移住サポーター

一人ひとりの移住に寄り添う 飯舘村の移住相談窓口「3ど°」

2025年8月27日

移住に関心はあるけれども、何から始めればいいか分からない。福島12市町村では、そんな移住検討者のために、市町村ごとに移住相談窓口が開設されています。

そのうち、飯舘村への移住を支援する機関が、いいたて移住サポートセンター「3ど°(さんど)」です。仕事や住まいなど移住に関する相談受付のほか、村の想いや仕事を受け継ぐ担い手へバトンを受け渡す役割も担っています。センター長を務める山本阿子(やまもと あこ)さんに、その取り組みについて伺いました。

「何度でも村を訪れてほしい」願いを込めた移住支援

飯舘村の豊かな自然を背景に、温かな明かりを灯すモダンな一軒家。いいたて移住サポートセンター「3ど°」(以下、3ど°)です。まずは山本さんに、このユニークな愛称の由来を伺いました。

3ど°でセンター長を務める山本さん

「3ど°という愛称には、”何度でも村を訪れてほしい”という願いが込められています。1度目はふらりと遊びに、2度目は知り合った人と再び会うために、3度目以降は村で暮らす準備をするために、村を訪れてほしい。村と移住者とが関係を深める拠点となることが、3ど°の役割です」

3ど°では、移住検討者の相談対応のほか、村に関する情報発信、移住者向けイベントの開催、仕事や住まいの情報提供などを行っています。地域おこし協力隊の応募受付や活動サポートも担当しています。

飯舘村への移住状況について伺うと、移住に興味を寄せる方は年々増えているそうです。相談件数は年間250件ほどで、幅広い年代の相談者が訪れます。

「50代以上の方が理想のセカンドライフを求めて相談にいらっしゃるケースが多いです。田舎暮らしがしたい、自然豊かな環境に憧れる、都会以外の場所で働きたいなどの理由が多く、関東圏からの相談が目立ちます。一方で、20〜30代で移住をする方のなかには、理想の働き方や叶えたい夢があるなど、仕事に対する高いチャレンジ精神を抱いている方も少なくありません」

村でチャレンジをする若者を頼もしくサポートしているのが、地域おこし協力隊制度です。村では企業雇用型・フリーミッション型など複数タイプの地域おこし協力隊を募集しており、任期中の活動は村と3ど°が伴走します。

「村は、まるで真っ白なキャンバスのように、それぞれのやりたいことを自由に描ける環境です。のびのびとした空気感に魅力を感じた若い起業家が、徐々に地域に根づき始めています。この”移住の先輩”と呼べる起業家の皆さんと、長く地域で営業を続ける企業の皆さん、長く飯舘村に関わりのある方に協力してもらい、今年度は移住検討者&村内就労者向けトークイベント『夢見るいいたて村3ど°トークプログラム』を企画しました。移住と暮らしのロールモデルである皆さんのお話は、移住を検討するうえでの大切な手がかりになると思います」

「までいな精神」「結いの精神」が息づく村

幅広い年代、さまざまな属性の方を惹きつける飯舘村の魅力は一体どこから生まれるのでしょうかと、山本さんに問いかけました。すると、村が古くから大切にしてきた”までいな精神”と”結いの精神”が関わっているのではと教えてくれました。

飯舘村の文化や気候、暮らしを体感できる“までい”な暮らしを体現する、飯舘村のエコハウス「までいな家」

“までいな精神”とは、心をこめてていねいに行う心持ちのことです。古くから”までいな暮らし”を重んじてきた村では、人それぞれの自分らしさや、幸せを感じる生き方を尊重してきたそうです。”結いの精神”とは、お互い様の心。村の人々は、当たり前のように互いに助け合いながら生きてきました。

「この2つの精神は、親から子へ、さらに孫へと、時代を超えて伝わってきました。その土壌が、多様性を認め合う柔軟な心を育んできたのでしょう。村民の皆さんは、移住者の気持ちに”までい”に寄り添い、困ったことがあれば”結いの精神”で助けてくれます。そんな温かさのある村だから、はじめは知り合いが1人もいなかった移住者も、馴染んで暮らしていけるのだと思います」

写真:飯舘村いいたて移住サポートセンター提供

取材に伺った日は、あいにくの雨。ふと3ど°の窓ごしに外へと目をやると、しとしとと降る雨に打たれた木々が、匂いたつような鮮やかな深緑色に染まっていました。

「村には開けた景色のスポットが多く、見るだけでも気持ちが晴れるものです。自然とともに生きる暮らしもまた、村ならではの魅力です」

村と担い手の縁をつなぎたい

山本さんに、3ど°が大切にしていることを伺いました。

「センターにはもうひとつ名称があり、”いいたての暮らしをつなぐステーション”と言います。”移住”とつくと、地元の方から関係ないと思われてしまいがちですが、誰にとっても”開かれた場所”であることを目指しているため、暮らしをつなぐという名称にしています。足を休めるだけでも、おしゃべりをするだけでも、村役場の用事のついでに立ち寄っていただくだけでもかまいません。特別な目的がなくても来ていい場所なのだということが少しずつ伝わり、今では住民の方や移住者の方、地域おこし協力隊のOB・OGの皆さんも顔を出してくれるようになりました。3ど°をきっかけに、おもしろくて面倒見がいい住民の皆さんと移住者の皆さんがどんどん出会ってほしいと思います」

確かに、3ど°には、皆さんが自然に打ち解けられるようなあたたかな空気が流れています。木の温もりを感じる内装や広々とした和室には、大きな掃き出し窓から採りこまれた光がさんさんと降り注ぎ、まるでひなたぼっこをしているよう。3ど°での相談の時間は、自宅の居間のような団らんの場になるだろうと感じました。

人と人の縁をつなぎ続ける3ど°で今後力を入れていくのは、”村と担い手との縁”をつなぐことです。

「村の産業の歴史や技術、取り組み続ける方々の想いなど、次世代につないでいきたいものがたくさんあります。バトンを受け取ってくれる方と出会うには、村の魅力を内側から掘り下げ、村の外へと発信する取り組みが重要だと考えます。3ど°の発信するメッセージは徐々に伝わり始めていて、地域おこし協力隊制度などを活用して担い手候補として手を挙げてくれる方も増えてきました。より多くの方にメッセージを届けるため、3ど°はこれからも、村と移住者に”までい”に向き合っていきます」

飯館村への移住に興味をもったなら、ぜひ気軽に3ど°へ相談してみましょう。一人ひとりに合った移住スタイルが見つかるまで、”までい”に寄り添ってくれます。


■飯舘村 いいたて移住サポートセンター「3ど°(さんど)」
所在地:〒960-1892 福島県相馬郡飯舘村伊丹沢字伊丹沢578-1
TEL:0244-68-2850
E-mail:iju@iitatelife.jp
受付:平日10:00~17:00(土日祝日は事前予約制)
相談方法:電話、メール、オンライン、地域とつながるプラットフォーム「スマウト」、対面でのご相談を受け付けています。道の駅「までい館」内にも対面相談窓口があります。
HP:https://iju-iitate.net/

■飯舘村 移住・定住ポータルサイト
HP:https://www.vill.iitate.fukushima.jp/site/iju/

※所属や内容、支援制度は取材当時のものです。最新の支援制度については各市町村のホームページをご確認いただくか、移住相談窓口にお問い合わせください。
取材・文:橋本華加 撮影:古関マナミ