域の人と出会える環境をつくっています」

取材の日も地域交流室ではクラフト教室の準備中だった

2024年6月に始まった地域交流カフェは、保護者同士、あるいは地域住民と保護者が毎月1回、平日の午前中にお茶やお菓子を囲みながら出会い、話せる場になっています。回を重ねるごとに参加者が増え、現在は50名ほどの参加があるそうです。

「学校で出会うので、共通の話題である子どもの話や暮らしの情報交換はしやすいんじゃないでしょうか。地域の人も混ざっている場なので、イベントや習い事などさまざまな情報にも触れられます。教職員や子どもたちが授業の合間に顔を出すので、学校生活を垣間見ていただける場にもなっています」

より良くなっていく学外の子育て環境

町内での学校再開から6年が経ち、富岡町の子育て環境は着々と整ってきています。富岡町図書館や屋内遊び場がある富岡町地域交流館「富岡わんぱくパーク」など、子どもが過ごせる場所も増えており、幼保連携型認定こども園「富岡町立にこにここども園」も設立されました。

また、2024年4月には、学校から離れた場所にあった放課後児童クラブが学校の隣に移転。学校が終わった子どもたちは歩いて通えるようになり、より利用しやすくなりました。

木の温もりが感じられる新築の富岡町放課後児童クラブ

児童クラブでは子どもたちは日ごろ、宿題をしたり、遊んだり、おやつを食べたりして過ごしていますが、月に3回程度、季節にまつわるイベントや企画が実施されます。企画を担当するのは地域のみなさんです。子どもたちが育てた野菜で料理をしたり、プログラミングを体験したりと、子どもたちは得意分野をもつ地域の方と一緒に活動を楽しんでいるといいます。

統廃合を経て地域と手を取り合い、子どもたちがさまざまな経験をしながら成長できる学校づくりをしてきた武内校長。最後に、これから富岡町へ移住を検討する子育て世帯に向けたメッセージをいただきました。

「子どもたちも教員も垣根をつくることなく関わり合い、常にアットホームな雰囲気のある学校です。特に子どもたちは柔軟で、『僕も転校してきたんだよ!』と、新しくきたお友達に声をかける場面も見られます。転校や移住には不安が伴うかもしれませんが、私たちは新しい仲間を歓迎します。これからお子さんを連れて富岡町に来られる方も、ぜひ安心して学校に預けていただきたいです」


■富岡町立富岡小学校・富岡中学校
所在地:〒 979-1111 福島県双葉郡富岡町大字小浜字中央237-2
小学校
TEL:0240-22-2014
https://schit.net/tomioka/tomioka12es/index.php
中学校
TEL:0240-22-2020
https://schit.net/tomioka/tomioka12jhs/index.php

※所属や内容は取材当時のものです。
文・写真:蒔田志保