生活・その他

ふくしま12市町村・沿岸部での暮らしで覚えておきたい津波防災のこと

2024年3月11日
  • 移住

福島12市町村に限らず、沿岸部の暮らしでは津波のリスクを知っておく必要があります。今回は、福島12市町村のうち東日本大震災で津波の被害を受けた、沿岸部に位置する南相馬市、浪江町、双葉町、大熊町、富岡町、楢葉町、広野町で生活を始める際に覚えておきたい、津波に対する心がけについて解説します。

「堤防が守ってくれる」は通用しない

東日本大震災による津波では、想定を超える大きな津波によって防波堤が破損したところも多く、福島県の沿岸部でも多くの人が命を落としました。県では2021年までに海岸堤防の強度を高める修繕と、かさ上げ工事を実施。被災から13年を迎え、海岸の津波防災対策は完了が近づいています。
※詳しい進捗状況は福島県ホームページをご覧ください。

ただし、「津波が来ても堤防が守ってくれるから大丈夫」という考えは通用しません。災害対策には、自分自身や家族で備える「自助」、地域で助け合う「共助」、行政が行う「公助」の3つがありますが、津波から命を守るためには、まずはできる限り海岸から遠く高い場所へ逃げる「自助」が大前提となります。

そもそも海岸堤防は、東日本大震災の時のような「1000年に一度」ともいわれる20メートル以上もの大津波を想定したものではありません。県は過去の津波被害を踏まえ、人命や財産、産業や経済活動といった人々の生活を守ることを目標に「数十年~百数十年に一度」の「頻度の高い津波」を想定した海岸堤防を整備。南相馬市、浪江町、大熊町では震災前よりも1メートル、富岡町、楢葉町、広野町では2.5メートル程度高く整備されました。こうしたハード面と、住民が適切に避難するソフト面の備えを大前提とした「多重防御」の考え方で、避難経路や防災施設の整備が進められています。

ハード面ではこのほか、南相馬市、浪江町、双葉町、富岡町、楢葉町で「海岸防災林」を拡張。これは津波の流速やエネルギーを低下させ、内陸への到達時間を遅らせることで被害を軽減・防止させることに役立つのだそう。さらに、河川堤防のかさ上げや、沿岸部から内陸部への避難道路の整備・拡張も完了しています。

なお、福島12市町村の沿岸部において津波で住宅に甚大な被害があった区域は「災害危険区域」として住宅などの建設が制限されています。

ハザードマップで避難経路の確認を

南相馬市の津波ハザードマップ。黒い矢印で避難の方向が示されている

災害はいつ起こるかわかりません。移住して間もない土地勘がない時期にも、避難を余儀なくされる状況が起こりうると考えると、生活を整える準備の一つとして避難経路の確認が必要となってきます。自宅にいる時、職場にいる時など、ケース別で避難経路を考えておくと安心です。福島県防災士会の藁谷俊史理事は「どこに安全な場所があるか、どこに避難所があるかというのは、災害が起きる前に考えておかなければいけません。引っ越してきたらまずハザードマップを見て危険を知り、避難所を含む避難場所を見つけて、そこまでの避難ルートを考えておかなければなりません」と話します。

避難経路は、各市町村のホームページなどで「津波ハザードマップ」を確認して考えます。津波ハザードマップは津波が襲来する際に、地域のどの範囲に浸水被害が及ぶのかをシミュレートした地図で、高台の避難所も記載されています。南相馬市、富岡町、双葉町の津波ハザードマップには、避難方向も示されています。

災害時の避難所といえば、公共施設や学校が一般的ですが、海や川に近い避難所は津波の際に封鎖される場合があります。市町村が設置する避難所は、地震・津波・風水害(台風、大雨など)・土砂災害に分けて紹介されていますので、災害別で避難所が変わるかどうかも含めて、災害時の行動を確認しておきましょう。

沿岸部で津波に関する避難情報が出たら、すぐにより遠く、より高い場所に向かうことが鉄則です。津波は地震発生後すぐに到達する可能性もありますので、できる限り短時間で適切かつスムーズに行動できるよう、避難経路は必ず確認しておきましょう。

■各市町村のハザードマップ
南相馬市
https://www.city.minamisoma.lg.jp/portal/sections/12/1250/12501/bosai/hinanjo/869.html
浪江町
https://www.town.namie.fukushima.jp/soshiki/1/18908.html
双葉町
https://www.town.fukushima-futaba.lg.jp/secure/12966/hazardmap.pdf
大熊町
https://www.town.okuma.fukushima.jp/hazardmap/
富岡町
https://www.tomioka-town.jp/material/files/group/8/tsunami.pdf
楢葉町
https://www.town.naraha.lg.jp/life/cat317/cat333/005644.html
広野町
https://www.town.hirono.fukushima.jp/kurashi/anzen/1001527/1001794.html

自助、共助は普段から備えを

福島県と浜通り沿岸部の市町村は2022年、大津波を想定した広域津波避難訓練を行いました。津波ハザードマップの震災想定区域の住人を対象に、実際の防災メールを流して避難行動を確認したり、避難所運営の方法を学んだりすることで、災害への備えを確認しました。また、南相馬市では、自治会などからの要望があれば、地域の実情に即した防災行動を解説する出前授業を開いているそうです。

避難訓練などで公助の概要を知ることは、共助と自助のあり方を考えるきっかけになります。こうした機会はもちろん活用すべきですが、自助、共助は一人ひとりが普段から準備しておけるもの。できる限りの備えをすることでより安心した暮らしが送れるようになるでしょう。

福島12市町村で暮らすうえでの自然災害への備えについては、以下の記事でご紹介しています。
https://mirai-work.life/magazine/9402

文:五十嵐秋音