手仕事が見えるまち・南相馬市小高区発。ガラスアクセサリーブランド「iriser」

JR小高駅から歩くこと3分。駅前通りから1本道を入ると、シルバーの箱のような建物、小高パイオニアヴィレッジが見えてきます。さまざまな事業に挑戦する人々が集まるこの建物の一角に、ガラスアクセサリーブランド「iriser – イリゼ -」(以下、イリゼ)の工房があります。
イリゼにはフランス語で「虹色に輝く」という意味をもち、ブランド立ち上げ以来、アクセサリーを手に取る人の人生を彩ってきました。
イリゼとはどんなブランドなんだろう。
働く人は、どんな想いでものづくりをしているのだろう。
一度、住民がゼロになった地域で、新しいものづくりブランドを立ち上げた意味とは。
そんな問いをもって、工房を訪ねました。
ランプワークの仕事を探してたどり着いた、イリゼと小高区
「今日はよろしくお願いします」
そう言って出迎えてくれたのは、新潟県から移住し、イリゼを運営するOWB株式会社に正社員として勤める清田翔衣(せいだ うい)さん。酸素バーナー一本でガラスアクセサリーをつくる「ランプワーカー」で、現在入社4年目です。幼少期に吹きガラスに興味をもち、高校卒業後はガラス工芸の専門学校へ進学。切子細工や窯を使った作品づくりなど、さまざまな技法を学びました。

「吹きガラスに憧れていたのですが、いざやってみるとガラスも道具も重たくて想像以上に大変でした。作業時の熱さも強烈で、仕事にするならバーナーワークを選びたいと思ったんです。アクセサリー作りにも興味があり、就活中に出会ったのがイリゼでした」(清田さん)
清田さんはInstagramを通して、イリゼへ連絡。OWBの代表取締役、和田智行さんは清田さんからのメッセージに「お、きた……!」と、手応えを感じたと振り返ります。

小高区でガラス事業が始まったのは、さかのぼること2015年。南相馬市小高区が、まだ福島第一原子力発電所事故による避難区域だった頃でした。
和田さんは「女性が働きたいと思える職場をつくることは、地元住民の帰還のきっかけになるはず」と、ガラスの老舗メーカー「HARIO Lumpwork Factory」とライセンス契約を結び、HARIOの商品を受託生産するガラス事業を開始。和田さんの想いに呼応するように、子育て中のお母さんや主婦の方が職人を目指して参画しました。とはいえ、皆さんはランプワーカーとしては初心者からのスタート。和田さんも、職人たちが技術を磨くかたわら手探りでガラス事業をはぐくんできました。
「清田さんが連絡をくれたタイミングでは、まだ実績が少なく、ベテランの職人がいるわけでもなかったんです。なので、経験者の応募があるとは想像していませんでした。経験があって技術を求める人は、有名な作家さんのところへいくものだと思っていましたから」(和田さん)
女性にとって魅力的な職場であると同時に、純粋なガラスの魅力やおもしろさも感じられる職場になっている。清田さんの応募は、その変化を裏付けるようでした。
「自分たちらしい商品を作りたい」という声から生まれた
現在は、HARIO商品の受託生産とイリゼの二本柱で、ガラス事業を展開しています。自社ブランドであるイリゼ立ち上げの背景には、どんなきっかけがあったのでしょう。
「HARIOさんの商品を作るなかで、技術を身につけた職人さん達から『自分たちらしい商品を作りたい』という声が出てきたんです。個人ブランドを立ち上げる職人さんもいたのですが、ここで働いてきたみんなでやりたいという希望があり、独自ブランドを立ち上げることにしました」(和田さん)
そうして2019年に立ち上がったイリゼは、以降オリジナル商品の開発を重ね、2025年時点のラインナップは30を超えました。デザインは、小高区の風景からインスピレーションされたものや、身につける人の「らしさ」に寄り添うシンプルなものまでさまざま。どの商品からも物語が感じられます。

商品開発をするときには、チーム全員で話し合いながらコンセプトやモチーフを決めているそうです。清田さんは、みんなのアイデアを形にする役割。2025年は毎月新商品を発売するという目標を立て、やりきったばかりと清々しい表情を見せます。
「形にするのは難しいけれど、みんなが協力してくれるので頑張れます。大変な時もチームワークで乗り越えてきました。先輩だから指示を出す、後輩だから待っているではなく、一人ひとりが自分の仕事を責任をもってやりきる。そんな職場です」(清田さん)
商品開発以外にも、販路の拡大、ECサイトの運営など、イリゼを立ち上げたことで業務の幅もぐんと広がりました。それにともない、仲間とコミュニケーションをとる機会も増え、事業全体を見渡したりすることも現場で求められるようになりました。こうした変化のなかで、フルタイムのプロジェクトマネージャーを採用するなど、組織も拡大しながらチームでできることを増やしてきたと言います。「プロジェクトマネージャーの存在によって、コミュニケーションの壁が取り払われて、とても動きやすくなりました」と清田さんは職場の変化について教えてくれました。

「現在、工房で働く人は、正社員が2名、パートスタッフが3名、個人事業主が4名の計9名です。未経験の職人は出来高制でスタートし、経験を積んでパートスタッフになったり、ライフスタイルや家庭の事情に合わせて個人事業主で継続したりと、働き方は人それぞれ。正社員やパートスタッフの方には生産以外の仕事をお願いすることもありますが、個人事業主の方は生産が中心です」(和田さん)
手触り感のあるものづくりだから、100年続く仕事になる

イリゼを運営するOWBは、「自立した地域社会を実現する」というビジョンを掲げています。
「イリゼ立ち上げの背景には、HARIO社からの受託生産だけに頼らず、自分たちのブランドで生業づくりをしていこうという想いもありました。僕たちのビジョンは、10年、20年じゃ実現しない。実現のためには、100年続くような、思想を未来につないでいく事業が必要です。ものづくりの仕事なら、それができるんじゃないかと考えています。イリゼで働いてくれている皆さんを見ていると、稼ぐことだけを目的とするのではなく、生活を豊かにするためにものづくりをしているんじゃないかと感じるからです」(和田さん)
和田さんの小高区での活動については、こちらの記事でも詳しくご紹介しています。
>このフロンティアで、自分の「やりたい!」を爆発させよう!
イリゼで生産をする職人さんたちのなかには、ご自身のブランドを立ち上げ活動している方もいます。清田さんもその一人。仕事ではなく、自由な作品づくりだから感じられる楽しさやよろこびもあるようです。
「オリジナル作品をつくる時間は、一番楽しいです。新しい技術にチャレンジするのも自由で、気付いたらあっという間に時間が経ってしまいます。うまくいかないこともありますが、イメージどおりにできたときには『よしよし』と思いながらやっています。私のブランド名は『kilig.(キリグ)』。タガログ語でお腹の中で蝶が舞う気分という意味があり、めまいがするほどドキドキする、ロマンチックなことがあった時に使われる言葉です。私のアクセサリーを手にとった方にドキドキやワクワクしてもらえたら。そんな気持ちで製作しています」(清田さん)

最後に、小高区からガラスの仕事を通して伝えたいことを聞きました。
「ガラスの魅力を伝えたい。それが、私が今の仕事をしている理由の一つです。自分はガラスが好きだから頑張れるし、技術を向上させたいって思えるんですよね。今はバーナーワークが中心ですが、今後はほかの技法もまた学べたらいいなと思っています」(清田さん)
「新しく事業をつくるときには、自分がやりたいことであることと、地域によい波及効果を与えられることを大事にしてきました。
小高区には、ガラスに限らず、ものづくりの事業者が増えています。機械式時計や革製品、音楽劇場を作ろうとしている人もいます。新しい日本酒のジャンルであるクラフトサケの酒蔵も2つあり、そんな地域はほかにありません。手触り感のあるものを積み上げていく、そんな『クラフトの精神』が宿るのが小高だと感じています。イリゼもその精神を継続していくものの一つにしていきたいです。地域の人に愛され、誇りに思ってもらえるようなブランドになるよう、長く続けていけるよう頑張ります」(和田さん)
工房を出て、まちなかに目を向けてみると、空き家をリノベーションして営業しているカフェや事業所が、たしかに多くありました。ピカピカの真新しさにはない、想いがにじみ伝わってくるような佇まい。そして空間やサービスをつくる人の姿。和田さんの話すクラフトの精神は、小高区のあちこちに宿っていることを改めて感じました。
■iriser – イリゼ –
所在地:〒979-2124 福島県南相馬市小高区本町1-87 小高パイオニアヴィレッジ
TEL:0244-26-4525
営業時間:月~金曜、第2・4土曜 10:00~18:00
定休日:第1・3・5土曜、祝日
HP:https://iriser.store/
Instagram:@iriser_odaka
※所属や内容は取材当時のものです。
取材・文・写真:蒔田志保