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移住相談員さんに聞く!ふくしま12市町村の移住相談窓口ってどんなところ?~浪江町・大熊町編~

2022年12月25日
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福島12市町村では市町村ごとに「移住相談窓口」を設け、地域の基本情報から仕事や住まい、移住支援制度、地域コミュニティへの入り方など、相談者一人一人に合わせた情報を提供しています。

この記事では、前回の富岡町・楢葉町・広野町編に続き、浪江町・大熊町の「移住相談窓口」をご紹介します!

【浪江町】浪江町移住・定住相談窓口

\この相談員さんに聞きました!/
浪江町移住・定住相談窓口
移住・ 定住相談員
渡邉友二さん

浪江町は、震災と原発事故により全域が避難指示区域に指定され、一時は人口ゼロを経験したまちです。2017年3月に一部地域の避難指示が解除されて以降、住民の帰還と復興が進み、レジャー宿泊施設「福島いこいの村なみえ」や商業施設「まち・なみ・まるしぇ」、「道の駅 なみえ」などがオープン。「道の駅 なみえ」の年間利用者数は約48万人に上るなど、新しいにぎわいが生まれつつあります。

そんな浪江町の移住相談窓口は、JR常磐線「浪江駅」前に事務所を構える「一般社団法人 まちづくりなみえ」が運営しています。(※駅前再開発に伴い、2023年3月末に移転予定)

――浪江町移住・定住相談窓口ではどのような支援をされていますか?

相談スペースの様子

相談窓口対応をメインに、移住希望者一人一人のご要望にお応えしています。

復興が進んでいるとは言え、町内には一軒しかスーパーがありませんし、大きな病院は隣町にしかありません。電車も1時間に1本程しか停まりませんし、やはりまだまだ不便なところがあります。せっかく浪江に関心を持ってくださった方には、そうした暮らしの実情も知って納得した上で移住してほしいので、時間の都合がつく方にはこちらまで足を運んでいただき、町内をご案内しています。

できる限りワンストップで相談対応できるように、地元企業の人事担当者から直接求人情報を得たり、町営住宅の募集情報を随時把握したりしていますので、浪江町への移住を検討されている方は、ぜひ一度ご連絡いただきたいです。

また、年1回移住者交流会を開催し、移住者と地元住民の方々がピザを食べながら交流できる機会を作っています。移住した後も何か困ったことがあれば気軽に頼れる窓口でありたいです。

――これまで、どのような方からどのようなご相談がありましたか?

移住者交流会の様子

相談傾向としては、50代の相談者が約35%、40代が25%ほどで、その他、20~30代と年配の方が同数くらいですね。

「復興の役に立ちたいから」と相談に来てくださるケースが多く、本当にありがたく感じています。現在の浪江町の居住人口は約1,900名と震災前の1割以下で、復興には地域外からも多くの人の支援が必要です。今は各種工事関連会社や新規参入企業の求人が多いですが、復興作業を行っている地区では土木建設業、除染作業員などが必要とされていますし、浜通り(福島県の太平洋沿岸地域)に先端産業の集積を図る「福島イノベーション・コースト構想」という国家プロジェクトが進行しているので、これからはロボット・ドローン産業や航空宇宙関連、再生可能エネルギー、医療関連等の人材も求められていくと思います。

「農業をやりたい」というご相談も多く、浪江町としてもさまざまな就農支援制度を設けてサポートしています。例えば「新規就農者確保促進事業」では、新規就農者に対し、月額10万円の収入補てんと上限6万円の家賃支援を24カ月間行っていますし、就農希望者が研修等のために町に訪問する時のレンタカー代を、1回の滞在等につき5万円を上限に助成する制度もあります。こうした制度の詳細や申請方法、必要書類などについても相談窓口でお応えしています。

新しい地域の足として親しまれている「なみえスマートモビリティ」

「車がないと生活できませんか?」というご質問もいただいたりするのですが、浪江町には「なみえスマートモビリティ」(略称「スマモビ」)というオンデマンド型の交通機関があり、役場やスーパー、飲食店などの主要施設を中心に町内140カ所を結んでいます。スマモビは誰でも無料で利用できるタクシーのようなもので、スマートフォンまたはデジタル停留所で呼び出すと5分程で迎えに来てくれます。こうしたサービスを利用すれば車がなくても普通に暮らしていけると思います。
※実証実験期間中の措置として2022年12月27日まで無料、2023年1月5日から運賃有償

今、住居不足が課題となっていて、旧雇用促進住宅を大規模改修した集合住宅が2棟あるのですが空きが少なく、戸建ての空き家はありますが震災後手つかずになっていて管理の行き届いていない物件も多いです。移住相談時にご希望を伺えれば、不動産会社と連携を図りながら該当する物件が出た時に優先してご案内したり、今後町営住宅を建てる計画があるので募集開始のタイミングでご連絡したりすることもできます。

本当にさまざまな相談者さんがいらっしゃっていて、アイドルグループ「TOKIO」が約10年間にわたって農業体験をした「DASH村」が浪江町にあることから興味を持ったという方もいらっしゃいましたし、道の駅に、ポケモンのラッキーをモチーフにした「ラッキー公園 in なみえまち」があるので、「孫が来た時に楽しんでもらえるから」とおっしゃる相談者さんもいらっしゃいました。20~30代の方からは地域おこし協力隊になりたいという問い合わせもいただきましたね。

――浪江町では手厚い移住支援制度を設けているそうですが、具体的にはどのような支援が受けられるのでしょうか。

浪江町最大の伝統行事「十日市祭」の様子

よく問い合わせをいただくのは、最大200万円が交付される「福島12市町村移住支援金」ですが、他にも最大100万円を交付する「浪江町Fターン移住支援事業補助金」や、町内宿泊施設での宿泊費を1泊あたり2,500円(上限5泊)助成する「移住検討者町内滞在支援補助金」、月額2万円で「福島いこいの村なみえ」をお試し滞在拠点として利用できる「移住検討者お試し宿泊補助金」、住宅取得や子育てに掛かる費用を助成する制度なども設けています。

移住後に結婚されたご夫婦に対しては、お祝い金として最大50万円と記念品をお贈りしていますので、地方移住して新生活を始めたいという方はぜひご活用ください。

――渡邉さんが思う、浪江町の魅力を教えてください。

「道の駅 なみえ」には、地産品のほか周辺地域とのコラボレーション商品も並ぶ

浪江はとにかく「元気で明るい」です。

もともと、商業のまちだったこともあって元気で明るい人が多いのですが、特に「道の駅 なみえ」ができてからは地域外の人を迎える機会も増えて、町全体に活気が戻ってきたなと感じます。

この辺り一帯の沿岸漁業の拠点だった請戸漁港が2021年に復旧し、港には朝早くから漁業関係者の商いの声が飛び交う漁師町らしい風景も戻っていますし、居住人口約1,900名の町に30店舗以上の飲食店があって、それぞれの店主さんたちもそこに集う地元の人もみなさんとっても元気です。津波に襲われた浪江町立請戸小学校を震災遺構としてホープツーリズムの訪問先にするなど、被害をマイナスのままにせず、それを活用して地域に人を呼ぶ強さがあるところもいいなと思いますね。
※震災・原発事故の被災地域をフィールドにした新しい教育旅行プログラムのこと。

自然豊かな浪江には、山の風景や漁港で揚がる魚の種類で季節の移り変わりを感じる暮らしがあります。海にも山にも、生活する人たちにもパワーがあって、前向きなエネルギーが町中に満ちあふれているところが魅力です。

――最後に、これから相談窓口を利用したいと考える方へのメッセージをお願いします!

黒潮と親潮が交わる栄養豊富な海で育った魚類は「常磐もの」と呼ばれ、市場で別格扱いされてきた

浪江町は、まちとして完成したところに住みたいという人よりも、ゼロから一緒にまちづくりに関わっていきたいという人の方が合っている地域だと思います。

浪江町のまちづくりはまだ始まったばかりです。
こちらに来てからやりたいことを探すのではなく、移住する目的や具体的な目標をしっかり持ってから来ていただく方が、より充実した暮らしがかなえられるはずです。

それを見つけるところからご相談いただいてもいいですし、私自身もさまざまな地域で暮らし働き、人生経験を積んできていますので、いつでもご遠慮なくお問い合わせください。

新しい暮らしを一緒に実現していきましょう。

■浪江町移住・定住相談窓口(一般社団法人まちづくりなみえ)
住所:979-1513 福島県双葉郡浪江町幾世橋字大添52-1
TEL:0240-23-7530(受付時間:9:00~17:45、水・日祝休み)
メールフォーム:http://www.mdnamie.jp/contact/
HP:http://www.mdnamie.jp/immigrat/

【大熊町】大熊町移住定住支援センター

大熊町移住定住支援センターの運営を担う「一般社団法人おおくままちづくり公社」の職員の皆さま。左奥が山崎さん

\この相談員さんに聞きました!/
大熊町移住定住支援センター
事務局次長
山崎 大輔さん

大熊町は、町内に立地する福島第一原子力発電所の事故を受け、面積の約6割が帰還困難地域に指定された町です。

全町民11,505名が長期にわたる避難生活を余儀なくされましたが、2019年4月10日に一部地域の避難指示が解除され、2022年6月30日には、震災前に居住人口の約6割が暮らしていた町の中心部の避難指示が解除されるなど、今まさに復興に向けた大きな転換期を迎えています。

――大熊町移住定住支援センターは2022年4月に開所したばかりですが、今はどのような支援を行っていますか?

大熊町移住定住支援センターは、旧・大野児童館を利活用して造られました

移住希望者からの相談対応のほか、移住定住支援ポータルサイト「おおくま」や、まちの“今”を伝える町内見学ツアー、オンラインコミュニティ「大熊町サポーターズ」の企画運営を行っています。

児童館だった頃の雰囲気が残る、大熊町移住定住支援センターの内観

大熊町移住定住支援センターの開所にあたって旧・大野児童館を活用したのは、町民にとって思い入れがある建物をできる限り残したいという思いからです。除染作業の観点では建物を壊してしまう方が効率的ですが、慣れ親しんだ風景がひとつずつ消えていくのは寂しいですし、避難生活を続ける町民が帰還した時に、気軽に立ち寄って当時を思い出せる場所を作りたいという願いも込めて運営しています。

施設内にはもともと体育館や教室として使われていたスペースもありますので、ゆくゆくは町内外の人をつなぐ交流イベントなども開催していきたいですし、公社で無料職業紹介事業の認可を得たので、移住も仕事も住居もまとめて相談できるような支援拠点にしていきたいですね。

――これまでに、どのような方からどのようなご相談がありましたか?

「大熊町立 学び舎 ゆめの森」の完成イメージ図

大熊町の“課題感”に惹かれて相談に来られる方が多いです。具体的には、これから始まる復興やまちづくりに関わり、ゼロから新しいものを作っていくことに魅力を感じている相談者さんが多いですね。

ほかには、2023年度に幼保小中一体型の教育施設「大熊町立学び舎ゆめの森」を開所する予定があるので、お子さんが小学校や中学校に上がるタイミングに合わせて移住したいという方もいらっしゃいました。「ゆめの森」では、施設の中心部に図書広場を設け、0~15歳の子どもたちと地域の方々が交流しやすくするなど、町全体で子どもを育てていくことを目指しています。

――大熊町には具体的にはどのような地域課題があるのでしょうか?

大熊町への帰還・移住希望者向けに建てられた「大熊町再生賃貸住宅」

今一番問題になっているのは、すぐに入居できるような住宅が不足していることです。移住希望者が入居できる町営住宅は40戸あるのですが既に入居済みで空きが出にくいですし、町内の空き家を賃貸物件として活用したくても、大がかりなリフォームが必要なケースや、避難されている所有者が自宅の貸し出しに難色を示すケースも見られます。

仕事に関しても求人募集が出るのは除染・復興工事関連の現場作業や大熊町役場の職員などの事務職に限られてくるので、それ以外の町内企業への就職の選択肢が少ないのが正直なところです。

また、復興庁と福島県、大熊町が2021年に行った「住民意向調査」では、「(大熊町に)戻らないと決めている」と回答した人が57.7%に上っており、避難者の帰還意向をどのように高めていくかも課題になっています。

その一方で、スーパーが一軒もなくコンビニも20時に閉まる大熊町では、小さなカフェができるだけで喜ぶ町民は多いですし、震災を経て町に対する注目度が上がったこともあり、ラーメン屋が一軒できるだけでもこの辺りの地域一帯の大ニュースになると思います。不定期でも良いので町内にキッチンカーを出してくださるだけで、コミュニティの活性化につながる可能性がありますし、立派な地域貢献活動になり得ます。

復興やまちづくりと聞くと大きな取り組みのように捉えられがちですが、一人一人の活動がまちの未来に与える影響が本当に大きい地域なので、これらの課題の中からビジネスの芽を見つけ、自分なりの方法で仕事にしていけるような人なら、活躍のチャンスは町中にあふれていると思います。

――山崎さんも千葉県千葉市出身の移住者だと伺いましたが、どのような理由で大熊町に移住されたのでしょうか。

再開発が進む、大熊町の中心部の様子

今しかできない仕事があるから大熊町に来ました。

もともと国際協力や開発援助に関心があり、青年海外協力隊(現・JICA海外協力隊)として南米のコロンビアにある国立職業訓練学校の講師として活動したり、タイの大学で「人権と民主主義」に関する研究を行い、修士号を取得したりするなどしていました。研究を終えて、ふと日本のことを考えた時に「国内にも震災と原発事故で11年もの間、居住の自由を奪われた人たちはいる」と思い、大熊町に関心を持ち始めました。

復興はいずれ一段落し、地域発展など次のフェーズに移っていきます。トライ&エラーを繰り返してイチからまちづくりに関われる時期は今しかないと考え、2022年2月に大熊町に移住しました。

――印象に残っている相談者さんはいらっしゃいますか?

桜や紅葉の名所として知られる「坂下ダム」

センターが開所する前から相談に来られていた方のことは、特に印象に残っています。

ご主人が大熊町内にお勤めで、家さえ見つかれば移住できるという方だったのですが、4月時点ではすぐ入居できるアパートがひとつもなく、6月30日に町の中心部の避難指示が解除されてからやっと3件空きが出て、そのうちの1部屋を気に入って移住を決められました。

周辺市町村ではなく大熊町を移住先に選んだ理由として「新しいことをしたいという人が多く、自分と波長が合うから」とおっしゃっていましたね。フリーランスでさまざまな仕事をしている方なのですが、移住してから新しく「出張バーテンダー」としての活動をスタートさせ、この辺りの地酒や果物を使ってカクテルを作り、他地域のイベント会場で振る舞うなどの活動をされています。

大熊町では「交流施設・linkる大熊」の中に、1カ月月1万円からプロ仕様のキッチンを使って飲食店の開業に挑戦できる「チャレンジショップ」を設けているので、こうした施設も活用していただきながら、我々も今後もできる限り応援していきたいですね。

――山崎さんが思う、大熊町の魅力を教えてください。

コロナ禍の影響で3年ぶりに開催された「なつ祭りinおおくま」の様子

やはり課題が多いところですね。課題は捉え方次第ではチャンスにもなり得るので、町じゅうにチャレンジのフィールドが広がっていると考えることもできます。大熊町で新規事業を始めたいという企業も次々に参入してきていますし、「こんなことがしたい!」と誰かが言った時に、否定的に捉える人が少なく「まずはチャレンジしてみよう、できる方法を考えよう!」という志が高い人が多いので、自分にとってはとても居心地がいいです。

あとは、よそ者を受け入れる風土があるところも大きな魅力だと思います。震災以前から町民の4人に1人が東京電力の関係者という土地なので、もともと地域外の人の出入りが活発で、外から来た人と新しいことを始めることに抵抗感を抱かない町民が多いです。

――これから大熊町をどのような地域にしていきたいですか?

宿泊温浴施設と交流施設・商業施設がそろう「大熊町交流ゾーン」

震災前の暮らしを取り戻すことや生活インフラを整えることももちろん大切なのですが、個人的にはただ生活しやすいまちに戻す必要はないと思っています。世界的にも類を見ない未曾有の震災と原発事故を経験したからこそ、それを活かす道のりの中に、唯一無二のまちをつくるチャンスがあると思うからです。

例えば、学生向けのインターン制度を設け、目の前にある課題を解決する実践型の教育プログラムも作れますし、企業の研修地利用の可能性もあり得ると思います。実際に2020年から、全国の学生による企画立案事業「おおくまハチドリプロジェクト」をスタートさせ、大熊町を地方創生や地域活性化に関心を持つ学生の学びのフィールドとして活用しています。

一人一人の新しいチャレンジを柔軟に受け入れ、「大熊町に来たら成長できる」と思われるような新しいまちにしていきたいですね。

――最後に、これから窓口を利用したい方へメッセージをお願いします!

大熊町は「未来しかないまち」です。

誰もが満足するような生活インフラは整っていないですが、これまでの経験や感性を生かして地域課題に取り組みたい、社会貢献活動がしたいという“志”が先にある方にとっては、新鮮で刺激的な日々が送れる地域だと思います。

前向きな挑戦をしようとする人を全力でサポートする人も制度も整っていますので、ぜひお問い合わせください。

■大熊町移住定住支援センター(一般社団法人おおくままちづくり公社)
住所:〒979-1308 福島県双葉郡大熊町大字下野上字清水307-1
TEL:0240-23-7103 (受付時間:9:00~17:45 日祝休み)
お問い合わせフォーム:https://web.gogo.jp/93810/form/contact
HP:https://www.okuma-machizukuri.or.jp/ijuteiju

※所属や内容、支援制度は取材当時のものです。最新の支援制度については各自治体のホームページをご確認いただくか移住相談窓口にお問い合わせください。
写真提供:一般社団法人まちづくりなみえ、一般社団法人おおくままちづくり公社、浪江町産業振興課商工労働係
取材・文:高田裕美