生活・その他

経済的負担を抑え、短期間で看護の道に進める「公立双葉准看護学院」

2024年1月18日

南相馬市原町区にある公立双葉准看護学院(以下、双葉准看護学院)は、双葉地方広域市町村圏組合が設置し、双葉郡医師会が運営する専門学校です。学生のほとんどが、社会人経験者。公立のため学費が抑えられることに加え奨学金も活用でき、短期間で資格を取得して看護職に就きたい人におすすめです。資格試験の合格率も就職率も高い学校の魅力や、異業種から転身した学生の声をご紹介します。

准看護師は医療の根幹を支える仕事

実習室には最新の看護実習用モデル人形が並ぶ

双葉准看護学院は1982年に双葉町で開校しました。東日本大震災と原発事故に伴う避難指示により休校を余儀なくされましたが、被災地域で不足する医療人材の確保のため2017年に南相馬市に仮校舎が建てられ再開しました。

准看護師とは、医師や看護師の指示のもと、看護や診療の補助を行う専門職のこと。看護師になるには高校卒業資格が必要ですが、戦後復興で病院の整備が急がれ看護師不足に陥っていた時代に、中学卒業の学歴でも看護職として働けるようにと設けられた資格です。副学院長の庄司幸恵さんは「医療的なケアはできませんが、患者さんの一番近くで食事や衛生面など療養生活のサポートをする、医療の根幹を下支えしている仕事」と説明します。

副学院長の庄司さん。かつては相馬市の相馬中央病院に勤務していた

近年は高学歴化で准看護師を志す人は減少しており、資格を取れる専門学校の数も減っています。一方で、資格取得に必要な就学期間は看護師よりも1年少ない2年制であること、看護師へのステップアップが可能であることなどから、社会人になってから看護の道を志す人の受け皿にもなっています。

「異業種から看護師になりたいと考えた時に、大学に4年間、あるいは看護学校に3年間通える人は限られると思うんです。准看護師は看護師よりも短期間で現場に出ることができますし、7年間の実務経験を積めば、働きながら2年間の通信教育で看護師の資格を取れるなど、自分のペースで計画的に看護師を目指すこともできます」

2023年度の学生は、1年生、2年生ともに14人ずつの計28人。ほとんどが社会人経験者で、年代も10代~50代とさまざまです。まったく違う業種で働いていた人や子育て中のシングルマザーのほか、看護助手、介護福祉士、歯科衛生士やヘルパーなど医療福祉関係の仕事をしていた人もいます。

充実した奨学金制度

双葉准看護学院の魅力の一つが、公立であるため学費の負担を抑えられること。授業料は月額1万7,000円で、教科書や参考書、制服や実習衣の経費などを含めた学費は2年間で100万円ほどといいます。3年制の看護学校を卒業するのに必要となる費用は200~300万円ほどといわれているのに比べると、学費をかなり抑えることができます。
奨学金制度も充実しています。例えば、学生の3分の1ほどが利用しているという南相馬市の就学資金貸付制度は、卒業後に貸付期間と同じ期間、南相馬市内で看護業務に従事すると返還が免除されます。南相馬市外から通学している場合も対象です。また、独自に奨学金制度を用意している民間病院も市内に複数あり、支給先の病院に就職して一定期間勤務すれば返済が免除される、しかも南相馬市の就学資金貸付制度と併用できる場合もあるのだそう。新人職員向けに社宅を用意している病院もあります。

1年生の門脇愛香さんは山形県出身で、もともと宮城県角田市の葬儀会社に勤めていました。別の立場から命に携わる仕事がしたいと考え、看護の仕事を目指すことを決めたといいます。同級生でもある妹さんと南相馬市に転居し、南相馬市の貸付制度を利用しながら通学しています。

「准看護師は専門学校を2年で卒業できるのでチャレンジしやすいし、将来的に看護師も目指せるので選択の幅があるなって。学費の心配のない公立で准看護師資格を取れる学校は少ないんです。説明会では、社会人から入学している方がほとんどと聞いて安心しました。高校卒業してすぐの若い子ばかりが同級生だと、ちょっとやりづらいかなって思ってたので」

給与収入のある会社員から学生への転身に、はじめは不安を感じていたといいますが、南相馬市の貸付制度が安心につながったのだそう。姉妹ともに、授業料の資金として月3万4,000円、生活費資金として月5万5,000円の貸付を受けつつ、アルバイトをしながら学校に通っています。卒業後は二人とも市内で就職する予定です。

試験合格率も就職率も100%

図書室には参考書や雑誌が一通りそろっている

授業時間は毎日、午前10時ごろから午後4時30分まで。5人の教員のほか、相馬郡、双葉郡の両医師会の医師や、地元の病院に勤める看護師、保健施設の介護福祉士など、現場の指導者として活躍している60人ほどが外部講師として携わっています。准看護師資格の取得のために学ぶ基礎的な内容は、看護師とほぼ変わらないのだそう。むしろ、2年間に凝縮されたカリキュラムはかなりハードだといいます。門脇さんも「毎日のようにテストがある時期もあるので、勉強時間をうまく確保しながらバイトと両立しています」と話します。

再開後、双葉准看護学院の准看護師試験の合格率は100%が続いています。学生の努力はもちろんですが、学生数が多くないからこそ、教員5人を中心に一人ひとりに合った個別対応ができるからと庄司さんは理由を語ります。学生自身やその子どもが体調を崩すなどして講義を欠席すれば必ず補習授業を行い、徹底した資格試験対策も実を結んでいます。育児などで多忙な学生が学業を諦めることのないように、メンタルケアとしてカウンセラーも配置。卒業後の進路は民間の医療機関や保健施設など。就職を希望した人のうちほぼ100%の人が希望する就職先に内定しているそうです。

学生を支える教職員のみなさん

専門職での就職を考えている地域で学生時代を過ごすことには、講義や実習先で培ったさまざまな医療・福祉現場とのネットワークをそのまま活かせるメリットがあります。双葉准看護学院では、相双地域の病院と連携し、新人看護師を対象とした研修会に参加するなど、それぞれの職場で活躍する卒業生同士がつながりを保てる仕組みづくりにも取り組んでいます。

最後に、庄司さんから双葉准看護学院に関心を持っている人に向けてメッセージをいただきました。

「まだまだ准看護師が地域の医療を支えている部分は大きいと感じます。資格を持つと人生が変わっていきますよ」

双葉准看護学院では、2024年度の新入生を募集しています。
募集要項はこちら
http://www.futaba-koiki.jp/jyunkanPR/R05bosyuu/r6youkou.pdf

双葉准看護学院の公式サイトはこちら
http://www.futaba-koiki.jp/nursing.html

【1次募集】
出願期間:1月5日(金)~26日(金)
試験日:2月1日(木)

※以下、1次募集で定員に満たなかった場合に実施
【2次募集】
出願期間:1月29日(月)~2月9日(金)
試験日:2月15日(木)
【3次募集】
出願期間:2月19日(月)~3月5日(火)
試験日:3月14日(木)


■公立双葉准看護学院
所在地:南相馬市原町区萱浜字巣掛場45-76
TEL:0244-32-0990
FAX:0244-32-0991
E-mail:futajyun-kango@aioros.ocn.ne.jp

※所属や内容、支援制度は取材当時のものです。
文・写真:五十嵐秋音