移住者インタビュー

憧れの農業に転職し、双葉町へ移住。可能性のある町で、自分らしく農業と向き合っていく

2025年2月19日
  • 出身地と現在のお住まい
    福島市→転勤で日本各地へ→石川県→双葉町
  • 現在の仕事
    農業生産法人「安井ファーム」社員として双葉町で農業に取り組む
  • 今後の目標
    双葉町産ブロッコリーを消費者へ直接販売したい

2023年に入社した農業生産法人の事業拡大に伴い、単身で双葉町に移住した黒津今日子さん。知らない土地で、ゼロからの農業に不安もありましたが、気軽に声をかけてくれる町の人たちのおかげで、すぐに生活に馴染むことができたそうです。「双葉町産の野菜をたくさんの人に食べてもらえるようになりたい」という黒津さんに、町での暮らしを聞きました。

農業をするために双葉町へ移住

――双葉町に移住するまでの経緯を教えてください。

実家が福島市で果樹農家をしていて、幼少期から農業に憧れがありました。大学は農学部に進学したのですが、就活のときに東日本大震災と原発事故があって、農業関係の仕事が先行き不安になってしまったんです。そこで鉄道会社に就職することにして、11年間勤めました。

けれど、「やっぱり農業がしたい」という気持ちは消えず、「これからの人生でずっとやり続けたいと思える仕事に就こう」と転職を決断しました。転職活動で出会ったのが、福島県浜通り地方で事業展開を計画していた石川県の農業生産法人「安井ファーム」です。今まで転勤で全国各地を転々としていたので実家のある福島県で働きたいという気持ちがあって興味を持ち、2023年10月に入社しました。

入社時点では浜通りのどこで事業拡大するかは決まっていなかったのですが、双葉町で畑を借りられることになり、事業の担当社員として移り住みました。

――現在、どのようなお仕事をしているのか教えてください。

約7,000平方メートルの畑でブロッコリーやキャベツを栽培しています。今年度は試験的に栽培をしていて、来年度からはさらに農地を拡大させる予定です。

農作業は、基本的には全部ひとりで任されています。当初は石川県と双葉町を行き来しながら仕事をする予定でしたが、実際は忙しくてそんな余裕はありませんでした。石川で借りたアパートはひき払い、10月からは完全に双葉町に拠点を置いています。

自然とあいさつを交わす町の雰囲気が好き

――ひとりで移住することに不安はありませんでしたか?

「福島に帰れてうれしい」というのが率直な気持ちで、何かあれば社長がヘルプに来てくれるサポート体制なので不安はありませんでした。ただ、ひとりで作業するのはやっぱり不安でしたね。「誰も知らないところにポツンと行って大丈夫か」と社長も心配してくれていました。

でも、意外とすぐに孤独は解消されました。

近所の方が声をかけてくださって、その方がまた違う人を紹介してくれて……という感じで顔見知りが増えて、移住して3週間目には皆さんとお茶飲みをする関係になっていました(笑)。気軽に声をかけてくださる方が多いので、人見知りな私でも自然に町に馴染むことができたんです。

――JR常磐線双葉駅の西側に建設された町営「えきにし住宅」に入居されたと聞きました。住み心地はいかがですか?

住民同士が交流できるような設計になっていて、顔を合わせれば自然とあいさつができる雰囲気が気に入っています。

住宅の中の家庭菜園で住民のおばあちゃんと言葉を交わす機会があり、そこから交流が生まれました。今では「お昼ご飯たべない?」とお誘いの電話をくれるので、一緒に昼食をとることもあります。

えきにし住宅にはご近所さんとのおしゃべりができる縁側もある

――双葉町の暮らしの魅力を教えてください。

人と人との距離が近いことです。双葉町に来て、まちの人たちと自然に「おはようございます」「こんにちは」ってあいさつをするようになりました。

鉄道会社に勤めていた時代は、転勤で各地を転々としていたのですが、まちの人とあいさつを交わすようなことはありませんでした。人間関係も社内で完結していたので、今は自分でも驚くほどいろいろな人とのつながりがあります。

双葉町では、コーヒーやスイーツを楽しみながら交流できる「朝カフェの会」などのイベントも定期的に行われていて、住人同士がつながれる機会があるのも魅力だと思います。わたしは仕事があるのでなかなか参加できていませんが、フレンドリーに話しかけてくれる人が多いから自然に誰かとつながれています。

町にはスーパーもホームセンターもないし、まだまだ足りないものだらけですが、だからこそ町をよくしたいという想いを持って行動されている方が多いです。その姿に刺激を受けて、私も頑張ろうと前向きな気持ちにさせてもらっています。

双葉町産ブロッコリーのブランド化を目指して

――双葉町で農業をする大変さや難しさは感じていますか?

畑は休耕地だったので最初は本当に大変で。耕すだけでも一苦労でした。気候もまだまだ読み切れなくて 、隣の浪江町では雨が降っているのに、双葉町はカラカラで土が乾いているなんてこともあって、水の管理もいまだに難しさを感じています。

農業用水路など、農地に水を引くための環境もまだ整っていません。今は軽トラックの荷台に300リットルのタンクを積んで、エンジンポンプで水を汲み上げて運んでいます。

不便なことを挙げたらきりがないですが、こんな農業ができるのはこの町だからこそだと思っています。今の時代の新規就農者のほとんどは、すでにある程度の設備が整った状態から農業を始められますが、ここではすべてがゼロスタートです。それって、実はすごく貴重な経験だし可能性だらけですよね。

作業は基本的にひとりですが、町の人が差し入れを持って様子を見に来てくれたりすることもあるので、すごく力をもらっています。

――移住後に、ご自身が感じた変化があれば教えてください。

もともと人見知りなのですが、周りに知り合いがいない環境で「もうそんなこと言ってられない」と、自分から積極的に声をかけるようになりました。そうしたら、どんどん知り合いが増えて、視野が広がりました。今では「本当に人見知りなの?」と疑われるくらいです(笑)。のびのびした環境で、本来の自分に戻れた感覚があって、以前よりも前向きになれた気がします。

フタバスーパーゼロミル内の「KEY’S CAFÉ」では、期間限定で黒津さんが育てたブロッコリーを使用したジェノベーゼパスタが提供されている

現在、収穫した野菜は野菜カット工場や浪江町などの飲食店に納品しており、今年(2025年)1月からは「双葉町産業交流センター」で週に一回開催されているマルシェで販売しています。やっぱり消費者とのつながりを大切にしたいので、今後は直接販売できる機会を積極的に設けていきたいです。

大きな夢ではあるのですが、双葉町産ブロッコリーのブランド化も目標のひとつ。夕方のニュースで「今年のブロッコリーの収穫が始まりました!」と放送されるくらいの産地にしたいと思っています。

今は双葉町で農業をするだけでも注目されますが、震災前のような田畑のある風景に戻して、農業に取り組む人が増えるように頑張っていきたいです。

――最後に、双葉町への移住を検討している人にメッセージをお願いします。

双葉町には、まだスーパーも病院もありません。足りないものだらけかもしれませんが、今しか見られない風景と、何でもできる環境があります。私は、そんな双葉町に可能性があると感じています。最初の一歩は大変かもしれませんが、チャレンジしてみる価値がある町だと思います。

黒津今日子(くろつ きょうこ) さん

1990年生まれ、福島市出身。山形大農学部を卒業後、鉄道会社に11年間勤務。農業を志し、2023年10月に石川県の農業生産法人「安井ファーム」に入社。2024年6月、事業展開のため双葉町に移住。ブロッコリーやキャベツの栽培に取り組んでいる。

※内容や所属は記事公開当時のものです。
文・写真:奥村サヤ