「子どものため」だった移住が「地域のため」の日々に。双葉町で得たかけがえのないつながり

- 出身地
福島県いわき市 - 移住のきっかけ
子どもの教育環境を変えたかったから - これからやりたいこと
多くの町民が関われる場をつくっていきたい
福島県浜通り南部のいわき市から、約50km北に位置する双葉町に移住した高久田祐子(たかくだ ゆうこ)さん。お子さんを第一に考えての移住だったと言いますが、双葉町で暮らす時間を重ね、お子さんが穏やかに成長するなか、高久田さんご自身も新たな出会いに恵まれ、心豊かな生活を送っています。
毎月第2金曜日に仲間とともに運営している「ふたばみんな食堂」の仕込みの時間にお邪魔し、お話を聞かせていただきました。
子どもが安心して学校に通える環境を求め移住
――移住のきっかけを教えてください。
息子の教育環境を変えたいと思ったことです。息子が以前通っていた学校は大規模校で、その環境になかなか馴染めず、中学2年生になると学校に行けなくなってしまいました。私が学校まで送っていっても教室に入れず、だんだん笑顔がなくなって、ずっと下を向いて過ごすようになって……。だから、もう少しのんびりとした環境で学校に通わせたいと思ったんです。学力は二の次でいいから、友達と話したり、友達と一緒に何かの目標に取り組んだりする日常を取り戻してほしい。そのためには思い切って環境を変えるしかないと思いました。

――移住先を選ぶ際、どんなことを重視しましたか。
何かあったときに私の実家もあるいわき市と行き来しやすい距離であることを意識し、双葉町やその周辺の町を候補地として視野に入れながら、息子が安心して通える学校が近くにあるかどうかを重視しました。
双葉町の北隣の浪江町にある学校へ通い始めると、少人数ならではの環境のなかで先生方が一人ひとりに丁寧に向き合ってくださり、友達にも恵まれ、息子は安心して学校生活を送りながら大きく成長することができました。
住まい探しにも苦労しましたが、ちょうどいいタイミングで双葉町に新しい町営住宅ができるという記事をインターネットで見つけて応募し、2022年10月に移住しました。
――双葉町に移ってから息子さんに変化はありましたか?
新しい環境にスムーズに入っていけたようです。すぐに新しい友達ができ、毎日元気に学校に通う生活が戻りました。今、息子は通信制高校に進学し、月に1回ほどいわき市内のキャンパスに通っています。本人なりのペースで日々を過ごしています。
本当は、息子が中学校を卒業したら、子どもと一緒にいわき市へ戻るつもりでした。でも卒業が近づいた頃、息子が「ここを離れたくない」と言いました。心を許せる友達と出会い、この地域での暮らしに愛着を持つようになった息子の姿を見て、とてもうれしく思いました。将来についてはまだ決めていませんが、今は双葉町での暮らしを大切にしながら、一日一日を過ごしています。
「ここがふるさとと思える機会を作りたい」仲間とともに団体を立ち上げ

――高久田さんご自身は移住後どのように地域と関わってきたのでしょうか。
移住して1〜2年は家にいるばかりで、地域とまったく関わりをもっていませんでした。正直なところ、地域のために活動しようという気持ちは、なかったんです。
その意識が変わったきっかけは、町営住宅の管理組合が立ち上がったこと。当時は子どもがいる世帯の入居がまだ少なく、「子育て中の人にも役員に入ってほしい」と推薦していただき、そこから外に出る機会が少しずつ増えました。
実はそれまで、町営住宅には双葉町へ戻ってきた町民の方が多く暮らしているのだろうと思っていました。 しかし実際に話を聞いてみると、移住者の方も多く、町民だった方も震災前に暮らしていた自宅や地域へ戻れたわけではなく、「それでも双葉に戻りたい」という想いで町営住宅に入居されていることを知りました。町に戻っても、以前と同じ暮らしが戻ったわけではない。その現実に触れたことで、この町で暮らす一人として、私もみんなと一緒に笑って過ごせる時間を増やしたいと思うようになりました。そんな想いから地域のさまざまな活動に関わるようになり、気づけば「一緒にやろう」と応援してくれる仲間にも恵まれていました。
――どんな活動からスタートしたのでしょうか。
最初に取り組んだのは、子どもたちが双葉町で「楽しかった!」と思える思い出を作る活動です。 2026年現在、双葉町内にはまだ学校がなく(*)、子どもたちは毎日町外へ通学しています。 学校での思い出は増えても、暮らしている双葉町で友達や地域の人と一緒に過ごした思い出は決して多くありません。だからこそ、子どもたちが双葉町で笑顔になり、「双葉が好き」「ここが自分のふるさと」と思えるような機会を作りたいと考えました。
子どもが主役のイベントですから、子どもが「やりたい」と思える内容でなければいけないと考え、町営住宅に住む子どもたちに意見を聞くと、「かき氷屋さんがいい」という声が上がりました。そこで、クラウドファンディングで資金を募り、2025年8月に「子どもかき氷屋さん」というイベントを開催しました。
*双葉町では、2028年4月の開校を目指し義務教育学校の整備が進められています。
――その後、2025年10月からは「ふたばみんな食堂」を毎月開催されていますね。
はい。子どもかき氷屋さんを通じて集まった仲間たちとこのまま解散するのはもったいないと思ったこと、また子どもたちから「月に1回でもいいからみんなでご飯を食べたい」という声が上がったこともあり、子ども食堂をやってみようと考えました。
ちょうど同じ頃、知人から紹介してもらったのが、双葉町内で農業に携わる黒津今日子さんです。彼女は町営住宅に住む高齢者の多くがいつも一人で食事をしていることを気にしていて、一緒に活動すれば子どもたちの居場所づくりと高齢者の孤食の課題を同時に解決できるのではと考えました。そうしてスタートしたのが「ふたばみんな食堂」です。毎月第2金曜日の午後5時から、毎回約50食を用意して、町営住宅の皆さんに食べてもらっています。大人は200円、子どもは無料で提供しています。

ふたばみんな食堂は、ふたばネクストリーフという任意団体で運営しています。ふたばネクストリーフではそれ以外にも、子どもたちが楽しめる企画を考える「ふたばっ子の会」、高齢者の生きがいづくりに取り組む「ぽっぽ会」などの活動を進めています。
人と人の距離感の心地よさが双葉町らしさ

――ふたばネクストリーフの活動を進めるうえで大切にしていることはなんですか?
支援される側だけでなく、支援する側も幸せであることです。「できる人が・できるときに・できることを」をモットーに活動を続けたいと思います。
――今後はどのようなことに取り組んでいきたいですか?
今よりもっと多くの町民が関われる場をつくっていきたいです。ふたばネクストリーフとしての活動はもちろん続けていきますし、JR双葉駅前で盆踊りを行う団体などとも連携して、地域をともに盛り上げていけたらと思っています。また、双葉町に戻りたくても戻れない方がまだまだ全国各地にたくさんいますから、その方々が双葉町を訪れるきっかけや、今の町民と気軽に交流できる場も増やしていきたい。賛同してくれる仲間とともに、できることから動いていきたいです。
――最後に、双葉町への移住を考えている方へメッセージをお願いします。
移住者と従来からの町民という違いはあっても、日常のなかで少しずつ関係ができていく。その心地よい距離感が双葉町らしさではないかと私は思っています。顔を合わせるたびに挨拶を交わし、困ったときには互いに声をかけ合う。そんな日々のなかに暮らしやすさがあると思っています。町内にはまだ商業施設が少なく、不便なのではと思われるかもしれませんが、私は暮らしのなかで大きな不便を感じたことはありません。まさに「住めば都」です。
この地域への移住には、復興への貢献などの特別な志が必要だと思っている方もいらっしゃるかもしれません。でも、私自身が子どものための移住だったことからも分かるように、そうした特別な志は必要ありません。まずは自分や家族が心地よく暮らせる場所かどうか、ぜひ双葉町に来ていただき、町の空気を感じてほしいです。
高久田 祐子(たかくだ ゆうこ) さん
福島県いわき市生まれ。2022年10月、双葉町に移住。会社勤めのかたわら、地域の仲間と共に任意団体「ふたばネクストリーフ」を立ち上げ、子どもから高齢者まで幅広い人々に交流の機会を生み出している。
※内容は取材当時のものです
文・写真:髙橋晃浩