生活・その他

誰もが参加できるコミュニティ「とみおかこども食堂」

2024年12月5日

毎月第三金曜日、富岡町にある「トータルサポートセンターとみおか」には、おいしそうなごはんの香りが漂い、楽し気な声が響きます。その理由は、今回紹介する「とみおかこども食堂」。10月の取材時には親子をはじめ、地元の方や移住者など33名が集まりました。さまざまな人が混ざり合い食卓を囲む空間には、どんな時間が流れているのでしょう。準備が始まる頃に、現場を訪ねました。

料理をしながら、食べながらだから弾む話もきっとある

「今日は来てくれてありがとうございます!」

そう言って明るく出迎えてくれたのは、とみおかこども食堂の実行委員を務める佐々木愛菜さん。いわき市から2021年に富岡町へ移住し、小学校1年生と4歳の男の子を育てるお母さんです。とみおかこども食堂には、いち参加者として足を運んでいましたが、2年ほど前から実行委員として場をつくることにも参加しています。

優しい笑顔で迎えてくれる佐々木愛菜さん

とみおかこども食堂は2020年11月に、3人の富岡町民によって始まりました。富岡町にはPTAや保護者会といったものがなく、当時は保護者同士や地域とのつながりが生まれにくい状況がありました。

「気軽に集まって、子育てのことやなんでもない日々のことを話せる場がほしい。そんな声に応える活動として誕生したのが、とみおかこども食堂です。保育園などで顔を合わせることはあっても、お互いを知るのはなかなか難しいんですよね。料理を作ったり、ご飯を食べたりしながらだったら、日々のことやちょっとした困りごとも自然と話せるんじゃないかと開かれるようになりました」

出身地は浪江町。長男の小学校生活を見据え、入学1年前に富岡町へ移住

富岡町に携わりたい「みんな」でつくる

「参加者は親子はもちろん、子育てをしていない方もいらっしゃいます。地元出身か移住者かどうかなど、そういった属性が話題の中心になることはあまりありません」と朗らかに話す佐々木さん。とみおかこども食堂に集まってくる人たちを見ていると、その言葉の意味を肌で感じることができました。

取材が始まった15時ごろ、料理をするために続々と集まってきたのはサポートメンバーのみなさん。この日は9名でしたが、15名ほどのチームで運営をしているそうです。富岡町に縁のあるお母さんたちや町内に短期滞在中の学生が、台所で和気あいあいと調理をしたり、ホワイトボードに献立を書いたり、おのおの準備を進めます。

芸術大学に通う学生がホワイトボードをデコレーション。サポートメンバーの写真も
サポートメンバーのお母さんたちの多くは、富岡町の民生委員として活動しているのだそう

開催日に直接足を運べない方からも、活動への関心を感じていると佐々木さんは話します。

「地元の方が段ボールいっぱいのお野菜を持って来てくれたり、富岡町内外で暮らす20代、30代の方がお仕事終わりに手伝いに駆けつけてくれたり。
町外から関わってくださる方の中には、地元が富岡町で原発事故をきっかけに町外に住まいを移した方もいます。中には『ここに来ると子どもたちに会える』『富岡町で元気に成長している子どもたちの姿を見ることができて嬉しい!』と言って、1~2ヵ月に1度のペースで遠方から通ってくださる方もいて。関わり方は人それぞれですが、とみおかこども食堂へ関心を寄せてくださる方が多くて本当にありがたいです」

ワクワクしながら集まってくる参加者たち

調理が落ち着く16時半から17時ごろ、参加者の姿が見え始めました。学校から帰ってきた子どもたちは、走って入ってくる勢い。「ただいま!」とスタッフに元気に挨拶する様子からは、ごはんを食べるだけでなく、ここにいる人たちに会える喜びがあることがうかがえます。

一番乗りで来た小学生の男の子は、配膳のお手伝いをしていました。お皿に盛られた料理をお盆にのせて、しっかり慎重に運んでいます。「家でも手伝いをしますが、ここではさらに張り切っていますね」と彼のお父さん。周りの大人からは、たくさんの「ありがとう!」が飛び交います。身近な大人以外からの声掛けは子どもにとっていい刺激になり、親にとっても学びがありそうです。

参加者がおおむねそろった17時半ごろ、調理をしていたメンバーも遊んでいた子どもたちも席に着き、みんなで一緒にいただきます。食べるタイミングを同じにするからこそ、参加者が分け隔てなく話ができる環境も生まれているようでした。

参加者の方に、とみおかこども食堂について話を聞いてみました。

「仕事の都合が合う限り、毎回参加しています。子どもが楽しそうで、地域の人と関われるのもいいなぁと思っています。富岡町にくる前は宮城県仙台市にいましたが、こういう機会はなかなかありませんでした」(小学生きょうだいのお父さん)

「以前から学校などで顔を合わせてはいたのですが、お互い話したことがなかったんです。でも、ここに来て仲良くなりました!」(小学生・未就学児のお母さんたち)

「昔から子どもが大好きで、ここには子どもたちと遊ぶために来ています。震災前は自分の子どもたちや孫が近くにいたけど、今はバラバラに住んでいてなかなか会えなくて。だからここで、子どもたちとお話をしたりして癒されています」(富岡町在住・70代女性)

「とみおかこども食堂が始まって以来、レシピを担当してきました。子どもたちが食べやすく、栄養もあるメニューを考えています。家ではなかなか食べない食材もここでなら食べられた!と感想をもらうことがあり、嬉しいですね。食を通した成功体験ができる場所であれたらなあと思います」(富岡町在住・30代女性)

こども食堂を通じて町の一員になっていく

参加者が入ってくるたび、にこやかに挨拶をして出迎えをする佐々木さん。実は、もともと交流することは苦手なタイプで、富岡町にくるまでは家にこもっていることも多かったというので驚きです。とみおかこども食堂に初めて足を運んだきっかけは、長男の声でした。

「同級生からとみおかこども食堂の話を聞いてきて『僕も行きたいんだけど!』って。自分のコミュニケーション力に自信はなかったけれど、この場所で子育てをしていくなら保護者とのコミュニティも大事だなと思って、踏み出してみたんです。

ドキドキしながらの初参加でしたが、行ってみればすごくあたたかい、ホッとする場所だなと思いました。初めましての方や、こども園の送迎の時などに声をかけようか悩んでいた方が、ごはんを食べながら気さくに話しかけてくれたのが嬉しかったです。世間話だけでなく子育ての悩みも相談することができて、『うちもだよ!』なんて言ってもらえて、みんな一緒なんだなあと安心感も持てました」

初めて参加した日以来、長男の「次はいつ?」に応えるように毎回参加をしてきた佐々木さん。「周りが動いている中でじっとしていられない性格で」と、当初からお皿洗いや片付け、食料の調達などの手伝いをしていたと言います。そのうち、自宅保育をしていた次男がこども園に入園。日中に時間ができたため、とみおかこども食堂の運営に携わるようになりました。

「スタッフの皆さんは(私が手伝うことで)助かるって言ってくださるんですけど、こちらこそありがたいという気持ちで。富岡町に引っ越してきて、私自身が居心地の良さを感じるチームで、スタッフとして一緒に活動できるんだっていう喜びがありました」

会場内にはキッズスペースと少しのおもちゃを用意。食事の前後で楽しむ子どもたち

最後に、佐々木さんから参加を検討している方に向けてメッセージをいただきました。

「とみおかこども食堂に足を運んでいるうちに、誰かと話したいな、あの人に会いたいなっていう気持ちを感じてもらえるようになったら嬉しいです。移住してきて周りに知り合いやお友達がいない中で子育ての不安や悩みを感じると、立ち止まってしまうこともあると思います。悩みを解決できるかはわからないけれど、そういった時にここに来て、みんなと話して、明日から頑張れそうだなっていう前向きな気持ちになってもらえる場所にしていきたいです」

2024年12月には、トータルサポートセンターとみおかでとみおかこども食堂の4周年を記念した展示会が開催される予定です。「写真などを展示して、普段のとみおか子ども食堂の様子が伝わる会にするため絶賛準備中です!開催期間中もこども食堂を開催するので、ぜひご参加いただけると嬉しいです」と佐々木さんは意気込みます。平日の日中や土日の開催も検討しているのだそう。そこでの出会いもまた、人の輪を広げる初めの一歩になるかもしれません。

とみおかこども食堂4周年記念展示会 「のぞく・味わう・かんがえる展」
場所:トータルサポートセンターとみおか
〒979-1151 福島県双葉郡富岡町大字本岡字王塚36
日時:2024年12月17、18日(10:00〜18:30)20、21日(10:00〜15:00)
※20日は16:00~こども食堂開催(要申し込み)


■とみおかこども食堂

毎月第三金曜日に「トータルサポートセンターとみおか」のワークショップルームで開催。子育てをしている・していないに関わらず参加ができる。定員はサポートメンバーを含め40名。参加費は乳幼児無料、3歳から高校生までが100円、大人が300円。富岡町在住の移住者を中心としたとみおかこども食堂実行委員会の主催。参加は公式LINEで要事前申し込み。
※学校行事等の関係で、開催スケジュールがずれる場合もあります。

※所属や内容は公開当時のものです
文・写真:蒔田志保