移住者インタビュー

人と関わる暮らしを楽しみ、フリーランスでのびのび働く

2023年12月22日

  • 移住のきっかけ
    前職時代の転勤先が南相馬だったため
  • フリーランスになってよかったこと
    時間の使い方が自由になったこと
  • 移住先でリモートワークをしようとしている人へのメッセージ
    気分転換するくらいの気軽さで移住するのも一つの選択肢

東京のシステム会社にITエンジニアとして勤めていた山内琢真さん。2020年の夏に、転勤で南相馬市小高区へやってきました。移住後もリモートワークでWebページのシステム開発などを続けていましたが、生活に変化をつくりたくて2022年にフリーランスへ転身。仕事内容は変わらず、時間の使い方などが変わったという山内さんに話を伺いました。

転勤で縁もゆかりもなかった南相馬市へ

――南相馬市への移住の経緯を教えてください。

東京のシステム会社で働いていた時に、福島へ転勤する人の募集があり、手を挙げたのがきっかけでした。募集があったのは2020年の夏。コロナ禍に突入して以来数ヵ月、一人で部屋にこもって仕事をすることが辛くて、退職を検討していたタイミングでした。働く場所を変えることで気分転換できるんじゃないかと思いました。

南相馬市の情報は、ほとんど知ることなく来たんです。だから、良い意味で地域に対して期待することもなく、ポンッと移住してきましたが、ギャップを感じることはありませんでしたね。移住前に一度、どんなところに暮らすのだろうと、小高区に下見に行きましたが、コンビニがありましたし、ネガティブな印象は受けませんでした。

――そうは言っても、初めての東北の地。知り合いがいないなかで、どのように人や地域と関わっていきましたか?

普段仕事をしている小高テック工房はシェアオフィスになっていて、僕と同じくエンジニアとして働いている人やリモートワークをしている人もいるんです。直接一緒に仕事をするわけではないですが、そうした人たちとの出会いはありました。

また、併設する小高工房では唐辛子の生産や加工品の販売をしていて、地元の方がよく集まっています。オーナーの廣畑裕子さんや地元の方と、僕も雑談を交わします。毎年10月に行われる秋祭りでは、小高工房の玄関でバルーンアートを披露させてもらうなど、ここで地域の行事を楽しむこともあります。

山内さんはバルーンアートが得意。イベントで披露すると子どもたちから大人気

また、住まいはシェアハウスを選んだので、同じ地域にいる世代の近い人たちと関わりが持ちやすかったように思います。移住当初はシェアハウス仲間の誘いでイベントに参加することも多かったですね。同じ境遇である移住者や若者が集まることが多い小高パイオニアヴィレッジの企画にはよく参加していました。バーベキューをしたり、みんなで昼食を食べる「給食会」に出てみたり。その中で、気の合う友人もできました。

働くペースをコントロールできるから日々が充実

――現在の仕事について教えてください。

2022年の夏に会社員生活を終え、現在はフリーランスのITエンジニアとして仕事を受注しています。立場は変わりましたが仕事内容は変わらず、クライアントも東京の企業がほとんどです。事業売上も会社員時代の給与と同じくらい。前職のつながりで仕事をいただくことが多く、今は2社のシステム開発を担当しています。

僕がやっているのはWebシステム開発といわれるものです。オンラインショッピングができるECサイトや企業のコーポレートサイト、時にはゲームを作ることもあります。前職時代はさまざまなジャンルのシステム開発に携わりました。そのため、専門的に得意とする分野はないものの、ある程度オールマイティに仕事ができるのは強みかもしれません。

すでに任期は終えましたが、南相馬市の高校で先生方のIT活用を補助する「ICT支援員」をやっていたこともあります。週に1回、学校に足を運んで、パソコン内の情報整理やホームページの運用をお手伝いしていました。

――どうしてフリーランスになろうと思ったのですか?

ずっとやってみたかったという好奇心ですね。南相馬市で仕事をするようになって2年経ち、日々の生活に少し変化をつけたかったのもあります。なので、起業のように何かにチャレンジするために退職したわけではないんです。南相馬市以外で仕事をすることもできますが、まちの環境に満足していないわけではなかったので、まずは仕事のスタイルを変えることから始めました。

――実際フリーランスになってみてどうですか?

勤務時間の縛りはなくなりましたが、規則正しい生活は続けたほうがいいかなと思って(笑)、会社員時代と同じ週5日、1日8時間をベースに働くことは継続しています。

ただ、時間の余白は増えました。会社員時代は勤務時間のすべてを成果を出すことに充てていましたが、今は勉強をしたり、早めに仕事を終えて帰ったりすることもあります。ITの仕事は新しい分野の技術がどんどん出てくるので、インプットの時間が必要です。最近だと、AIをプログラミングでどうやって活用するかを考えたり、試したりしました。その時間にお金は発生しませんが、以前は終業後にやっていたことを考えると、時間を自由に使えるようになったメリットを感じます。

また、時間に余裕ができたからかフットワークが軽くなりました! 実は先週末も、シェアハウスで同居する友人2人と本州最北端の青森県大間崎まで車で出かけていたんですよ。東北のいろんな場所に出かけられるのは楽しくて、「こんな地域があったんだ!」という発見も面白いです。気づいたら東北は全県制覇していました。長期休みも自分のペースで作れるようになったので、地元の愛媛にもゆっくり帰省できますね。

月に一度ほどシェアハウスの仲間と出かける。この日はキャンプへ

場所に縛られない仕事は気楽に移住できる

――移住先が南相馬でよかったなと思うことはどんなことですか?

僕は選んで南相馬にきたわけではありませんでしたが、地域になじみやすかったなと感じています。コミュニティが完成しきっている地域だと、友達づくりは難しかったかもしれません。人間関係でいやな思いをしたことがないのは幸せですね。

コロナ禍の東京では家にこもって仕事をしていたし、同僚に会うことも難しかった。そういう意味では、シェアハウスで暮らしたり、いろんな人が集まる場所で仕事をする環境になったのは、期待通りの変化でうれしいことでした。

――最後に、移住先でリモートワークをしようと考えている方にメッセージをお願いします。

職業や働き方次第ではありますが、住む場所が制限されない人も増えてきていると思います。今住んでいる場所にこだわる必要がなく、環境を変えたいと思っているならば、僕のように気分転換がてら移住するのもいいんじゃないでしょうか。南相馬市も含め、福島12市町村は東日本大震災の被災地域であることを気にされる方もいるかもしれませんが、移住したからといって地域を盛り上げることを求められるわけではないので、その点は身構えすぎなくてもよいと思います。

小高テック工房を始め、リモートワークができる環境もたくさんあります。福島県の支援制度を活用しつつ、お試しリモートワークから始めるのもいいかもしれませんね。

山内琢真(やまうち たくま) さん

1992年生まれ。愛媛県松山市出身。大学進学で茨城県へ引っ越し、卒業後は同県内の市役所で勤務。その後、東京のシステム会社へITエンジニアとして未経験で転職。アプリ開発やWebサイト制作など、エンジニアとしての経験を積む。入社3年目となる2020年の夏に南相馬市へ転勤。2022年に退社し、フリーランスのITエンジニアとして活動中。

※所属や内容は取材当時のものです。
文・写真:蒔田志保