事業紹介

豊かな森を資源として再生するために。森の整備を担う飯舘村森林組合

2025年12月22日

阿武隈山系の高原に位置する飯舘村。村の面積の4分の3を森林が占め、心和む里山の風景が広がっています。その森林の保全・活用に大きな役割を果たしているのが、飯舘村森林組合です。村の林業を支える同組合では現在、伐採・丸太に加工する造材・草刈りなどに従事する作業員を募集中。現場を訪れて、お仕事中の作業員や採用担当者に話を聞きました。

仕事場は清々しい空気に満たされた森のなか

ヘルメットをかぶり、長靴を履いて森の中に入ると、澄んだ飯舘村の空気がいっそう清々しく感じられます。天に向かって真っすぐ伸びたスギやヒノキ。少し進むと、木立の奥からブーンというチェーンソーの音や、ガガガッという重機の音が聞こえてきました。ここは飯舘村森林組合の事務所から車で10分ほどの山林。今日は間伐(※)の作業をしているそうです。
※間伐とは、森林の成長に応じて樹木の一部を伐採し、過密となった林内密度を調整すること

「こちらはスギ、こちらはヒノキ。葉っぱが違うでしょう。この森は樹齢30~40年くらいですね」。同行した職員の方が教えてくれました。ところどころに伐採したあとの切り株があり、これから倒される木には印が付いています。

実際に切り倒すところも見せていただきました。担当するのは、この仕事に就いて1年半の佐藤薫(さとう・かおる)さんです。カメラを構えた取材班を前に、先輩から「かっこよく倒せよ!」と声がかかります。

根元にチェーンソーを入れ始めてから1分ほどでしょうか。メリメリという音とともに十数メートルもある大木が、スローモーションのように倒れていきました。その迫力に思わず歓声が漏れます。

倒木の下敷きになれば命に関わるため細心の注意が必要

倒れた木は、重機オペレータが器用につまみあげて移動させ、チェーンソーで一定の長さにカット。丸太の状態になった木は一カ所に集積し、のちに作業道を通って搬出していきます。

重機を操作して掴む・載せる・降ろす。熟練を要する作業

現在、飯舘村森林組合が求めているのは、山林内でこれら一連の作業(およびそれに付随する作業)を担当する作業員です。高度な技術が必要な仕事のように見えますが、採用担当の総務係長、長正景子(ながしょう・けいこ)さんによれば、未経験からでも働きながらスキルを習得できる制度が整っているため、十分に活躍できるとのこと。

「未経験から林業を始めたい方のために国が用意した、緑の雇用という研修制度があります(3年間、年齢制限あり)。研修中は、座学講習のほか、指導資格のある作業員から現場で直接指導を受けられます。また、この仕事にはチェーンソー、刈払い機、ショベルカー、フォワーダー(積載式集材車両)などさまざまな林業機械の操作資格が必要ですが、それらの資格も研修中にほぼすべて取得可能です。さらに、ご自身のチェーンソーや防護服など資材を購入する際は補助も出ますので、ぜひ活用してください」

飯舘村森林組合の作業員は現在17名で、平均年齢は57歳です。定年はなく、最年長は75歳の方が活躍中だそうです。最年少は昨年入った19歳の作業員で、緑の雇用制度を利用しながら研修中とのこと。

「作業員の応募に年齢や性別の制限はありません。もちろん女性も歓迎します。ただ、機械を持って山のなかを動き回りますので、体力の要る仕事であることは事実。応募の際は実際に現場を見学して、大丈夫かどうかをご判断いただくのが一番いいですね」(長正さん)

木の成長とともに自分も上達していく

伐採の実演を見せていただいた佐藤さんにもお話を聞きました。佐藤さんは飯舘村の隣、伊達市の出身。林業は未経験でしたが、佐藤さんの場合は組合就職後に緑の雇用制度を利用したのではなく、就職前に林業アカデミーふくしま(※)で1年間、研修を受けたそうです。
※林業アカデミーふくしまは、福島県が運営する林業に関する研修制度。県内の林業事業体や森林組合等に就業することを目指す1年間の就業前長期研修と、現役林業従事者や市町村担当者向けの短期研修がある。

伊達市から飯舘村に通っている佐藤さん

「長らく故郷を離れて関東の会計事務所で働いていましたが、実家の農業を手伝うためUターンしました。同じ一次産業である林業にも興味があり、林業を学ぶことが農業にも役立つのではないかと思って、アカデミーを受講したんです。修了後、職場として飯舘村森林組合を選んだのは、研修中にインターンをしたご縁があったことと、自宅から通える距離だったため。この仕事を始めてからも、休日はトマト、イチゴなどを栽培している実家の農業を手伝いつつ、自分でも白菜やスイカなどを作っています」

農業と林業のバランスをとりながら両立させている佐藤さん。農業には通常、農閑期がありますが、林業は真冬も含め通年で作業を行います。ただし、作業は日没までなので冬場は16時には山を出るそう。また、雨の日は山に入ると危険なためお休みとなりますが、その場合でも賃金の6割が補償されるのはありがたいと話します。

「この仕事の面白さですか?そうですね、初めは木を切っているだけで楽しいですよ。でもいちばんの魅力はやはり、仕事をしながら季節を肌で感じられることかな。特に春や秋、森のなかはほんとうに気持ちがいいです。木が育つまでにかかる時間は30~50年。ベテランの大先輩たちに技術や安全な作業のための手順を教わりながら、木の成長とともに自分も上達していきたいです」

林業は半世紀後を見据える超長期の事業

そもそも森林組合とはどのような組織なのでしょうか。事務所に戻って長正さんに説明していただきました。

総務係長として働きやすい環境づくりに注力する長正さん。特に作業員の安全には気を配る

「森林組合とは、森林の所有者が出資して設立した協同組合のことです。福島県内には17の組合があって、所有者の森林経営を支援するさまざまな事業を行っています。飯舘村森林組合は正組合員(所有者)が約850名、準組合員(所有者ではないが林業に従事している人など)が約100名。規模としては県内では小さいほうですね」

山林所有者は村内に在住しているとは限りません。東日本大震災と福島第一原発事故により、飯舘村は2017年3月末まで6年余り全村避難が続きました。村外へ避難したまま戻ってきていない所有者も多く、村の林業そのものが変化を余儀なくされたのです。

「以前は、育った木を伐採・収穫し、薪や材木として販売していましたが、放射線量の影響で原発事故後はそれができなくなってしまいました。避難指示解除後は、長期間手入れできずに放置された森林を再生するため、間伐を主な事業としています」

間伐材はすべて、2024年9月に村内で稼働を開始した木質バイオマス発電所(飯舘みらい発電所)に納入され、チップとして利用されるとのこと。せっかく真っすぐ大きく育った木を、木材として利用せず砕いてしまうのは、いかにも残念でもったいないように感じますが、そんな意見に「もっと長いスパンで考えればいい」と長正さん。

現在も作業に入る際は空間線量測定や出荷前の木材の線量測定を実施

「スギは60年を超えても成長するのだそうです。今日、間伐した森も、残った木をあと10年15年と育てていくうちに放射線量に対する市場の不安がなくなり、再び木材としての価値が上がる日もくるでしょう。もともと林業は半世紀後を見据える超長期の事業ですから」

暮らしの近くに山がある飯舘村

自然を相手にした林業の現場で働く作業員には、どんな資質が求められるのか聞きました。

「はつらつとして素直であること。あいさつと返事がきちんとできる方がいいですね。昔の『木こり』のイメージからか、一人で黙々と作業すると想像する方もいますが、実際には一人で木は切れません。必ずチームで行います。現場は常に危険を伴うので自分勝手に動かないこと。先輩の指示に従うことは命を守るためにとても大切です」

飯舘村森林組合の現職員・作業員は一人を除いて全員が震災後の採用で、村外・県外からの移住者も少なくないそう。長正さん自身も5年前、出身の福島市から結婚を機に村に移り住み、同時に組合に就職しました。「日本でもっとも美しい村」連合に加盟している飯舘村に暮らし、働く魅力はなんでしょうか。

「夜の静けさ、澄んだ空気、満天の星。それから、私は雪には慣れていますが、ここの雪は質が違うので驚きました。固めても雪玉が作れず、ほろっとほどけてしまうくらいのパウダースノーなんですよ。組合の仕事に関して言えば、飯舘村のよさは職場となる山が近いこと。現場はたいてい事務所から車で10~20分程度と移動も楽です。森は一度入ってみればその気持ちよさがわかります。少しでも興味があればぜひいらしてみてください。現場見学にご案内します」

飯舘村が誇る自然のなかで林業という長い時間軸をもつ生業に携わる。そんな暮らしに関心がある方は、ぜひ問い合わせてみてはいかがでしょうか。

飯舘村森林組合の求人情報はこちら。
https://arwrk.net/recruit/iitate-sakura/


■飯舘村森林組合
1962年創立。森林所有者を中心とする組合員は955名。森林調査・測量、書類作成、写真管理、事務などを行なう職員が9名、山林内で伐採・造材などを担う作業員17名を擁する。以前は村内で育った木を伐採・収穫し、市場で販売していた。2011年3月の原発事故により全村避難。帰村後は森林再生のための間伐を中心に実施。間伐材は村内にある木質バイオマス発電施設「飯舘みらい発電所」のチップ用に出荷している。

所在地:〒960-1633 福島県相馬郡飯舘村臼石字町310
TEL:0244-42-0055
営業時間:8:00~17:00(ただし作業員は日没で作業終了)

※所属や内容は取材当時のものです。最新の求人情報は公式ホームページの採用情報をご確認いただくか、直接お問い合わせください。
取材・文:中川雅美(良文工房) 撮影:古関マナミ