移住も起業も。新しい暮らしのスタートを応援する「双葉町移住定住相談センター」

双葉町は、福島12市町村のなかでもっとも遅く避難指示が解除された町です。
まだ快適に暮らすための環境がすべて整っているわけではありませんが、人とのつながりや支え合いが、この町を前向きに動かす力となっています。そして今、挑戦の余地に満ちたこの町で、新しい暮らしを描く人たちが集まりはじめています。
その一歩をサポートするのが「双葉町移住定住相談センター」(以下、センター)です。挑戦したい人にも、落ち着いた暮らしを望む人にも、寄り添いながら一人ひとりに合った暮らしの形を提案しています。移住相談員の齊藤泰道(さいとう やすみち)さんに、センターでの取り組みを聞きました。
移住も起業も、相談できる場所
JR常磐線・双葉駅を降りて歩き出すと、すぐに目に入ってくる洋館。大正時代に建てられたこの建物は、修復を経て、「双葉町移住定住相談センター」として生まれ変わりました。
震災や原発事故で失われたものが多い双葉町ですが、町の風景が大きく変わるなかでも、かつての姿を今に伝える数少ない建物であり、町の人々をつなぐよりどころ的な存在です。

双葉町には、単身での移住や家族での移住、町で新事業を立ち上げたいという人など、さまざまな相談が寄せられています。そうした声に応えるため、センターでは移住の相談をはじめ、補助金制度の案内や起業・開業希望者への制度紹介など、幅広く対応しています。
「のんびりと田舎暮らしをしたいという方もいれば、この町を新しい挑戦の場と捉え、フロンティア精神で訪れる方もいます。ドローンを活用した農業をやりたいという方や、放課後デイサービスを立ち上げたいといった相談もありました」
センターでは、こうした一人ひとりの声に耳を傾け、柔軟に対応しています。その代表的な取り組みが、移住検討者が「お試し住宅」に滞在しながら体験できるプログラムです。
オーダーメイドの「体験プログラム」
双葉町では、移住を検討する人のために「お試し住宅」を用意しています。4LDKの一戸建てに最大4泊5日、無料で滞在でき、期間中は一人ひとりの希望に合わせたオーダーメイドの体験プログラムを受けることができます。

「移住を考える方にとって一番気になるのは、やはり実際の暮らしだと思います。お店はどこにあるのか、学校の雰囲気はどうか、病院は近いのか。そうした疑問や不安に答えるために、滞在中に町内を案内しながら、その人に合ったプログラムを組んでいます」
実際、大阪から訪れた4人家族を案内したときのこと。小・中学生の子を持つ親御さんがもっとも心配していたのは、学校への通学でした。
現在、双葉町内には小・中学校がなく、町の子どもたちは隣町の「浪江町立なみえ創成小・中学校」に通っています。町が用意するジャンボタクシーに乗り合わせ、朝7時半に駅前を出発して夕方4時頃に戻ってくるのが日常のスタイルです。
そこで齊藤さんは、実際に町内から通学している子どもたちや保護者と交流できる座談会を企画しました。学校そのものは見学できなくても、町に暮らす人の声を直接聞くことで安心につながると考えたのです。
「そのとき、企画の枠を超えて思いがけない出来事がありました。町営住宅の住民の方から『きゅうりがたくさんできたから取りにおいで』と声をかけてもらったんです。お試し滞在中のご家族も一緒に収穫に参加し、子どもたちはすぐに打ち解けてLINEを交換するほど仲良くなりました。最終的にこのご家族は住宅事情から近隣の富岡町に移住しましたが、お祭りに一緒に出かけるなど、今も交流が続いているそうです」
町の雰囲気を知るうえでも貴重な機会となるオーダーメイドの体験プログラム。齊藤さんは、「人と人とのつながりから町の輪郭がより見えてくるので、ぜひ体験プログラムでリアルな暮らしを知ってほしい」と話します。
本格的に農業をするために、双葉町へ
そんな齊藤さん自身もまた移住者。千葉県出身で、いわき市でシステムエンジニアとして働いたあと、双葉町へ移り住みました。

「もともと農学部出身で、食や農業にはずっと関心をもってきました。いわきでは小さな畑を借りていましたが、もっと本格的に農業に挑戦したいと思い、双葉町へ移り住んだんです」
齊藤さんが双葉町を選んだ理由は、有機農業を始めやすい環境にありました。
生物や自然環境への負荷を減らすことを目的に農林水産大臣が定める国家規格、有機JAS。その認証を得るためには、化学肥料や農薬を使わず、堆肥で土づくりを行った田畑で生産することが求められます。基準では、野菜は2年以上、果樹は3年以上、化学肥料や農薬を使っていない土地であることが条件です。震災後、10年以上耕作が途絶えていた双葉の畑は、その条件を満たす“有機栽培を始めやすい土壌”でした。
現在、齊藤さんは町内に約1000平方メートルの畑を借り、スナップエンドウやごぼう、里芋、トマト、きゅうりなどを試験的に育てているそうです。毎朝4時に起きて畑作業をし、その後は移住相談員としても働く、忙しくも充実した日々を送っています。
まずはこの町の空気に触れてほしい
齊藤さんは、双葉町に暮らす魅力を「人とのつながりやすさ」と語ります。
「避難指示が解除されて3年。小さな町だからこそ、顔の見える関係が自然と生まれ、人と人が支え合う雰囲気があります。そんな環境があるからこそ、新しい挑戦を始める人にとっては、つながりやすく、大きな可能性を感じられると思います」

実際に町では、新しいお店やサービスが生まれるとすぐに話題になり、地域全体で応援する空気があるそうです。コーヒーの焙煎所や24時間コインランドリーの開業も”町のニュース”として取り上げられました。起業・開業したい人や双葉町で新しいことを始めたい人にとっては、注目されやすく、一歩を踏み出しやすい環境です。
一方で、ゆったり暮らしたい人にとっても魅力的です。海や山の自然が身近にあり、駅前にはスーパーもできて、暮らしやすさが少しずつ整いつつあります。
「子どもが少ない町なので、町の人たちみんなで見守るような雰囲気があります。たとえば、1人でお留守番している子がいれば、『お昼作ったから一緒に食べよう』と声をかけてくれる。そんな都会にはない安心感が、この町にはあるんですよね」

「まずは一度、双葉町に足を運んでみてください。この町の空気を感じ、町の人と直接話してみることで、新しい暮らしのイメージが広がるはずです。ご相談いただければ、町民との交流の場もご用意します」
つながりを大切にする温もりのある双葉町。もし移住に興味をもったなら、ぜひ現地を訪れてみてください。あなたに合った暮らしの形が見つかるかもしれません。
■双葉町移住定住相談センター
所在地:〒979-1471 福島県双葉郡双葉町大字長塚字町12
TEL:080-1752-9353
受付:平日 9:00~17:00 ※土日祝日は予約制にて面談を受け付けています
相談方法:電話またはHPのお問い合わせフォームより受け付けています。
HP:https://futaba-iju.com/
※所属や内容、支援制度は取材当時のものです。最新の支援制度については各市町村のホームページをご確認いただくか、移住相談窓口にお問い合わせください。
文・写真:奥村サヤ