生活・その他

漬物が人をつなぐ。飯舘村の食文化を受け継ぐ「いいたて村民食堂」

2026年9月16日

毎月第4金曜日のお昼どき。飯舘村役場の隣にある「までいな家」は、にぎやかな笑い声に包まれていました。この日開かれているのは、月に一度の「いいたて村民食堂」です。

食堂で提供されるのは、村のおばあちゃんが漬けた漬物と、学生たちがつくるおこわや味噌汁などです。素朴でどこか懐かしい味わいのごはんを囲めば、自然と会話が生まれます。村民食堂は、おなかを満たすだけでなく、人とのつながりやこの村らしい時間にも出会える場所です。

どんな想いが込められた食堂なのでしょうか。いいたて村民食堂を訪ねました。

村外からわざわざ足を運ぶ人も。月に一度オープンする村の食堂

6月26日。役場の隣にある食堂へ到着すると、のれんに吸い寄せられるように次々とお客さんが店内へ入っていきます。楽しそうな話し声と食器の触れ合う音が外までこぼれ、この場所が村の人たちに親しまれていることが、扉を開ける前から伝わってきました。

この日開かれていたのは、いいたて村の「村民食堂」。福島大学行政政策学類・大黒太郎(だいこく たろう)准教授が率いるゼミの学生たちが中心となって運営する、月に一度の食堂です。

店内では、顔なじみの村民同士がテーブルを囲んでいたり、役場職員が昼休みに食事を楽しんでいたりと、それぞれの席で会話が弾んでいました。訪れていた人に声をかけると、「この食堂に来たくて相馬市から来ました」というお客さんも。村の外からわざわざ足を運ぶ人もいるほど、多くの人に親しまれているようです。

みんなでつくる、飯舘村の日常食 一汁一菜膳

メニューは、「飯舘村の日常食 一汁一菜膳」(500円)の一種類。この日は、山菜おこわと五目おこわ、キムチ汁、揚げ出し豆腐となすの煮浸し、5種類の手づくり漬物に梅の甘露煮まで。「一汁一菜」という名前からは想像できないほど、盛りだくさんです。

やさしい味のなすの煮浸しに、白菜や豚肉のうまみが溶け込んだ具だくさんのキムチ汁。曲げわっぱにこんもりと盛られたおこわは、一粒一粒がふっくらと炊き上がり、噛むほどにもち米の甘みとうまみが広がりました。

おこわに使われているもち米は、飯舘産の「あぶくまもち」。中山間地の寒さに強い品種として福島県が開発したもので、現在では飯舘村だけで作付けされているそう。どの料理も、じんわりと体に染み渡る味わいです。

きれいに盛られた漬物は、村民食堂の立ち上げ当初から携わる村在住の高橋トク子さんの手づくりです。この日は、たくあんの梅酢漬け、大根の糀漬け、瓜の奈良漬、人参の味噌漬け、青南蛮の味噌漬け。ひとつひとつ味わいが異なり、食べ比べる楽しさもありました。

「ちょっとしょっぱかったかな?」

そう言いながらお客さん一人ひとりに声を掛けるトク子さん。漬物をきっかけに会話が弾む様子も、村民食堂ならではの風景です。

一方、厨房では学生たちが調理や配膳、洗い物に大忙し。すべての工程を自分たちで担い、声を掛け合いながら、それぞれが自分の役割を手際よくこなしている姿が印象的でした。

飯舘村の文化って、漬物の文化なんじゃないか

いいたて村民食堂が始まったのは2021年。きっかけは東日本大震災でした。

原発事故により全村避難となった飯舘村では、それまで当たり前だった暮らしが大きく変わりました。季節ごとに味噌や漬物を仕込み、近所で分け合う。そんな村の日常も、避難生活のなかで失われてしまいます。

「スーパーで買う味噌や漬物は自分には合わない」
「生きがいがなくなった」

そうした村民の声を受け、2011年10月、飯舘村の女性農家や福島大学の教員・学生、支援者らが中心となり、発酵食品づくりや弁当づくりに取り組む「かーちゃんの力・プロジェクト」が始まりました。福島大学の大黒准教授も震災直後からこの活動に携わり、一人ひとりの声に耳を傾けながら、暮らしを取り戻す活動を続けてきました。

大黒太郎准教授。学生たちに声をかけながら、自らも料理や配膳に奔走していた

2017年3月、飯舘村の大部分で避難指示が解除され、少しずつ帰村が始まりました。それに伴い、プロジェクトもひと区切りを迎えます。

しかし、プロジェクトが終わったあとも、大黒先生は学生たちとともに、村のお年寄りの家を一軒一軒訪ね、話を聞く活動を続けていました。そこで、あることに気付いたと言います。

「どの家を訪ねても、必ず漬物を出してくれるんですよ。皆さんそれぞれご家庭で漬けていて、お土産にまで持たせてくれて。話を聞いてみると、漬物がないと生きている感じがしない、ご飯を食べた気がしないという方が本当に多かったんです。漬物が暮らしのなかに当たり前のようにあって、人と人をつないでいる。飯舘村の文化って、漬物の文化なんじゃないかなって思いました」

それまで漬物を作ったことはもちろん、買ったことさえなかったという大黒先生ですが、飯舘村での暮らしに触れるなかで、漬物は単なる保存食ではない存在であることを実感したと言います。

毎月第4金曜日に出会える、この土地の日常

飯舘村の食文化は、今、学生たちへと受け継がれています。毎月の献立を考えるのも学生の役目です。「今の季節なら何がおいしいだろう」とアイデアを出し合いながら、飯舘村の農産物を使ったメニューを考えているそう。季節ごとの食材を活かした料理づくりも、飯舘村の暮らしや食文化を受け継ぐ大切な取り組みの一つです。

この日のデザートは、大学構内で収穫した梅を使った甘露煮。「何度も試作を重ねて、ようやく納得のいく味になりました」と笑顔で教えてくれました。

「震災で、飯舘村の人たちは大切な土地や暮らしを避難の間手放さなければなりませんでした。でも、村の人たちが大切にしてきた食文化までなかったことにはしたくありません。レシピだけ渡して終わりではなく、一緒につくって、一緒に食べて、その背景にある歴史や文化も含めて受け継いでいきたいです。今では、村民も移住者の方たちもこの場を楽しみにしてくれていて、新しいつながりが生まれる場にもなっています。これからも続けていきたいです」(大黒先生)

村民食堂には、村民や地域で活動する人も多く集まります。おいしいご飯を囲みながら交わす何気ない会話からは、この村で暮らす人たちの温かさが伝わってくるはずです。飯舘村への移住を考えている方は、下見の日程を毎月第4金曜日に合わせてみてはいかがでしょうか。村を歩くだけでは見えない、この土地の日常に出会えますよ。


■主催
特定非営利活動法人もりの駅まごころ運営協議会 村民食堂担当事務局
E-Mail:magokoroiitate@gmail.com

■協力
福島大学行政政策学類 大黒ゼミ
Instagram:https://www.instagram.com/daikoku2026/

※所属や内容、支援制度は取材当時のものです。
取材・文:奥村サヤ