生活・その他

「歩いて暮らせるまち」を目指して。さまざまな視点から考える双葉駅東地区まちづくり基本構想

2025年12月24日
双葉町

2022年8月にJR双葉駅周辺を中心に避難指示解除がなされた双葉町は、同年に双葉町復興まちづくり計画(第三次)(以下「第三次計画」という)を策定し復興に向けた具体的な議論を進めており、現在は双葉駅東地区のまちづくり等について議論しています。議論の場である双葉町復興まちづくり計画推進会議幹事会(以下「幹事会」という)に同席し、ビジョンやこれまでの議論、そして今後目指すまちの姿について聞きました。

町役場の一員として、個人として意見を話せる幹事会

第三次計画で「まちなか再生ゾーン」「賑わいを形成するエリア」と位置づけられている双葉駅東地区。江戸時代から続く町の伝統行事、双葉町ダルマ市が開催されるなど、東日本大震災以前からまちの中心地として栄えていました。復興を進めていくうえで、この場に賑わいが戻ることは、まちの歴史を継承していくためにも重要な意味をもちます。

幹事会は、双葉町役場の若手・中堅職員による会議体です。役場内の課を横断した組織で、各課の意見を集約し議論する場になっています。震災以前の風景を知らない職員も幹事会に参加しており、地域の歴史や風土を知る機会にもなっているようです。幹事会の中心的存在となる幹事長や副幹事長も若手・中堅職員が担っています。たくさんの人と関わり合いながらまちづくりの経験を積むことで、行政職員の人材育成を図り、組織をボトムアップさせる狙いもあります。

幹事長を務める白石亮佑さんは秋田県出身。奥様の実家が双葉町であることをきっかけに町の職員となり、勤続8年目です。現在は総務課で主に町の財産管理業務を担当しています。副幹事長の柘植美涙(つげ・みるい)さんはいわき市出身で、勤続12年目です。現在は出納室にて出納関係の業務を行っています。どちらも東日本大震災後、双葉町役場に入庁しました。

白石さん(左)と柘植さん(右)。2人は同じ課で仕事をしていた時期もあり、お互い頼りにする存在

2人は幹事会をどんな場だと感じているのでしょうか。

「参加する職員の所属している課や年齢が違うから、いろいろな目線から意見が出てきます。幹事会メンバーで他自治体へ視察に行って、どのように総合計画などが作られたのか勉強したり、『双葉町にもこんな政策があったらいいよね』なんて話をしたり。正解が見えないなかでも、将来に向けて双葉町をどんな町にしていったらいいのかという壮大なテーマを、みんなで活発に議論できる場になっているのがいいなと思います」(白石さん)

「幹事会のメンバーになってから、ニュースなどで世のなかのいろいろなできごとを見聞きするときに、『双葉町だったらどうだろう』と自分なりに考えることが増えました。自分自身の学びの場にもなっていると感じます。幹事会のメンバーには同じような職員も多いんじゃないかな」(柘植さん)

想いが未来のまちのカタチになって見えてきた

取材の日、会場に入ると、町の大きな模型が置かれていました。双葉駅を中心に、未来のまちの姿が立体的に「見える化」されています。これまでも模型を見ながら議論を進めてきましたが、いつもより大きなスケールの模型で議論するのは、この日が初めてです。

まちづくりのデザインを担当する設計事務所の方がこれまでの振り返りをしたのちに、メンバーは模型を囲みながら議論を交わします。パッと目を惹いたのは、まちの中心となる駅前通りと旧国道の交差点の道路の色が部分的に変わっていたところです。まちの中心を楽しく歩いて暮らせるまち並みを形成していくという方針がもっともよく表れていました。何度も何度も議論を重ね、少しずつまちづくりの構想を具現化していく、想いが未来のまちのカタチになっていく、そんな姿が垣間見えた時間でした。

これまでは紙面で確認をすすめていたまちの景色が立体になったことで、文字や図面だけでは気付きにくかった点への意見が出やすくなったようです。「紙面で提案を見たときに伝えた意見が今日の模型に反映されていました」と白石さんは教えてくれました。役場内の意見が、設計チームにもていねいに共有されていることが伝わります。

例えば、住宅の密度に着目すると、ある地区は家と家の間隔が比較的狭い一方で、別の地区はゆったりとした配置になっているのが気になるという意見が出ました。この間隔の違いによって地域ごとに住民同士の関わり方が異なるのではないか、と話は広がります。

双葉町の教育施設(認定こども園・義務教育学校)は、2028年の開園・開校を目標としています。開園・開校に向けて、「通学路はどこか」「親子世帯が住むのに適した地区はどこか」「戸建てとアパートの需要はどうなるか」など、ひとつの話題から意見が幅広く発展していました。

暮らす人の力が地域を発展させる

双葉町では、町民の声にも耳を傾けています。町内の若手とワークショップを開催したり、双葉町ダルマ市や、双葉駅前で飲食・交流できる場「ふたば飲み」でまちづくり基本構想を展示し、意見を募ってきました。

しかし、双葉駅東地区についての議論の本格化はこれから。取材の帰り道、地域活動拠点のFUTAHOME(ふたほめ)で開かれていたのは「FUTABAをHOMEあう会」。幅広い年代・属性の住民や双葉町に関わる人が参加し、幹事会でお披露目された模型をここでも囲みながら意見交換が行われました。今後、町民ワークショップも実施されます。

模型を中心に、まちづくりの進捗がシェアされる場となった

さまざまな意見が集まったとしても、すべてをそのまま反映できるわけではありません。現在も多くの住民の方が町外での生活を続けており、帰還した住民はまだ一部に限られていますが、今なおこの町の未来に想いを寄せ、将来的な帰還や関わりを希望している方が多くいらっしゃるという、この町ならではの実情があります。そうしたなか、双葉町では、昔からの建物や風景を残す「既存ストック」をはじめ、人々の想いに寄り添ったまちづくりを進めてきました。

「双葉町出身の方に残したい風景を聞くと、商店街や図書館に行けば誰かに会えて、そこで何気ない世間話をする、そんな日常が多く挙がります。形が変わっても、そういう瞬間は残していきたいです。

今の双葉町には、自分のやりたいことを形にしたり、強みを活かしたりする人が多いと感じます。町民有志の『結ぶ会』では朝カフェや盆踊りが開催されたり、駅舎でサロンが開かれたりしていて、小さくてもやりたいことができるまちなんだなあって。新しく移り住む人たちも、前向きに何かを始められる方だと嬉しいですね」(柘植さん)

「昔からの風景や文化などを受け継ぎながら一緒にまちづくりをしていきつつ、双葉町で新しいことに挑戦をする人が起点になってまちが活気づいたらいいなと思います。町民が帰りたくなるまちであると同時に、子育て世代や若い世代にも魅力的なまちであってほしい。さまざまな立場の人が集まったとき、心地よい距離で混ざり合えるように、まちづくりを進めたいです」(白石さん)

目の前の課題にコツコツと向き合いながら、たくさんの人と対話を重ねて進んでいく双葉町のまちづくり。決断には、ときに長い時間がかかる場面もあるでしょう。だからこそ、一人ひとりに「ここは私のまち」という感覚が芽生える。取材を通してそんなことを感じました。

双葉町の取り組みについてはこちらの記事でもご紹介しています。
「避難指示解除が最も遅かった町」双葉町のポジティブな復興の足取り


■双葉町復興まちづくり計画推進会議幹事会 事務局(双葉町役場 復興推進課)
所在地:〒979-1495 福島県双葉郡双葉町大字長塚字町西73-4
TEL:0240-33-0127
FAX:0240-33-0080
E-mail:fukko@town.futaba.fukushima.jp
※所属や内容は取材当時のものです
文・写真:蒔田志保