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「避難指示解除が最も遅かった町」双葉町のポジティブな復興の足取り

2024年2月17日
双葉町
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2022年8月、特定復興再生拠点全域の避難指示が福島12市町村で最も遅く解除された双葉町。2023年12月現在、町内に住む人は約100人、うち6割を移住者が占め、新しい町づくりの大きな力となっています。そんな双葉町の復興の現状と今後の展望について、双葉町復興推進課の守谷信雄係長(写真右)と武藤久実主事に話を聞きました。

12年ぶりに町に戻った祭りと住まい

江戸時代に始まり約300年の歴史を持つといわれる双葉町ダルマ市。毎年1月の第1週の土曜・日曜に開催され、町一番のお祭りとして長く受け継がれてきました。2012年以降は多くの町民が避難したいわき市で開催されていましたが、2023年1月に12年ぶりに町内で開催。復興の一つのよりどころとなっています。

「来場者数は、2023年が約3,000人、2024年が約3,300人。どちらの年も大変な賑わいでした。私自身も双葉町の出身ですが、双葉のダルマ市といえば、町のみんなが勢ぞろいするイベントというイメージ。町外に住む町民の方にも参加いただけるようバスをチャーターするなどして来場を呼び掛け、当日は普段避難先でお見かけする方を何人も見かけました。また、純粋にダルマ市に興味を持って首都圏から足を運んでくださった方もいて、うれしかったですね。双葉町の今を知っていただくという意味でも、大成功だったと思います」(武藤主事)

町では現在、町づくりの一つの柱として、JR双葉駅の西側に新たな居住地区「駅西住宅」を整備。2022年10月から供用を開始し、2024年5月には計画された全86戸が完成します。

「駅西住宅は、タウンハウスと呼ばれる長屋住宅と戸建住宅の2つに大きく分かれており、タウンハウスは1DKと3DK、戸建は1LDKと2LDKの間取りをご用意しています。また、帰還者向けの災害公営住宅と、移住者も含めた町外の方向けの再生賃貸住宅の2つの住宅があります。特に再生賃貸住宅は早い段階から多くの方にお申込みいただいており、移住を検討される方々からの注目の高さを実感しています」(武藤主事)

※駅西住宅については以下の記事でもご紹介しています。
>>「まずは町のファンを増やしたい」 双葉町移住相談センターの思い

町を考える企業が自然に集まった復興産業拠点

駅西住宅と並行して取り組みが進んでいるのが、なりわいの創出です。町東部の中野地区に復興産業拠点を整備。積極的な企業誘致の結果、製造業や建設業を中心に2023年末時点で22件の立地協定が締結され、うち17件が操業を開始しています。

「各企業に共通しているのは、ただ双葉町に進出するのではなく、地元と協業すること、地元の人と交流することが事業を伸ばすことにつながるという意識を持っていらっしゃることです。地元との交流を進出の条件として要求したわけではありません。町のためになろうという考えを主体的に持つ企業が自然に集まってくれた印象です。

例えば、タオル製造を手掛ける浅野撚糸株式会社では施設内にカフェスペースや会議室を作って新たなコミュニティーの形成を目指していますし、衣料品のリサイクルを手掛けるフレックスジャパン株式会社では工場に併設して一般の人が利用できる店舗を開いています。会社の想いが伝わってくる企業が多く、町民にとって地元企業感がある。非常にありがたいです」(守谷係長)

復興産業拠点では、工場だけでなくカンファレンスホテルの進出も決定。仕事や観光で町を訪れた人の受け皿も徐々に整備を進めていく予定です。

「これまでもインバウンドを含めたホープツーリズムには一定の需要があり、外国人観光客の方もここ1年で相当増えた印象があります。しかし、訪れる方々を受け入れる施設は整備できていませんでした。カンファレンスホテルの進出で、双葉町に来て下さる方々により長く町内に滞在していただくための施設の整備がようやくスタートできます。将来的には、安価で泊まれる施設からハイエンドなホテルまで、宿泊の選択肢にある程度の幅がある状況を作っていきたいと考えています」(守谷係長)

商業施設の進出・整備も着々と進行

住む環境、働く環境の整備に伴い、町が準備を進めているのが、医療面や教育面の整備です。医療面では2023年2月、駅西地区に診療所が開設されました。週に3回、内科の検診が受けられます。「この診療所に続く医療施設の整備を優先して進めたい」と武藤主事は語ります。また学校に関しては、2028年度の開校を目標に学校設置検討委員会を設置。町のシンボルともなる新しい学校のあり方の検討を進めています。

もう一つ整備が待たれるのが商業施設ですが、2025年度に町役場の北側にイオンの出店が決定。同じ年には駅の200mほど東の一角に飲食店が3店舗出店することも決まっています。

「今まで買い物は、町内に来る移動販売車を利用するか、双葉町産業交流センター内のファミリーマートを利用するしかなく、あとは北隣の浪江町まで行って1週間分を買いだめするなどしなければいけませんでした。商業施設の整備は、移住を検討される方に双葉町を選んでいただく際の一つのプラス材料になると期待しています」(武藤主事)

武藤久実主事

「一方では」と守谷係長が続けます。

「お店が近くにないぶん、駅西住宅地区では、おすそわけ文化ができつつあります。トマトがラタトゥイユになって返ってきたり、きゅうりが漬物になって返ってきたり(笑)。解除間もないタイミングでここに住もうと考えた方々だからこそ、生活力を磨き、足りないところは自分たちのアイディアで補おうとする文化が育ったのかもしれません」

守谷信雄係長

一番遅かったからこそのメリットがある

住まい、仕事、商業の整備が進み、これからが町の再生の本番となる双葉町。今後の町づくりについて、最後に2人はこのように語ってくれました。

「町内に居住している人がまだまだ少ないなか、行政の考えだけでいろいろなものをどんどん作ってしまうのは良くないだろうと考えています。そこで今、中野産業拠点に進出した企業の若手のみなさんに町づくりに参画していただく取り組みを始めています。住む人が増えれば増えるほど町民の意見を吸い上げることは難しくもなるでしょうが、一緒に町を作ることを基本のコンセプトにしながら復興を進めたいと考えています。

また、双葉町だけでなく双葉郡の他の町にも言えることですが、避難と移住を経験しているからこそ、移住者を温かく迎え入れる町だと思っています。移住を検討される方にこそ、ぜひ今の双葉町を知っていただきたいと思います」(守谷係長)

「12市町村で最後に避難指示が解除された町ということで、少し前までは、最も復興が進んでいない町という見られ方もしていたと思います。一方で、注目度の高い町でもありますし、先に解除となった自治体のそれぞれの良い取り組みを学び、取り入れられるメリットもあります。今の状況をプラスに、ポジティブに捉え、これからに繋げる取り組みを続けていきます」(武藤主事)

双葉町役場 復興推進課のページはこちら
https://www.town.fukushima-futaba.lg.jp/2527.htm


■双葉町役場 復興推進課
所在地:〒979-1471 福島県双葉郡双葉町大字長塚字町西73番地4
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E-mail:fukko@town.futaba.fukushima.jp

※所属や内容は取材当時のものです。
文・写真:髙橋晃浩 写真提供:双葉町