支援制度

起業家も多く集まる南相馬市の「お試しハウス」

2022年7月22日
南相馬市
  • お試し住宅

福島12市町村の中には、現地の暮らしを体験できる移住希望者向け滞在施設「お試し住宅」があります。滞在期間は数日から数ヶ月までさまざま。今回は、南相馬市の「お試しハウス」を紹介します。

南相馬市は、東京駅から常磐線特急「ひたち」で約3時間半ほど離れた、浜通り北部にあります。市名に「馬」が入っているとおり、この地域には古くから馬事文化が根付いていて、1,000年以上も続く伝統祭礼「相馬野馬追(そうまのまおい)」が有名です。また、原町区にある北泉海岸は1年を通じて波のコンディションが良いことから、日本有数のサーフスポットとしても人気を集めています。

東日本大震災の原発事故では、南相馬市の小高区(南部)と原町区(中部)の一部に避難指示が発令されましたが、2016年7月にほぼ全域で解除。現在は、陸・海・空のフィールドロボットの開発実証拠点「福島ロボットテストフィールド」をはじめ、市や民間が主導する手厚い起業支援などのさまざまな取り組みにより、新しい産業と起業家が集まる地域として活気に満ち溢れています。

駅から徒歩10分。レンタカー・タクシーの交通費もサポート

今回「お試しハウス」を案内してくださるのは、秋田県出身で2020年に東京から移住した、南相馬市役所 移住定住課の佐藤遼平さんです。また、2022年7月から管理・運営を担当するMYSH(マイッシュ)合同会社の小南理華さんと小方紗英さんにも同席いただきました。このお2人は、お試しハウスの利用経験者でもあります。

管理・運営を担当するMYSHの小方さん(左)と小南さん(右)

南相馬市にはお試しハウスが2棟あります。どちらも小高駅から徒歩約10分の場所にあるので運転免許を持っていない方でも利用しやすく、周辺にはスーパーやコンビニもあり、生活しやすい環境が整っています。また、市の支援策として、移住検討者を対象にレンタカーもしくはタクシーの利用料金の補助を行っているとのこと。平成の大合併で1市2町が合併して誕生した、広い南相馬市をぐるっと回りたいときなどに利用したい、便利な制度です。

住宅はとてもシンプルな造りで3LDKの2階建一軒家です。1階には、キッチンとダイニングが一緒になった広々としたリビングがあり、隣には寝室はもちろん子どもの遊び場にも使えそうな日当たり良好な和室があります。そして、2階に上がると和室と洋室がそれぞれ1室ずつあり、家族利用にも十分な広さです。

実際にこの住宅を利用した小南さんと小方さんに感想を聞いてみると、「一般的な一軒家なのですごくリアルな生活ができましたね。南相馬市に家族で住んだり、シェアハウスをしたらどう生活を送るかというイメージがしやすかったです」とのこと。

利用対象者は市外に住所を有し移住を検討している方で、市内での就職活動や住居探し、移住相談を受けるなどのいずれかの活動を行う方、という条件があります。

また、滞在期間は、2泊から最大30泊(31日以内)までと比較的長めの滞在が可能です。さらに、年間4回まで利用できるため最大120泊も利用できるとのこと(連続は不可)。1回の利用ではまだ移住を決めきれない場合や、四季の違いを体験したいと考えている方にはうれしい制度です。

2018年からスタートしたお試しハウスはこれまで計84組が利用しました。コロナ禍の影響により2020年と2021年は利用停止していたため、2018年から2年間のみの実績になるとのことですが、主に学生や若年層の利用者が多かったそうです。その中でも、起業支援が盛んな南相馬市で、すでにビジネスを始めている先輩起業家に話を聞きたいという声が多かったといいます。

「市役所の支援だけではなく、市内には起業をサポートする民間団体が非常に多くいらっしゃるので、そういった存在もあって、南相馬市は起業家の人数が多くなっていると思います。特にここ小高区は、支援する方々の拠点としても集中しているので、起業を考えている方の最初の入り口として来る方は多いですね。」

そして首都圏からだけではなく、福島県内から利用される方もいるとのこと。起業家が集まる地域として県内外から注目を集めつつあるようです。

「お試しハウスの利用者から移住につながった実績はまだ2割程度なのですが、原発事故の影響により一度大勢の方が離れてしまった地域(小高区は2016年7月まで全区民避難)なので徐々に新しい方に来ていただいて、これまでの南相馬市の魅力を残しながらも新しい魅力もどんどん増えていけばいいなと考えています。新旧をうまくつなぎながら南相馬市を築いていけたら」と展望を語る佐藤さん。

南相馬市役所 移住定住課の佐藤さん

地元住民と交流できる場にもしていきたい

今年からお試しハウスを再スタートするにあたり、滞在プログラムの一環として地元住民と交流できる場の創出を検討しているそうです。

「以前はそういう場を作っていて、利用者の反応が良く好評だったんです。メディアから仕入れた情報だけではなく、地元の方との会話を通して、南相馬市の地域性や人柄を知ることが、移住を検討している方々にとって大事な時間だと思います。」

そしてこれからはお試しハウス以外の使い方として、交流の場としての活用も検討しているといいます。「今は移住検討者という利用条件がありますが、移住まではいかないけれど南相馬市に興味があるという段階の方にも気軽に来ていただくことも考えたいと思っています。そこから興味を深めて、移住の入り口につながることも考えられるので、他の使い方も試していけたら」と話す佐藤さん。

小南さんと小方さんは「(MYSHが手がける別の事業を通して)学生からもアイディアをもらって、どう使っていったら人が交流できる場所になるかをこれから考えていきたい」と、管理・運営会社としての今後のビジョンを描きます。

過去には、移住を検討している方以外の利用を受け入れていたこともあったそう。「環境問題について調べている海外の方に利用していただいたこともありました。実際に被災地に赴いて住民と意見交換を行いたいという理由だったのですが、彼らに情報発信をしてもらうことで間接的に移住につながってくれたら…という判断で使っていただきました。」

最後に佐藤さんは、「市外にお住まいの方は、南相馬市に対して震災時のイメージを強く持っていて、生活する上で大変なんじゃないかとか不便なんじゃないかと話される方もいるんですけど、全然そんなことはないです。どことも変わらない日常が流れていますし、山も海も近くになるので、これから地方で生活してみたいという方にはすごくいい環境だと思います」と南相馬市の暮らしを伝え、移住先としての魅力を語っていました。

みなみそうま移住相談窓口「よりみち」(MYSH合同会社)
住所:福島県南相馬市原町区旭町一丁目46-4
開所時間:10:00~17:00(定休日:火曜日)
電話:0244-26-8518
URL:https://minamisoma-yorimichi.jp/

南相馬市 経済部 移住定住課
住所:福島県南相馬市原町区本町二丁目27
電話:0244-24-5269
URL:https://www.city.minamisoma.lg.jp/portal/sections/16/1640/12153/2486.html

取材・文:草野 菜央 撮影:中村 幸稚