生活・その他

ここにしかないものを探す暮らしを体験できる「双葉町お試し住宅」

2025年1月24日

移住を決める前に一定期間滞在して現地の生活を体験できる「お試し住宅」は、福島12市町村の多くが導入している移住支援制度です。そのうち現時点で最も新しいのが、2024年12月にオープンした双葉町のお試し住宅。同時期に開所した双葉町移住定住相談センターとともに、一般社団法人ふたばプロジェクトが運営しています。黄色い外観が目を引く一軒家を訪ねてお話を聞きました。

広々4LDKにゆったり滞在

双葉町移住定住相談センターでお試し住宅を担当する土屋省吾さん

双葉町のお試し住宅は、町内を縦貫する国道6号から少し海側へ入ったところにあります。玄関前の駐車スペースで、担当の土屋省吾さん(ふたばプロジェクト事務局次長)が出迎えてくださいました。

「ここはJR常磐線の双葉駅から徒歩13分程度です。が、実際に生活するとなれば自動車が必須なのがこの地域。やはり自家用車で、もしくはいわきなどでレンタカーを借りていらっしゃるのがベストでしょう」

さっそく中を案内していただきます。東日本大震災前はファミリーでお住まいだったというお宅は、広々とした2階建ての4LDK。随所にこだわりが感じられる造りになっています。入ってすぐのリビングは吹き抜けでとても明るい印象です。

利用定員は大人4名に加えて幼児2名までOK。ダイニングルームにはベビーチェアも2脚用意されていました。

キッチンには冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器などの家電のほか、食器、カトラリー、ラップなども準備されています。

お風呂も洗面・脱衣スペースも広々としています。ボディソープ、シャンプー類は設置済みで、タオルと歯ブラシなど洗面具のみ利用者が持参するスタイルです。最長滞在期間は4泊5日ですが、途中で洗濯したい場合も心配いりません。洗濯機と洗剤、室内にランドリーを干すスペースもあります。

2階には2室のベッドルームに合計3台のベッド。大人4人で利用の場合は、1階の和室も布団を敷いて寝室として使えます。また、2階奥の1部屋はワークスペースとして2台のデスクとチェアが用意されていました。もちろんWi-Fiも完備しているのでリモートワークも安心です。

全体に明るく広々、とても快適に過ごせそうな空間でした。

町を知る「体験プログラム」はカスタムメイド

このお試し住宅に滞在できるのは、現住所が双葉町外にあり、かつ将来的に町への移住を検討している方。さらに、滞在中に約半日の「体験プログラム」に参加できることが利用条件となっています(利用は無料)。オープン2週間後の取材時点ではまだ利用者はいませんでしたが、土屋さんによれば、首都圏を中心に予想以上の問い合わせが来ているとのこと。運営側としては、どんな人の利用を予想しているのでしょうか。

「ここは、ただ単に『海の近くで田舎暮らしがしたい』という人には難しい場所です。実際に問い合わせをいただくのは、浜通りがどういう地域なのか、なかでも双葉町がどういう状況なのかをよく知っている方が大半だと思います。これから大きく変わっていく町だからこそ、その現場に身を置いて、自分にできることを模索したい。そういうタイプの方においでいただけるのでは、という期待を持っています」

双葉町は2022年8月末、町の一部で約11年半ぶりに避難指示が解除されました。原発事故による被災地域の中では最も遅い解除で、ときに復興の「最後発」と形容されることも。

「でも、僕は個人的に双葉ってすごいと思ってるんですよ。解除からまだ2年余りなのに、町内の動きは早く、周辺町村の環境に迫っている感じがします」

実際、解除とほぼ同時にJR双葉駅周辺には役場の新庁舎や町民向け住宅が整備され、海側のエリアには東日本大震災・原子力災害伝承館、双葉町産業交流センター、岐阜県から進出した浅野撚糸(ねんし)の大規模撚糸工場「フタバスーパーゼロミル」などのシンボリックな施設が次々オープン。いずれも多くの見学者・利用者を集めているほか、町内外の住民を対象としたイベントもたびたび開催されています。

「2025年度にはスーパーが開業予定ですし、近い将来、認定こども園と義務教育校を新設する計画も明らかになっています。ただし、現時点では町内に大きな商業施設も24時間営業のコンビニも、大きな病院もありません。都会と違う『不便さ』があることはたしかなので、そこは事前面談の際によく説明してご理解いただくようにしています」

滞在中に参加が条件となっている「体験プログラム」は、利用者ごとにカスタムメイド。町内の主要施設の紹介に限らず、その方の家族構成や趣味、興味関心に応じて、双葉町移住定住相談センターが柔軟にメニューを組み、センターの車で案内してくれます。

「町民と話してみたいという希望があれば、交流イベントのタイミングにあわせてお連れするとか、起業や開業を考えている人なら地域で既に起業・開業している方の話を聞きに行く、といったこともアレンジしたいと思っています」

ちなみに、双葉駅近くに開所した移住定住相談センターの建物は、国登録有形文化財「旧三宮堂田中医院診療所」を改修したもの。大正時代に建てられ、町民から「洋館」の愛称で親しまれてきました。室内もレトロな雰囲気がいっぱいで、1階の相談対応スペースはもと応接室だったとか。平日は職員が常駐しているほか、事前予約があれば土・日でも相談に対応してくれます。

「今すぐ」でなくても双葉への関心を持ち続けて

いっぽう、双葉町への移住検討にあたってはもう一つ、町特有のハードルがあるといいます。それは、町内に住まいを確保するのが現時点では難しいこと。民間の賃貸アパート・賃し家は複数あるものの供給数はごく限られており、空きがほとんどないのが現状です。公営住宅もありますが、入居は抽選で所得制限などの条件があるうえ、現状ではほとんど募集がありません。

「そのことも相談者には率直にお伝えしています。したがって、現時点でお試し住宅の利用は『双葉町をよく知り、愛着を感じていただくためのきっかけづくり』と言えるかもしれません。とはいえ、今後数年で町の生活インフラ環境は大きく変わるはず。それに伴い民間賃貸住宅の供給も徐々に増えていくでしょうし、家を買いたい・土地を買って家を建てたいという方向けには不動産の流通も進むと予想しています。ぜひ将来にわたって双葉町への関心を持ち続けていただければうれしいです」

ちなみに、土屋さん自身は2024年4月、現職に就任するため東京から引っ越してきました。住まいは15キロ南の富岡町内ですが、双葉町までの通勤は車で片道20分ほど。もともとこの地域の住民は市町村をまたいで往来し、共に生活圏を築いてきた歴史があります。実際に滞在してみれば距離感をつかむこともできるでしょう。土屋さんのように、当面は近隣町村に居住して双葉町内で活動することも十分可能です。

最後に、双葉町に興味のある方へメッセージをいただきました。

「よく、この地域を表わすのに『何もない』という人がいますが、それは『都会にあるものがない』という意味だと僕は解釈していて、その表現はあまり好きではありません。 『ここにないもの』にフォーカスするのではなく、『ここにしかないもの』を探しに来てほしいのです。たくさんあるはずですから」

では、土屋さん個人にとって「双葉にしかないもの」とは?

「これを言うとみなさん笑うんですけど、『大きな空』です。朝、海から太陽が昇り、夕方、山の向こうへ沈んでいく。当たり前のようですが、最初に見たとき感動しました」

遮るもののない大きな空を見上げ、将来ここで自分に何ができるかをじっくり考えたい方は、双葉町お試し住宅の利用をぜひ検討してみてはいかがでしょうか。

お試し住宅の玄関のニッチに飾られていた双葉ダルマは復興のシンボル。江戸時代からの伝統「ダルマ市」も2023年から町内での開催が復活しています

双葉町のお試し住宅についての詳しい情報はこちらをご覧ください。
https://futaba-iju.com/iju-support#experience

福島12市町村で提供しているお試し住宅は以下の記事でもご紹介しています。
https://mirai-work.life/magazine/1360/


■双葉町移住定住相談センター
所在地:〒979-1471 福島県双葉郡双葉町大字長塚字町12
TEL:080‐1752‐9353
Mail:info@futaba-pj.or.jp
営業時間:9:00〜17:00  ※土日祝日は予約制で面談可
定休日:土・日曜、祝日、年末年始

※所属や内容、支援制度は取材当時のものです。
取材・文:中川雅美(良文工房) 写真:及川裕喜