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【移住セミナーレポート】『はじめよう、私とふくしまの小さな物語。』~vol.5 自分らしさを活かした起業編~

2023年2月3日
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「ふくしま12市町村移住支援センター」主催の移住セミナー『はじめよう、私とふくしまの小さな物語。』は、福島県内で活躍するゲストとの交流を通し、福島12市町村で暮らし働く魅力を知ることができる全6回のセミナーです。

2023年1月15日(日)に、東京都・有楽町で開催された5回目のセミナーテーマは「自分らしさを活かした起業」。

第1部では、福島12市町村をフィールドに活動するゲストがトークセッションとパネルディスカッションを行い、第2部では参加者とゲストによるプチアイデアソンと座談会、ふくしま12市町村移住支援センターのスタッフや各市町村の移住担当者との個別相談会を開催。

それぞれのゲストの実体験を聞きながら、福島12市町村で起業する魅力と可能性を実感できるイベントとなりました。

ゲストによるトークセッション/パネルディスカッション

嶋田匠さん|コアキナイ主宰/ソーシャルバーPORTO代表
1992年、東京生まれ。「よりどころ・やくどころ」という二つの側面から、仲間と共に居場所づくりの事業を営む。よりどころづくりの事業として、店長が日替わりで交代するソーシャルバー「PORTO」を2018年に開業。また、やくどころづくりの事業として、コアキナイ(個商×小商)が育まれる社会づくりプロジェクト「コアキナイ」を主宰する。その他、「さとのば大学」では「コアキナイ演習」など、個の持つ力を活かすプロジェクトづくりの講義を担当。

嶋田さん 会社員時代に「社会の中に自分の居場所がない」と感じたことがきっかけで、「誰もが居場所を感じられる社会って、どうやったらつくれるんだろう?」という問いを抱くようになりました。居場所には、自分の存在価値が無条件に認められる”よりどころ”と、何かしらの価値を提供することで認められる”やくどころ”の2種類があるという考えのもと、この二つの居場所づくりを軸に事業を展開しています。

やくどころづくりを目的に展開している「コアキナイ」(”個商”と”小商”の二つの意味を込めている)は、その人らしさを見いだすところから、それを活かして小商いを立ち上げるところまでを支援する取り組みです。

商いの基本は、自分が提供する価値をいかに相手に届けるかということですが、都会での小商いはそのターゲットが不特定多数の人から成るマーケットになることが多いのに対し、地方では地域住民や自分の知り合いやそのまた知り合いなど、具体的な“特定少数~特定中数”を相手にする点に大きな違いがあります。
顔が見える関係を築きやすい分、都会よりも地方の方が営みを続けていること自体に感謝していただける機会が多いですし、固定費も安く抑えられるので、小商いを成功させやすいと思います。

事業を通して、誰もが等身大の自分に紐づく居場所を持てる社会を実現していきたいです。

神瑛一郎さん|一般社団法人Horse Value代表
1995年東京都生まれ。小学6年生の頃から馬術競技を始め、大学まで競技を続ける。大学卒業後、馬術の本場ドイツで若馬の調教に従事し、帰国後、南相馬市の起業型地域おこし協力隊として南相馬市小高区に移住し、2020年10月に「一般社団法人 Horse Value」を設立。「馬の社会的価値を高める」というミッションのもと、事業拡大を図っている。
2008年全日本ジュニア障害馬術大会優勝 / 2013年日韓馬術大会日本代表 / 2016年全日本学生馬術大会団体3位

神さん 馬術競技の選手としてさまざまな賞を獲得してきたのですが、競技自体の認知度が低いこともあり、真価を周囲に理解してもらえないことが多く、悔しい思いをしてきました。馬の魅力を広く伝えて馬術競技を誰もが熱狂するようなメジャースポーツにしたいと思い、南相馬市に移住して起業しました。南相馬市を選んだ理由は、相馬野馬追などの伝統文化があるため馬への親しみが深く、さまざまなチャレンジができる可能性がある地域だと思ったからです。

「Horse Value」では、乗馬体験や乗馬レッスン、馬に乗って海辺を走るトレッキングプログラムを組んだり、映画・ドラマの撮影用に馬をレンタルしたり、ホースセラピーを応用した企業研修を行ったりするなど、馬を軸に幅広い事業を展開しています。

日本の乗馬市場全体の経済規模は約6,000億円だと言われていますが、開拓済みの市場はまだ1,000億円ほどしかないそうです。その一方で、年間8,000頭あまりのサラブレッドが殺処分されているなど、日本の馬事文化はさまざまな課題を抱えています。これらの課題にビジネスとして向き合い、持続可能なモデルを作りながら新規市場を開拓し、日本の馬事文化の振興と発展に貢献していきたいです。

2023年6月には、南相馬市に新しい乗馬施設をオープンさせる予定です。「乗馬×ジム」をコンセプトに、月額20,000円で馬に乗り放題のプランを作って乗馬が持つ健康効果を訴求するなど、馬をより身近に感じられる革新的な取り組みを展開していきますので、ぜひ現地にお越しください!

大島草太さん|株式会社Kokage代表/株式会社ホップジャパン醸造士
栃木県出身、26歳。福島大学卒。在学中に「Kokage Kitchen」を開業し、クラウドファンディングで入手した移動販売車で事業を開始。大学4年次に地域おこし協力隊を経験し田村市都路町に移住。循環がキーワードのクラフトビール会社「株式会社ホップジャパン」に醸造士として携わる。現在は高校生、大学生と共に立ち上げたフルーツハーブティーブランド「Tea & Things」の運営や、「株式会社Kokage」を設立など、活動の幅を広げている。

大島さん 起業を志したきっかけは、大学時代にカナダでワーキングホリデーをしていた時に、震災や原発事故のニュースでしか福島のことを知らない現地の友人から「福島って人が住めるところなの?」と聞かれたことです。福島の生き生きとした魅力が震災のイメージに埋もれてしまっていることに悔しさを感じ、福島のために自分にできることはないかと考え始めました。そして帰国後、放射能の影響で風評被害を受けていた食の分野で事業を起こすことを決意し、川内村産のそば粉や田村市都路町産のたまごを使用した「そば粉ワッフル」を開発して「Kokage Kitchen」を開業しました。

今は“若者の挑戦と新たな価値が生まれ続ける仕組みをつくる”をミッションに、複業スタイルで活動をしています。複業とは、自分の好きなことやワクワクすること、得意なことを活かして生業(なりわい)を創り、それらを組み合わせながら暮らしを創る新しい働き方です。

福島12市町村には、未解決の課題がたくさんある分、誰もが新しいチャレンジができる余白があります。複業をする上で、地域資源が豊富にあることは大きなメリットになりますし、生き方や働き方、環境・社会課題への向き合い方の手本になるような地域の方々も多いです。

活動を通し、私自身も次に続く世代のロールモデルになっていけたらと思っています。

大場美奈さん|クラシノガッコウ 月とみかん代表
1993年生まれ。いわき市出身、広野町在住。広野町嘱託職員を退職後、山形県南陽市の地域おこし協力隊に着任。2019年からは広野町初の起業型地域おこし協力隊としてまちづくり業務に従事。2022年4月、協力隊卒業と同時に町内の古民家を借り上げ、現在は運動指導やヨガインストラクターなどをしながら、ゲストハウス「月とみかん」の開業に向けて準備中。

大場さん “日々の暮らしを通して、誰もがチャレンジできる土壌を作る”をミッションに、ゲストハウス「クラシノガッコウ 月とみかん」の開業準備を進めています。

「月とみかん」では、地域資源を活かした滞在型体験とゲストハウスの二つの事業を展開していく予定です。訪れた人が心身ともに休息しながら暮らしを見つめ直し、新しい気付きを得て一歩踏み出す勇気を持てるような場にしていきたいです。

私が広野町で活動をする上で大切にしていることは、二つあります。

一つは複数のスキルを活かして小さく稼ぐことです。私の場合は、ライフセーバーや幼児体操指導者、ヨガ講師の資格を活かし、プールの監視員をしたり、子ども向けの体操教室や、ヨガ教室を主宰したりすることで、働く時間を自分でコントロールしながら開業準備を進めています。

二つ目は、“ないのが当たり前”という意識を持つことです。地方には足りないものがたくさんあります。でも、例えば、広野町にヨガ教室がなかったから私が自らヨガ講師になったように、足りないものをビジネスのタネに転換して暮らす楽しさがあります。

広野町には、困った時には業種の垣根を越えて相談できる環境がありますし、一つの課題に対して皆で支え合って乗り越えていく風土もあります。「月とみかん」も、地元の方々にゲストハウスを開業したいと相談したところ、家屋も畑も裏山も込みで年間40,000円で貸していただけることになりました。

自分にとって心地良いペースで事業を続け、広野町から小さなチャレンジをたくさん生み出していきたいです。

■大場美奈さんの取材記事
https://mirai-work.life/magazine/2264/

パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、嶋田さんがファシリテーターとなり、それぞれのゲストから詳しいお話を伺いました。

――事業を始める上で苦労したことはありますか?また、それを乗り越えた方法があれば教えてください。

神さん やりたいことをやっているので、つらいと思ったことはないのですが、自分が思い描いているビジョンに共感して働いてくれる仲間や出資者を探すのは、楽ではありませんでした。
大変なこともすべて自分が描いた夢を達成するのに必要な作業なので、苦しい時にこそ自分で自分を奮い立たせるようにしています」。

大島さん 僕は大学3年生の時に開業したので、最初は資金の集め方も分からなかったですし、苦労したことはたくさんありました。でも、例えば、知りたいことがあるとそれを知っている人がいいタイミングで現れたり、足りないものを持っている人が現れたり、人と人とのご縁に恵まれてここまで続けてこられたなと思っています。

苦労を乗り越えるコツに当たるかは分からないのですが、僕は、何かアイデアが浮かんだ時は、なるべくスマホのメモ機能を使って言語化するようにしています。常に10個くらいアイデアを持ってアンテナを張っておいて、その内の1個でもヒントを持っていそうな人がいたら、即つかまえるような心構えが大切なのかもしれないと思います。

大場さん 私は、今まさに開業準備中なので、これから仲間集めなどの課題が出てくるのかもしれません。でも「月とみかん」を始めようと思ったのも、広野町のことが好きでずっと暮らし続けたいと思ったことがきっかけなので、その気持ちを大切に、将来自分がお母さんになった時に必要になるものや、おばあちゃんになった時にこんな町になっていたらいいなというものを、ひとつひとつカタチにしていきたいです。
自分の活動の原点にある「広野町が大好きだから、この町でゲストハウスをやりたい!」という気持ちを、持ち続けることが大切だと考えています」。

――事業を継続させる上で大変だったことはありますか?

神さん キャッシュフローが安定しないことですね。実は、想定していたよりも納税額が多くなり、事業継続の見通しが立たない時期もありました。その時は知人を頼るなどしてなんとか難を逃れたのですが、それも起業したからこそ経験できることなので、今振り返れば貴重な体験だったと思います。

大島さん 僕は、誰かが決めた基準で働くのはつまらないと感じるタイプなので、サラリーマンになっていたとしても長くは続かなかったと思います。自分で事業を起こすと、目指す先もそこに至るまでのプロセスも自ら決めることができるので、ただただ楽しいです。

――神さん、大島さんからは「好きなこと、やりたいことだから続けられる」というお話がありましたが、大場さんはどのようにやりたいことを見つけましたか?

大場さん 私は地域おこし協力隊として地域のために活動してきたのですが、自分の活動に違和感を覚えた時期がありました。ある時、ふと、“地域が必要としているからやる”ではなく“私がやりたいからやる”と、主語を地域から私に転換してみたら、それまで抱いていたモヤモヤした気持ちが晴れて「月とみかん」のビジョンが見えてきたんです。違和感を含め自分の気持ちに向き合ってみると、本当に好きなことややりたいことが見えてくるかもしれません。

――最後に、これから移住や起業をしたいという方にメッセージをお願いします!

神さん 楽しむことが一番だと思います。これまで何度かピンチに見舞われたことがあったのですが、人に相談したら意外な解決策が見えてきたり、思わぬサポートが得られたりしたこともありました。困難も一つの経験として楽しむことが大切だと思います。

大島さん 実際に開業してみて、思っていた以上に起業のハードルは低いのだと感じました。もちろん、今後、売り上げを出して事業を継続させていくとなるとシビアな世界になっていくのかもしれませんが、移住も起業も最初の一歩を踏み出してみると、そのあとは割となんとかなります。例え失敗したとしてもその経験を次の挑戦の糧にしていけばいいので、まずはちょっとやってみるくらいの感覚で始めてみてもいいのではないかと思います。

大場さん 「挑戦したい!」という前向きな気持ちを持ち続けていれば、どんなことも楽しく乗り越えていけると思います。福島12市町村でチャレンジしたい人を待っています!

第2部:プチアイデアソン/ゲストとの座談会/個別相談会

プチアイデアソン優勝チームのプレゼンテーションの様子

第2部の前半には、参加者の自由な発想でゲストが抱えるリアルな課題を解決する、「プチアイデアソン」を開催しました。

※アイデアソン:アイデアとマラソンを掛け合わせて造られた造語で、特定のテーマを決めて、そのテーマについてグループ単位でアイデアを出し合い、その結果を競うイベントのこと。

神さんの「乗馬×ジムのサービスを訴求するプロモーションのアイデアを下さい!」という課題に対し、参加者からは「”半年後の戦に向けた乗馬ダイエット”をコンセプトに、結婚式までに引き締まった身体を手に入れたいカップルに馬に乗って都内の観光名所を駆け抜けてもらい、乗馬が持つダイエット効果を訴求しつつSNSでの拡散効果を狙う!」「神さんの乗馬施設からオリンピアンを輩出する!」というアイデアが出ていました。

優勝賞品として贈られた乗馬体験チケットと「ホップジャパン」のクラフトビール

また、大島さんの「47都道府県に『Tea & Things』の店舗を持つアイデアを下さい!」という課題に対し、参加者から「ハーブティーを作って販売するだけではなく、オーガニックやサステナブルをコンセプトにしたカフェの情報を集めてWEBサイトを立ち上げ、事業と商品の認知を広げてみては?」というアイデアが出て、大島さんが「それ、実際にやります!」という前向きな回答をする姿も。

アイデアソンの後は、話を聞きたいゲストの周りに集まって直接質問したり、個別相談ブースで各自治体の移住担当者に相談したり、有意義な時間を過ごしました。

嶋田さんを囲むテーブルでは、ソーシャルバー「PORTO」に関する質問が多数出ており、嶋田さんは「店長が定期的に変わるので、日々、新しい出会いが生まれています。店長とお客さん同士が仲良くなってオフ会を開いたり、別の日に『PORTO』に来て新しいグループとつながったりするなど、自然にコミュニティが生まれている印象です。店長同士や店長とお客さんが結婚するなど、人生を変える出会いも生まれているんですよ」と伝えていました。

■第5回セミナーのダイジェスト・全編動画を公開しています(YouTube)
※ダイジェスト版。全編動画は動画右上の(i)マークからご覧ください

■2022年度開催のセミナー詳細はこちら(全6回)
https://mirai-work.life/lp/seminar2022/

福島12 市町村の移住支援制度

福島12市町村では、移住検討段階から使える交通費補助や、移住後に受け取れる移住支援金など、生活や移住スタイルに合わせた多様な支援制度で新しいチャレンジを応援しています。

■福島県12市町村移住支援金制度
福島12市町村において、新しい地域を作り出すなどチャレンジを行う意欲のある県外からの移住者に対して、最大200万円の移住支援金を交付しています。
https://mirai-work.life/support/relocation/

■ふくしま12市町村移住支援交通費等補助金
福島12市町村内を訪れ、移住する際に必要な現地調査・現地活動を行った場合に、その交通費および現地での宿泊費の一部を補助します。1年度につき交通費利用は5回まで、宿泊費利用は5泊まで可能!移住準備の現地調査や物件・仕事探しにぜひご活用ください!
https://mirai-work.life/support/transportation/

※所属や内容、支援制度は当時のものです。最新の支援制度については各自治体のホームページをご確認いただくか移住相談窓口にお問い合わせください。
文:高田 裕美 撮影:内田 麻美