生活・その他

スヌーズレンルームを知っていますか? 地域とともに一人ひとりの「その子らしさ」をはぐくむ、福島県立ふたば支援学校の教育

2026年9月24日
楢葉町

2025年1月、福島県楢葉町に県立ふたば支援学校が開校しました。この学校では、「地域とともに学び、ともに生きる」を理念に掲げ、子どもたちの成長を支えています。

ふたば支援学校にはどのような学びの環境があり、どのような想いで子どもたちと向き合っているのでしょうか。持舘康成(もったて こうせい)校長にお話をうかがいました。

小学部・中学部・高等部を設置。就学前の発達相談ができるセンターも

ふたば支援学校は、知的障がいや重複障がいのある子どもたちが地域社会の中で自分らしく生きていく力をはぐくむ特別支援学校です。前身は、1978年に富岡町で開校した富岡養護学校。東日本大震災と福島第一原子力発電所事故の影響でいわき市への避難を余儀なくされましたが、2024年度に校名をふたば支援学校に改め、楢葉町へ新設・移転しました。小学部・中学部・高等部を設置し、子ども一人ひとりの特性や発達段階に応じた教育を行っています。

また、校内には地域支援センター「さくら相談室」が併設されています。学校に通う子どもや保護者はもちろん、「言葉がゆっくり」「集団生活になじめない」「進路について相談したい」といった就学前の子どもに関する悩みも気軽に相談できる場です。

心を落ち着ける部屋、就労支援――子どもの特性に合わせた学びの環境

校舎は大きな窓からやわらかな光が差し込み、明るく開放的な雰囲気。教室では、一人ひとりの特性や発達段階に合わせた、きめ細やかな指導が行われています。

小学部は子どもたちの笑顔や元気な声があふれ、教室は和やかな雰囲気に包まれていました。一方、高等部では、生徒たちが真剣な表情で授業に取り組む姿がありました。

小学部・中学部・高等部の児童生徒が一緒に給食を食べるランチルームは、子どもたちがのびのびと過ごせる空間です。栄養士が工夫を凝らしたメニューが提供され、子どもたちも先生も楽しみにしているのだとか。年齢を超えた交流や会話が自然に生まれるいこいの場にもなっています。

校内の施設で印象的だったのが「スヌーズレンルーム」です。室内には、光や音、クッション、ボールなど、五感を心地よく刺激するものが配置されています。感覚が過敏な子どもや気持ちの切り替えが難しい子どもが心を落ち着かせたり、自分の気持ちを整えたりするための部屋です。

「“こんな部屋があったら、ここから出なくなるのでは”と思われることもありますが、子どもたちはここで気持ちを整え、自ら教室へ戻っていくんですよ」と持舘校長。そのほかにも、一人ひとりの特性に合わせた工夫が、校内のさまざまな場所に見受けられました。

高等部では、卒業後の自立した暮らしや就労を見据えた学習や支援にも力を入れています。例えば、校内には、作業技能大会に向けたビルクリーニングの実習スペースが設けられ、モップやダスターを使った清掃技術を磨く練習が行われています。こうした実践的な学びを通して働くために必要な知識や技能を身につけ、卒業後の就労へとつなげています。

ともに生きる社会の一員として。地域のイベントにも積極的に参加

ふたば支援学校の特徴を持舘校長に尋ねると、「地域とともに子どもを育てること」という答えが返ってきました。

学校では、町やさまざまな団体が主催するイベントにも積極的に参加しています。多様な人たちとの交流を通して社会とのつながりをはぐくみ、子どもたちが地域の一員として成長できるような学びを大切にしているそうです。

「私が赴任したとき、まずは近所の方々へごあいさつにうかがったんです。そのとき、“いつでも見守っているよ” “来てくれてありがとう”と声をかけていただきました。この地域は本当に温かくて、子どもたちの成長を地域全体で見守ってくださるありがたい環境です」

持舘康成校長

持舘校長は、こうした地域との関わりこそが特別支援教育の目指す姿だと話します。

「特別支援教育の大きな理念の一つは、共生です。学校の中だけで過ごすのではなく、地域の皆さんに見守られながら、ともに生きる社会の一員として育っていくことが大切だと考えています。この地域では、それが自然にできているんですよ」

学校ではnoteでの情報発信にも取り組み、日々の学びや生徒たちの活動の様子を届けるなど、地域にひらかれた学校にもなっています。

「なぜ今、その支援をしたの?」――教師としての原点を築いた5年間

33年前、持舘校長はふたば支援学校の前身である富岡養護学校に講師として赴任し、5年間を過ごしました。そのときの経験が教師人生の土台になっているそうです。

ある日、子どもと一緒にトランポリンで遊ぼうと手をつないだときのこと。当時の教頭先生から、こんな問いを投げかけられたと言います。

「なぜ、手をつないだの?」
「なぜ今、その支援をしたの?」

「当時の私は、子どもたちに自然に手を差し伸べていましたが、なぜその支援が必要なのかを言葉で説明できませんでした。教頭先生が伝えたかったのは、一つひとつの支援には必ず意図があるということだったんですね。
気持ちを言葉で伝えることが難しかったり、言葉と本当の気持ちが一致しなかったりする子もいます。子ども一人ひとりの困りごとが違うからこそ、特別支援教育では、表情やしぐさ、反応をていねいに読み取り、一つひとつの支援に意図を持って関わります。その大切さをこの学校で教えてもらいました」

中庭には人工芝が敷かれ、安全に遊べるようになっている

あるときは、同僚の先輩教員に「今日は教員を辞めようか」と声をかけられたこともあったそうです。

「その日は砂遊びの授業だったんですけど、当時の私は“スコップを持ちなさい“ “ちゃんと砂を入れなさい”と、子どもたちに指示ばかりしていました。子どもに教え、導かなければと力が入っていたんです。でも、その日は私自身が夢中になって穴を掘って遊んでみました。すると、それまで指示をしても動かなかった子が自分からスコップを持って、一緒に穴を掘り始めたんです。そのとき、『ああ、こういうことなんだ』と気付かされました。子どもの立場に立ち、その子の目線や感じ方を想像しながら、同じ時間を過ごす。その積み重ねが、子どもとの信頼関係をはぐくんでいくんです」

『普通』ってなんだろう。「その子らしさ」を大切にできる学校へ

震災を経て新たなスタートを切ったふたば支援学校。この学校が目指す教育とは、どのようなものなのでしょうか。

「最近よく『普通』ってなんだろうって考えるんです。人はみんなそれぞれ違っていて、その違いはグラデーションのようにつながっています。その一部だけを切り取って、障がいがある子どもたちを『特別』と分けるものではないと思うんですよね。支援が必要だから障がい名があるのであって、人を分けるためにあるわけではありません。その子に合った支援があれば、その子らしく生きていくことができます。一人ひとりが地域の中で自分らしく暮らしていけるように支えることが、私たちのミッションです」

その想いを実現するために、持舘校長は教職員との対話を大切にしていきたいと言います。

「この地域は、復興から創生への道を歩んでいます。学校も、これまでの特別支援学校というイメージにとらわれず、新しく塗り替えていきたい。この学校だからこそできる教育を、先生たちと対話を重ねながら築いていきたいんです」

そう話しながら、おいしいコーヒーを淹れるための道具を見せてくれました。実は、先生たちが気軽に立ち寄れるように、校長室にはコーヒーセットを準備しているのだとか。おすすめの本が並ぶコーナーもあり、従来の校長室のイメージとは違った温かく居心地のよい雰囲気でした。

学校全体から伝わってきたのは、よりよい教育を追求する先生方の前向きな姿勢と、子どもの可能性を信じるまなざしでした。

特別支援教育に関心のある方はもちろん、お子さんの発達や子育てに不安を感じている方は、一度ふたば支援学校を訪ねてみてはいかがでしょうか。きっと、この地域には心強い支えがあることを感じられるはずです。


■福島県立ふたば支援学校
所在地:〒979-0603 福島県双葉郡楢葉町大字井出字上ノ岡33番地(旧楢葉北小学校跡地)
TEL:0240-23-3971、080-7526-8412(地域支援センターさくら相談室 直通)
HP:https://futaba-sh.fcs.ed.jp/

※所属や内容、支援制度は取材当時のものです。
取材・文:奥村サヤ