支援制度

空き家を活かす仕組みで、探し手と家主をマッチング「空き家と住まいの相談窓口 ミライエ」

2025年2月17日

「人生の続きがはじまる家」。これは南相馬市の空き家と住まいの相談窓口 ミライエ(以下、ミライエ)が紹介している、とある空き家物件紹介の見出しです。面白そうな物件との出会いの予感にワクワクします。

ミライエスタッフのみなさんは、南相馬市で住まいや事業のための空き家を探す人から相談を受け付け、物件を探し、契約にいたるまで伴走します。JR原ノ町駅から徒歩5分の場所にある事務所を訪ね、空き家を提案するうえでどのようにサポートしているのか聞きました。

新居の候補となる「空き家」を掘り起こし

「こんにちは!」と明るく迎えてくれたのは、宅地建物取引士の資格を持つ熊田めぐみさん。開所当初からたくさんのお客様と物件のマッチングに貢献してきました。

熊田めぐみさん。ご自身も移住者であり、二児の母

ミライエを運営しているのは、一般社団法人 南相馬空き家・空き地サポートセンター。空き家の増加や荒廃を防ぎたいという南相馬市の考えに賛同する、市内の不動産業者や工務店、建築士などの地元事業者が会員として所属しています。ミライエでは会員事業者と連携しながら相談者にぴったりの住まいを提案します。

ミライエで取り扱うのは、南相馬市の「空き家・空き地バンク(以下、空き家バンク)」に登録されている物件が中心。空き家バンクはミライエ開設以前から公開されていたものの、家や土地を探している人にとって、価格や条件の不一致から、合う物件を見つけるのが難しかったといいます。

「南相馬市の空き家は、建物が大きかったり、畑などの広大な敷地がついている物件が多いのが特徴です。最近増えているファミリー世帯や若い移住者からは家も土地も広すぎるという声がよく聞かれました」

ミライエは南相馬市内にある空き家の数を調査し、2025年1月現在、市内全体で約2,300件の空き家・空き地情報を把握しているといいます。一方で、空き家バンクに登録されている空き家や空き地はその1割程度。空き家の家主に新規登録の相談をするなど、物件の掘り起こしにも努めてきました。

「市と連携して運営しているので、家主さんと連絡を取りやすいんです。空き家の活用についてお話すると前向きに検討してくださる方も多く、開設初年度は前年度の約4倍の物件を新規に登録していただけました。相談者さんにも、まちを歩いていて気になる空き家があったら教えてくださいとお伝えしています」

家の特徴を表現する物件紹介の見出しは、つい気になってしまうものばかり

家主と探し手をつなぐ交渉役

ミライエを訪ねる相談者は増え続けており、年間10件程度だった空き家バンクの契約数は開所から2年で40件を超えました。情報が豊富であることに加え、ミライエが相談者と家主の間に入り、予算の交渉や契約条件の調整などをサポートしていることが鍵となっているようです。

実際にはどのような流れで物件の契約にいたるのでしょうか。

「相談は、窓口や電話、メールなど、相談者さんのご都合に合わせて受け付けています。理想の暮らしやチャレンジしたいことなどを聞きながら、物件のイメージをすり合わせるのが第一歩。イメージは具体的であればあるほど良いのですが、譲れない条件を教えてもらうだけでも提案できる物件の選択肢は広がります。

『駐車場がほしい』『こんな環境で子育てがしたい』などザックリした内容でもOKです。南相馬市の行政区は原町区、鹿島区、小高区と3つに分かれており、各地区で個性があるので、地域から提案できればとも考えています。私たちもこの地域で暮らしているので、相談者さんのライフスタイルに合う地域が思い浮かぶんですよね」

ヒアリング後は、約30社ある不動産管理会社などの会員事業者に相談内容を共有。相談者は、各社おすすめの物件について、ミライエのスタッフから家の状態や金額の背景を詳しく聞きながら、物件選びを進められます。

気になる物件が見つかれば、いざ内覧へ。物件を管理する不動産業者かミライエのスタッフが案内します。車で案内してもらえるので、遠方から公共交通機関を使ってくる場合も、1日で複数の物件を見ることが可能です。

南相馬市の空き家は、家賃や販売希望価格が高止まりしていたり、購入が前提であったりと、空き家を借りるハードルが高いという声がよく聞かれます。そうした中、ミライエは家主と価格交渉したり、購入ではなく賃貸のかたちで家を提供できないかといった相談役も担います。

「南相馬市の物件について相場感をお伝えするのは難しいのですが、賃貸でも購入でも、不動産の価格には家主さんの意向が反映されています。中には、南相馬市で新しいことに挑戦したいという相談者の想いに共感して、はじめは貸す気がなくても『この人になら貸したい』と気持ちが変化する方もいらっしゃいました。交渉で500万円ほど販売価格が下がることもあります」

相談者が家主と直接話す必要がある時には、回数を重ねてから同席というかたちをとるそうです。相談者の想いだけでなく、家主や不動産業者の意見も汲み、関わる全員にとってよい契約にすることを心がけていることが伝わってきます。

家が決まれば、不動産業者を通じて契約に進みます。契約条件のすり合わせなど不安なことがあればミライエでもサポートするとのこと。「相談者が家主さんと直接契約を結ぶ方法もありますが、トラブルになりやすいです。契約書が一枚あるだけで借り手も貸し手も守られるので、不動産業者に仲介してもらうことを推奨しています」と助言もありました。

DIYや改修のイメージづくり、改修業者の紹介までサポート

南相馬市は起業・開業支援が充実していることもあり、挑戦の場として移住を検討する人も増えています。空き家バンクでも、相談者の期待に応えるために2024年8月から店舗として利用できる空き家や事務所、倉庫の取り扱いを始めました。

ミライエでは他にも、新しいチャレンジを応援したり、空き家を住まいとして活用しやすくするサービスを展開しています。賃貸プラン「tsukutte」は、ミライエが所有者である家主から直接空き家を借り受け、入居者に貸し出すサービスです。改修が必要な物件をそのまま貸すことで、家賃負担を抑えることができます。物件によっては原状復帰なしの条件でDIYが楽しめるのもメリットです。

一方、DIYに慣れていない人にとっては改修や片付けが空き家を借りるハードルになることもあるようです。そこで内見前に一級建築士が改修プランを提案する取り組みも始めました。「リノベーションのアイデアが、物件を借りた後の様子をイメージする手助けになれば」と熊田さんは話します。

取材の日、鹿島区のある物件のリノベーションプランの打ち合わせが行われていました

家が見つかり、改修のアイデアもできた。最後に頭を悩ませるのは、改修工事を頼む事業者選びではないでしょうか。特に、移住者が地元の事情を把握するのは容易ではありません。

「ミライエでは、会員の建築士や工務店を紹介することもできます。みなさん地元への想いが強く、空き家をよりよく活用してほしいという考えもひとしお。高い技術をもっている、親切で信頼できる事業者さんばかりです」

最後に、南相馬市への移住や家探しを検討している方へのメッセージをいただきました。

「すでに南相馬市へ移住が決まっていても、これからどうしていこうかと悩んでいるタイミングでも、住まいに関する悩みがあればぜひ一度来てもらえたら嬉しいです。悩んでいるポイントは人それぞれに違うと思いますが、だからこそお話に来てもらえたらなと思います。

相談者さんの話を聞き、理想の住まいについて考えることはやりがいであり、楽しみでもあります。スタッフは地元出身者、移住者、子育て中の人などさまざま。相談者さんと近い目線で、住まい探しや家づくりをご一緒したいです。幅広いお悩みに対してフォローアップできる体制が整っているので、ぜひ頼ってください」

■空き家と住まいの相談窓口 ミライエ(一般社団法人南相馬空き家・空き地サポートセンター)
所在地:〒975-0004 福島県南相馬市原町区旭町1丁目46-4 2階東
TEL:0244-26-6383 (受付時間:平日 9:00~17:00)
E-mail:miraie.minamisoma@gmail.com
HP:https://www.minamisoma-akiya.org/
※内容や所属は記事公開当時のものです。
文・写真:蒔田志保