生活・その他

全国レベルのフェンシング部に“フツウじゃない”普通科。福島県立川俣高等学校の個性あふれる教育

2026年10月28日

川俣町にある福島県立川俣高等学校(以下、川俣高校)。全校生徒は56名と少人数ではありますが、一歩足を踏み入れれば、そこには都市部の大規模校では決して味わえない、驚くほど手厚く、そしてワクワクする学びの場が広がっていました。

この学校が持つ唯一無二の魅力を、鈴木千晶(すずき ちあき)校長と、川俣町教育委員会学校教育課の川原 輝生(かわはら てるき)さんに伺いました。

普通科なのに、商業も工業も選べる教育環境

「川俣高校の魅力をまずあげるとすれば、『普通科だけどフツウじゃない、個性あふれる学校』です」と、鈴木校長。一体どういうことなのでしょうか。

川俣高校の魅力を語る鈴木千晶校長

川俣高校は普通科のみを設置する単科校ですが、2年生からは進路に応じて教養・商業・工業の3コースに分かれ、専門的な学習をします。教養コースでは大学進学を見据えた授業で教科を深く学び、商業コースでは簿記や情報処理など各種検定取得に向けた実践的なスキルを磨きます。

また、工業コースでは、旋盤(金属を円筒状や円盤状に削り出す機械)やNCフライス盤(平面削りや溝加工を行う機械)など、工作機械を使った本格的なものづくり実習があります。実は令和4年3月まで機械科があった川俣高校。工業カリキュラムや設備、環境を活かし、工業高校に負けない高度な実習ができることが大きな特徴です。「普通科の枠にとらわれず、自分の興味や進路に合わせて専門性の高い学びを『選べる』ことが最大の強みです」と川原さんは言います。

旋盤をはじめ、万力や3Dプリンターなども設置された実習室

さらに驚くべきは、授業の手厚さ。1クラスに教員が2名、さらに個別フォローを行う学習支援員も入り、指導者3名体制で授業が行われています。

「ここまでできるのは県内でも珍しく、授業だけでなく、学校生活全般にも教員の目が細やかに行き届くため、生徒同士のトラブルもほとんどありません」(鈴木校長)

気になる卒業後の進路は進学・就職率100%を継続。 進学先は県内外の四年制大学や専門学校など多岐にわたり、商業・工業コースの生徒の多くは製造業、建設業、医療・福祉など幅広い業界で活躍しています。 「今後は難関大学への挑戦も含め、生徒一人ひとりの希望に寄り添った進学指導をさらに強化していきたい」と鈴木校長。生徒一人ひとりの夢に応える環境づくりを進めています。

オリンピックコーチから直々に指導も。強豪のフェンシング部

川俣高校の魅力を語るうえで外せない存在が、全国レベルで成果を上げているフェンシング部です。 

実は、川俣町はフェンシングのまち。1995年のふくしま国体のフェンシング競技会場が川俣町に決まった1989年以降、川俣町でフェンシング競技をPRしたり、スポーツ少年団が結成されたりと、着々と川俣町に根付いていきました。 

そんな土壌で培われた川俣高校フェンシング部は現在、男女合わせて13名の部員が在籍しています。2026年は、東北高校フェンシング選手権大会女子サーブルで1年生の生徒が優勝、インターハイ男子個人サーブルで2年生の生徒が全国3位となるなど、輝かしい成績を収めています。

これほどの成果を出している理由は「盆と正月以外は毎日練習」と言われるほど練習熱心なこと、そして指導陣に恵まれていることです。フェンシング部OBの顧問の先生や地域OB・OGの熱心な指導に加え、川俣町の手厚いバックアップにより、2024年パリオリンピック日本代表コーチを務めた橋本寛(はしもと ひろし)さんなど、超一流のコーチ陣が定期的に来校し、技術や心構えを教えています。 この環境を求めて、県外から川俣高校へ進学してくる生徒もいるほどです。

さらに、町と学校が連携し、小中高生を対象としたフェンシングトレーニングキャンプ(教室)を年間通して開催。2026年度は、東京オリンピック男子エペ団体金メダリストの宇山賢(うやま さとる)さんや、パリオリンピック女子サーブル団体銅メダリストの髙嶋理沙(たかしま りさ)さんなど豪華な講師陣を招き、指導を受けました。

「川俣町は、子どもの頃からフェンシングに触れる機会に恵まれた地域。本校のフェンシング部は、地域と学校が一体となって育ててきた、町の誇りです。世界を知るコーチやトップ選手から直接刺激を受ける体験が生徒たちの可能性を大きく広げてくれていて、オリンピック出場を目指す生徒もいます。今後は、高校を卒業したら競技も終わりではなく、大学でもフェンシングが続けられるよう進学のバックアップに力を注いでいきたいですね」(鈴木校長)

県外生も安心の寮完備。全国からの進学を大歓迎

フェンシングを目的に県外からの入学者も増えている川俣高校。2024年度から「地域みらい留学※」を活用して全国から生徒募集を開始しました。2025年度は1名、2026年度は5名の生徒が県外から川俣高校に入学しており、全員が寮生活を送っています。 
※地域みらい留学…日本各地にある190の公立高校の中から、住んでいる都道府県の枠を超えて自分の興味関心にあった高校を選択し、高校3年間をその地域で過ごす国内進学プログラム。 

2026年9月現在、川俣町が運営する学生寮で暮らす生徒は全部で8名。個室の居住スペースや食堂が完備され、朝夕の食事や生活サポートもしっかりとついています。 

2027年度からは学生寮を新たに整備し、定員も増える予定。遠方から子どもを一人で送り出す保護者にとって、これ以上ない安心の環境です。入寮生の多くはフェンシングなど目的を持って集まっていますが、アットホームな雰囲気のなか、地元生徒とも和気あいあいと過ごしています。

住民みんなが先生になる。総合的な探究の時間「かわまた探究」

“フツウじゃない”普通科の理由に、地域と深くつながる学びがあります。川俣高校は地元からの入学率も地元への就職率も高いことから、地域と学校が一体となって生徒の育成や学校運営を行う地域協働推進校(コミュニティ・スクール)の指定を福島県教育委員会より受けています。

地域と協働した授業にも力を入れており、総合的な探究の時間「かわまた探究」では、地域の事業者や専門家などを講師に招き、町の魅力を知り、地域課題の解決に取り組んでいます。今年度は、地元の名産「川俣シャモ」を使った新メニューの開発や地域のイベントの企画運営に参加するなど、多彩なテーマで取り組んでいます。生徒が開発したドリップコーヒーが実際に道の駅かわまたで販売され、話題を呼んだこともありました。

川俣シャモの商品開発に挑戦する食・農業班2年生(川俣高校提供)

「かわまた探究の取り組みは、本年10月の川俣高校主催のイベントで地域の皆さんに披露しました。生徒が自ら地域の課題を見つけ、解決までの計画を立て、成果を形にして発表する。こうした取り組みを通じて、生徒たちは考える力や行動する力を身につけています」(鈴木校長)

生徒全員が加入! 主体性を伸ばす「地域活動部」

「かわまた探究」での学びに加えて、川俣高校には令和7年度から、生徒全員が加入する地域活動部というユニークな取り組みが存在します。

そうした取り組みのひとつが、放課後にマイスターと呼ばれる地域のプロを招いて実施される体験講座、「幸せな放課後プロジェクト」です。お菓子作りや美容講座、パーソナルカラー診断、スポーツ教室、国際交流など、生徒たちの声から生まれた講座を通じ、日常的に多様な体験や職業に触れる機会が用意されています。

川俣町で働くインドネシア出身の方を講師に招いた国際交流(川俣高校提供)

その目的について川原さんは次のように話します。

「さまざまな体験を通して、自分のやりたいことや得意なことを発見してほしいと考えています。単なる体験で終わらせず、講師の方にその職業を選んだ理由やこれまでの経歴などを語っていただくことで、生徒が自らの将来を考えるきっかけにしています。実際、お菓子作り体験をきっかけに料理の専門学校へ進学を決めた生徒もいるようです」

学校と地域をつなぎ、地域活動部の取り組みを支える川俣町教育委員会の川原輝生さん

地域活動部には通年で活動する2つの専門部も設置されています。 一つがフェンシング部、もう一つは、「川高魅力伝え隊」です。日頃のかわまた探究や地域活動部の様子をSNSで発信したり、高校合同説明会に参加したりと、生徒自らの言葉で川俣高校の魅力を全国にPRする広報の要として大活躍しています。

少人数だからこそ、埋もれていた自分を開花できる

学校に通う生徒たちについて、鈴木校長は次のように話します。

「本校は生徒の主体性が育ちやすい環境だと思います。大人しくて控えめな子が多いですが、表には出さないだけで高い意欲や向上心を秘めた生徒ばかりです。普段の授業や『かわまた探究』では課題にしっかり向き合い取り組んでいますし、地域活動部の各種活動には毎回多くの生徒が参加しています。フェンシング部ではみんな厳しい練習に一生懸命ですし、川高魅力伝え隊の部員たちもPRをがんばっています。そんな生徒たちの“がんばろう”という意欲をもっともっと育てていきたいですね」

川俣高校では、ペーパーテストの点数だけでなく、自己肯定感や失敗を恐れず挑戦する気持ちといった、非認知能力(心の力)の育成にも重点を置いています。実際、生徒の意識調査では年々自己肯定感の数値が向上しているそうです。

「少人数だから、授業や校内行事、部活動などのシーンにおいて、一人ひとりの役割が大きい、つまり、活躍の機会が多く与えられます。中学校ではあまり目立たなかったり、自分を表現するのが少し苦手だったりした子でも、この学校で仲間や地域と関わり、さまざまなことに挑戦する機会を通して、自信をつけ、成長してくれたらと期待しています」(川原さん)

「中学生や保護者の方から学校生活について尋ねられると、生徒たちは胸を張って“毎日が楽しいです!”と答えてくれます。授業だけでなく、さまざまな機会で町の人と関わり、そのたびに新しい発見があるからだと思います。こうした学校生活を通して、自分の“がんばる力”を蓄え、3年間で大きく成長していってほしい。私たちはそう願っています」(鈴木校長)

“フツウじゃない”普通科での学びを通し、成長できる川俣高校。この記事では書ききれない魅力が、この学校にはまだまだたくさんあります。先生やクラスメイト、そして地域とともに過ごせる濃密な3年間が、次の新入生たちを待っています。


■福島県立川俣高等学校
所在地:〒960-1401 福島県伊達郡川俣町飯坂諏訪山1
TEL:024-566-2121
HP:https://kawamata-h.fcs.ed.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/kawamatah7/
note:https://kawamata-hs.note.jp/

※所属や内容は取材当時のものです。
取材・文:宮田麻依子 写真:塩沼麻衣