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学生が大熊町の未来を創る「おおくまハチドリプロジェクト」中間発表会

2022年12月21日
大熊町

    2022年8月29日(月)に、「おおくまハチドリプロジェクト」の中間発表会が開催されました。

    ここでは、若者たちが大熊町のよりよい未来を実現するために立案した多彩な企画をご紹介します。

    おおくまハチドリプロジェクトとは?

    アンデス地方に伝わる民話『ハチドリのひとしずく』に倣い、「たとえ小さなことであっても、なにかできることを見つけて実行する」というコンセプトで2020年12月にスタートした「おおくまハチドリプロジェクト」は、全国の学生が大熊町の復興のために企画立案をするアイデアソンプログラムです。

    学生たちは夏休み期間を活用して、大熊町企画調整課の職員による事前勉強会や、1泊2日の現地見学会、地域住民との対話セッション、ブラッシュアップセミナーに参加。地域が抱える悩みや課題、ビジョンを取材した後、15回ものミーティングを重ねて企画を立案しました。今回の中間発表会でその内容を発表し、有識者からのフィードバックを基に実施プランに磨きをかけ、2023年3月までにそのアイデアを実行に移します。

    プロジェクトの舞台である大熊町は、町内に立地する福島第一原子力発電所の事故により全町避難を余儀なくされ、一時は人口ゼロを経験した地域です。2022年6月に特定復興再生拠点区域の避難指示が解除され、まさに今、地域再生への大きな転換期を迎えています。

    ※原発事故の影響を受けて立ち入りが制限されている帰還困難区域のうち、先行して居住可能とすることを目指す区域のこと。

    ■おおくまハチドリプロジェクトの紹介動画

    企画1:道路de巨大すごろく~大熊の過去と未来を、震災を知らない子どもたちへ

    提案内容:道路の一部を歩行者天国にし、巨大なすごろくをつくる!

    現地見学会で実際に町内を歩き、住民や車の往来が少ないことを実感した学生たち。その一方で「誰もいない道路の真ん中を自由に歩くのって楽しい!」と感じ、大熊町にあるものを活かして人を呼ぶアイデアとして、道路で巨大なすごろくを行うという企画を提案しました。

    メインターゲットは、震災を知らない6〜12歳の子どもと、その親世代。コロナ禍で自由に外遊びができなかった子どもたちに「道路で思いっきり遊ぶ!」という普段はできない体験をしてほしい、また、もっと多くの人に楽しみながら大熊町のことを知ってほしいという願いを込めました。

    コンセプトは「大熊町の既存の魅力をピックアップし、誰もいない場所をつなぐ」こと。全長3kmの道路を巨大すごろくのコースとし、参加者自身が駒になって町内を巡ります。すべてのマス目に、ゲームマスやご褒美マス、フォトスポットマス、企業とのコラボマスなどのアクティビティが設けられていて、進むごとに大熊町への理解が深まる仕組みです。

    ゴールすると地場産いちごの「大熊ベリー」を使ったパフェの引換券をもらうことができ、パフェを楽しみながら参加者と町民が交流できるスポットも用意するようにしました。会場には、他にも大熊町の地域産品を購入できるブースや震災からの復興に関する展示コーナーを設置予定。

    イベントを継続的に開催していくことで、まちへの来訪者を増やし、自然豊かな大熊町の魅力を広くアピールしつつ、関係人口や移住者を増やすことも目指しています。

    企画提案者:安西志帆さん、大月万夢さん、鈴木晴菜さん、中田泰誠さん、藤辺彩花さん、松田理穂さん、山本若菜さん

    企画2:大熊町にUFOがやってくる?~人々に愛されたUFOパンを大熊町でもう一度~

    提案内容:多くの町民に愛された「UFOパン」を、大熊町の新しい特産品に

    「UFOパン」とは、震災前、大熊町にあった「加村菓子店」が作っていたパンのこと。クッキー生地を重ねた素朴な味わいとふっくらした円盤型が特徴で、町内の幼稚園にも提供され、子どもから大人まで幅広い世代から愛されていました。

    学生たちは大熊町民へのヒアリング調査を行う中で、そのUFOパンを懐かしむ声を聞き、町民に愛される新しい特産品づくりを企画しました。

    まずは加村菓子店を経営していた加村さん(現在は埼玉県行田市で「手ごねパンSORA」を経営中)の監修のもと、学生たちが自ら「linkる大熊」内のクッキングスタジオでUFOパンを製造し、大熊町で愛された味を復活させ、町内での販売を再開させるというもの。さらに、地域最大のいちご生産工場である「株式会社 ネクサスファームおおくま」のいちごジャムとコラボレーションし、新フレーバーのいちご味を開発。他にも、今、若者に人気のアメリカンフード「ワッフルチキン」からヒントを得た、ハニーチキン味も新規開発し、若い世代への訴求力を高めます。

    開発した商品は、全国の「ニューヤマザキデイリーストア」や福島県の物産展、アンテナショップなどで販売し、「UFOパン」と大熊町の認知度をともに高めていけるような販路開拓を行いたいとのこと。商品の販促には、若い世代へのリーチ力を重視し、InstagramとTikTokを活用。学生たち自ら「バズる」動画コンテンツの制作と配信も行います。

    企画提案者:圓山アミさん、熊﨑さやかさん、関春佳さん、山口奈桜さん、竹谷隼介さん、鈴木悠功さん

    企画3:彩がつなぐ過去と未来、人と人

    提案内容:花とアートが持つ“彩り”の力で、町内外をつなぐ

    震災前、約10,000人だった大熊町の居住人口は、今は929人ほど。学生たちは町民へのヒアリング調査を通して、既に避難先で新しい暮らしを構築し「大熊には戻らない」と決めている町民と、「いつかは懐かしい故郷に帰還したい」と考えている町民がいることを知りました。そこで、学生たちは町の内外を「紫陽花とアートでつなぐ」ことで、“彩り”の力でまちの復興を目指そうと考えました。

    まず初めに、2023年に開所予定の、幼保小中一体型の教育施設「学び舎 ゆめの森」周辺の歩道に紫陽花の花壇を造成。アメリカ発祥のストリートアート「rain works」をヒントに、誰でもアート感覚で草花に水やりしたくなる空間を創ることで、町民たちが自ら楽しみながら花を育て憩うコミュニティースポットを生み出します。

    さらに、町民と地域の小中学生が協力し、町外で暮らす町民に大熊の花々を使った「花便り」を送ることで、町民に対してはまちづくりへの参画と多世代コミュニティの構築を促しつつ、町外在住者に対しては大熊町を訪れる新しいきっかけを提供します。

    花とアートという“彩り”で過去と未来、人と人をつなぎ、大熊町への移住を促していく計画です。

    企画提案者: 櫻井由伸さん、澤田翔太さん、鈴木愛奈さん、砂田遼大さん、野村亮太さん

    企画4:モビリティで大熊を観光地に

    提案内容:広い土地を活用して「おおくまモビリティフェア」を開催する

    現地見学会に参加し空き地が目立つ大熊町を見て、率直に「寂しい」と感じた学生たち。広い土地を活かし、町外から人を呼ぶ方法を考える中で生まれたのが「大熊町でしかできない、ワクワクする体験の提供」をテーマに、eモビリティ(エレクトロモビリティ)イベントを開催するというアイデアです。

    イベントでは、2022年7月に起業家支援拠点として誕生した「大熊インキュベーションセンター」に入居する、eモビリティや自動運転技術の向上に取り組む企業と共同で体験試乗会やレース大会を開催。「誰が運転しても安定走行できる」というeモビリティの特長を活かしたレースを行い、イベントを目的に大熊を訪れるコアなファンの獲得を目標としています。

    また、子どもからお年寄りまでが楽しめるイベントにするため、「ソーラーカーを作って走らせる」ワークショップの開催も企画。会場の近くにキッチンカーと飲食スペースを準備し、町民と町外からの参加者との交流の場を設けます。3年間かけてイベント規模を拡大させ、5年後には常設イベント会場として「モビリティパーク」の開園を目指したいとのこと。

    学生たちは「イベントを通して大熊町の“被災地”としてのイメージを、“ゼロカーボンへの取り組みで日本の最先端を走るまち”というイメージに一新したい!」と語りました。

    企画提案者: 植本翔太さん、西川綾美さん、町田兼都さん

    企画5:ベリー大熊

    農業をテーマに調査を行った学生たちは、消費者庁の「第15回風評被害に関する消費者の実態調査」で、放射性物質を理由に食品の購入をためらう産地として「福島県」と回答した人の割合は、調査対象者のうちのわずか6.5%(5,176名中335名)であったという調査結果を紹介。大熊町の農業の完全復活に向けて、農産物の安全性をPRするだけでなく、そのおいしさ消費者にを知ってもらうという次のステップに進むべきだと語りました。

    そこで、大熊町が基幹産業化に向けた取り組みを行っている「いちご」に焦点を当て、東京都目黒区にある「Craft Village NISHIKOYAMA」で、大熊産いちごのおいしさをPRするイベント「ベリー大熊(仮)」を2023年春に開催することを提案しました。

    メインターゲットは「若い世代に来てほしい」という町民の声を基に、10代、20代の若者世代と親子に設定。イベントでは、いちごを使用したスイーツやドリンクの提供、オープンテラスでの「いちご×縁日」の開催、SNSでの拡散効果を取り込むため「大熊のいちごになりきる!Instagram用フォトスポット」や動画配信が可能なステージを設置します。さらに、来場者には大熊町のマスコットキャラクターである「まあちゃん」がプリントされたタオルを配布。大熊町のPR動画も上映するというもの。

    学生たちは「イベントを通して、大熊町の復興や産業再生への取り組み、大熊産の農産物の安全性とおいしさを多くの人に知っていただきたい」と話しました。

    企画提案者:高橋せらさん、小野有佳里さん、田島聡さん、中野拓真さん、堀内俊さん

    企画6:大熊総合芸術祭~みつめるイマ、つくるミライ~

    提案内容: 大熊町全体を会場とする「総合芸術祭」を開催

    大熊町に若者を呼ぶ活動を行う学生団体「みんなで大熊町づくりプロジェクト(通称みんくま)」が、2022年3月に開催した「パレットおおくま-アートと食を彩るフェス」では、夜間人口ゼロの町に350人が訪れました。学生たちはこの実績を踏まえ、さらに大熊町を盛り上げる企画として、2023年9月に大熊町全体で総合芸術祭を開催することを提案しました。

    イベントのテーマは「みつめるイマ、つくるミライ」。初年度は町内4カ所で「芸術、音楽、アウトドア」を楽しめる、3日間のイベントとして開催します。

    芸術エリアのコンセプトは「芸術×伝統×新しい価値」。演出には、相馬地方に伝わる「相馬野馬追」の要素を取り入れ、大熊町の地域活動拠点である「KUMA・PRE」などの会場を舞台に、住民参加型の写真展や3年間かけて完成させる壁画アートの制作などを提案しています。また、人が集う場所として音楽会場を設営。アウトドアエリアでは「星空×非日常×ヒト」をコンセプトに、キャンプ場と星空を浴びる屋外サウナを展開するというものです。

    学生たちは「『大熊の一員になりたい』と思う人を増やすことが、大熊の未来をつくる第一歩だと考えます」と力強く語りました。

    企画提案者: 吉田幸希さん、関拓人さん、村岡正人さん、渡辺晴紀さん、小池遥さん、内藤結真さん、西村夏海さん、稲垣凛さん

    各企画のプレゼンテーション後には、審査員から提案内容や実施計画についての質問があり、学生たちが回答。町内の現状を良く知る審査員の皆さんからは、アイデアだけで終わってしまわぬよう現実的な規模感で実行するためのアドバイスも出されつつ、実現への期待が寄せられました。

    中間発表会の審査の結果、すべてのチームが基準点を超えたため、改善の余地はあれど全企画が「採用」と判断されました。

    企画実現に向けて

    中間発表会を終えた学生たちは、審査員から出た意見を基に企画をブラッシュアップし、実施に向けて動きだします。準備期間は2022年9月から2023年1月までで、2023年2月頃から順次実施の予定です。

    企画実現までの過程で、学生たちはさまざまな課題や困難に直面するかもしれません。それらをどう乗り越えてプロジェクトを成功させ、どのような学びを得るのか、最終発表会での報告が楽しみです。

    学生たちが企画を実現する際は、 あなたもぜひ参加し、地域再生へと歩み続ける大熊町の魅力を感じてみませんか?

    文:熊野優美子