事業紹介

【企業紹介】福島の環境回復と廃炉に向けた技術の研究開発に挑む

2024年3月25日
  • 廃炉
  • 先端産業

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

原子力の総合的な研究開発を担う日本唯一の組織である国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)。福島第一原子力発電所(1F(イチエフ)の事故を機に福島県に拠点を設け、「福島の環境回復」と「福島第一原発廃炉」に関する研究開発を大きなミッションに掲げ、さまざまな活動を行っている。その取組や人材面での課題、今後の展望について、福島研究開発部門企画調整室の大岡誠室長に話を聞いた。

燃料デブリ取り出し後に真っ先に分析を担う存在

JAEAが福島で活動を始めたのは、福島第一原発事故直後で現場の緊急時モニタリングの支援という。事故からわずか2ヵ月後の2011年5月、現在の組織の前身である福島支援本部を開設。除染計画を定めるための取組など、福島の環境回復にまつわる活動をスタートさせた。その後、国による廃炉に向けた中長期ロードマップが定められ、廃炉に向けた研究開発が新たなミッションとして加えられた。現在、福島研究開発部門は、廃炉や環境回復に関する研究開発の中核となる廃炉環境国際共同研究センター(CLADS(クラッズ))、廃炉に関わる遠隔装置・技術の実証実験などを行う楢葉遠隔技術開発センター(NARREC(ナレック)、事故で発生した放射性廃棄物、燃料デブリ等の分析・研究と、ALPS処理水の第三者分析を行う大熊分析・研究センターの3つの組織で構成され、廃炉事業者や国内外の大学・研究機関、国や福島県と連携しながら研究開発に取り組んでいる。

大岡氏は、2つのミッションへのこれまでの取組に関して、まず福島の環境回復については、「避難指示等区域が段階的に減少し、それに呼応して人や物の流れが目に見えるようになった。例えば、町に人が徐々に戻り、新しい店ができたり、子どもの声が聞こえたり。機構が当時から係わってきた取組の成果を実感する機会が増えた」という。

一方、廃炉に向けた研究開発においては、福島第一原発のような事故を起こした施設の廃炉作業自体が日本で初めての取組であり、まさにこれからが成果を生み出すフェーズに入っていくという。

「燃料デブリの取り出しが始まれば、我々が真っ先にその分析の役割を担うことになっています。燃料デブリの取り出しは廃炉における重要なターニングポイントであり、かつ技術的なハードルが非常に高いものです。廃炉作業は30年、40年続くといわれていますが、燃料デブリの取り出しが進めば廃炉を進めるうえで重要な情報を得られることになり、廃炉作業は着実に進展するだろうと期待しています」

放射性物質を可視化するカメラの実用化を実現

福島研究開発部門のこれまでの取組の中でも特筆すべき成果の一つが、目に見えない放射性物質を3次元的に可視化する技術を廃炉作業に応用したことだ。光学カメラとガンマ線センサーを搭載し放射線源を測定する「コンプトンカメラ」を独自の研究で小型化し、遠隔操作ロボットに搭載。原子炉建屋内外での実証実験により、放射線量が高い場所(ホットスポット)を正確に測定することに成功した。今後の廃炉作業の効率化・スピード化に期待が高まっている。

また、コンプトンカメラをドローンに搭載することで、上空から屋外環境のイメージングが可能なシステムとして地元企業らと製品化が進むなど、他分野への技術の展開も期待されている。

分析技術を中心に理系分野の人材確保が急務

一方、廃炉に向けた研究開発の加速のためには人材面の強化が欠かせないと大岡氏は語る。現在、福島研究開発部門に所属するスタッフの数は、直接雇用だけで約300名。派遣や請負のスタッフを含めると500名に上るが、研究開発の手はまだまだ十分ではなく、さらなる強化が必要だという。

「福島復興を強く想い、志が高く辛抱強いスタッフが多い組織だと感じています。廃炉作業にかかる時間は長期間ともいわれますが、そのことからもわかる通り、私たちが手がける研究開発はすぐに解決の糸口が見えるようなものではありません。現場のニーズも聞きながら、試行錯誤を繰り返し、結果を積み上げて、成果の現場実装に繋げなければならない。そうした取組に熱意を持って取り組めるスタッフが今後も集まることを期待しています」

人材の確保において機構が求めるのは、機械、電気、分析、建設など、理系の幅広い分野にわたる研究開発スキルだ。なかでも分析技術においては、燃料デブリそのものの分析はもちろん、福島第一原発内にある多様な固体廃棄物や廃止措置工程で発生する廃棄物なども分析の対象となり、拡充が必須だという。

研究に際して、福島研究開発部門の立ち上げ当初は機構内の別組織から比較的ベテランのスタッフが集められたが、近年は県内出身者や県内の大学を卒業した新卒者も徐々に増えており、全体の8割が県内在住者。今後も、20代・30代を中心に、移住者も含めた県内在住者の採用に力を入れていきたいと大岡氏は語る。

日本原子力研究開発機構の研究員が登壇した移住セミナーレポートはこちら
https://mirai-work.life/magazine/9596/

時代を担う世代の育成も重要なミッション

福島研究開発部門の今後の展望について、大岡氏はこう語る。

「我々の研究開発は、10年先、20年先の福島の姿を見据えたものでなければいけないと思っています。その姿に行き着くためには技術的課題をどう解決すべきかを考えながら、今後も研究開発を進めていきます。

また、長期間となるプロジェクトですから、次代を担う世代の確保・育成もまた重要なミッションだと考えています。先を見据えながら技術と人の2つを磨いていくことが重要だと考えています」

廃炉の研究開発は、まさに誰も経験したことのない取組の連続となるものであり、そこには他の研究開発の現場では感じることができない大きなやりがいがあるはず。スキルや知識を活かしながら新しい技術を生み出したいと考える理系出身者にとって、大きな挑戦のフィールドが広がっている。

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■国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
1956年発足の日本原子力研究所(JAERI)と1998年設立の核燃料サイクル開発機構(JNC)の2つの原子力関連組織を統合・再編し、2005年10月に独立行政法人として設立。原発周辺地域の環境回復や、同発電所の廃炉作業の着実な実施に向けて技術的な支援を行っている。福島研究開発部門は福島第一原子力発電所の事故後の2011年5月に開設。
HP:https://www.jaea.go.jp/

※所属や内容は取材当時のものです。
取材・文:髙橋晃浩